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吸血鬼探偵の助手やってます  作者: 苦無玄
プロローグ
3/4

2

ラグの雇い主、アリス・ヴァイオレットの部屋は、受け付けを出てから、一つ部屋を抜かした先にある。そこの部屋の前にある窓だけが板で打ち付けてあるため、そこの扉の前だけ薄暗いので分かりやすい。

ラグはその扉の前に立ち、粗相のない動きを意識して扉を叩いた。

扉を何度か叩く音が廊下に響いたが、中から返事は返って来ない。もう一度、ラグは扉を叩く。


返事は無い。廊下は無言のままだ。


「またか・・・」


何度目かのため息が漏れた。アリス・ヴァイオレットは朝に弱い。それはラグも重々承知の事実である。このまま入っても良いのだが、相手は女性だ。どんな奴だろうと女性の部屋に無理やり押し入るのは気が引ける。


それでもやるしかない。

ラグは後の叱りに対する恐怖を無理に飲み込んで扉を開けた。


真っ暗。いや、正確にはうっすらとカーテンの隙間から光が漏れているので、完全な暗闇とは言えないが、明るい場所から入って来たラグには十分過ぎる暗さと言える。


暗すぎてアリスの場所が分からない。

アリスはベッドを好む性格だが、面倒くさがりもまた性格で、移動が面倒くさいと彼女が思えば、新聞でも布団にして床に寝てしまう事もある。

ラグも一度、床に寝ている彼女を踏んでしまった経験があり、こっ酷く叱られた理不尽を受けた事がある。


そこで彼はアリスを起こす時の攻略方法を一つ編み出した。


壁伝いにカーテンへと向かう方法である。

足元なら視界もそれなりに見えるので、背中を壁に預ける形で横移動すれば、基本安全である事が分かっている。


今回も迷わずラグは壁に背を預けて横移動を始める。

時折、足元に転がる本や新聞に驚いたり、躓きかけたりしながらも、カーテンへと無事辿り着いた。


足元の安全性を確かめ、カーテンの端を掴む。同時に目を瞑って顔を横へと反した。これは、急な明るさで目が痛くならないための対策だ。そうして準備を完了したラグは、漸く勢い良くカーテンを開けた。


息を吹き返したかのように部屋全体が明るくなる。木製の大きな大きな机がラグの目の前に姿を完全に現せ、ラグが背中を預けていた壁みたいな本棚と、その下に転がる本と新聞も確認できる。

僅かに衣類も放り出されていた。


そこまで見回してやっとソファーに目が行く。

ラグが視線をそこに向けると、ソファーの上で何かがもぞりと動く。ベッドのシーツに包まった其奴は大きな芋虫に見えても仕方が無い程、芋虫に似た動きをしている。

更に、シーツも覆いきれない程の黒色の髪の毛がはみ出しているのも触角に見える。


けれど、その正体を知っているラグは芋虫のいるソファーへと向かい、包まっているシーツを思いっきり引っ張る。

ずるりと中身が出て、転がるようにソファーから落ちた。


「ほげっ」


落ちた芋虫の中身だった少女が、少女とは思えない声を出して驚く。

ごろんと一度、大の字を描くが、すぐにむくりと上半身を起こして眠気眼を擦り、頭を起こした。


「〜〜〜っ!?」


頭を起こした少女の顔面は、丁度開け放たれた窓の目の前であり、必然的に少女の顔に無慈悲に光が降り注ぐ。ただでさえ大きな瞳は更に大きく開かれ、口はプルプルと震える。

まるで化け物を見るように外を見ていた少女が、我に帰ったのか急に頭を振った。


そしてラグを鋭く睨みつける。


「どういう事だ状況を説明してくれ、私の安眠を邪魔する程の理由があるのだろう?さては軍が大軍で押し寄せて来たのか?私が捕まえた殺人犯が脱獄して私を狙っているのか?それとも悪魔にでも取り憑かれたか」


完全に怒っている。

ラグは顔面蒼白して、それでも軍人の急用を伝えなければならない仕事に対しての使命感に駆られる。


「君に用事があると言う軍人が来ている。それも急用と彼は言った」


宥めるようにラグはアリスに言うが、アリスは関係無しに不敵な笑みを止めない。


「ほう、私の安眠よりも大事な急用とはなんだろうな?」


これはあの軍人の返答によってはラグがとばっちりを食らう感覚がする。

慌ててラグは付け加えた。


「クラーツァって人からだよ。俺は詳しくは知らないけど、アリスは知ってるかい?」


すると、そこで漸く少女、アリス・ヴァイオレットが怒り一色の表情から変化が現れた。

明らかに動揺である。


「なぜクラーツァ?今更とやかく言われる事もない筈だが」


一人でぶつぶつと呟いて悩むアリスに慌てふためいてラグが言う。


「と、とにかくクラーツァさん急用みたいだし、早くしないと本当に全軍突入になるかも知れないよ」


それでもアリスは気にしないと言った表情で手のひらをひらつかせーーー、


「奴は確かに上の地位に居る人間だが、私にとっては赤子。それに軍を指揮する力を奴は無い。文官と武官ではまた違う。クラーツァは文官の血だ」


それにーーーと続けようとして、アリスは止めた。顔をしかめて続ける。


「出て来るのが遅いと思えば、クラーツァとは息子の方か」


アリスのしかめっ面の視線の先、ラグは後ろへと振り返った。

扉は開け放たれ、其処には部屋で待たせていた筈のクラーツァが立っていた。

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