第7話 ギャル ランク外
朝。
「……起きてください」
「……むり」
布団もない畳の上。
めいは動かない。
「……本日、御前にございます」
一瞬。
めいの目が開く。
「……え、あの人?」
「御園様にございます」
「……だる」
最悪。
――
歩く。
また、あの空気。
視線。
前より、強い。
「……なに」
ぼそっと言う。
ひそひそ声。
「まだあの装いで……」「ありえない……」
「……あ?」
めいが睨む。
一瞬、静まる。
「……めい様」
紬が小さく言う。
「本来であれば……装いは改めるべきにございます」
「いや服ないし」
「……」
言葉に詰まる。
そのまま――
「止まりなさい」
声。
空気が変わる。
前。
整った女たち。
その中のひとりが、めいを見る。
「……その装い」
明らかに、嫌悪。
「何を考えているの」
「いや普通だけど」
即答。
周りがざわつく。
「……高倉様」
誰かが小さく名を呼ぶ。
空気が、さらに張りつめる。
高倉志乃。
規律を預かる立場の女。
その視線が、まっすぐにめいへ向けられている。
「……紬」
志乃が名を呼ぶ。
紬の肩が、わずかに揺れる。
「はい」
「これは、あなたの役目ですか」
一瞬、間。
「……申し訳ございません」
頭を下げる。
「は?」
めいが言う。
「なんで謝ってんの」
紬は答えない。
言えない。
「規律を乱す者は」
志乃が言う。
「下に置かれます」
「……は?」
「この場には、位がございます」
静かに。
「上に立つ者」
「仕える者」
「使われる者」
視線が、めいに落ちる。
「あなたは――」
一瞬の間。
「それ以下」
空気が凍る。
沈黙。
(……は?)
心の中で、だけ。
(なにその言い方)
顔には出さない。
でも。
(偉そうすぎじゃない?)
視線だけが、わずかに動く。
(なんも知らないくせに)
ぐっと、奥でこらえる。
(勝手に決めてさ)
(上とか下とか)
(意味わかんないんだけど)
でも――
言わない。
言えば。
また、あの空気になる。
(……だる)
小さく、心の中で吐いた。
「は?」
めいは、あえて軽く返す。
「意味わかんないんだけど」
「名も、家も、分からぬ」
「規律も守らぬ」
「その装い」
「――論外」
志乃は言い切る。
沈黙。
「……じゃあなに」
めいが言う。
「どうすればいいわけ?」
初めて。
少しだけ、聞く姿勢。
「改めなさい」
短く。
「すべてを」
「……全部?」
「はい」
迷いなく。
「従うならば、道はございます」
一瞬の間。
「従わぬなら――」
言葉は続かない。
でも、分かる。
(またそれかよ)
心の中で吐く。
視線。
空気。
全部、同じ。
(……だる)
めいは、わずかに目を逸らす。
「……紬」
「はい」
「教えなさい」
「……かしこまりました」
紬の声は、少しだけ重い。
――
戻る道。
沈黙。
「……ねえ」
めいが言う。
「紬ってさ」
一拍。
「どのへん?」
紬が止まる。
「……中の下にございます」
小さく。
「は?」
「上には、到底及びません」
「……へえ」
思ってたより、下。
「じゃあさ」
「うん」
「2人とも下じゃん」
一瞬。
紬が、言葉を失う。
否定、できない。
「……」
「……まあ」
めいが言う。
「なんとかなるっしょ」
軽い。
でも。
さっきより、少しだけ違う。
紬は、それを感じていた。
この人は。
ただの無礼者じゃない。
何かを――
壊すかもしれない。




