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1.この世は舞台で、ひとはみな役者なのだ。

登場人物


アイリス(Iris Gabe)

 ネットゲームを楽しむ女の子


チイ(Chii Noel)

 アイリスの仲良し


エド スウィーニー(Ed Sweeney)

 ゲーム提供者



以下、ゲーム『鵺鳥ぬえどり邸の一夜』の登場人物


ミランダ(Miranda Orrett)

 わたし、べリアル村の娘


アリエル(Ariel Orrett)

 ミランダの弟 


ラルフ=フィッツヘルベルト男爵

(Baron Ralph Fitzherbert)

 フィッツヘルベルト家二十二代目当主


レイチェル(Rachael Fitzherbert)

 男爵の妻


アルフレッド(Alfred Muller)

 鵺鳥邸の執事


レックス(Lex West)

 牢屋の番人


ヨハン=フィッツヘルベルト伯爵

(Earl Johann Fitzherbert)

 フィッツヘルベルト家九代目当主


ダニエラ(Daniela Esorcista)

 高名な女性祈祷師





目次


1.この世は舞台で、ひとはみな役者なのだ。

2.ひとは微笑みながら悪人になることができる。

3.やだ、やだ、やだ、やだ。さあ、牢屋へゆこう。

   アイリスの独り言1


4.さあ、お嬢さん、死んで生きるのです。

   アイリスの独り言2


5.人生なんて歩き回る影法師、哀れな役者にすぎない。

6.ああ、私の勘が当たってしまった!

   アイリスの独り言3


7.光が光を求めると光から光をだまし取られる。

8.もうおそれるな夏の日照りを、荒れ狂う冬の寒さを。

9.目の前に見えるのは短剣か? 取っ手を俺の方に向けている。

10.なんてきれいに月明りがこの堤を照らしているんだろう。

   アイリスの独り言4 (読者への挑戦状)


11.もう一度、あの突破口から突き進め、もう一度!

12.どんなに長い夜も、必ず明ける。

13.眠りはないぞ、マクベスは眠りを殺した!

14.弱きもの、汝の名は女なり。

15.あっという間に終ってしまいました。


All the world is a stage,

and all the men and women

merely players.



「もしもし、チイちゃん。こんばんは」

「あら、あいちゃんですか。こんばんは」


 私の名前はアイリス・ゲイブ。変な名前であることは重々承知である。ネットゲームの世界でいちキャラクターとして活動中の女の子だ。私が今、話をしているのは、同じネットゲームでのお友達、チイちゃん。友達とはいっても、あくまでネット内で知り合った仲間であり、残念ながら、リアルの彼女に会ったことはない。

「チイちゃん、今晩はお暇?」

「はい、大丈夫です。どこかに遊びに行きましょうか?」

「うん、どこがいいかなあ」

「ああ、そうだ。最近、面白いゲームを提供するお店が出来たそうですよ」

「ええっ、そうなんだ。いこう、いこう。どこにあるの?」

「ぽんと横丁にある青猪亭ブルーボアのすぐそばにあるそうですよ」

青猪亭ブルーボアって、あの悪名高い?」

「いえ、この世界サーバーで一番繁盛しているパブなんですけどね……」


 チイと私が出会ったのは、ミスズという女性がリーダーをしている『朧月ろうげつ会』というギルドがあるのだが、そこで催された『人狼じんろうゲーム』というイベントであった。私が青猪亭ブルーボアをなんとなく嫌っている理由は、イベントに参加した男性陣が、イベント後にたまり場にして、私たちのことをとかくなにやら噂をしていたと、あとになって聞かされていたからだ。

 白いエプロンを付けた水色ワンピースのドレスに、ボーダーの二―ハイソックスがぴったりと似合ったチイは、かわいらしい少女なのに、そのうえ、冷静でとても頭がいい子だった。二人でいると、いつも私が仕切る形になるのだが、その実、私の方が頼り切っているという、ある意味、絶妙なコンビなのかもしれない。私たちは……。


 青猪亭ブルーボアの横道に行ってみると、その先は行き止まりだった。

「あれ、行き止まりじゃん?」

「あいちゃん、ちょっとここを見てください。下へ降りる階段がありますよ」

 チイが指さしているのは、通りの突き当りから、隠れるように右手の地下に潜り込んだ、いかにも怪しげな、石畳の階段だった。

「降りてみよっか?」

「先に扉がありますね」

 階段は狭くて、一人ずつしか通れなかった。先に進んでいた私が、山小屋を思わせる木目がととのった木の扉をそっと開けると、中は薄暗く、古風なオイルランプが置かれたカウンターに、シルクハットをかぶって、眼鏡をかけた、チョッキ姿の白ウサギがひょっこりと座っていた。

 私たちが入る音に気づいたウサギは、ビクッとからだを大きく震わせると、こちらに丸い目を向けてきた。

「いらっしゃいませ。アミューズメントハウス『ライオンとユニコーン』へようこそ。

 私は、このお店の支配人、スウィーニーと申します」

「へえ。スムージーさんだってさ。美味しそうな名前だね」

 私がそういうと、ウサギはムッとした顔になり、がばっと身をのり出してきた。

「全然違います。スムージーではなくて、スウィーニー。

 エド・スウィーニーです。

 さっそくですが、お客さま。当店をご利用されたことは?」

「いえ、はじめてです。だって、来るわけないじゃん。こんな辺ぴなとこなんてさ……」

「あの、あいちゃん。お店の方が目の前にいる状況で……、その、あんまりはっきりと思ったことはいわない方が……」

 申し訳なさそうに縮こまるチイの姿をよそに、ウサギは淡々と説明を始めた。

「当店がお客さまにご提供しておりますのは、アドベンチャーゲームでございます。その名も、『鵺鳥ぬえどり邸の一夜』。

 スリリングなストーリーの中で、お客さまが生死を賭けた冒険を楽しめるようになっております」

「わー、まるで人狼ゲームみたいだ」

「そうです。まさしく」

 ポンと、ウサギが手を叩いた。

「――人狼が登場人物なのです。謎の殺人鬼が誰なのか、お客さまが探り当てた手掛かりから唯一無二の真犯人を見つけ出せなければ、お客さまに待ち受けているのはデスということになります」

「あれれ、う、ウサギさん……。手は、猫の手なんですね。しっかり、爪も生えてるし」

 ぬいぐるみを思わせるその手は、どうみても肉食系動物のものであった。

「そういう些細なところはどうでもよろしい。

 さあ、お客さん、ゲームをはじめますか?」

 鼻息を荒げて、ウサギが顔を私に近づけてきた。

「うん、面白そうだね。やらせてください」

 私はあっさりと返答した。

「はい、ありがとうございます。では、一回5ゴールドでお願いいたします」

「ええっ、お金を取るの? きいてないよー」

「あいちゃん、ただってわけには……」

「だってさ、5ゴールドってこの世界で三十分かけて働いて、ようやく稼げるお金なんだよ。いくらなんでも、高すぎるよ」

「いえ、決してお客さまのご期待を裏切ることはないと思いますよ。なにせ、こいつは当店の自信作ですからねえ」

 ウサギは胸を張ってふんぞり返った。

「ふうん、じゃあやってみる」

「あっ、そうですか――。それでは、どちらのお嬢さんから始められますか?」

「ええっ、ふたりいっしょじゃないの?」

 ウサギは、丸い人差し指を立てて、チッチと舌を鳴らした。

「お客さま。こちらもなにぶん商売でございまして、ゲームはお一人さまずつでやっていただくシステムなのでございます」

「いやだあ、チイちゃんといっしょがいい!」

 私が突然大声で泣きだすと、ウサギが慌てだした。

「わっ、びっくりした。お客さん、いきなり大きな声を張り上げないでくださいよ。まあまあ、そんな鼻水流してまでして、泣いちゃってもどうしようもないんですけどねえ。

 もう仕方がないなあ。分かりましたよ。もちろん、ごいっしょでよろしいです」

「本当? じゃあ、やる――。いいよね、チイちゃん」

「はい。もちろんです」


 私たちはスウィーニーに5ゴールドを支払った。ちょっと手痛い金額だけど、まあそれはそれで仕方がない。

「じゃあ、準備はいいですか。では、めくるめくミステリアスな世界へ――、どうぞ」

 スウィーニーの一声とともに、私が見ている画面ディスプレイの背景が、突然切り替わり、のどかな農村の風景が映し出され、そこに一人の少女がたたずんでいた。まさに、アドベンチャーゲームをしている感覚だ。おそらく、チイを操っているユーザーも、同じ画面を見ているのであろう。彼女とのチャット会話も継続してできるみたいだ。そして、画面に現れた二次元の少女が、こちらに向かって語り始めた。


――

 このおはなしの主人公のわたし――、ミランダという名前の、十四歳のむすめです。弟のアリエルといっしょに、まわりを高い山々でかこまれたべリアル(Burial)村で静かに暮らしています。わたしたちはみなしごで、両親はとうの昔になくしました。

 ある日、わたしは弟と、コケモモ摘みに、森の奥へと入っていきました。摘み取ったコケモモをジャムにして、それを売ることで、私たち兄弟はどうにか生活することができました。わたしたちの作るジャムはとてもおいしいと、いまでは、村人たちからうわさされるようになっています。でも、それもそのはず。わたしたちが取るコケモモは、森の奥深くまでいった秘密の場所にだけ生えていて、とても甘いものでしたから。

 今日も長い時間、わたしはコケモモを摘んでいました。でも、森はわたしが知っている世界よりもずっと大きな世界なのです。そして、わたしはあたらしい場所を探しに、つい夢中になってしまい、いつもより森の奥へともぐり込んでしまっていたのです。

 気がついたら、弟の姿がいなくなっていました。


『アリエルー、どこにいったの?』

 わたしは大声をあげて、弟を呼びました。でも、ハシバミの深いやぶが、わたしの前に立ちはだかって、行く道をふさぎました。

『お姉ちゃーん』

 弟の声がきこえました。

『アリエル。勝手にうろついちゃだめって、あれほどいったでしょ』

 わたしは走って近くに行って、弟を抱きしめました。

『ごめんね。お姉ちゃん。かわいらしいウサギさんがいたから、つい追っかけちゃったんだ』

 アリエルはうつむきながら、けろっと言いわけをしました。

『さあ、戻らなきゃ。でも、ここは……?』


 そこはわたしたちの知らない場所だったのです。

 わたしは急いでうちへ戻ろうとしましたが、どこをどう間違えたのか、いつまで歩いても、さびしくて同じような景色がくり返すだけ。どんなにがんばっても、村へたどり着くことはありませんでした。

 歩きつかれて、お腹はぺこぺこ。朝に森に入ったのに、もうお日さまはとっぷりと暮れてしまって、あたりは真っ暗です。遠くの闇の向こうから、ホーホーと、フクロウの気味の悪い泣き声が聴こえてきます。


 さあ、大変。森の中は夜になると、どんどん寒くなってくるのです。おうちに帰れないどころか、へたをすると、このまま凍えて死んでしまうかもしれません。

 弟とわたしはお互いに声をかけ合って、はげまし合いながら、歩き続けました。でも、もうそれも限界です。

 ああっ、遠くにあかりが……。いいえ、あれはお星さまなんかではありません。きっと人がともす灯りに違いありません。わたしたちは、元気を取り戻すと、そのちらちらと輝くかすかな灯りを目指して、歩きはじめました。ぼんやりしていた灯りが、ゆらゆらと、しだいに近づいてきます。

『ああ、よかった』

 思わず、わたしは胸をなでおろしました。

 でも、おどろいたことに、それは、とても大きなお屋敷の灯りだったのです。

『こんな森の奥深くに、こんな立派なおうちがあるなんて……』

 わたしは玄関の前に立って、太い呼び鈴のひもを引っ張ってみました。すると、ぞっとするような鐘の音が、あたりにひびき渡ります。

 さあ、これからいったい、どんな人物がとびらの向こうにあらわれるのでしょうか……。


 出てきたのは、意外にも、白いひげを生やした、とてもやさしそうな、おじいさんです。

『どうかなさいましたか?』

『はい、べリアル村に住んでいるものです。コケモモ摘みに森へ入ったのですが、道に迷ってしまいました。今晩、こちらに泊めてもらえないでしょうか』

 老人は品を定めるように、わたしの顔とからだに視線をくばると、やがて、

『分かりました。そとはお寒いことでしょう。どうぞお入りください。

 わたくしは、このお屋敷、鵺鳥ぬえどり邸にて執事をつとめております、アルフレッドと申します。どうぞ、お見知りおきを。

 さて、わたくしは、お客さまがたのことを、どのようにお呼びすればよろしいでしょうか』

と、訊ねてきました。

『ええと、私はミランダ。それから弟はアリエルと申します』

 すると、アルフレッドと名のった、白い髭のおじいさんは、胸ポケットから手帳を取り出して、続けていいます。

『すてきなお名前ですね。どのように書けばよろしいのでしょうか』

 ちょっとおかしな感じを受けましたが、わたしはそれを顔に出すことなく答えました。

『はい。ミランダは、M、I、R、A、N、D、A。アリエルは、A、R、I、E、L、です』

 アルフレッドは、メモになにやら書き留めると、にっこりと歯を見せました。

『分かりました。いま、ご主人さまにご承諾をいただいてまいりますから、中でお待ちください』


 お屋敷の中は、わたしの想像をはるかに超えた、夢のような世界が広がっていました。高い天井につるされた豪華なシャンデリア。どこまで続くのか分からない、曲がりくねった長い回廊。あちこちに飾られた、絵画やガラス細工などの、きらびやかな装飾品。

 アルフレッドについて回廊を進むわたしたちは、もう三回くらいはかどを曲がったでしょうか。ようやく、ある部屋にたどり着きました。


『寒かったでしょう。おからだを温めたほうがよろしいですね。シャワーがありますからお入りください。

 そうでした。このお屋敷の奥さまは、とてもきれい好きな方でございまして、お食事の際には粗相そそうのないようにしていただく必要がございます。そこで、すべてのおからだの箇所はしっかりとお洗いになり、くれぐれも洗い残しのないよう、お気をつけくださいませ。お食事は、そのあとすぐに、ご用意いたしておきます』

 そういうと、アルフレッドはかしこまってお辞儀をしました。


Q1 さあ、あなたはどうする?

1.提案を承諾して、シャワーを浴びに行く

2.提案を拒否する

  ――


 私が見ている端末の画面ディスプレイに、質問文と、1と2の二つの選択肢が現れた。どうやらこれから、そのどちらかを選ばなければならないみたいだ。

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