2.ひとは微笑みながら悪人になることができる。
That one may smile,
and smile,
and be a villain;
――
『寒かったでしょう。おからだを温めたほうがよろしいですね。シャワーがありますからお入りください。
そうでした。このお屋敷の奥さまは、とてもきれい好きな方でございまして、お食事の際には粗相のないようにしていただく必要がございます。そこで、すべてのおからだの箇所はしっかりとお洗いになり、くれぐれも洗い残しのないよう、お気をつけくださいませ。お食事は、そのあとすぐに、ご用意いたしておきます』
そういうと、アルフレッドはかしこまってお辞儀をしました。
Q1 さあ、あなたはどうする?
1.提案を承諾して、シャワーを浴びに行く
2.提案を拒否する
――
「ここは普通に承諾していけばいいよね」
「そうですね。とくに拒む理由もないですからね」
あっさりと意見は一致した。
私たちは、Q1に対して、1を選んだ。
すると画面がふたたび、あの広い洋館の中の世界へと変わった。白い髭のアルフレッドが、優しそうにこちらを向いて、微笑んでいる。
――
『さあ、お嬢さんは奥のシャワー室をご利用ください。弟さんは、手前のシャワー室でお願いしますよ』
いわれるがままに、わたしは奥のシャワー室へと向かいました。シャワー室とはいいながら、そこは、ライオンの口からお湯がながれ出る大きな湯船がある、とても豪華な浴場でした。おどろいたことに、どの湯船も桶も、ぜんぶが金色をしています。
置いてあった石鹸は泡立ちが細やかで、からだにぬると肌にしみこんでくるような、ここちよい感じがしました。とてもいい匂いが浴場の中にみちあふれます。温かいお湯で洗いながすと、すべすべしたわたしの白い地肌があらわれました。
どのくらいそこのいたのでしょう。やがて、わたしは至福の喜びにみちあふれながら、浴槽をあとにしたのです。
広間にもどってくると、執事のアルフレッドが待っていました。
『では、これからお食事にいたしましょう。さあ、食堂へどうぞ』
そういえば、弟がいません。
『アリエルは?』
『はて、弟さんは、シャワーを終えたあと、撞球室に展示された武具の装飾品にご興味をしめされたみたいで、行ってしまわれました。きっと、そのうちにもどってみえることでしょう』
と、執事は特に心配するようすもなく、いつものとおり、にっこりと笑っていました。
わたしの目の前はとてつもなく広いホールとなっています。奥の右手に玄関につながる廊下が見えます。その手前の右側の壁には、大きなドアが二つあります。左側の手前には二階へのらせん階段があります。そして、その階段の向こうの左手の壁には、食堂へ行く扉があります。
Q2 さあ、あなたはどうする?
1.食堂へ行く。
2.右手前のドアの部屋に行く。
3.右奥のドアの部屋に行く。
4.階段を上る。
――
「さあさあ、チイちゃん。一気に選択肢が多くなったわよ」
「そうですねえ。簡単に食堂に行くのは、なにかもったいない感じがしますねえ」
「うんうん、同感。じゃあ、どれにする?」
「右手前の部屋から順番に行きますか?」
「ええっ。やっぱ、一番危険な香りがする階段からでしょう!」
私が強くいい張ると、
「分かりました。じゃあ、階段を上ってみましょう」
と、チイはすんなり同意をした。
私たちは、Q2に対して、4を選んだ。
――
らせん階段はとても長くて、ゆったりと大きな弧を描いています。先の方はまっくらでまったく見えません。わたしは、おそるおそる段に足をかけると、そろそろと階段をのぼっていきました。でも、うしろから、
『ミランダさま。お食事の用意ができておりますよ』
と、アルフレッドの声がしました。わたしは階段をのぼるのをあきらめて、食堂へと足をすすめました。
食堂の中は、とても広くてきれいです。ゆうに十人は座れる、白い清潔なクロスがかけられた大きな長いテーブルがどんと置かれていて、ところどころに蝋燭がともされています。正面には男爵さまと、そのとなりに奥さまが座っていました。
『やあ、お客さんかな。これはかわいらしい娘さんだ。さあ、こちらにいらっしゃい』
タキシード姿の男爵さまは、髪の毛を油でべったりとかためた、ちょび髭の似合う、ハンサムな紳士です。お齢のころは、三十くらいでしょうか。
『本当にきれいな肌をした娘さんだこと。まるで、ドリュアス(美しい木の精霊)を見ているようだわ』
と、奥さまは、わたしの顔を品定めするみたいに、じっと見つめられていました。赤いロングドレスを身にまとい、しょうが色をした長い髪が自慢の、美しいご夫人です。
『さあ、遠慮なくどんどん食べてください』
男爵さまはわたしに食事をとるように勧めてくれました。おなかはぺこぺこ。湯気がほのかにほとばしる料理は、とてもおいしそうです。
Q4 さあ、あなたはどうする?
1.遠慮なく、料理をいただく。
2.弟が来るまで、料理をいただくのは待つという。
――
「ここは、もちろん食べるしかないよね」
「あっ、でも、あいちゃん。ひょっとしたら、2の方がよくないですか?」
「どうして?」
「ええと。なんとなくですけど、1はちょっとストレートすぎるかな、って」
「そうかなあ。2にしちゃうと、いつまで待っても食事ができないかもしれないよ。男爵さまが、そんなことをいうのならおあずけじゃ、っていったりしないかなあ」
「そうですねえ。じゃあ、素直にいきますか」
少し首を傾げながらも、チイは私の意見に従った。
「うん。じゃあ、1で決まりだね」
私たちは、Q4に対して、1を選んだ。
――
いただいた料理は、この上なくすばらしいものでした。満足しきっているわたしに、男爵さまがお声をかけられてきます。
『ミランダさんは、お齢はいくつですか?』
『十四歳です。でも、あしたの誕生日で、十五になります』
『ほう。明日に十五歳になられるのですか!』
男爵さまは、目をまるく広げて、興味深げな反応をなされました。
『ということは、明日になれば、いよいよ晴れてミランダさんはおとなの仲間入りをされる、ということですね』
『はい、そういうことになりますね』
そういって、あまり深い意味を考えずに、わたしはにっこりとほほえみました。
『さあ、お嬢さん。うちで造った杏の果実酒です。とても良い香りのするお酒で、おいしいですよ』
男爵さまが、わたしにカクテルを勧めてきました。
Q6 さあ、あなたはどうする?
1.喜んでカクテルグラスを手にする。
2.まだ未成年なので……、といって、丁重に断る。
――
「ここは飲むしかないよね。なんていっても、明日になればおとななんだし」
「あいちゃん、ちょっと待ってください。今度こそ、なにか、いやな予感がします。ひょっとしたら、お薬が仕込んであるのかもしれません」
「ええっ? 男爵さんに限って、絶対に、そんな悪い人じゃないよう」
「そうですか? うーん。なんか、ありそうな気がしますけど……」
「そうかなあ。むむむむ……。じゃあ、とりあえず断ってみようか?」
「はい、そうしましょう」
チイの警告にしたがって、私たちは用心を期することにした。
私たちは、Q6に対して、2を選んだ。
――
『ええっ、お飲みにならないのですか? これまた、どうして?』
想定外の返答だったのか、男爵さまは目をキョトンとされていました。
『すみません。わたしまだ未成年ですから』
『いやいや、明日になれば、あなたは立派なおとなになられるのですから、今夜お酒を飲まれたところで、神さまはお許しくださいますよ。
さあどうぞ――』
再び、男爵さまからお酒を勧められます。
Q7 さあ、あなたはどうする?
1.男爵の強い勧めに根負けして、杏のお酒を飲むことにする。
2.初心を徹して、お酒を断る。
――
「わー。男爵、怪しい! やっぱ、悪い人なんだ」
「どうでしょう? でも、ちょっと誘い方が強引ですよね」
「うんうん、ここは絶対に断るしかないよね」
「はい、そう思います」
私たちは、Q7に対して、2を選んだ。
――
わたしの二回目の拒否に、男爵さまの目つきが変わりました。
『素敵なお嬢さん、これが穏便な私のできる最後の警告ですよ。
さあ、お酒をお飲みなさい!』
Q8 さあ、あなたはどうする?
1.男爵の再度にわたる強い勧めにしたがって、お酒を飲む。
2.やはり、初心を徹して、お酒を断る。
――
「ひえええー、男爵怖いー」
「困りましたねえ。どうしましょう」
「ここは、おとなしくいいなりになっておいた方が?」
「そうですねえ。ここらが引き際でしょうかねえ……」
チイの返事を聞いて、私はなぜか逆に奮起した。
「ううん。やっぱ、抵抗しよう! これはあたしの直感……」
「分かりました。じゃあ、あいちゃんのいう通りに」
チイも嬉しそうに同意した。
私たちは、Q8に対して、再度、2を選んだ。