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7 - 帰り道

帰り道の車の中では、ハルは別人のように静かだった。


言葉を選んでいるかのように慎重な話しぶりで、麻衣子に自分の仕事が建築関係の

自営であること、年の離れた兄が社長で、仕事には波があるので比較的自由にさせてもらってると説明した。


子供が二人、ハルは32歳だといった。


麻衣子は自分の年を言うべきかどうか迷ったが、黙っておいた。


ハルのがっちりとした大きな体つき、短く刈り上げた髪、ちらほらとあごの下に髭がある。


見た目はもっと年上に見えた。

麻衣子より年下と聞いて意外な気持ちがしたからだ。


「ゴルフを始めたのは3年前なんですよ。それまでは野球とかやってたんだけど

仕事関係でやる人が多くて、引きずりこまれったって言うか。でもやり始めると

はまっちゃったなー」


「野球やってた人って飛ぶ人多いじゃないですか?ハルさんも飛ばしやですもんね」


「でもね。飛ぶと曲がっちゃうから。今はまっすぐ打ち出すようにしてるんですけどね。

やっぱり方向性が大事ですよ。マイさんは誰かに習ったりしてるんですか?」


「最初はダンナが教えてくれたんだけど、夫婦だとどうもケンカになっちゃうから

だめみたい」


「ダンナさんとはよくゴルフに行くんですか?」


「彼は自分のホームコースにメンバーさんといくことが多いんです。私は今、仕事をしていないので、平日ひまだし、だからサークルとかに入って平日ゴルフにいける仲間を探したの」


「そうなんだ。オレも平日派ですよ。平日は安いし、すいてるしいいですよね!」


そんな会話の流れで麻衣子は先日、あるコースから優待券が送られたことを話した。


「そこ行ったことないなぁ。ぜひ行ってみたいから、マイさん、企画してくださいよ」


「掲示板で募集すればいいの?」


「ええ、オレは日程が合えばいけるから。いつごろ考えてますか?」


何日にするかと二人で話し合い、日程が決まるとハルは


「じゃあ、よろしくお願いします」と言った後「うわ〜楽しみだなぁ」と続けた。


笑うと目が細くなり、目じりに小さなシワが寄った。


麻衣子は先ほどの憂鬱な気持ちがなくなっていることに気づいた。


ハルとは一緒にラウンドしたことがない。


サークルの中でも1番上手なハルとゴルフをすることは麻衣子に楽しい予感を与えた。



数日後、ゴルフ場に予約を入れると掲示板に書き込みをした。


すぐにハルは参加する旨のコメントを入れた。


他にも1人手を挙げてきた。


だがもう1人がなかなか決まらない。何人か行きたいけど行けない旨のコメントが書かれた。

確かに誰もが仕事を抱えている、調整ができにくいことは仕方のないことだった。


カオリを誘ってみると、二つ返事で「行く」と言って来た。


「ねぇねぇ、どんな人たちがメンバーなの?」


「1人は上手だよ。ハンデ11っていってたから。もう1人はそこまで上手じゃないけど

90台で回る人だよ」


「そーなんだ。じゃあ、楽だね」


カオリは満足そうにうなずいた。


当日、麻衣子とカオリは一緒にゴルフ場に向かった。


少し早めに到着して、練習グリーンでパットを転がしていると


「マイさん!」


と大きな声で呼ばれた。振り返ると、ハルが少し離れた方にいた。


大きな体にくしゃっとした笑い顔で大股で近寄ってくると


「おはようございます!」と麻衣子の前でキャップをぬいだ。


「あ・・・おはようございます」


カオリがきょとんとした表情で麻衣子をじっと見ている。


「ええと、今日一緒にまわるカオリさんです」


麻衣子から視線をはずしたハルは、初めて気づいたかのようにカオリを見た。


「はじめまして、カオリです」


「どうも、ハルです。今日はよろしくお願いします」


同じようにカオリにも軽く頭を下げた。


カオリは麻衣子とハルの間をチラチラと視線を動かした。そしてハルが離れると

麻衣子にすっと体を寄せてささやくように言った。


「へぇ〜感じのいい人じゃない」


カオリの目が油断なく光ったように感じたのは気のせいだろうか。


麻衣子はその口調にただ単純な感想というより、何か気持ちがこめられている気がした。


素直に「そうだよね」と相槌が打てなかった。


そのこと自体、麻衣子は自分の感情に驚いた。


出た言葉は「そうかな?」だった。


「野球やってたみたいだから体育会系なんでしょ」と突き放したような言葉がでた。


「野球やってたんだ!だから体格いいんだね〜」


感心したようにカオリが言う。


チクチクした棘が心に刺さる感触。理由が分からないから余計にイラつく自分を

収めるように


「さっ、スタート時間だよ。行こう!」と麻衣子は歩き出した。




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