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第8話:ギャル その服、脱げってこと?



 朝。


「……本日より」


 紬が、静かに口を開く。


「めい様には、大奥での務めを覚えていただきます」


 間。


「……は?」


 めいが顔を上げる。


「仕事ってこと?」


「はい」


 短く。


 逃げ場のない答え。


(……マジか)


 心の中でつぶやく。


(ここ、そういう感じ?)


「……だる」


 ぼそっと言う。


 でも――


 もう、逃げられないことは分かっていた。


「……その前に」


 紬が、少しだけ言いにくそうに口を開く。


「お召し物を、改めていただきます」


「……は?」


 めいが顔をしかめる。


「服?」


「はい」


「いや無理なんだけど」


 即答。


 紬が、少しだけ困った顔をする。


「この場では……その装いは」


 一瞬、言葉を選ぶ。


「許されておりません」


「いや別にいいじゃん」


 沈黙。


「……昨日のこと、覚えておりますか」


「……あー、あの偉そうな人?」


「御園様にございます」


「うん、それ」


「規律にございます」


 短く。


 逃げ場はない。


(またそれかよ)


 心の中で吐く。


「……で?」


 めいが言う。


「なに着んの」


――


 用意されたのは、着物。


「……いやいやいや」


 めいは一歩引く。


「無理無理無理」


「こちらが、この場での装いにございます」


「いや絶対無理なんだけど」


 布、多すぎ。


「動けなくない?」


「慣れます」


「いや慣れないでしょ」


 即答。


 紬は、少しだけ口を閉じる。


 でも。


 諦めない。


「……お手伝いいたします」


「いやいいって」


「一人では、難しゅうございます」


「それな」


 即認める。


 でも。


「だからやんない」


 ぶれない。


 紬が、少しだけため息をつく。


「……めい様」


「なに」


「このままでは」


 一拍。


「また、同じことになります」


 静かに。


 でも、重い。


 沈黙。


(……だる)


 分かってる。


 あの空気。


 あの視線。


(またあれは無理)


「……はあ」


 大きくため息。


「わかったよ」


 投げるように言う。


「着ればいいんでしょ」


 渋々。


 完全に渋々。


――


「……これ、どうなってんの?」


 着替え中。


「紐、多すぎなんだけど」


「順に結びます」


「いや順とか分かんないし」


 紬が手を伸ばす。


 少しだけ、ためらいながら。


「……失礼いたします」


「はいはい」


 近い。


 距離が。


 紬は、慎重に整える。


 ふと。


 手が止まる。


 視線が、めいの指先に落ちた。


「……」


 言葉が、出ない。


 光を受けて、きらりと揺れる。


 細く整えられた爪。


 先にのった、繊細な色と飾り。


 この場には、ないもの。


 でも――


「……きれい、にございます」


 ぽつりと、こぼれる。


「ん?」


 めいが手を見る。


「あー、ネイルね」


「ねいる……」


 小さく繰り返す。


 紬は、もう一歩だけ近づく。


 触れはしない。


 ただ、見ている。


「……このように」


 一瞬、迷う。


「……自ら、整えるものにございますか」


「そーだよ」


「自分でやったり、店でやったり」


「……店」


 知らない言葉。


 でも。


 どうでもよくなるくらい。


 目が離れない。


「可愛いでしょ」


 めいが軽く言う。


 紬は、一瞬だけ――


 頷きかける。


 けれど。


「……よくないのです」


 はっとしたように、言い直す。


 小さく。


 でも、はっきりと。


 自分に言い聞かせるように。


 それでも。


 視線は、すぐには離れなかった。


「なに、欲しいの?」


「い、いえ……!」


 すぐに否定する。


 でも。


 少しだけ。


 目が揺れる。


「……ふーん」


 めいはそれを見て、少しだけ笑う。


「まあ、似合うと思うよ」


「……っ」


 紬が、言葉に詰まる。


――


「……はい」


 整う。


「これでよろしいかと」


「……えー」


 めいは自分を見る。


「重くない?」


「慣れます」


「それさっきも聞いた」


 一拍。


「……まあ」


「普通に可愛いけど」


 自分の袖を見る。


「なんか地味じゃない?」


 紬が、ぴたりと止まる。


「……整っております」


 静かに、そう返す。


 めいは、少しだけ肩をすくめる。


(まあ、しゃーないか)


 完全には納得してない。


 でも。


(これで文句言われないなら)


 一つ、学ぶ。


「……で?」


 めいが言う。


「次なに」


「……御広座敷にございます」


「……御広座敷とか言われても、わかんないんだけど」


 めいが眉をひそめる。


「なにそれ」


 完全に素。


 紬が、一瞬だけ言葉を探す。


「……説明いたします」

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