4−出会い
そのサークルは男女混合であったが、入ってみると、麻衣子のような主婦もおり
人数も30人と少なく、こじんまりとした雰囲気をかもし出していた。
まだ発足したばかりのようで、掲示板にもそれほどなれなれしい書き込みはない。
だが誰かが何か書くと、必ずそれに対して、誰かがコメントを返すようなそういう
律儀なところも見れた。
麻衣子が入会したことで自己紹介をすると、早速メンバーから大歓迎をあらわすコメントがきた。
そういう風に暖かく接されると、勇気を出して入会してよかったと心から思う。
カオリに言うと、「じゃあ、今度、ラウンド会に参加してみて」と催促された。
ちょうど1ヵ月後に呼びかけが掲示板に載っていた。
女性も3人参加するということなので、麻衣子は思い切って行って見ることにした。
掲示板に麻衣子が参加表明をすると、幹事である「ハル」という男性がコメントをしてきた。
麻衣子はそのサークルでハンドルネームとして「マイ」を使っていた。
「マイさん、1人で運転してくるんですか?大丈夫ですか?」
「多分、大丈夫だと思います」
「でもインター降りてからかなりありますから、SAで待ち合わせしましょう。リンさんも
そうする予定ですから」
リンさんという参加する女性もSAで待ち合わせすると言う。
麻衣子は同意した。
「ありがとうございます。初めての参加で緊張します。まだへたくそなのでご迷惑を
おかけすると思いますがよろしくお願いします」
するとハルはすぐそこにコメントをつけてきた。
「大丈夫ですよ。みんな良い人ですから。意地悪なのはオレくらいだから〜(笑)」
麻衣子は掲示板に慣れていたなかったので(笑)の意味が分からなかった。
本気なのか冗談なのかよく分からない文面・・・・麻衣子は戸惑った。
会ったこともない人なのに、この気安さみたいな文章って何?というのが印象だった。
でも前からのスレッドでのコメントを見ていくと、ハルという男性はそういう感じで
誰かをちゃかしたり、冗談をいったりしていた。だからネットのやりとりに慣れている人
なのかなと麻衣子は思った。
でもゴルフに対してはまじめに取り組んでいるのか、誰かがクラブのことで悩みを相談すると、真剣に回答をしている。
ハンデは11とある。上手な人なんだ。麻衣子の周りには楽しいゴルフをする人は多いけれど
競技志向の者はいない。
ハルはアマチュアの競技にも興味をもっているらしく、アスリート志向なんだろうと思った。
当日、麻衣子は待ち合わせのサービスエリアに車を停めたとき、麻衣子はひどく緊張している自分に気付いた。
「そりゃそうだよなぁ、知らない人と会うんだもん」
5分前だったので、その前に飲み物でも買おうと、売店に入った。
お勘定を済ませて、ドアをでるときに入れ替わりに入ってきた男性と目が合った。
そのときのことを麻衣子はよく覚えている。
姿形ではない。どんな服装だったのかはっきりと覚えていない。
ただ印象だけなのに、その男性と目が合った瞬間、すっと胸の中に入ってきたものがあった。
「この人・・・・」
会ったこともないのに直感した。「ハルさんだ」
彼は麻衣子の横を素通りして、飲み物が並んでいる棚に向かっていく。
そこに「ハルさ〜ん」と呼びかける声がした。
振り返ると1人の女性が笑みを浮かべて手を振っている。
「おおっ!おはよう!」
快活な声が返ってきた。
その様子をそばでじっと見つめて立ちすくんでいた麻衣子に気付き、女性が
「あれっもしかしてマイさん?」と声をかけてきた。
「はい、そうです。リンさんですよね。今日はよろしくお願いします」
麻衣子はおじぎをした。
飲み物を手にしてハルが近寄ってきた。
「ハルです。はじめまして」
かるくお辞儀をする。はぎれの良い声。きびきびしている体育会系の動作。
「マイです。今日はよろしくお願いします」
「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。楽しいラウンドにしましょう」
ハルはにこっと笑った。
短い髪、がっちりとした体格。姿勢のよい立ち姿。
麻衣子は少しうれしくなった。
麻衣子はハルという男性に対して、それまで何のイメージも抱いていなかった。
だが会ってみると、人目でこの人だと思うような感覚。
いや、この人であってほしいという願望が実現したような感覚。
想像していて実際に会うとがっかりすることが多いことがある中、この印象は
麻衣子の心に深く刻まれた。