第4話 ギャル 寒い部屋
どれだけ時間が経ったのか、分からない。
なにもない、冷たい部屋。
「てか、めちゃ寒いんだけど」
返事はない。
「誰かいないわけ?」
少しだけ間。
「……寒いんだけど~」
静かすぎる。
めいは腕をさする。
床も、壁も、全部冷たい。
「ありえないって」
そのとき。
す、と。
小さな音。
「……は?」
扉が、少しだけ開く。
ゆっくりと。
様子をうかがうみたいに。
「……失礼いたします」
「あ」
あの女。
「……あんたじゃん」
紬は中に入る。
けれど、すぐには近づかない。
わずかに距離を取ったまま、立っている。
「……ご無事で」
「無事じゃないけど」
即答。
「普通に寒いし、閉じ込められてんだけど」
紬は目を伏せる。
そして、ほんの少しだけ後ろに下がる。
「……なに」
めいは眉をひそめる。
「助けに来たとか?」
「……」
沈黙。
それが答えだった。
「……は?」
めいは小さく笑う。
「じゃあ何しに来たの」
紬は、少し迷う。
めいを見る。
その装い。
その言葉。
すぐに、目をそらす。
「……」
言葉が出ない。
「……意味わかんないんだけど」
めいは壁にもたれる。
「てかさ」
少しだけ間。
「名前なに」
紬が、わずかに顔を上げる。
一瞬、ためらう。
それでも――
「……紬にございます」
「つむぎ?」
「……はい」
「へえ」
それだけ。
でも。
ほんの少しだけ、空気が揺れる。
「でさ、紬」
ためらいなく呼ぶ。
紬の指先が、わずかに強ばる。
「これさ」
めいは部屋を見回す。
「なんかのドッキリ?」
「……え」
「いや、隠しカメラとかあるやつでしょ」
天井を見る。
壁を見る。
「めっちゃそれっぽいんだけど」
紬は、答えない。
答えられない。
ただ――
もう一歩、距離を取る。
「……ちがうの?」
「……そのようなものでは、ございません」
静かな否定。
でも。
視線は、合わせない。
「ふーん」
めいは小さく息を吐く。
「じゃあ何これ」
返事はない。
少しだけ、沈黙。
「……てかさ」
めいは紬を見る。
「ここ、なんなの」
「……大奥にございます」
「それは聞いた」
間。
「なんで私いんの」
紬の表情が、わずかに止まる。
「……え」
「さっきまで普通に渋谷いたんだけど」
「急にここって、意味わかんなくない?」
まっすぐに見る。
「なんで?」
紬は答えない。
答えられない。
「……そのようなことは」
言いかけて、止まる。
「存じ上げません」
小さな声。
「……は?」
めいは眉をひそめる。
「知らないの?」
「……はい」
それだけ。
「じゃあ何これ」
振り出しに戻る。
「……意味わかんないんだけど」
沈黙。
冷たい空気。
紬は目を伏せる。
何も言えない。
「……あなた様は」
ぽつりと。
言葉がこぼれる。
「見たことのない装いにて」
少しだけ間。
「……異なる方にございます」
言い切ることは、しない。
でも。
十分だった。
「ふーん」
めいは軽く流す。
「で?」
「なんで来たの」
紬はすぐには答えない。
扉の方を一度見る。
それから――
「……放っておけず」
小さく。
だが、続かない。
「……ですが」
言葉が途切れる。
めいを見る。
そして、また目をそらす。
「……」
何も言えない。
「……別にいいけど」
めいは目をそらす。
「助けないなら意味なくない?」
正論。
でも。
紬は否定しない。
できない。
「……だる」
めいはその場に座り込む。
壁に背を預ける。
「全部」
静かになる。
紬は、その場に立ったまま。
近づけない。
離れきれない。
そのまま、しばらく動かない。
やがて――
「……失礼いたします」
小さな声。
来たときより、少しだけ早く。
部屋を出ていく。
扉が閉まる。
音。
また、ひとり。
「……はあ」
めいは天井を見た。
「マジ意味わかんないんだけど」
返事はない。
ただ。
寒さと、わずかに残った違和感だけが、そこにあった。




