3−カオリ
それからしばしば麻衣子はカオリからの電話やメールを受け取ることになった。
さっと朝の家事をすませ、新聞を読んでいると、メールの着信音。
「おはよう〜今日、時間あったらランチでもどう?」
明るい声、人なつっこいまなざし。
女も30過ぎて、友達なんてなかなかできやしない。
会社の同僚はグチをこぼしあったりするストレスを共有する仲間ではあるが
友達というと首を傾げてしまう。
でもカオリとは利害関係もなくゴルフという趣味を介して知り合った人。
カオリはゴルフ歴も長いのでいろんなことを知っている。
「キャディってのは・・・・」と始まって、どんなキャディの質が優秀か
どこのコースが素晴らしいか、とくとくと語る。
その代わりに自分が納得のいかないキャディのサービスを受けたり、
コースのメンテナンスが悪かったりすると、プレー代が安くても、手厳しい批評を下す。
クラブに詳しくない麻衣子のために自分のクラブを貸し出す。
「いいのいいの、私は。他にもあるから。もし使ってみて気に入ったら買えばいいじゃない?
実際に使ってみないとクラブってわからないからね」
ウェアを買いに行くと、麻衣子のために見立ててくれる。機能的なもの、ファッショナブルなもの、ひとつひとつカオリはどこがいいか、悪いか的確に判断していく。
麻衣子はゴルフの経験が浅いので、そんな風にかまってくるカオリの親切ぶりを
単純に受け止めていた。
ジャズダンス、ゴルフ、アートフラワーと忙しい日々を送ってるカオリは、
自分のスケジュールの合間を見て、麻衣子を誘う。
麻衣子がその日はだめだからと、別の日を提案すると、にべもなく、
「あっ、その日は私ダメなの。○日しか空いてないの」と一方的にぴしゃりと言う。
ひどく自分本位な物言いでもあるが、見方によってははっきりしていて小気味いいかもしれない。
麻衣子に固執するかのように、毎日のように電話してくるかと思ったら
ふいにそれが途絶えることもある。
学生時代の女友達というのはべったりだった。相手の行動を1から10まで把握していることが親友だと思っていた。
だがやはり大人になってできる友達というのは、ある程度、距離感が自然とあるものだと
麻衣子は思っていた。
だからカオリが麻衣子に寄り添ってくるようなしぐさを見せながらでも、麻衣子がちょっと
引く態度をとると、あっさりと身をを翻すのだろう。
カオリはお互いに所属しているサークルの活動内容には不満が多かった。
どうも管理人はそのサークルで見つけたお仲間の女性たちとゴルフはいってるものの
サークルとしての活動はおざなりになっていた。
多分、ラウンド仲間を見つける手段としてはじめたサークル。
仲間ができたら、その仲間と内内で相談してゴルフに行けばいい。
わざわざネット上で仲間を募集することもない。
そんなことからだろうか。活動はぱったりと静かになってしまった。
せっかく入ったサークルがこんな風では期待はずれもいいとこだ。
麻衣子はこうなったらまた別のサークルを探すしかないと思うようになった。
カオリに相談するとこう返された。
「私も思ったんだけど、初心者の女性は上手な人と回るほうがいいのよ。女性ばっかりで
気楽なんて、勘違いもいいとこ。ある程度回れるようになって言って欲しいわ」
カオリは辛らつだった。
「多分あの人たちはゴルフを社交の一部くらいにしか考えてないのよ。みんな上達したいって
言ってるけど、だったら上手な人と回らなくちゃ」
カオリはゴルフを始めたときからコーチについて習っていた。もう5年になるという。
「ねぇ、麻衣子さん、どこかサークル探してみてよ。もし入ってみて良さそうだったら
私を誘って、ねっ」
「そうねぇ・・・・」
「男性がいてもいいじゃない。私が入れば平気でしょ。それに麻衣子さんは車の運転も上手だから自分でどこでもいけるから問題もないし」
「男性と回るほうが楽でいいわよ〜私、本当につくづくそう感じた」
カオリは叩き込むように麻衣子を説得した。
その次の週、麻衣子はひとつのサークルに入会申請をすることになる。