7.光が光を求めると光から光をだまし取られる。
Light, seeking light,
doth light of light beguile;
――
『ミランダさま。どこに行かれましたかー?』
あっ、外でアルフレッドがわたしを探している声がします。わたしはこっそりと書斎を抜け出しました。
Q2 さあ、あなたはどうする?
1.食堂へ行く。
3.右奥のドアの部屋に行く。
4.らせん階段を上る。
――
「チイちゃん、いったい何に気づいたの?」
「あいちゃん、質問Q2の選択肢をよく見てください」
チイが少し興奮気味な口調で答えた。
「うん。見た。それがどうしたの?」
「最後の選択肢、4番です。
『4.らせん階段を上る。』となっていますよね」
「うん」
「ここの選択肢は、これまで、『4.階段を上る。』でした。
今になって、はじめて、『4.らせん階段を上る。』となったんです!」
「あっ、本当だ! 全然気づかなかった」
私は思わず感嘆の声を発していた。
「私たちは、まずドローイングルームに入って、そこで書棚に隠された小箱から鍵を見つけました。そして、その鍵を使って、書斎の机の引き出しをあけて、秘密のメモを手に入れたんです。
おそらく、秘密のメモを手に入れた瞬間に状況が変わって、4番の選択肢が『4.階段を上る。』から『4.らせん階段を上る。』と切り替わったんです」
「そうか! ということは……、どういうこと?」
「以前に、『4.階段を上る。』を選んだ時には、そのまま食堂に連れて行かれちゃいましたけど、今度の『4.らせん階段を上る。』を選ぶと、そうではない結末が待っている、ということじゃないかと思います」
「なるほど。きっとそうだよ。さすが、チイちゃん」
「じゃあ、ここは4番を選びましょう」
「うん」
私たちは、Q2に対して、4を選んだ。
――
らせん階段はとても長くて、ゆったりと大きな弧を描いています。先の方はまっくらでまったく見えません。わたしは、おそるおそる段に足をかけると、そろそろと階段をのぼっていきました。でも、うしろから、
『ミランダさま。お食事の用意ができておりますよ』
と、アルフレッドの声がしました。
階段をのぼるのをあきらめて、わたしが食堂へと足をすすめようとすると、階段に転がっていたあるものに、つま先が当たりました。
なんだろう――?
ひろい上げてみると、それは、まわして閉めることができるふたが付いた、小さな瓶でした。中身は空です。でも、ラベルが貼ってあります。よく読めませんが、どうやらお酒が入っていた瓶のようです。平たい形の瓶なので、わたしのふところに入れていても、他の人にはまず気づかれないことでしょう。
わたしは小瓶をふところにこっそりとしのばせてから、そ知らぬふりをして、食堂へと向かいました。
わたしは空の小瓶を手に入れた。
――
選択肢4番の回答は、私たちの予想通り、これまでとは全く違ったものになっていた。
「おおっ、来たね来たね。平たいふた付きの小瓶だってさ。ついに、スーパーアイテムさまのご登場!
さて、これは何に使うんだろう?」
「私、思い当るところがあります。その瓶を使う場面を……」
「へえ。チイちゃん、すごいね。どこで使うの?」
「いえ、そこかどうかまでは分かりませんけど、その場面は間もなくにやってきますよ」
チイは無邪気に微笑んだ。
――
食堂の中は、とても広くてきれいです。ゆうに十人は座れる、白い清潔なクロスが掛けられた、大きな長いテーブルがどんと置かれていて、ところどころに蝋燭が灯されています。正面には男爵さまと、その隣に奥さまが座っていました。
『やあ、お客さんかな。これは可愛らしい娘さんだ。さあ、こちらにいらっしゃい』
タキシード姿の男爵さまは、髪の毛を油でべったりと固めた、ちょび髭の似合う、ハンサムな紳士です。お齢の頃は、三十くらいでしょうか。
『本当にきれいな肌をした娘さんだこと。まるで、ドリュアス(Dryas美しい木の精霊)を見ているようだわ』
と、奥さまは、わたしの顔を品定めするみたいに、じっと見つめられていました。赤いロングドレスを身にまとい、しょうが色をした長い髪が自慢の、きれいなご夫人です。
『さあ、遠慮なくどんどん食べてください』
男爵さまはわたしに食事をとるように勧めてくれました。おなかはぺこぺこ。湯気がほのかにほとばしる料理は、とても美味しそうです。
Q4 さあ、あなたはどうする?
1.遠慮なく、料理をいただく。
2.弟が来るまで、料理をいただくのは待つという。
――
「変わったところはなさそうだね」
「そうですね。この質問にはどう答えても良かったと思いますけど、念のため、まだ答えていないパターンで選択していきましょう」
「まだ答えていない選択?」
「はい、まずQ4は2番を選んでください」
「うん、分かった」
私たちは、Q4に対して、2を選んだ。
――
『アリエルがまだ来ていないですから、お食事はもう少しあとで、お願いします』
わたしは気をつかいながら丁寧にお断りをしましたが、
『はははっ、お食事が冷めないうちに、召し上がってください』
と男爵さまが再び食事を勧めてきます。
Q5 さあ、あなたはどうする?
1.それならばと、食事をとることにする。
2.あくまでも、弟を待つと、駄々をこねる。
――
「たしかここで駄々をこねたけど、結局、食卓につくことになったんだよね。また、駄々をこねてみる?」
「いえ、あいちゃん。ここで、1番の答えをまだ私たちは選んでいないのです。だから、ここでは1番を選んでもらえませんか?」
「ああ、そういえば、まだそのパターンは選んでなかったね」
「はい。でも、おそらく1番を選んだところで、やはり私たちは食卓につくことになるとは思うんですけどね」
「うんうん。全ての可能性をつぶしていくことこそが、ゲームの鉄則だもんね。チイちゃんの考えで行こう」
「はい」
私たちは、Q5に対して、1を選んだ。
――
わたしは男爵さまに目を向けました。
『では、お言葉に甘えて――』
そういって、わたしはおとなしく食卓につきました。
いただいた料理は、この上なくすばらしいものでした。満足しきっているわたしに、男爵さまがお声をかけられてきます。
『ミランダさんは、お齢はいくつですか?』
『十四歳です。でも、あしたの誕生日で、十五になります』
『ほう。明日に十五歳になられるのですか!』
男爵さまは、目をまるく広げて、興味深げな反応をなされました。
『ということは、明日になれば、いよいよ晴れてミランダさんはおとなの仲間入りをされる、ということですね』
『はい、そういうことになりますね』
そういって、あまり深い意味を考えずに、わたしはにっこりとほほえみました。
『さあ、お嬢さん。うちで造った杏の果実酒です。とても良い香りのするお酒で、おいしいですよ』
男爵さまが、わたしにカクテルを勧めてきました。
Q6 さあ、あなたはどうする?
1.喜んでカクテルグラスを手にする。
2.まだ未成年なので……、といって、丁重に断る。
――
「さあ、ここです!」
「いきなり、チイちゃん、どうしたの?」
「私、思うんです。このしびれ薬入りのカクテルを、さっきふところにしまった小瓶の中に、こっそりと入れてしまうんだと……」
「なるほどー。きっと、そうだよ。
でも、じゃあここでは、どっちを選択すればいいんだろう。1番、それとも、2番?」
「カクテルを飲むふりをしなければ、グラスの中のお酒を小瓶にしのばせることはできません。だから、おそらく、私たちが選ぶべきは、1番の、『喜んでカクテルグラスを手にする』ではないかと、思います」
「でもさ、もし、小瓶を持っていることと、カクテルグラスのお酒を小瓶に、男爵たちに気づかれずにしまい込むことと、なんの関連もなければ、ミランダちゃんは、そのままカクテルグラスのお酒を飲んでしまって、男爵の餌食になってしまうのよ?」
「そうです。ここは賭けになります。でも、この賭けは、私は勝ち目が十分にあると思っています」
「分かった。チイちゃんのいっていることは正しいよ。きっと」
ようやく、私もチイの決断に納得することができた。
私たちは、Q6に対して、1を選んだ。