2−女性サークル
女性限定のサークル。
メンバーでなければ掲示板を覗くことができない。そういった面でもプロテクトされていたので、麻衣子は安心していた。
入会申請が許可されて、初めて除く掲示板。メンバー表。
4,50人の人が登録されている。年齢は30代から40代。
麻衣子の希望にも合っている。
掲示板はいくつかのカテゴリーに分かれていた。
自己紹介、ラウンドの誘い、ゴルフのルール、雑談コーナー、月例の案内。
ワクワクしながら一つ一つ覗いてみた。
過去にいくつかラウンド企画もあがっている。
ラウンド後の感想では活発に意見交換が行われていた。
どれも「楽しかった」という文章ばかりが飛び交っていて
読んでいる麻衣子の心も跳ね上がった。
少し緊張しながら、麻衣子は自己紹介の文章を掲示板に入れてみた。
「年齢は30代半ばです。仕事を辞めて今は主婦業をやっています。
スコアは110前後でまだへたですが、楽しみながら上達したいと思っています。
女性同士でラウンドする機会がないので、とても楽しみにしてます。
よろしくお願いします」
そうするとすぐに管理人から、リコメが入った。
「ようこそ〜これからラウンドを楽しみましょうね♪」という暖かい文章。
麻衣子はホッとすると同時に、これからの期待で胸が膨らんでいった。
でも麻衣子はこのサークルでは新人。
いきなりラウンドの誘いなどかけることはためらわれた。
しばらく様子を見ながら、機会を見て、参加しようと心に決めた。
夫にはネットのサークルに入ったことを告げていた。
凡庸な夫はコンピューターに疎く、ネットにアクセスすることすら興味がなかったので
麻衣子の行動にも関心なく、一言「ふ〜ん」といった言葉が返ってきただけだった。
それから毎日、PCを開き、サークルの掲示板を覗くことが日課になった。
そうして2ヶ月後、麻衣子は初めてサークルのラウンド企画に参加することになった。
2組での女子ばかりのラウンド
不安と緊張とそして期待をもって参加したゴルフだった。
しかし帰り道、麻衣子は少し首をかしげることとなった。
管理人は麻衣子より少し年上の女性。掲示板で見る限り、人当たりもよく
面倒見も良さそうな印象を与えていた。
組み合わせでは1組は管理人とその取り巻きの女性といった格好だった。
そしてもう2組は麻衣子を含め、そのサークルでは「新人」たち。
麻衣子の組にはラウンド経験がほとんどない女性が二人参加していた。
麻衣子だってそれほどうまくない。人の面倒など見れるほど余裕がないのだが
サークルというものはそういうこともあるだろう、と楽観していた。
しかし実際にはラウンド後はぐったりだった。
ほとんど初心者なのでボールにまず当たらない、ルールは知らない、
せめて敏速にプレーをするのであれば進行もスムーズだが、
クラブ1本もってゆったりと歩いている。
そしてカートが止まるたびにクラブの交換をする。
それだけで人の倍以上、時間がかかってしまう。
とうとうマーシャルに「急いでください」と叱れる羽目になってしまった。
でも本人たちは気にするでもなく、逆の文句を言われたと不機嫌になっていった。
管理人を含むもう一組は、前からの仲間で仲が良いのだろう。
そしてゴルフのレベルも麻衣子よりは上手だった。
おしゃべりしながら、楽しそうにラウンドしている姿はうらやましかったが
どうにもスコアレベルを考えれば組み合わせが悪すぎる。
一緒に回っていた女性が麻衣子に言った。
「ねぇ、私たちに初心者二人押し付けるなんてひどいわよねぇ〜」
その女性はカオリと名乗った。サークルに入って半年。ラウンド参加は2度目と言った。
「でもサークルでは初心者歓迎って書いてたし、しょうがないですよね」
「そうだけど、こんなのだったら私こなかったわ」
カオリはイライラしたように言った。
「それに、あの管理人のみきさん、いつもそうだけど、自分にハイハイ言う人しか
一緒に組まないのよね」
「そうなんですか?」
「そう、女王様なのよ。なんでも仕切りたがるし、パットのとき自分のはすぐOKだして
他の人が自分より上手だとすると、絶対OKしないの。それに自分よりスコアが良かったりすると機嫌が悪くなって大変。みんな気を使ってるの」
「一緒にまわったこと、あるんですか?」
「あるある、もう大変。それにクラブハウスで食事がまずいって前に文句まで言い出して。
そのコースを手配した人なんか、かわいそうなくらいしょげてたわ」
「そんなことがあったんですか。知りませんでした」
「気をつけてね。ところで麻衣子さんはどこに住んでるの?」
「私は渋谷です」
「あらっ!じゃあ、私、世田谷だから近くじゃない?今度、一緒に練習しましょう」
「ええ、いいですよ」
カオリは麻衣子と同じ年だった。そして同じ主婦。子供がいないことも同じ状況。
麻衣子はゴルフ友達ができたことを単純に喜んだ。
だがカオリがこの後、麻衣子に多大な影響を与えることとなるとは、このときは
思いもよらなかった。