私の目の前には無限のような平原が続いている。木が数本しか立っていない光景は目が眩む程だ。
なぜ私がここに居るかと問われると、答えに困るだろう。ただの気まぐれ、散歩。それだけの理由でしかない。しかし、私はこの眩む程の平原の真ん中で大変な落し物を見つけてしまった。
その落し物を中心に数十メートルもクレーターを作り上げて、無限の平原にぽっかりと穴を開けている。
私はクレーターに落ちないように外から眺めているが、中心の落し物は軽い崖の下くらいにあるため、私ぐらいの人外でしか把握出来ないだろう。人外である私も目を凝らさないと見えない程ではあるが。
さて、先程から言っている落し物についてだが、凝らした目が捉えたのは人間みたいな生物だった。起きてはいないようで眠っている様子だ。
年齢は二十代前半の男か、まだ若い。極度に細い訳でも太い訳でもない。とても中途半端な奴だ。目立った外傷はなく、五体満足でいる。クレーターを作り上げるくらいの高さから落ちてきた割に、衝撃は全く受けていない。
摩訶不思議な事態だ。
ふむ。これは回収するべきなのだろうか、私に人間を匿う理由もないし、どちらかと言えば私は人間が嫌いだ。このまま野犬に食われても私は一ミリも罪悪感なんて生まれないだろう。
さて、困った。
悩んでいたその時、人外である私の本能と自慢の目が、クレーターの落し物から発せられる異常に気がつく。男の体から溢れ出る何か。思わず笑みが溢れてしまう。
「成る程、面白い。通りでクレーターが出来ている訳だ」
私はもう迷わずクレーターの中心へと降り立つ。一度の大きな跳躍ですんなりと辿り着く。訳あって私は今小さな体で過ごしているが、こういう時の軽い体は少し楽で良いと思っている。
ただ、私は男を見て顔をしかめる。
私の小さな体で男を運ぶのは頗る面倒くさい事だと気が付いた。
仕様がないな、起こすか。
息をしていないのではと疑う程、綺麗な寝顔をしている男。
その男の顔面をある程度手加減して蹴り飛ばす。
おや?手加減したつもりが私が人外故に男の体が吹っ飛んで行ってしまった。
「ごふっ、な、なんだいったい!?」
驚いた様子で男が跳ね上がる勢いで上半身を起こした。慌てて辺りを見渡している。
私は静かに足を下ろして、未だに半身しか起こしていない男に向かって言い放った。
「やあ、おはよう人間」