第9話 螺旋輪廻と黒き終幕
ジェイの一撃で、叫び声を上げる茶色。
そこにドリトスの槍衾!
敵の右胸に、わずかに亀裂が入る。
それを見逃さず、両手に持ったダガーナイフで身軽に襲いかかるサブリナ。
しかし、茶色に腕を振り払われサブリナの攻撃は届かない!
その隙を突いて、ジェイが亀裂に剣を突き立てる!
さらに喉を狙ってのドリトスの重い突き!
そして・・・残った片目にダガーを突き立てるサブリナ!
「グ・・・ゴブッ!」
口から緑色の血のようなものを吐き出しながら、仰向けに倒れる茶色。
こちらも、片が付く。
悪魔モドキの残りは一体。
シャドーを止めたミサオが、黒色を指差す。
「お前等に言っとく。俺は好きでこんな事やってるわけじゃねぇ。正義の味方なんて柄じゃねぇし。昔は俺も、世間様に散々迷惑掛けて生きてきた。善悪なんて、置かれた状況で変わっちまう。そんなこたぁ身に沁みてんだよ。だから・・・これは、世の為人の為なんかじゃねぇ!
俺は俺のわがままで、てめぇの家族を、この生活を守るって決めた! その前に立ち塞がる、お前等は俺の人生にとって邪魔者なんだわ。消えろ!」
言い終わると共にミサオが走る!
黒色も右手に斧を振り被り、左手から炎の槍を打ち出しながら向かってくる!
右へ左へステップを踏みながら、確実に距離を詰めるミサオ。
黒色にぶつかるまであと五歩。
ミサオが高く跳躍し、そのまま身体を縦に一回転。
その回転力を乗せて、右足のかかとを黒色の脳天に叩き込む!
「グゥッ・・・!」
頭を押さえて、転げ回る黒色。
着地を決めたその身体でもう一度その場で飛び上がり、右回し蹴りを黒色の右側頭部に叩き込んで、うつ伏せに倒し、その背中を両膝で抑えつけて深く息を吸うミサオ。
うつ伏せで呻く黒色の首元めがけて・・・。
「フンッ!」
強化されている身体から、渾身の右貫手を突き入れる!
その場で痙攣する黒色。やがて、その動きが止まる。
体液で汚れたままの右手を抜いて、その手のままミサオは静かに合掌しながら、つぶやいた。
「恨みはねぇが、渡世の義理だ。お前も次の人生は、笑って暮らせりゃいいな・・・。」
黒色の亡き骸から立ち上がり、周囲に笑顔を見せるミサオ。
「さあ、舞台は整った!」
そう言い放ち、ミサオは見守る家族達の元へ歩き出す。
すでに最後の戦闘は始まっている。
エリオットは左手に小型の盾を持ち、赤い異形のツノから放たれる雷撃を押されながらも防ぐ。
盾には、魔法攻撃への耐性が付与されているようだった。
「王子! 魔法はそれがしが引き受けます! どうか、あやつの息の根を!」
サポート役に徹することを宣言するエリオット。
(・・・王子はやめろとあれ程言ったのにな。)
苦笑しながら剣を構えるセルジオ。
「もう一度、本気のお前と剣を交えたかったがな、ラウロ・・・いくぞ!」
右手に剣を持ち、両腕を広げて駆け出すセルジオ。
異形から振り下ろされる右手をかわし、開いた両足の間をすり抜け、その右脛に剣を走らせる。
股の間を抜け、敵の背後へ回り込み、右肩から逆袈裟を叩き込む!
しかし浅い。
傷口は、すぐに再生し始める。
「グギャ〜〜〜!」
異形は理性を失ったかのように暴れ回る。
その後も休むことなくセルジオは剣舞を続け、エリオットは魔法攻撃を必死に防ぎながら隙を作ろうと奮戦する。
「ミサオ、時間かかり過ぎじゃねえか? 傷口、すぐに塞がるし、俺たちも・・・。」
ジェイの疑問に、ミサオがすぐさま答える。
「ダメだ!・・・あれは、あの一撃一撃は、グラマスと辺境伯さんの対話なんだろうよ。ただ戦ってるんじゃねぇ。想いをぶつけてるんだよ。」
そしてニカッと笑い、
「それに・・・やせ我慢だろうと、カッコ悪い姿、まわりに見せらんないべ? 男ってさ。 多分横槍入れたら俺等も一緒に片付けられちまうぜ?グラマスに。
大体現役退いてるって、あれ見て誰が思う?」
「・・・そうだな。下手な闇憑きなんかより、あのオッサンの方がよっぽどこえ〜よな!」
ミサオの言葉にジェイも笑う。
暴れ回る異形を、盾で押しとどめるエリオット。
「王子! 今です!」
構え直すセルジオ。
「お前に・・・見せたかった技だ。ラウロ。静かに、奥方の元に行って・・・再び仲良く暮らせる事を俺は・・・この剣に願う!」
エリオットが開いた血路に向け、セルジオが突き進む。
異形の懐に立つセルジオ。
剣をまっすぐ突き出す。
セルジオの身体がぼやけ、剣先がくるくると回り出す。
その回転が徐々に加速し、回転する剣自体が円を描き、その範囲が広がってゆく。
そのまま踏み込み、セルジオはただ真っ直ぐに異形に剣を突き入れる!
異形の身体の中心で一度止まった剣の動き。
(キ・キ・ギィヤ〜〜〜ン!)
再び剣がその中心で自ら回りだす。自ら回るその剣が、セルジオの腕の動きと共に、渦のように回りだす!
その回転はさらに大きくなり・・・。
「イ〜〜〜ヤァ〜〜〜〜ッ!」
セルジオの裂帛の気合いの後に、異形の土手っ腹には、気付けば大きな穴が穿たれていた。
「終の秘剣・・・螺旋輪廻!」
再生能力を持っていた異形。だが今回は、肉片が集まる様子もない。
それは肉片が既に、塵と化していたからだ。
螺旋の力が、文字通り再生すら許さぬ滅を与えたのだった。
異形はそのまま動かず、立ち尽くしている。
かすかに、声が聞こえる。
「セ・・・セル・・・。」
「ラウロ!」
セルジオが叫ぶ。
「見事な剣・・・だなっ。あり・・・が。」
「ラウロ! もういい! もういいんだ! 俺は・・・俺は!」
絶叫するセルジオ。
「あの世でシェルに、詫びて・・・シェルと・・・ありがと・・・友・・・。」
異形の瞳から、その光が静かに消えてゆく。
その姿をただ静かに見つめるセルジオ。
「グラマス・・・お見事。」
近づいて来たセルジオに声をかけるミサオ。
「・・・世話ぁ、掛けちまったな、ありがとよ。」
剣を収め、寂しそうに笑うセルジオ。
「す・・・げぇ。」
リオが呆然としながらつぶやく。
「みんな、みんなすごかった・・・みんな、すっごくがんばった!」
ジョロが、途中から興奮して叫ぶ。
クミコとシスターは、笑顔で頷き合っている。孤児院の子供達も大歓声だ。
「街ん中、大分ボロボロになっちまったな・・・」
「そうね・・・これからが、大変そうね・・・」
まわりを見回しながら、切なそうなジェイとサブリナ。
「でも、みんな、生きてる。」
ボソッと、てもしっかりと言うドリトス。
「そう・・・だな。これが終わりではない。これからが、この町の新たな始まりかも知れぬな・・・。」
ドリトスの横に立ち、空を見上げるエリオット。
「・・・戦いは終わっても、人々の営みは続いてゆく。そして俺達の旅も・・・。」
前を見据え、腰の刀を、左手で強く握るムサシ。
「・・・そうだな、俺達はまだ終われないし、終らない。まだ1人、やんちゃ坊主が出かけっぱなしだからな!」
ミサオの言葉に、永井家の皆が同時にうなずく。
「俺も、まだまだデスクワークじゃ済みそうにねぁなぁ。苦労掛けるが、頼むぜS級!」
ミサオの背を強くバシンと叩き、やっと頬を緩めたセルジオ。
「さあ、おチビさん達!お待ちかねのご飯の準備、みんなでしようかぁ!俺もう腹ペコペコ・・・。」
孤児院の子供達に大声で言うコジロー。
「やっぱりブレないな、コジョ。」
コジローに対するムサシの言葉に、皆が思わず笑い出す。
殺伐とした戦場に、爽やかなそよ風が吹いた。
戦いは終わりを告げた。
だがこのコルテオの人々は、ここからが新たな始まりである。
これから、困難な日々が待ち受けている。
それでも、後ろを振り返らず、皆で力を合わせて、もう一度立ち上がらなくてはならない。
生きていく為に。
再び、笑って過ごせる毎日を取り戻す為に。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、今日もいい天気ですね~!」
お店の前の通りは、まだ朝早いから、人通りも少なめです。
木戸を外すのは大変だけど、これも店長としての大事なお仕事なのです。
さて、開店準備です。
「え~っと、ケースに品物は入ってる、お釣りは用意してある、それと・・・。」
「おはようございます!」
「おはよう、ございま~す!」
ポポンくんは、相変わらず礼儀正しく、ピピンちゃんはおっとりさんだ。
「はい、おはようございます!毎日大変だけど、2人のおかげでとても助かってます。オーナー・・・ミサオさんが帰って来たら、ちゃんとお伝えしますからね!」
よしよし、2人ともとてもうれしそうだ。
出来た事はキチンと褒める!
クミコさんの、受け売りなんですけどね。
さて、10の刻までには詰め替え作業を終わらせて、開店させるとしますか!
「・・・ポポンくん、お店落ち着いたら、少し出かけるけど、いいかしら?」
「今日は、新商品も無いですし、比較的落ち着いてますから、ピピンと2人でも何とかなると思いますけど。」
「それなら、例の王都の商人さんとの打ち合わせ、行ってくるわね。ちゃんと休憩とって、無理はしないでね。」
「はい!任せて下さい!」
今日は、商業ギルドで我が
(ジョロの宝箱)
の看板商品、チョコレートの王都での販売権に関する打ち合わせ。
ミサオさんは、
「俺がいる内は良いけど、何かあったら仕入れ丸ごとストップするからな。せっかく商人ギルドのツテがあるんだから、原料になる物手広く探して貰って、いずれは自分のトコで生産しなきゃな!」
先々のことまで考えて、私も見習う所なのです!
そして商業ギルドでの商人さんとは・・・。
ふう。無事、話し合いもまとまってうれしいのです!
また一歩、ジョロの宝箱の前進なのです!
「・・・ムサシさん、褒めてくれるかなぁ。」
はっ、いやいや、そんな、店長たるもの、これくらいは当たり前というもの、ハハッ、ハハハハハ・・・。
「ゴホン!」
気を取り直して、さてさて、お店の前はどうなっていますかね・・・って!
皆様、お戻りになってる!
「皆さ〜ん、お帰りなさい!お疲れ様でした!」
「おう、リュミアちゃ・・・あ、店長、お疲れ様です!大変だったでしょ?これコルテオ土産。一応あっちの特産の果物だから、みんなで食べて!お家への分も別にあるからさ!」
そんな、頭を下げないで下さいミサオさん。
皆さん、帰ってきたんですね!見る限り、皆さん、怪我とかもないようで、私もうれしいのです!
ムサシさんも、無事なんですね!
安心しました!あ、いやいや、あ、ジョロくん!
「リュミアおね~ちゃ~ん、ただいま~っ!」
「おかえり、ジョロくん!」
相変わらず、全部がかわゆい!プリプリゆれているシッポ、お耳のモフモフときたら、もう、天使!お姉さん、抱きしめちゃう!
あ、クミコさん笑ってる、少し恥ずかしい・・・。
はて、ムサシさんの横のこの大っきい人は・・・?
「・・・リュミアちゃん、コイツ、弟のコジロー。ノンビリ屋だけど優しいヤツだからさ、よろしく頼むね。」
は、はひ、ムサシさん、そんな丁寧に、頭なんか下げないで、そんな、そんな他人行儀な・・・。
「へ~、この店の店長さんか!若いのに偉いねぇ!あ、俺はコジロー!呼びにくかったらコジョって呼んでくれ!何か手伝える事あったら言ってね!って、俺、狩りばっかりしかしたことないけど・・・。」
あ、なんかわかる。この人も、間違いなく・・・。
永井家なんだ。
「リュミアちゃん!今日、夕飯食べていける?コルテオの市場で仲良くなったオバ・・・お姉さんが居てね?まわりの人に声かけてくれて、野菜やら肉やら山程持たされたのよ!丁度家のご飯も恋しくなってきたし。ちょっと気合入れてみようかなって!」
「クミコさん!わ、私も手伝います!」
この人は、なんか素敵だ。みんなを包みこんでくれる、温かく見守ってくれる、こんな人に、私もなれる様に、頑張るのです!
そして、いつかは・・・デヘ、デヘヘヘヘ・・・。
「て~んちょ~!」
「なあに、ピピンちゃん・・・」
こうして、ジョロの宝箱は、今日も大忙しなのでした。




