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6−思いがけなく

それから次に参加したラウンドでは、ハルは仕事の都合がつかず不参加だった。


相変わらず掲示板では活発なやりとりが行われていた。


「ハルさん、仕事っていってるけど本当は飲んだくれていたんじゃないの〜(笑)」


「見抜かれましたか!ここ数日、接待続きで家に帰れず、別宅泊まりです。といっても

サウナかカプセルホテルですが(笑)」


「次のラウンドではハルさんからハンデもらわないと」


「いいよぉ〜その代わり、負けたら、打ち上げの飲み代よろしく〜(笑)」


そんなやりとりが続く。麻衣子はなかなかそこに踏み込めずにいた。


掲示板というものになれないせいもあるが、つい最近知り合ったばかりの人たちと

軽口をたたくにはためらいもあった。


そんなある日、ハルが誘いをかけたラウンドの日程が合わなかったので、


「行ってみたいコースですが、日程が合わないので残念です。皆さん楽しんでくださいね」


と麻衣子は書いてみた。すると


「うわ〜残念だなぁ。ドタ参でもいいですよ。当日ロビーでお待ちしてます(笑)」と

ハルが返してきた。


なんか調子いい人と思いながらも、麻衣子はつい口元がゆるむのを抑えられなかった。



新しい年が明けて、サークルのコンペが行われた。


5組くらい集まったコンペだった。


少し肌寒く、北風に身を震わせる一日だった。


3度目の参加なので、それほど緊張することもなかったのだが、この日は寒さで体が堅くなっているせいもあり、麻衣子のショットはどれも無残なものだった。


こうなると飛ばそうとか、うまく当てようという意識が空回りばかりして

状況はますます悪化していく。


年配の男性が一緒の組にいた。技術や経験もあり自信があるのか、途中から麻衣子に

べったりくっついて麻衣子にあれこれ指導を始めた。


アドレスをすると前にその男性がたち、麻衣子のフォームに一言をいう。

スイングをした後、こうしたほうがいいとアドバイスをする。


それはもちろん自分よりヘタな者へのいたわりと親切からでた行為ではあるだろうが

まるで教官のようにじっと見据えられると、逆に萎縮してしまう。


リラックスどころか、麻衣子の調子は下がりっぱなしだった。


冷たくなった手に息を吹きかけながら、うんざりした気持ちが麻衣子を包む。


「早く家に帰りたい」そんな心境だった。


ラウンド後にお茶を飲みながら、皆、結果に一喜一憂したり、誰かをからかったり

優勝者を褒め称えたり、そんな和気藹々した中で、ひとりぽつんと取り残されたように

麻衣子は押し黙っていた。


ハルは打ち上げをやっている部屋の片隅で、携帯電話で誰かと話しをしていた。


パタンと音がして携帯をたたむ音がするとハルは麻衣子に近寄ってきた。


「マイさん、申し訳ないんですけど、帰り都内まで乗せていってもらえませんか?」


サークルはハルも含めて地元の人間が多かった。4,5人ほど都内在住の者もいたが

このとき都内から参加しているのは麻衣子1人だった。


「えっ!?どうしたんですか?」


「ちょっと仕事でトラブルがあったみたいで、行かなきゃいけないんです。おーい、オレのキャディバッグ家まで持っていてくれる?帰り道だろ?」


と1人の男性に声をかけた。


麻衣子はしばらく逡巡した。沈んでいた気持ちから1人で早く家に帰りたいところなのに

他人を隣に乗せなければいけない。

誰かが一緒だとそれなりに会話をしなくてはいけない、そんな億劫さがためらわせた。


そんな麻衣子の気持ちに気づかないのか、声が飛んできた。


「マイさ〜ん、乗せていってあげてよ〜」


「疲れてるだろうからハルさんに運転させたら」


「そうだよ。運転手にしちゃってください」


皆一様に笑っていた。


「ひでぇなぁ〜まっオレ運転うまいからいいけどねっ」


ハルも笑った。屈託のない笑顔をそのまま麻衣子に向けると


「すみません、申し訳ないです。よろしく」と軽く手を上げた。


断れない状況に追い込まれた麻衣子はうなずくしかなかった。







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