14.弱きもの、汝の名は女なり。
Frailty, thy name is woman.
「うわーん、また負けちゃった。それにしても、毎度毎度、残酷かつ悪趣味なエンディング。ごめんね、ミランダちゃん。
でもさ、なんで、なんで、なんで、男爵に聖水が効かなかったのさ? おかしくない?」
「うーん、分かりません。まだ、プラスアルファのアイテムが必要なんでしょうかね?
とにかく、ついに今度が最後の一回となってしまいました……」
すると、ウサギのスウィーニーが、私たちの会話に跳び込んできた。
「えー、お客さま。これで終わりですか? なんでまた……」
「仕方ないじゃない、うちらのゴールドが尽きちゃったんだから」
「あらまあ、それは残念ですねえ」
「本当にそう思う?」
「はい、そう思いますけど……」
「だったら、これから先はただでやらせてよ。うちら、十分にお金をつぎ込んだんだし」
「それとこれとは、あれとどれですよね。なにぶん、こちらも商売でございまして……」
「うーん、無理かあ。
チイちゃーん、ストレンジャーさんにだめもとで交渉してみたけど、やっぱだめだって……」
「だめもとでいわせていただきますけれど、もうちょっとましな間違いにしていただけませんかねえ、私の名前……。スマイリーとかスヌーピーとかスレンダーとか、いろいろあるでしょうが」
チイがいつになく真剣な顔つきになっていた。
「あいちゃん、行きましょう。最後の一回です!」
「うん。行こう!」
さあ、いよいよ最後の挑戦だ。今回は、途中文の省略は一切合財せずに、読者にはゲームの全文をご覧いただくことにする。
――
このおはなしの主人公のわたし――、ミランダという名前の、十四歳のむすめです。弟のアリエルといっしょに、まわりを高い山々でかこまれたべリアル(Burial)村で静かに暮らしています。わたしたちはみなしごで、両親はとうの昔になくしました。
ある日、わたしは弟と、コケモモ摘みに、森の奥へと入っていきました。摘み取ったコケモモをジャムにして、それを売ることで、私たち兄弟はどうにか生活することができました。わたしたちの作るジャムはとてもおいしいと、いまでは、村人たちからうわさされるようになっています。でも、それもそのはず。わたしたちが取るコケモモは、森の奥深くまでいった秘密の場所にだけ生えていて、とても甘いものでしたから。
今日も長い時間、わたしはコケモモを摘んでいました。でも、森はわたしが知っている世界よりもずっと大きな世界なのです。そして、わたしはあたらしい場所を探しに、つい夢中になってしまい、いつもより森の奥へともぐり込んでしまっていたのです。
気がついたら、弟の姿がいなくなっていました。
『アリエルー、どこにいったの?』
わたしは大声をあげて、弟を呼びました。でも、ハシバミの深いやぶが、わたしの前に立ちはだかって、行く道をふさぎました。
『お姉ちゃーん』
弟の声がきこえました。
『アリエル。勝手にうろついちゃだめって、あれほどいったでしょ』
わたしは走って近くに行って、弟を抱きしめました。
『ごめんね。お姉ちゃん。かわいらしいウサギさんがいたから、つい追っかけちゃったんだ』
アリエルはうつむきながら、けろっと言いわけをしました。
『さあ、戻らなきゃ。でも、ここは……?』
そこはわたしたちの知らない場所だったのです。
わたしは急いでうちへ戻ろうとしましたが、どこをどう間違えたのか、いつまで歩いても、さびしくて同じような景色がくり返すだけ。どんなにがんばっても、村へたどり着くことはありませんでした。
歩きつかれて、お腹はぺこぺこ。朝に森に入ったのに、もうお日さまはとっぷりと暮れてしまって、あたりは真っ暗です。遠くの闇の向こうから、ホーホーと、フクロウの気味の悪い泣き声が聴こえてきます。
さあ、大変。森の中は夜になると、どんどん寒くなってくるのです。おうちに帰れないどころか、へたをすると、このまま凍えて死んでしまうかもしれません。
弟とわたしはお互いに声をかけ合って、はげまし合いながら、歩き続けました。でも、もうそれも限界です。
ああっ、遠くに灯りが……。いいえ、あれはお星さまなんかではありません。きっと人がともす灯りに違いありません。わたしたちは、元気を取り戻すと、そのちらちらと輝くかすかな灯りを目指して、歩きはじめました。ぼんやりしていた灯りが、ゆらゆらと、しだいに近づいてきます。
『ああ、よかった』
思わず、わたしは胸をなでおろしました。
でも、おどろいたことに、それは、とても大きなお屋敷の灯りだったのです。
『こんな森の奥深くに、こんな立派なおうちがあるなんて……』
わたしは玄関の前に立って、太い呼び鈴のひもを引っ張ってみました。すると、ぞっとするような鐘の音が、あたりにひびき渡ります。
さあ、これからいったい、どんな人物がとびらの向こうにあらわれるのでしょうか……。
出てきたのは、意外にも、白いひげを生やした、とてもやさしそうな、おじいさんです。
『どうかなさいましたか?』
『はい、べリアル村に住んでいるものです。コケモモ摘みに森へ入ったのですが、道に迷ってしまいました。今晩、こちらに泊めてもらえないでしょうか』
老人は品を定めるように、わたしの顔とからだに視線をくばると、やがて、
『分かりました。そとはお寒いことでしょう。どうぞお入りください。
わたくしは、このお屋敷、鵺鳥邸にて執事をつとめております、アルフレッドと申します。どうぞ、お見知りおきを。
さて、わたくしは、お客さまがたのことを、どのようにお呼びすればよろしいでしょうか』
と、訊ねてきました。
『ええと、私はミランダ。それから弟はアリエルと申します』
すると、アルフレッドと名のった、白い髭のおじいさんは、胸ポケットから手帳を取り出して、続けていいます。
『すてきなお名前ですね。どのように書けばよろしいのでしょうか』
ちょっとおかしな感じを受けましたが、わたしはそれを顔に出すことなく答えました。
『はい。ミランダは、M、I、R、A、N、D、A。アリエルは、A、R、I、E、L、です』
アルフレッドは、メモになにやら書き留めると、にっこりと歯を見せました。
『分かりました。いま、ご主人さまにご承諾をいただいてまいりますから、中でお待ちください』
お屋敷の中は、わたしの想像をはるかに超えた、夢のような世界が広がっていました。高い天井につるされた豪華なシャンデリア。どこまで続くのか分からない、曲がりくねった長い回廊。あちこちに飾られた、絵画やガラス細工などの、きらびやかな装飾品。
アルフレッドについて回廊を進むわたしたちは、もう三回くらいはかどを曲がったでしょうか。ようやく、ある部屋にたどり着きました。
『寒かったでしょう。おからだを温めたほうがよろしいですね。シャワーがありますからお入りください。
そうでした。このお屋敷の奥さまは、とてもきれい好きな方でございまして、お食事の際には粗相のないようにしていただく必要がございます。そこで、すべてのおからだの箇所はしっかりとお洗いになり、くれぐれも洗い残しのないよう、お気をつけくださいませ。お食事は、そのあとすぐに、ご用意いたしておきます』
そういうと、アルフレッドはかしこまってお辞儀をしました。
Q1 さあ、あなたはどうする?
1.提案を承諾して、シャワーを浴びに行く
2.提案を拒否する
――
私たちは、Q1に対して、1を選んだ。
――
『さあ、お嬢さんは奥のシャワー室をご利用ください。弟さんは、手前のシャワー室でお願いしますよ』
いわれるがままに、わたしは奥のシャワー室へと向かいました。シャワー室とはいいながら、そこは、ライオンの口からお湯がながれ出る大きな湯船がある、とても豪華な浴場でした。おどろいたことに、どの湯船も桶も、ぜんぶが金色をしています。
置いてあった石鹸は泡立ちが細やかで、からだにぬると肌にしみこんでくるような、ここちよい感じがしました。とてもいい匂いが浴場の中にみちあふれます。温かいお湯で洗いながすと、すべすべしたわたしの白い地肌があらわれました。
どのくらいそこのいたのでしょう。やがて、わたしは至福の喜びにみちあふれながら、浴槽をあとにしたのです。
広間にもどってくると、執事のアルフレッドが待っていました。
『では、これからお食事にいたしましょう。さあ、食堂へどうぞ』
そういえば、弟がいません。
『アリエルは?』
『はて、弟さんは、シャワーを終えたあと、撞球室に展示された武具の装飾品にご興味をしめされたみたいで、行ってしまわれました。きっと、そのうちにもどってみえることでしょう』
と、執事は特に心配するようすもなく、いつものとおり、にっこりと笑っていました。
わたしの目の前はとてつもなく広いホールとなっています。奥の右手に玄関につながる廊下が見えます。その手前の右側の壁には、大きなドアが二つあります。左側の手前には二階へのらせん階段があります。そして、その階段の向こうの左手の壁には、食堂へ行く扉があります。
Q2 さあ、あなたはどうする?
1.食堂へ行く。
2.右手前のドアの部屋に行く。
3.右奥のドアの部屋に行く。
4.階段を上る。
――
私たちは、Q2に対して、3を選んだ。
――
右奥のドアを開けると、そこはドローイングルームでした。
ドアを入った真正面には、槍を手にした中世の兵士の鎧が飾られていて、こちらをじっと睨むように立っています。今にも動き出してきそうな雰囲気で、とっても不気味な感じがします。右手の奥の壁にはわたしの背丈よりも高い書棚があって、たくさんの蔵書が収納されています。
Q3.さあ、あなたはどうする?
1.鎧を調べる。
2.書棚を調べる。
3.ドローイングルームを出る。
――
私たちは、Q3に対して、2を選んだ。
――
書棚を調べると、本の奥に小物入れが隠されていました。すると、その中から、ちいさな鍵が出てきました。わたしは思わず周りを見渡して、誰も見ていないことを確認すると、そっと、その鍵をポケットに滑り込ませました。悪いことだとは思いますけど、弟と再び出会うために、何となく必要になりそうに思われるからです。
わたしは奇妙な鍵を手に入れた。
Q3.さあ、あなたはどうする?
1.鎧を調べる。
3.ドローイングルームを出る。
――
私たちは、Q3に対して、3を選んだ。
――
わたしの目の前はとてつもなく広いホールとなっています。奥の右手に玄関につながる廊下が見えます。その手前の右側の壁には、大きなドアが二つあります。左手前には二階へのらせん階段があります。そして、階段の向こうの左手の壁には、食堂への扉があります。
Q2 さあ、あなたはどうする?
1.食堂へ行く。
2.右手前のドアの部屋に行く。
3.右奥のドアの部屋に行く。
4.階段を上る。
――
私たちは、Q2に対して、2を選んだ。
――
右手前のドアを開けると、中には、火のくべられた暖炉と、私の背よりも高い本棚と、桃花心木製の雀色をした巨大な机がありました。どうやら、ここは書斎のようです。
わたしは引き寄せられるように、そろそろと中へ入りました。
本棚の中の本は難しそうなものばかりです。わたしは文字を読むのが苦手なので、これらがどんな本なのかはよく分かりませんでした。
暖炉の上には、額に入った肖像画が掛かっていました。髭をはやして軍服を着た屈強な男の人で、その鋭い眼光は、部屋のどこにいても見つめられているような気がしました。
机の上はきれいに片づけられていて、鵞鳥の羽で作られたペンと、縁が丸まった羊皮紙、それに、青いインク壺が乗っています。
わたしは机の引き出しを開こうとしましたが、鍵が掛かっていて、開きませんでした。引き出しには、鍵穴が付いています。そこで、わたしはドローイングルームの小物入れの中にあった鍵を、鍵穴に差し込んで回してみました。すると、どうでしょう。鍵穴はくるりとまわって、かちゃりと音がしました。引き出しが開いたのです。
中から出てきたのは、メモが書かれたちいさな一枚の用紙であった。
POOR SO PEEK.
ASTEYMUKM SOPPULO ME
UYAOD UKN SAYUKNU.
わたしは謎のメモを見つけた。
すると、その時です。
『ミランダさま。どこに行かれましたかー?』
あっ、外でアルフレッドがわたしを探している声がします。わたしはこっそりと書斎を抜け出しました。
Q2 さあ、あなたはどうする?
1.食堂へ行く。
3.右奥のドアの部屋に行く。
4.らせん階段を上る。
――
私たちは、Q2に対して、4を選んだ。
――
らせん階段はとても長くて、ゆったりと大きな弧を描いています。先の方はまっくらでまったく見えません。わたしは、おそるおそる段に足をかけると、そろそろと階段をのぼっていきました。でも、うしろから、
『ミランダさま。お食事の用意ができておりますよ』
と、アルフレッドの声がしました。
階段をのぼるのをあきらめて、わたしが食堂へと足をすすめようとすると、階段に転がっていたあるものに、つま先が当たりました。
なんだろう――?
ひろい上げてみると、それは、まわして閉めることができるふたが付いた、小さな瓶でした。中身は空です。でも、ラベルが貼ってあります。よく読めませんが、どうやらお酒が入っていた瓶のようです。平たい形の瓶なので、わたしのふところに入れていても、他の人にはまず気づかれないことでしょう。
わたしは小瓶を懐にこっそりとしのばせてから、そ知らぬふりをして、食堂へと向かいました。
わたしは空の小瓶を手に入れた。
食堂の中は、とても広くてきれいです。ゆうに十人は座れる、白い清潔なクロスが掛けられた、大きな長いテーブルがどんと置かれていて、ところどころに蝋燭が灯されています。正面には男爵さまと、その隣に奥さまが座っていました。
『やあ、お客さんかな。これは可愛らしい娘さんだ。さあ、こちらにいらっしゃい』
タキシード姿の男爵さまは、髪の毛を油でべったりと固めた、ちょび髭の似合う、ハンサムな紳士です。お齢の頃は、三十くらいでしょうか。
『本当にきれいな肌をした娘さんだこと。まるで、ドリュアス(Dryas美しい木の精霊)を見ているようだわ』
と、奥さまは、わたしの顔を品定めするみたいに、じっと見つめられていました。赤いロングドレスを身にまとい、しょうが色をした長い髪が自慢の、きれいなご夫人です。
『さあ、遠慮なくどんどん食べてください』
男爵さまはわたしに食事をとるように勧めてくれました。おなかはぺこぺこ。湯気がほのかにほとばしる料理は、とても美味しそうです。
Q4 さあ、あなたはどうする?
1.遠慮なく、料理をいただく。
2.弟が来るまで、料理をいただくのは待つという。
――
私たちは、Q4に対して、1を選んだ。
――
わたしは男爵さまに目を向けました。
『では、お言葉に甘えて――』
そういって、わたしはおとなしく食卓につきました。
いただいた料理は、この上なくすばらしいものでした。満足しきっているわたしに、男爵さまがお声をかけられてきます。
『ミランダさんは、お齢はいくつですか?』
『十四歳です。でも、あしたの誕生日で、十五になります』
『ほう。明日に十五歳になられるのですか!』
男爵さまは、目をまるく広げて、興味深げな反応をなされました。
『ということは、明日になれば、いよいよ晴れてミランダさんはおとなの仲間入りをされる、ということですね』
『はい、そういうことになりますね』
そういって、あまり深い意味を考えずに、わたしはにっこりとほほえみました。
『さあ、お嬢さん。うちで造った杏の果実酒です。とても良い香りのするお酒で、おいしいですよ』
男爵さまが、わたしにカクテルを勧めてきました。
Q6 さあ、あなたはどうする?
1.喜んでカクテルグラスを手にする。
2.まだ未成年なので……、といって、丁重に断る。
――
私たちは、Q6に対して、1を選んだ。
――
カクテルはきれいなピンク色をした液体で、小さな泡が少しずつ湧き上がっていました。グラスを手にしたわたしは、目を閉じて、少しだけ飲んでみました。それは、甘くて魅惑的な味がしました。
『さあさあ、かわいいお嬢さん。美味しいカクテルでしょう』
『はい、とても美味しいです』
そう答えて、わたしは残りもいっきに飲んでしまうふりをして、ふところにしのばせていた小瓶を取り出すと、その中にこっそりとピンク色の液体を全部そそぎ込んでしまいました。
小瓶のふたをしっかりと閉めたわたしは、またその小瓶をふところにしのばせました。
どうやら、男爵さまも奥方さまも、わたしのいまの行為には、ぜんぜん気づかれていないみたいです。
わたしはカクテルにちょっと酔ったふりをして、そのままテーブルにうつ伏せました。
わたしはしびれ薬を手に入れた。
気がつくと、わたしはベッドの上で寝ていました。夜はまだ空けていないみたいで、窓の外は真っ暗です。部屋には誰もいません。
わたしは起き上がろうとすると、突然、部屋のドアが、ギイィと音を立てて、ゆっくりと開きはじめました。
入ってきたのは男爵さまでした。わたしが薄目を開けて見てみると、恐ろしいことに、男爵さまの両方の眼の色は真っ赤でした。男爵さまは眠ったふりをしているわたしの顔をのぞき込むと、口もとをゆるませて、
『ふん。薬が効いて、ぐっすりと寝込んでいるな』
そういって、男爵さまは壁に掛かっている振り子時計に目を向けます。
『まだ、十一時か……。ふふふっ。明日になれば、じっくりと君のそのかわいらしいからだを存分に楽しませてもらうよ』
そう口ずさまれて、男爵さまは静かに部屋から出ていかれました。
わたしはベッドから起き上がりました。あの時、やむを得ず、少しだけお薬が仕込まれたカクテルをなめてしまいましたけど、からだはなんとか自由に動くみたいです。さあ、いつまでもこんな部屋にいるわけにはいきません。
Q11 さあ、あなたはどうする?
1.部屋の外へ出る
2.部屋の中で様子を見る。
――
私たちは、Q11に対して、1を選んだ。
――
部屋から出たわたしは、狭い廊下に立っています。少し進むと、あのらせん階段が現れました。どうやらこの寝室は、あのらせん階段を上ったところにあるみたいです。
わたしはそろそろと足音を立てないように気をつけながら、らせん状の階段をゆっくりと降りていきました。どこまでも続くのかしらと思われたらせん階段も、やがて下の階へとたどり着きました。ここは、玄関から入ってきたあのホールがある一階です。
ものものしい高価な壺が飾られている台の後ろにできたわずかな物陰に身をひそめて、わたしはじっと周囲を伺います。
すると、中央の大きな柱時計が深夜の十二時の時を告げて、不気味な鐘の音がホール全体にこだましました。
あっ、食堂の扉が空いて、中から姿を現した男爵さまが、蝋燭を灯した燭台を手にして、暗いらせん階段を上っていきます。まるで寝室で寝ているわたしの様子を調べに行くかのようです。
男爵さまが階段の暗闇の中に消えてしまうと、今度は水差しを乗せた盆を手にしたアルフレッドが、食堂からホールを横切って、ドローイングルームへと消えていきました。
奥さまはきっと、まだ食堂の中にお残りになられていることでしょう。
はっ、わたしはもう一つ不可解なあることに気がつきました。らせん階段の降り口から壁につたって少し行ったところに、火がくべられていない大きな暖炉が見えますが、不思議なことに灰がちっともたまっていないのです。きれいに掃除されているのかなと思ったら、よく見ると、暖炉の床がふたのようになっていて、おまけに把手のようなものがついています。誰もホールにいないのを確認した私は、暖炉の前まで行って、把手を握ると、力いっぱい引っぱってみました。すると、意外にあっさりと、ふたが持ち上がって、中から煉瓦でできた階段が現れました。どうやら、地下に続く階段のようです。
ひょっとしたら、この階段の下に地下室があって、そこにアリエルがいるのかもしれません。でも、だとしたら、アリエルはどうして姿を見せないのでしょうか。もしかすると、地下には牢屋があって、番人が拘束したアリエルを始終見張っているのかもしれません。
わたしは決心しました。わたしが寝室で眠らされている、と屋敷中の人たちが思い込んでいる今こそが、アリエルを助けて、この恐ろしい屋敷から逃げ出す最後のチャンスでしょうから、ここは強硬手段を取るしかありません。
では、屋敷にいる人物の中の誰から不意打ちにかけていけばいいのでしょうか?
Q13 さあ、あなたはどうする?
1.ドローイングルームに入って、アルフレッドを襲う。
2.らせん階段を上って、男爵を襲う。
3.食堂に入って、奥さまを襲う。
4.煉瓦階段を下りていって、牢屋の番人を襲う。
――
私たちは、Q13に対して、1を選んだ。
――
わたしはそっとドローイングルームの扉に手を掛け、少しだけ扉を開けて、中をのぞいてみました。アルフレッドはこちらに背を向けて、なにやら書棚の整理をしているみたいです。
さあ、チャンスは今です!
Q14 さあ、あなたはどうする?
1.アルフレッドに襲いかかる。
2.アルフレッドを襲うのを止める。
――
私たちは、Q14に対して、2を選んだ。
――
わたしは決断しました。アルフレッド老人を襲うのは止めて、かわりに、話し合いを持ちかけることにしたのです。ひょっとしたら、アルフレッドはわたしたちの味方なのかもしれません。わたしはアルフレッドにそっと近づき、うしろから声を掛けました。
『おじいさん……。わたし、ミランダです』
アルフレッドの背中がぴくりと動きました。
『おおっ、ミランダお嬢さま。いきなりで、びっくりいたしましたよ。どうかなされましたか?』
『書斎でわたし、秘密のメモを偶然に見つけました。そこに書かれていた謎のメッセージ、
――わたしをすぐに見つけ出してください――。
これを書かれた張本人は、すばり、おじいさんですね?』
わたしはじっとアルフレッドの目を見つめました。アルフレッドはしばらく黙っていましたが、やがて、静かに口を開きました。
『その通りでございます。あのメモはこの鵺鳥邸で起こっているおぞましい出来事を打開するための、やむをえない、わたくしめのささやかな抵抗でございます。
でも、ミランダさま。よくぞ、あのメモを見つけられました。たいしたものでございます』
『じゃあ、おじいさんが味方になってくれるということね。それなら教えてください。人狼男爵を倒す方法を……』
すると、アルフレッドは残念そうにふっとため息をつきました。
『まさか、男爵さまが――、恐ろしい人狼なのでございましょうか?
いずれにせよ、このお屋敷は呪われております。わたくしがフィッツヘルベルト男爵さまにお仕え申し上げて、早や二十年。最初の頃はしごく平穏で楽しい生活でございました。
でも、いつからでしょう。男爵さまの行動が突然おかしくなられました。数々の奇行を繰り返され、やがて奥さままでが男爵さまを怖がるようになり、そして男爵さまを避けるようになられました。わたくしも男爵さまに幾度かご忠告申し上げたこともございますが、男爵さまはいつも、冷静になろうとしているのだが、ときどき自分が分からなくなってしまう、とおっしゃっていました。そんな中、わたくしはある晩、とても恐ろしいものを見てしまったのです。
それはこの世の者とは思えぬほど強靭な肉体を持った化け物でした。あの日、わたくしは男爵さまのお部屋に水差しをお持ちしましたところ、窓の外のバルコニーにその化け物が月明かりに照らされて立っていたのです。その化け物はわたくしに気づき、わたくしに襲いかかってきました。たしかにわたくしはあのとき、その化け物に両の肩を押さえつけられて倒されたことまでは記憶しておりますが、そのあとのことは、全く覚えておりません。
不思議なことに、翌朝わたくしは生きておりました。朝食にみえた男爵さまも奥さまも、別に昨日、特におかしなことはなかったと口をそろえておっしゃっていましたので、わたくしはまるで狐につままれたような気持ちでそのときはおりました。
しかし、その日を境に、わたくしの生活は一変してしまうのです。
ある日、わたくしはドローイングルームにある書棚の蔵書の整理をしていたのですが、ふと気づくと、わたくしはらせん階段をとぼとぼと上っておりました。しかし、わたくしめにはドローイングルームから出た記憶が全くなかったし、あとで分かったことですが、時間が半日以上経過していたのです。わたくしがドローイングルームにいたのは、たしか、早朝であったはずなのに、わたくしがらせん階段を上っている時刻は夜の十時でした。
その後も、このようなことがたびたび起こるようになりました。ふと思うと、多分に時間が経過した別の場所に、いつもわたくしはひとりでたたずんでいるのです。
この鵺鳥邸が位置する広大な森、グリナーバルトは、北に強大なフォッサイヤー帝国、西方に新興国であるパンディート、南に商業の都市国家スウィンドラー、そして東には貧困に窮するべリアル村、とで囲まれておりまして、とても深く険しくて迷路のような森であるが故に、しばしば旅人が道に迷われて、この鵺鳥邸に舞い込んでまいります。そんな折には、男爵さまも奥さまもこころよく旅人を受け入れ、ここに泊まっていただいておりましたが、わたくしが記憶を失うようになった頃からでしょうか、ここに泊まられた旅人を翌朝になってわたくしがお見送りいたす機会が、なぜかなくなってしまったのです。もちろん、わたくしめがお見送りなどせずとも、朝が明ける前に、勝手に旅人が鵺鳥邸から出ていかれた可能性もありますし、ひょっとしたら、奥さまか男爵さまが朝早く起きられて、旅人をお見送りされていたのかもしれませんが、それにしても理解がまいりません。
あれから、少なくとも二十人の旅人がここを訪れておりますが、その方々の全員がわたくしに気づかれずにこの邸から抜け出すことなど果たして出来ましょうか?
あるときから、わたくしは旅人のお名前を控えるようにいたしました。訪問された人たちのお名前を忘れないよう書いておけば、あとで何かの役に立つかもしれないと思いまして。
わたくしは子供の頃、大人たちに見抜かれないように文字を置き換えた暗号文を用いて遊んでおりました。その暗号でメモを取るようにいたしましたのは、なんとなくですが、このメモを他人に見られたくなかったからでございます。
そして、それからわたくしはもう一つの恐ろしい事実に気づきました。旅人がお泊りになられた夜になると必ず、わたくしは記憶を失っていたのです。ああ、恐ろしや。もしかすると、このわたくしめが意識を失っている間に、旅人をことごとく殺めてしまっていたのではないでしょうか? そして、その遺体をひそかにどこかに隠して、わたくしは毎日をのうのうと過ごしているのではないでしょうか?
そんなとき、ミランダさまとアリエルさまのお二人が、この呪われた鵺鳥邸にやって来たのでございます。わたくしはとっさにお二人に秘密の伝言を残すことを思い付きました。このあと、わたくしの記憶が失せることがあっても、お二人がこのお屋敷から無事に生きて出ていかれるようにと、願いを込めまして』
『おじいさんの記憶は、今は大丈夫ですか?』
わたしが訊ねると、アルフレッドは小さくうなずきました。
『わたくしは昼間の正気でいる間に、このお屋敷にある古い蔵書を隈なく調べました。するとその中に、今から三百五十年前の中世の時代にこの屋敷で起こりました奇妙な事件を見出しました。
鵺鳥邸は、今でこそ、こんな森の奥深くに位置しておりますが、かつては、この一帯はパティーボロ(Patibolo)と呼ばれ、ちょっとした町になっていて、多くの人々が生活しておりました。
当時のフィッツヘルベルト家の九代目当主、ヨハン=フィッツヘルベルト伯爵(Earl Johann Fitzherbert)は、それは民から慕われる徳の高いご当主さまであらされたそうです。しかし、ある日 突然、邸内に閉じこもって、人前に姿を見せなくなってしまわれたそうです。
そしてそれから……、ああ、何と恐ろしいことでしょう。パティーボロの住民がポツリポツリといなくなっていくのです。
最初は十九歳になったばかりの花屋の人気の看板娘が、次に三十九歳の筋骨隆々の肉屋主人、そして、アンブル(Humble)教会の二十九歳の修道女、最後に十九歳のきこりの青年と、四人もの男女が、わずか三週間という短い期間に、次々と失踪してしまったのです。
この仕業が魔物による呪いだと判断した町長は、遠くの国から当時売出し中であった若き女祈祷師ダニエラ(Daniela)を、高いお金を用意して呼び寄せました。
パティーボロに着いたダニエラは、すぐさま事件の調査に入り、やがて、鵺鳥邸に閉じこもっている伯爵が事件の鍵を握る人物であると結論付けます。そして、ダニエラの推測どおり、ヨハン=フィッツヘルベルト伯爵は、もはや人間ではなくなっていらしたのでございます。伯爵は人狼と化していて、人間を食べていかないと生きていけない魔物であったのです。
それは真っ赤な満月が不気味に浮かんでいる夜のことでした。ダニエラと伯爵の死闘が一晩中繰り広げられ、ついに最終決着が着きます。
ダニエラがひそかに創りあげた聖水を浴びせられた伯爵は、頭を抱えながらもがきはじめ、辺りをところ構わず転げまわります。やがておぞましい言葉を発しながら床にうずくまると、そのまま伯爵は溶けてしまいました。しかし、人狼の攻撃を受け続けたダニエラも、その瞬間に精根尽き果てて、そのまま帰らぬ人となってしまったのです。
以上が蔵書に残されていた悲しい事実でございます。
おそらく、わたくしめは恐ろしい人狼なのでございしょう。
さっきまで意識が朦朧としていました。たまたまミランダさまのお声で正気に戻ることができましたが、またすぐに気を失うかもしれません。
ミランダさま、そうなったときは、危険ですからわたくしめから遠く離れた場所にお逃げください』
わたしは強い口調で否定しました。
『いいえ、おじいさんはそんな恐ろしい人ではないわ。きっと、おじいさんが気を失っている間に、この屋敷の誰かが悪事を繰り返しているのよ』
うつむいていたアルフレッドが、ふっと口もとをゆるめました。
『ミランダさま、わたくしは、ある日この屋敷の中で、運良く、当時のダニエラが創り出した秘密の聖水の残りを見つけ出しました。今取って参ります』
そういって、アルフレッドはとなりの書斎に行って、異国情緒の装飾がほどこされたふた付きガラス瓶を持ってきました。中には気味の悪い紫色をした透明な液体が入っています。
『これが、人狼退治の聖水……?』
わたしが瓶の中身をのぞき込むと、アルフレッドは瓶をそっとわたしに手渡しました。
『ミランダさま。どうか、この貴重な聖水をお持ちください。そして、万が一、わたくしが豹変したときには、迷うことなくこの聖水をわたくしめにおかけください』
『わかりました。じゃあ、聖水はあずかります。でも、おじいさんは絶対に人狼じゃないわ』
そう答えて、わたしはアルフレッドから聖水の入った瓶を受け取りました。
わたしは伝説の聖水を手に入れた。
わたしはドローイングルームをあとにしました。今、わたしはホールにいます。
Q13 さあ、あなたはどうする?
2.らせん階段を上って、男爵を襲う。
3.食堂に入って、奥さまを襲う。
4.煉瓦階段を下りていって、牢屋の番人を襲う。
――
以上が私たちのたどってきた選択である。おそらく、ここまでの選択での間違いはないことであろう。さあ、最後の正念場だ。もはや失敗は一度たりとも許されない。
「さあ、ここからよ。チイちゃん、どうする?」
「レックスか奥さまですね……」
「レックス……?」
「そうですね。そうしましょう」
私たちは、Q13に対して、4を選んだ。
――
ホールの中央に設置されたにせもの暖炉の床のふたを持ち上げると、その下に姿を現す煉瓦でできた隠し階段を、わたしは注意しながらそろそろと降りていきました。長い階段を降りきると、驚いたことに、そこにはアーチ状の形状をした高い天井の回廊がありました。壁も天井も赤茶色の煉瓦でびっしりと埋め尽くされています。地下の奥底にもかかわらず、壁のところどころにくべられた松明のおかげで、昼間さながらの明るさがそこにはありました。わたしは靴を脱いで、両手に取りました。靴音がこつこつと鳴り響くのはなんとなく危険だと思ったからです。回廊の奥底に向かって足を進めます。どのくらい歩いたでしょうか。途中には窓や扉はなにもありませんでした。すると、目の前の行き止まりのところに、お酒の入った樽を思わせる木材を使用して頑丈に作られた巨大な扉が姿を現しました。傍によって、扉に耳を近づけると、中からなにやら鼻歌のような声が聴こえてきます。中に誰かがいるのでしょう。わたしはそっと、扉を開けてみました。
扉の向こうには木でできた椅子とテーブルがあり、テーブルの上には灯されたランプとお酒の瓶が一つ置いてあります。椅子には背の低い小男が座っていて、こちらに背中を向けています。きっと酔っぱらっているのでしょう。
さっきから鼻歌で、『レックスさまが、この世で一番偉くて強いんだ』とか、『いつかそのうち、金と女をはべらせて、王さまのようにぜいたくに暮らしてやる』とか、意味不明なことをいっています。
ふと、横を見ると、寒さをしのぐために用意された、まきの束がいっぱい置かれています。その中の一つの束の紐がほどかれていて、わたしにとって手ごろな大きさのまきが一本ありました。今なら、そのまきを手にして、背後からこの小男を襲うことができます。
Q17 さあ、あなたはどうする?
1.レックスに襲いかかる。
2.レックスを襲うのを止める。
3.レックスに聖水をかける。
4.レックスにしびれ薬を飲ませる。
――
「おおっ、やったね。Q17の選択肢が増えているよ! これもアルフレッドの聖水を手に入れたおかげなのね」
「みたいですね。ならば、あいちゃん、選択すべきは……」
「3だよね!」
私の返答に、チイの顔が真っ蒼になった。
「あいちゃん……、レックスは人狼ではないと思いますから、ここは、多分、人間に直接効果がありそうな、4ではないかと……?」
「あっ、そうか。チイちゃんのいう通りだよ。あははっ」
「はい、あははっ……」
私たちは、Q17に対して、4を選んだ。
――
わたしは、レックスに気づかれないように近づいていき、テーブルの上に置いてあるお酒の瓶をそっと手に取ると、ふところに隠し持った小瓶の中にしこんだピンク色をした杏カクテルを、お酒の瓶の中にぜんぶつぎ足しました。そして、お酒の瓶を元にあったところに置くと、静かに扉の外へ出ました。
わたしはしびれ薬を使い果たした。
間もなく、レックスが大きく背伸びをして立ち上がりました。まだ物足りなさそうにぐるりとまわりを見つめると、レックスはテーブルの上のお酒の瓶を手に取り、がぶがぶと中身を一気に飲み干しました。
『ういっぷ、うんめえー。やっぱ、酒は最高だな。
……。
あれれれ、なんか変だぞ。からだがしびれてきた……』
そういうと、レックスはよろよろとのたうちはじめて、やがて、ガクンとひざまずいた。
それを見計らって、わたしはレックスの前に立ちはだかりました。
『さあ、あなたはもうおしまいよ。助かりたければ、わたしのいうことを訊きなさい!』
『ああ、かわいいお嬢ちゃん。おいら、急にからだに力が入らなくなっちまってよ。お願いだから……、助けてくだひゃい』
レックスはよだれをだらだらと垂らしながら、仰向けになってもがいています。
『この屋敷の人狼、男爵さまをたおす方法で、あなたはなにかを知っていないかしら。もし、知っているのなら教えなさい!』
『おいら、なにも……。そんな、男爵さまをたおす方法だなんて、おそれ多い……』
『それなら、いいわよ。そのままのたうちまわって、死んでおしまいなさい』
『ひぇええ。ご勘弁を。おいら本当に何も知らないんす。それから、死にたくもないんです』
『じゃあね、あわれな番人さん……』
『待ってくだひゃい。あの、おいら、あることを知っています。人狼をたおす方法じゃあ、ないんすけど……』
レックスは、もがきながらも必死に訴えつづけます。
『なんなの? さっさといいなさい』
『はい、実は、人狼って奴等はねえ、鏡に映らないんです。だから、鏡さえ持っていれば、簡単に人狼を見つけ出すことができるんすよ……』
『人狼は鏡に映らない……?』
『その通りでごぜえやす』
わたしは牢獄の奥に目を向けた。
『ここには、誰か監禁されてはいないの?』
『ええっ、そいつは……。奥さまに固く口止めされておりやして……。なにとぞ、お見逃しを……。へへへっ』
からだを動かせないレックスは、無理やりに口もとに笑みを浮かべました。
『あなた、自分の立場が分かっていないようね。こうしている間にも、あなたのからだに毒がまわって、このわたしでも助けることができなくなってしまうかもしれないのよ』
『ひぃええ。おいら、死にたくねえです。全部申し上げます。
その奥の牢屋には、小さな餓鬼が入っております。奥さまのご命令で、一晩中牢屋から出すなと……』
『牢屋の鍵は?』
『はい、そこの壁にかかっておりやす。あの、どうか、かわいいお嬢さん、お早く治療をたのみまひゅ。おいら、死にたくないんで……』
わたしは壁にかかっている鍵束を手に取ると、牢屋を次々と調べていきました。すると、一番奥にある牢屋で、アリエルがすやすやと眠っていました。
『アリエルー』
わたしは牢屋の鍵を開けると、中に入ってアリエルを抱きしめました。アリエルが眠そうに目を開けます。
『うん、お姉ちゃん。どうしたの?』
『さあ、ここから逃げ出すのよ!』
わたしは弟のアリエルを見つけ出した。
わたしはアリエルの手をつかんで、レックスの横を突っ切って、牢獄から外へ出ました。
『あのお、お嬢さん、おいらの治療はどうなりましたかねえ。おいら、まだ、死にたくねえんすけど……』
扉の向こうから、レックスのあわれな声が聞こえてきますが、いまさら、彼にしてやることなんて何もありません。
私は、アリエルといっしょに、ホールまで戻って来ました。
Q13 さあ、あなたはどうする?
2.らせん階段を上って、男爵を襲う。
3.食堂に入って、奥さまを襲う。
――
「あいちゃん、気づきましたか……?」
チイが興奮気味にいった。
「うん、分かったよ」
と、私はにっこり微笑んだ。
「じゃあ、いっしょにいいましょうか?」
「いいよ、せーの」
私たち二人は同時に同じチャット文を打ち込んだ。
「男爵は人狼じゃない――!」
そして、私たちは顔を見合わせて笑い合った。
「男爵の姿は、ベッドルームの天井のガラスにはっきりと映し出されていました。だから、彼は人狼ではありません!」
「だから、男爵に聖水をぶっかけても何も起こらなかったんだ」
「彼も人狼に操られている哀れな狂人(人狼の信者)だったということですね」
「アルフレッドの意識が遠のくっていっていた現象もそうなのかな?」
「おそらく、アルフレッドも狂人と化しているのだと思います。要所要所で、人狼の思うままに操られてしまうのでしょうね」
「ということは、この鵺鳥邸で起こった一連の事件の恐ろしい黒幕、人狼の張本人、その人物はずばり……」
私がうながすと、微笑みながらチイが返した。
「――奥さまです!」