無能だから要らないと言われたので、何も説明せずに管理していた全部を持って出ていきます
その日、俺はパーティから追放された。
理由は簡単だ。
「正直に言う。お前は役に立たない」
酒場の一角。いつもの席で、リーダーの剣士がそう言い放った。
周囲にいた仲間たちも、反論しない。視線を逸らすか、無言で頷くだけだ。
「戦闘力は低いし、派手な魔法もない。最近は依頼も安定してる」
「ぶっちゃけ、お前がいなくても回ってるんだよ」
ああ、そうか。
ようやく言われたか、と思った。
俺はこのパーティで、補助魔術師をやっていた。
攻撃もしない。回復もしない。
やっているのは、戦闘前後の準備と、戦闘中の細かい“調整”だけ。
魔力循環の最適化。
バフ魔法の重ね掛け維持。
装備と戦闘全体の“安定”の管理。
全部、数値には出ない。
だから――無能に見える。
「……それで、追放ってことか」
俺がそう言うと、剣士は少し安心した顔で頷いた。
「話が早くて助かる。今日限りでパーティから追放だ。報酬の分配は――」
「いい」
俺は手を上げて止めた。
「俺の分はいらない。その代わり、俺が管理してたものは全部持っていく」
一瞬、場の空気が固まった。
「は?管理してたものって……」
剣士が眉をひそめる。
俺は、腰の鞄に手をかけた。
「補助結晶。バフ刻印具。魔力安定器。予備の魔導触媒。装備調整用の符も全部だ」
「待てよ、それはパーティの――」
「違う」
静かに言い切る。
「俺が作って、俺が維持してた。貸してただけだ」
誰も、言い返せなかった。
それらが無ければ、このパーティの“安定”が成り立たないことを、全員が無意識に理解していたからだ。
剣士は舌打ちした。
「……まあいい。そんな地味なもん、無くても何とかなる」
「そうだな」
俺は立ち上がり、鞄を肩にかける。
「じゃあ、頑張れ」
それだけ言って、酒場を出た。
背後から、誰かが小さく笑う声が聞こえた。
「せいぜい野良で生き残れるといいな、無能」
扉が閉まる。
その瞬間、このパーティにかかっていた補助魔法が、すべて解除された。
彼らが異変に気づいたのは、翌日の依頼だった。
いつものように森に入り、いつもの魔物と対峙する。
何十回もこなしてきた、慣れた仕事。
――の、はずだった。
「……ん?」
最初に違和感を覚えたのは、前衛の剣士だった。
剣を振った瞬間、手応えが軽い。
いつもなら魔力補正で安定するはずの一撃が、わずかに軌道を外す。
「チッ……腕が鈍ったか?」
気にせず踏み込む。だが次の瞬間、足元がもつれた。
「うわっ!?」
転倒。
本来なら、姿勢制御の補助が無意識に働くはずだった。
「何やってんだ!」
後衛の魔法使いが叫ぶ。
詠唱を始めた直後、魔力が一気に跳ね上がった。
「……っ!?制御が……!」
暴発。
火球は狙いを外し、地面を抉っただけで消える。
「ちょ、ちょっと待て!魔力消費がおかしいぞ!?」
回復役が慌てて魔法を放つ。
だが、回復量が足りない。
「なんで……!?いつも通りやってるのに……!」
敵の攻撃が、次々に直撃する。
装備が悲鳴を上げる。
刃こぼれ。
防具の亀裂。
耐久補正が、存在しない。
「おい!こんなはずじゃ……!」
剣士が叫んだ、その瞬間。
敵の一撃が、防具を貫いた。
「がっ……!」
血が飛ぶ。
それを見て、全員が理解した。
――安定していたのは、あいつがいたからだ。
「くそっ!撤退だ!撤退!!」
命からがら森を抜け、街に戻る。
依頼は失敗。
評価は下がり、報酬はゼロ。
ギルドの受付で、冷たい視線を向けられる。
「最近、失敗が続いてますね」
「……調子が悪いだけだ」
剣士はそう答えたが、声に力はなかった。
その夜。
酒場で、誰かが呟いた。
「なあ……あの補助のやつ、いなくなったんだろ?」
空気が、凍る。
「……関係ない」
そう言った剣士の声が、一番弱かった。
翌日も失敗。
次の日も失敗。
三回目の依頼で、パーティは解散した。
理由は簡単。
“実力不足”。
◆
その頃、俺はというと。
別の酒場で、別の席に座っていた。
向かいには、見知らぬ冒険者たち。
「本当に、全部一人でやってたんですか?」
「うちのパーティに喉から手が出るほど欲しいんですけど」
俺は苦笑する。
「大したことじゃない。ただの調整役だよ」
「それが一番すごいんですよ!」
そう言って、彼らは頭を下げた。
俺は、鞄の中の補助結晶を指で叩く。
静かに、確実に、魔力が循環している。
「じゃあ、条件は一つ」
全員が息を呑む。
「俺の仕事に、口を出さないこと」
彼らは、即答した。
「お願いします!」
俺は立ち上がり、頷く。
自分の価値を、分からない奴に説明する必要はない。
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