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8.もうおそれるな夏の日照りを、荒れ狂う冬の寒さを。

Fear no more

 the heat of the sun

Nor the furious winter's rages;



 さあ、運命の分かれ道だ。謎の小瓶を書斎で手に入れた私たちは、それを使うために、ミランダがあの恐ろしいしびれ薬入りのカクテルを飲まされてしまうかもしれないというリスクを冒して、あえて1番の答えを選択した。果たして、これが吉と出るのか、凶と出るのか……?


――

 カクテルはきれいなピンク色をした液体で、小さな泡が少しずつ湧き上がっていました。グラスを手にしたわたしは、目を閉じて、少しだけ飲んでみました。それは、甘くて魅惑的な味がしました。

『さあさあ、かわいいお嬢さん。美味しいカクテルでしょう』

『はい、とても美味しいです』

 そう答えて、わたしは残りもいっきに飲んでしまうふりをして、ふところにしのばせていた小瓶を取り出すと、その中にこっそりとピンク色の液体を全部そそぎ込んでしまいました。

 小瓶のふたをしっかりと閉めたわたしは、またその小瓶をふところにしのばせました。

 どうやら、男爵さまも奥方さまも、わたしのいまの行為には、ぜんぜん気づかれていないみたいです。

 わたしはカクテルにちょっと酔ったふりをして、そのままテーブルにうつ伏せました。


 わたしはしびれ薬を手に入れた。

  ――


「やったあ。チイちゃん。狙い通り、カクテルを飲まずにいられたよ!」

「やりましたね。きっと、答えに向かって、大きく前進したことと思います」

「そして、ミランダちゃんはカクテルで眠らされたふりをしながら、男爵を騙そうとしているんだね。さあ、上手くいくのかしら」


――

 気がつくと、わたしはベッドの上で寝ていました。夜はまだ空けていないみたいで、窓の外は真っ暗です。部屋には誰もいません。


 わたしは起き上がろうとすると、突然、部屋のドアが、ギイィと音を立てて、ゆっくりと開きはじめました。

 入ってきたのは男爵さまでした。わたしが薄目を開けて見てみると、恐ろしいことに、男爵さまの両方の眼の色は真っ赤でした。男爵さまは眠ったふりをしているわたしの顔をのぞき込むと、口もとをゆるませて、

『ふん。薬が効いて、ぐっすりと寝込んでいるな』

 そういって、男爵さまは壁に掛かっている振り子時計に目を向けます。

『まだ、十一時か……。ふふふっ。明日になれば、じっくりと君のそのかわいらしいからだを存分に楽しませてもらうよ』

 そう口ずさまれて、男爵さまは静かに部屋から出ていかれました。


 わたしはベッドから起き上がりました。あの時、やむを得ず、少しだけお薬が仕込まれたカクテルをなめてしまいましたけど、からだはなんとか自由に動くみたいです。さあ、いつまでもこんな部屋にいるわけにはいきません。


Q11 さあ、あなたはどうする?

1.部屋の外へ出る

2.部屋の中で様子を見る。

  ――


「じゃあ、チイちゃん。この部屋から逃げるよ!」

「あいちゃん。ちょっと様子を見てはどうでしょう?」

「うーん。かなり危険そうな雰囲気がするけど。この部屋に留まっているのは……。

 でも、そっか。ここで、あえて、2番の『部屋の中で様子を見る』って選択肢があることが、あやしいね。

 じゃあ、2番を選んでみよっか?」

「はい。そうしましょう」


 私たちは、Q11に対して、2を選んだ。


――

 わたしは、もう少しこの部屋の中に留まって、様子を見ることにしました。

 時計の針は今、十一時四十分を指しています。どこからか、フクロウの泣き声が聞こえてきます。


Q12 さあ、あなたはどうする?

1.いよいよ、部屋の外に出る。

2.もう少しだけ、この部屋の中で様子を見る。

  ――


「全く同じ質問だね。また待ってみる?」

「いえ、こんどこそ2番を選ぶと死んでしまうと思います。なんとなくですけど、私、このシナリオの作者であるエドさんの思考パターンが、だんだん読めてきたような気がします」

「いけずウサギの思考パターンね。たしかに、そんな感じがする。

 でもさ、うちらの目的は、全部の可能性を確認して、つぶしながら進むんだよね。だとすると、ここで選択肢の2番を確認しておくことも大切なんじゃないかな?」

「たとえ、殺されてしまっても……?」

「うん。今回のお金は私が出すから、調べてみない? 2番を」

「分かりました。そうですよね。あいちゃんのいっていることが正しいです」

 チイが同意してくれたので、私は2番を選択することにした。


 私たちは、Q12に対して、2を選んだ。


――

 まだこの部屋の中で待っていれば、なにかいいことがあるかもしれません。そう思ったわたしは、もう少しこの部屋にいることにしました。

 窓の外は美しい満月です。吸い込まれるような静寂の暗闇の中で、チックチックと、壁にかけられた時計の時を刻む音だけが、聴こえてきます。


 すると、壁時計の鐘が鳴り出しました。十二回の鐘の音が告げられると、時計はまた静かになりました。どうやら、真夜中の十二時を過ぎたみたいです。わたしもこれで誕生日を迎えて、晴れて十五歳になったことになります。

 はっ、廊下から靴音がします。そして、靴音はこちらの方へだんだん近づいてきました。やがて、この部屋のドアの向こうで、その靴音がぴたりと鳴りやみました。すると、部屋のドアがゆっくりと開いていきます。

 そこに立っていたのは、目を真っ赤にした男爵さまでした。わたしはびっくりしてあとずさりしました。

『おや、お目覚めかい。まだ真夜中なのにね。でも、君は晴れて十五歳になりおとなの仲間入りをした。これで、僕は君を襲うことができるということだ。

 わたしは身をひるがえして逃げようとしましたが、あっさりと男爵さまに腕をつかまれてしまいました。それは、信じられないくらいに強い力でした。男爵さまはわたしの腕を引き寄せると、強引にわたしのからだをベッドへ押し倒しました。そして、胸もとにぐっと拳を突きつけてきたかと思うと、次の瞬間、わたしのドレスは、無残にもびりびりに引き裂かれてしまいました。そのまま……。


 ゲームエンドです。お疲れさまでした。

  ――


「ひどい終わり方。それに、なんか感じ悪い……」

 私が愚痴ると、チイも呼応した。

「完全に作者の趣味の世界に入っちゃってますね」

「やっぱり変態だったんだ。あの……」

「はいはい、お客さん、また失敗してしまったようですね。さあ、どうしますか? ゲーム、続けます?」

 私がしゃべりかけていたところに、得意げな顔でカウンターに腰かけているスウィーニーが割り込んできた。

「出たな。エロウサギ!」

「失礼な……。これでも私はリアルの世界では誠実な人格で通っているのですよ」

「へー、そうなの? だからストレスがたまっちゃって、こういう架空のゲームを創って、その中で自分の思いを発散しちゃっているんだ。あー、暗いなー」

 私が皮肉を告げると、スウィーニーは平然とした顔で、

「どうとでもいってください。もうお客さんに何をいわれようと、私は決して動揺なんてしませんからね。べーだ……」

 そういって、スウィーニーはぺろっと舌を出した。

「つまんなーい。挑発にのってこなくなっちゃったよ。チイちゃん」

「そうみたいですね。でも、どうなのかなあ。さっきのあいちゃんの言葉に、スウィーニーさんのこめかみが弱冠引きつっていたような……。

 あっ、ごめんなさい、スウィーニーさん。私、決して悪気があって口にしたわけではないですから……」

 チイが、スウィーニーの横目づかいに気づいて、慌てて頭を下げた。

「ああ、いいですよ。お嬢さん。あなたに関しては、私は好意以外のなんの感情も抱いておりませんから。問題は、もう片方の口うるさい……。

 はっ……、申し訳ありません。今の独り言は聞かなかったことにしてください。なにせ、私はこれから何をいわれようと、私はいっさい動揺しないことに決めたんですからねえ」

 ウサギの仕草は、努めて冷静を装っているように見えた。

「ふーん。じゃあ、うちらはもう一回ゲームにチャレンジすることにする。

 だから、ウサギのスキャンダラスさん。早く次のゲームのセッティングをしてちょうだいよー」

 私が要求すると、スウィーニーが、

「あのですねえ。私の名前はスウィーニーです!

 まいどまいど、よくそんなしょうもない発想が浮かびますね。なんですか、そのけしからん呼び方は!

 はっ……」

「あはは。やっぱ、怒った、怒った。まだまだ、修行が足りませんねえ」

 はしゃぐ私を無視して、スウィーニーは淡々と次のゲームの設定を済ませた。


 こうして私たちは、再度ゲームに挑戦することとなった。これまでのノウハウにしたがい、質問に的確に答えながら、途中で小瓶を手に入れたミランダが、男爵たちを欺いて、小瓶の中にしびれ薬が仕込まれたピンク色のカクテルをしのばせることに、私たちは成功していた。

 そして、眠ったふりをしてあの不気味な寝室に運ばれたミランダが、誰もいない部屋の中で、ベッドから起き上がった。

 それでは、その後に続く質問Q11の場面から、再び話を進めよう。


――

 気がつくと、わたしはベッドの上で寝ていました。夜はまだ空けていないみたいで、窓の外は真っ暗です。部屋には誰もいません。


 わたしは起き上がろうとすると、突然、部屋のドアが、ギイィと音を立てて、ゆっくりと開きはじめました。

 入ってきたのは男爵さまでした。わたしが薄目を開けて見てみると、恐ろしいことに、男爵さまの両方の眼の色は真っ赤でした。男爵さまは眠ったふりをしているわたしの顔をのぞき込むと、口もとをゆるませて、

『ふん。薬が効いて、ぐっすりと寝込んでいるな』

 そういって、男爵さまは壁に掛かっている振り子時計に目を向けます。

『まだ、十一時か……。ふふふっ。明日になれば、じっくりと君のそのかわいらしいからだを存分に楽しませてもらうよ』

 そう口ずさまれて、男爵さまは静かに部屋から出ていかれました。


 わたしはベッドから起き上がりました。あの時、やむを得ず、少しだけお薬が仕込まれたカクテルをなめてしまいましたけど、からだはなんとか自由に動くみたいです。さあ、いつまでもこんな部屋にいるわけにはいきません。


Q11 さあ、あなたはどうする?

1.部屋の外へ出る

2.部屋の中で様子を見る。

  ――


 めずらしくチイの方から口を出してきた。

「Q11かQ12のいずれかで、部屋の外に出ることが必要です。さっきはQ11の質問に2番で答えて、Q12に進みましたけど、別に何もなかったですから、ここは1番を答えて、さっさと次のステージへ進みましょう」

「うん、じゃあ、1で答えるよ」


 私たちは、Q11に対して、1を選んだ。


――

 部屋から出たわたしは、狭い廊下に立っています。少し進むと、あのらせん階段が現れました。どうやらこの寝室は、あのらせん階段を上ったところにあるみたいです。

 わたしはそろそろと足音を立てないように気をつけながら、らせん状の階段をゆっくりと降りていきました。どこまでも続くのかしらと思われたらせん階段も、やがて下の階へとたどり着きました。ここは、玄関から入ってきたあのホールがある一階です。

 ものものしい高価な壺が飾られている台の後ろにできたわずかな物陰に身をひそめて、わたしはじっと周囲を伺います。

 すると、中央の大きな柱時計が深夜の十二時の時を告げて、不気味な鐘の音がホール全体にこだましました。

 あっ、食堂の扉が空いて、中から姿を現した男爵さまが、蝋燭を灯した燭台を手にして、暗いらせん階段を上っていきます。まるで寝室で寝ているわたしの様子を調べに行くかのようです。

 男爵さまが階段の暗闇の中に消えてしまうと、今度は水差しを乗せた盆を手にしたアルフレッドが、食堂からホールを横切って、ドローイングルームへと消えていきました。

 奥さまはきっと、まだ食堂の中にお残りになられていることでしょう。

 はっ、わたしはもう一つ不可解なあることに気がつきました。らせん階段の降り口から壁につたって少し行ったところに、火がくべられていない大きな暖炉が見えますが、不思議なことに灰がちっともたまっていないのです。きれいに掃除されているのかなと思ったら、よく見ると、暖炉の床がふたのようになっていて、おまけに把手とってのようなものがついています。誰もホールにいないのを確認した私は、暖炉の前まで行って、把手とってを握ると、力いっぱい引っぱってみました。すると、意外にあっさりと、ふたが持ち上がって、中から煉瓦でできた階段が現れました。どうやら、地下に続く階段のようです。

 ひょっとしたら、この階段の下に地下室があって、そこにアリエルがいるのかもしれません。でも、だとしたら、アリエルはどうして姿を見せないのでしょうか。もしかすると、地下には牢屋があって、番人が拘束したアリエルを始終見張っているのかもしれません。

 わたしは決心しました。わたしが寝室で眠らされている、と屋敷中の人たちが思い込んでいる今こそが、アリエルを助けて、この恐ろしい屋敷から逃げ出す最後のチャンスでしょうから、ここは強硬手段を取るしかありません。

 では、屋敷にいる人物の中の誰から不意打ちにかけていけばいいのでしょうか?


Q13 さあ、あなたはどうする?

1.ドローイングルームに入って、アルフレッドを襲う。

2.らせん階段を上って、男爵を襲う。

3.食堂に入って、奥さまを襲う。

4.煉瓦階段を下りていって、牢屋の番人を襲う。

  ――


「おー、いよいよ、待望の反撃だ!」

「ですね。今度の選択は、まさに正念場です」

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