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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サンタクロースと寒い夜

緊急鬼畜注意報

サンタクロースと寒い夜


 それは洗い立てのタオルのように白い雪の降ったクリスマスの夜ことでした。

「クリスマスプレゼントが届きますように」

 北斗くんというまだ幼い少年が、狭い自分の部屋でお願い事を空に唱えると、ベッドの中に入って寝てしまいました。

 北斗少年はぐっすりと気持ち良さそうに眠っています。

 その北斗少年をドアの隙間から二人の男女が見守っていました。

 彼らは北斗少年の両親。

 二人は北斗少年の枕元にプレゼントを置こうと、タイミングを計っていたのです。

 二人は北斗少年の寝息を聞いて頷きあうと、ドアをそっと開けました。

 窓際にある北斗少年が眠るベッドに二人は音をたてないように近づきます。

 愛しい我が子。

 窓から射す夜の淡い光が、二人の宝物の顔を優しく照らしていました。

 妻が枕元にプレゼントを静かに置き、おっとが北斗少年の頭を、まるで綿を触るように撫でます。

 妻も同じように北斗少年の頭を撫でると、二人は部屋を後にしようとしました。

 突然、北斗少年が眠るベッドの方からガンという音がして、二人は振り返ります。

 そこには、窓の外からトンカチで、窓を叩き割ろうとしている赤い服を着たおじさんがいました。

 パリン、パリーン、ガチャ、スススススス……。

 おじさんは窓を開けてからジャンプすると、どてっという大きな音とともに、北斗少年が眠るベッドを飛び越えて、床に着地しました。

 おじさんは持っていた白い袋から、小包を取り出すと、北斗少年の枕元に置きました。

 しかし、もう一つのプレゼントに気がついたのか、北斗少年の両親が置いたプレゼントの袋を破ると、中身を取り出して、少し眺めてから自分の持っていた袋に入れてしまいました。

「「いやいやいやいやいやいや」」

 窓からやって来た不審者に唖然としていた両親は、自分たちが愛する我が子にあげたプレゼントを、不審者が持ち帰ろうとするのを見て我に返る。

「あんた何やってんの!?」

「警察だ! 警察を呼べ!」

 夫は不審者を取り押さえ、妻は自分のポケットに入っていたケータイを取り出してボタンを懸命に押していた。

「あんた何者だ!」

 夫が床に不審者の頭を押さえつけたまま尋ねると、不審者は初めて口を開いた。

「*☆◆◇@$*&@☆●■*☆▲●*%」

 違う国の人でした。

 妻は機械が苦手なので何度も110と119、118と押し間違え、ケータイに向かってペコペコと頭を下げていた。

 埒が明かないと判断した夫は、妻にロープを持ってくるように指示し、赤い服を着た不審者を妻の持ってきたロープでぐるぐる巻きにする。

 不審者を連れて一階のリビングに行き、椅子にくくりつけると、二人は質問を投げ掛けた。

「なんであんなことをしたんだ?」

「私たちが北斗にあげたプレゼントをどうする気なの?」

 不審者は二人をじっと見つめると、諦めたように口を開いた。

「&●◇@%☆▲*☆$☆*%◇」

 二人とも不審者が違う国の人だということを忘れていました。

 両親は同時にはぁ、と溜め息をつくと、不審者の持っていた袋の中から自分たちがあげようとしたプレゼントを探し始めた。

 袋の中にある小包には、全て名前が書いてあった。

 二人のプレゼントは奥の方に潜ってしまったようで、探すのに手間取る。

 しかし、その途中でとんでもないものを二人は見つけてしまった。

 そのとんでもない小包にはこう書いてあった。

 ‘’明くんへ、どこの国の言葉でもわかるようになるプレゼント‘’

 二人は恐る恐る小包を開けて見ると、中から一切れのこんにゃくが出てきた。

「*▲%■@●&◆%◆*■☆%!!」

 不審者が騒いでいたが、二人は気にせず頷きあうと、夫がこんにゃくを不審者の口に押し込んだ。

「ほら、食えよ、もっと食え!」

「■ー! ☆ー! %ー!」

 声にならない悲鳴をあげる不審者に、夫は笑いながらこんにゃくを押し込み続ける。

 その姿を妻は羨ましそうな表情で見ていた。

 全部押し込んだ後、不審者は苦しくなって咳き込んでしまった。

「なんてひどいことをするんじゃ、子どもたちへのプレゼントを開けるなんて!」

 咳き込んだ後に不審者の口から出た言葉は、歴とした日本語だった。

「あんた何者なんだ? なんであんなことをしたんだ?」

 父は先程した質問をもう一度、日本語が喋れるようになった不審者にする。

 不審者は俯くと、ポツリと言った。

「私はサンタクロースじゃ」

「「サンタクロースぅ?」」

「そうじゃ、ここにいる全ての子どもたちにプレゼントを届けに来たのじゃ」

 両親は訳がわからず、首を傾げる。

「普通、サンタクロースって煙突から来るもんじゃないのか?」

「バカもん! そんなことしたら服が汚れるじゃろうが!」

「綺麗好きなの? 玄関からとか入らないのかしら?」

「今はオートロックとかでピッキングが上手くできないんじゃ!」

「はぁ、じゃあ窓は別として、なんであんなことしたんだよ。別にプレゼント持って帰ろうとしなくてもいいじゃないか」

 サンタクロースは、けっと言うとぶつぶつと文句を言い始めた。

「お主ら親がサンタクロースはいないなんて言うから、私たちの仕事はどんどん減っているのじゃ。なのにノルマがある上に一人の子どもには一つのプレゼントしかあげてはならないなんていうルールがあるから、私たちはどれだけプレゼントを用意してもほとんどのプレゼントが残ってしまうのじゃ。ああでもせんと私はノルマを達成できてなくて、クビになってしまうのじゃ」

「「ふーん」」

 サンタクロースもリストラが多いのかもなと二人は他人事のように聞いていた。というか他人事だった。

「それはそれとしてさ」

 落ち込んでいるサンタクロースに夫が近づいて、肩にぽんと手を乗せた。

「窓を割ったけどどうすんの?」

 サンタクロースは一瞬にして顔を青くする。

「そ、そそそそれは、ちゃんとべべべべんしょしょうすすするかぶっ!?」

 ガタガタと震えるサンタクロースを夫が殴った。

 夫は笑いながら殴り飛ばしたサンタクロースに近づくと、ロープでぐるぐる巻きにされているサンタクロースの腹を踏んづけた。

「俺もさぁ、最近! 課長に! 八つ当たり! されててさ! 機嫌が! 悪いんだよね!」

「がふっげふっごふっあふっおふっえふっ」

 夫は何度も何度もサンタクロースを右足で踏みつける。

 サンタクロースが踏まれている様子を、妻が羨ましそうに見ていた。

 その時、リビングのドアがガチャっと開いた。

「ママーおしっこー」

 北斗少年だった。

「あらあら、お腹が冷えてトイレに行きたくなっちゃったのね」

 妻が心配そうに北斗少年に近づくと、夫はニタァと笑いながらサンタクロースに顔を近づけてこう言った。

「北斗の腹が冷えたのは誰のせいだっけ?」

 サンタクロースは夫に怯えがら「わ、私、で、す」と答えた。

「そうだよなぁ、そうだよなぁ!」

 夫は北斗少年をトイレに連れていこうとする妻を呼び止めると、サンタクロースを引っ張ってトイレに連れていき、便器の前にサンタクロースの顔を固定して北斗少年に笑いかけた。

「北斗ー、ほーら、ここがトイレだぞー」

「うんわかったー」

 北斗少年は眠い目を擦りながらズボンを脱ぐと、便器の前にあるサンタクロースの顔に目掛けて、用を足し始めた。



 数時間前、リビングのドアを少しだけ開けて、両親の様子を静かに覗く北斗少年がいた。

 北斗少年は友だちから言われた、サンタクロースはいないという言葉を確かめたくて、ずっと起きていたのだ。

 しかし、サンタクロースの正体はパパとママだった。

 北斗少年は泣きそうになった。

 パパとママがとても優しかったのでぐっと我慢したが、二人が出ていったら枕に顔を埋めて声を出さないように泣いていただろう。

 その時だった。

 窓から赤い服を着たおじさんが入ってきたのは。

 北斗少年は即座にサンタクロースだと確信し、嬉しさで飛び上がりそうになった。

 しかし、折角パパとママがプレゼントを寝てる合間に置いておいてくれたこと、サンタクロースは寝てる子どもにしかプレゼントをあげないということを思い出し、北斗少年は冷静になると寝たふりをすることにした。

 それでもサンタクロースとお話したくて、パパとママが早く出ていくことをとにかく願ったけど、二人はサンタクロースを捕まえてくれた。

 北斗少年は自分の部屋からみんな出ていくのを見計らって、リビングの中の様子を見ていたのだった。

 北斗少年は最初、サンタクロースがボコボコにされているのを見て、二人を止めようと思った。

 何回も心配でサンタクロースの名前を呼びそうになったが、みんなから寝ていると思われているので、だめだめと何回も首を横に振った。

 そのうち、北斗少年はあることを思い付いた。

 サンタクロースをこの家の住人にしてしまえば、プレゼントを独り占めできるんじゃないか? と。

 そうだ、パパとママがサンタクロースを捕まえてくれている。

 このまま僕の家に押さえつけとけばプレゼントは全部僕のもの。

 北斗少年は考えを巡らせた。

 すると、狭いトイレにサンタクロースを閉じ込めておけば、逃げられないんじゃないか? という考えに至ったのであった。

「ママーおしっこー」

 北斗少年は思い切って、部屋の中にいるママに話しかけた。

 ちゃんと眠そうに目を擦りながら。

「あらあら、お腹が冷えてトイレに行きたくなっちゃったのね」

 ママが僕のところにやって来てくれた。

 やった! これであとは……うーんとどうしよう!

 北斗少年はママに何を言うのかよく考えていなかった。

 北斗少年がどうにかならないものかとゆっくりと歩いていると、パパがママを呼び止める声がした。

 すると、パパはトイレにサンタクロースを連れていき、便器の前にサンタクロースの顔を固定し、笑顔で北斗少年にこう言った。

「北斗ー、ほーら、ここがトイレだぞー」

 そっか! トイレに閉じ込めるんじゃなくて、トイレにすればずっと家にいてくれるのか! パパって頭いいなー!

「うんわかったー」

 北斗少年はまだ眠そうな演技をしながら、サンタクロースの顔に向けて、小便を出したのだった。



 ある年のホワイトクリスマス。

 子どもたちがサンタクロースのプレゼントを夢見て眠る静かな夜に、ジングルベルという鐘の音ではなく、悪魔のような笑い声と泣き叫ぶ男の悲鳴が響き渡りました。

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