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24−カオリの不満

「それって単なるやきもちじゃん。愛されてるってことだよ〜」


最近のカオリとの電話の内容はゴルフよりも、お互いの恋人の話に集中していた。


結局、元上司に電話してみると、相手は「あれ、そんなに掛けたっけ?ごめんごめん。

酔っ払ってたんだ。麻衣ちゃんの声を久しぶりに聞きたかっただけだよ」と言った。

重たい気持ちで電話したのに、相手は拍子抜けするくらい明るかった。

電話を切ると、大きなため息とともに、安堵感が一杯にこみ上げたが、

ハルにいちいち言うこともなかった、そうすればハルを不愉快にさせることも

ストーカー話にもならなかったのに、そんな後悔が麻衣子を襲った。


「そうかな?」


「そう、でもさ、その上司って本当に大丈夫?男と女は何があるかわからないから」


「大丈夫だよ。あ、そうだっけ?なんて言われちゃった。こっちが考えすぎていた。だからハルにも余計なこと言っちゃったなぁって後悔してる」


「ふふ、でもさ、男の人って適度にやきもちやかせるくらいがいいのよ。

私たちって恋人といっても、先がないから、遊びの恋愛じゃない。結婚するわけないし。

お互い、家庭があるんだから、いつ終わりになってもおかしくないもん。恋人気分を

持続させるには、少々のやきもちとかないとね」


カオリはいつも的確にずばりとホンネを言う。不倫の恋愛なんて「遊び」そういいきるくせに

彼女が恋人の渡辺に執着していることも知っている。


カオリは何かと麻衣子たちの状況を知りたがった。そして自分たちの関係に当てはめたりして

麻衣子にアドバイスでもするように、あれこれ言うのだ。


「私たちは所詮愛人じゃない?奥さんが大事だというのは分かるけど、愛人だからこそ求めて欲しいってこともあると思うの」


カオリは男女のセックスの話を持ち出した。最近、会う頻度が少なくなり、あの旅行以来

体の関係がないという。


「やっぱり男が女を求めて欲しいのよ。女からそんなこと言えないじゃない。向こうが欲しい欲しいって言って、そう?しょうがないわねって感じで応じるのが愛人じゃない?」


「そう?わからない。確かに女性からは言えないけど・・・」


「あのねぇ、アレがない男女の関係なんてありえないじゃない!」


カオリは怒りがこみ上げたのか、まくし立てるように言い切った。


「麻衣子のとこはどうなの?」


「えっ!?う〜ん、そこそこ」と笑った。「でもハルはお酒が好きだから、お酒だけ飲むってことも多いよ。ゴルフに行ったときは終わったらそのまま帰ることもあるし」


「でも誘うときは向こうからでしょ?」


「そうだね。でもこの間、いつもオレばっかりだからたまにはマイから誘われたいって冗談っぽく言ってたよ」


「へぇ〜仲いいじゃん」


口調が皮肉混じりなのに気づいて麻衣子はあわてて付け加えた。


「そんなことないよ。この間だってちょっと怖かったし、そのストーカー話で気まずい雰囲気になるし・・・」


「愛されてる人が何言ってるのよ。ハルさんの気持ち、分かってあげなよ」


カオリはそう言うと、今度は自分たちの関係のグチをこぼしだした。


最近、会ってないこともありカオリはいらいらしているようだった。


会うときは急に呼び出されることが常らしい。それは彼の仕事と家庭の束縛から仕方がないことなのに、当然のようにカオリの予定など伺いもしない自分本位の呼び出し、それと

会っている間にかかる費用をすべてカオリ持ちというのにも不満を持っていた。


長い間に蓄積され、積もった鬱憤は今、麻衣子に吐き出されていた。


おそらく今まで誰にも言えない恋愛関係であるから、こうして同じ立場にいる者にぶちまけることで気持ちを楽にするのだろう。


カオリのグチは果てしなく続いていた。


「お金のことだって、言いたくないけど、私が全部払うんだよ。ゴルフのときもそうだし

どこかお店に入っても向こうは当然って顔して財布だって出しやしない。

そりゃ、お金がないのを知ってるから、私も何も言わないけど、いつもいつもだと

なんでだよって気持ちになる。しょうがないなぁとも思うよ。奥さんはほったらかしで

そのくせお金には厳しくて彼に十分なお金を与えてないもん」


「それはひどいなぁ。本当にそれでいいの?そんなに不満があるなら言ってみたら?」


「言えるわけないじゃない! いやだったら別れればいいだろうけど、しょうがないなぁとも思ってる。私がいなかったらもっとお金に困ってるよ」


どうも話の端々からカオリはすでに渡辺にかなりのお金を使っているようだった。


カオリは不満を吐き出しながら、自分がいなきゃだめなんだと言っている。

突き放せないのは、愛情と頼られることでカオリ自身の存在価値があることを認めているのだろう。


「カオリは世話好きなタイプじゃない。それに好きな人なんだし、やってあげたって

思ってたら、相手に見返り求めちゃうから不満もあるけど、好きな人のために自分が好きでやってるんだと思えばいいじゃない」


「分かってるよ。自分が好きでカレのためにしてるって思えばいいんでしょう?

理屈では分かってるけど・・・」と言葉を濁して黙り込んだ。


二人のことは二人しか分からない。渡辺がどういうつもりなのか、この状況で満足しているのか、カオリはどうしたいのか、関係を変えようとするのなら二人で決めるしかない。


「遊び」の恋愛と言い切ってはみても、心は割り切ったり、理性で抑えたりは

できやしない。不安定な関係だからこそ、気持ちも上がったり、下がったり、そして

小さなきっかけでたやすく壊れてしまう。


「あぁ〜ハルさんみたいな人だったらいいのになぁ」


突然カオリはそう言った。


「私、ハルさんって最初に会ったときからいいなぁって思ってたんだ。なのに、麻衣子に

とられちゃった。知らない間に付き合ってるんだもの」


電話のためカオリの顔色や表情が見えないから、本気なのか冗談なのか判断できない。

だがその言葉は麻衣子を不愉快にさせた。


ハルは最初から私の方にアプローチしてきたんだから、と言いたかった。

とられた!?一体、この人、何を言い出すのか・・・


初めてカオリに対して不信感を持った。












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