第8話 四匹の悪魔モドキと永井家達の反撃
異形以外の悪魔モドキ4体が地表に降り立っている。暁の牙・ミサオ・ムサシ・コジローがそれぞれ対峙する。
クミコ・ジョロ・シスター・子供達はひとかたまりになり、その姿を見守る。
茶・黒・灰・緑・・・四色の悪魔モドキは、それぞれ一癖も二癖もありそうだった。
最初に動いたのはジェイ。いきなり茶色へ左からの袈裟懸け!
右に避けた茶色へ、ドリトスの槍の追撃!
当たりはしたが、致命傷には至らない。
間髪入れずに降り注ぐ、弓矢の雨!
サブリナのフォローが冴える!
腕で受けようとした茶色の隙を突いて、ジェイの剣が右目を貫く。
暁の牙の連携に隙は無い。
「へ~っ。お兄さん達、やるね~!こりゃ、こっちも早く終わらせないと、ご飯食べそこないそうだなぁ!」
笑顔のまま、コジローが暁の牙の動きを見て呟く。
そして目の前に立つ緑の悪魔モドキに向けて。
「バン!バン!」
コジローの火弾の二連射!
しかし緑色には、額に焦げ跡を残す程度だった。
「へっ!耐性あるんだぁ。・・・じゃあ、こいつはどうかな?」
両拳に蒼白い炎をまとわせ、コジローはゆっくりと緑色に歩を進める。
一方、ムサシは油断なく灰色の動きを見据える。
どう攻めるか、ムサシが思案しかけた瞬間。
「ムッちょん!これ使え!」
ミサオから例の特別仕様の日本刀が放り投げられた。
両手で受け取るムサシ。
「稽古の成果、見せてやれ! 頼むぜ、長男坊!」
「・・・ありがとう、パピ!」
ミサオに一礼し、左手で鞘から刀を抜く。
鞘は心の収まりどころ。ムサシは投げ捨てずに腰の左側へ差す。
ミサオの教えを守り、剣先を相手の眉間に向け、中段に構える。
すると刀身が、小刻みにプルプルと震え始める。
「貴様の因果は、俺が斬る!」
両手の爪を伸ばし、灰色が迫る。
ムサシは静かに、確実に、その時を待つ。
「さて、お前さんの相手は、俺だ」
他の悪魔モドキより一回り大きい黒色がミサオの前方に立っている。
この闇憑きだけどこで拾ったのか、両刃の巨大な斧を手にしていた。
「武器使いか、珍しいこって。・・・終わったら、闇憑きの分類、ギルド本部で考えなきゃな。」
そう呟き、ミサオはその場でいきなり正座する。
一礼し、両手を膝に戻したまま、微動だにしない。
バカにされたと感じたのか、黒色が雄叫びを上げる。
「グギャ~ッ!」
斧を振り上げ、ミサオに向けて突進!
両手の渾身の一撃が、ミサオを襲う!
……だが、次の瞬間。
黒色は、ミサオの後ろにひっくり返っていた。
「おやぁ? バナナの皮でも、あったのかい?」
正座のまま、後ろを振り返ってニヤリと笑うミサオ。
「さて、暁たちは・・・うん、着実に削ってるな、問題無し。んでコジョは・・・ほう、肉弾戦か。ゆっくり見ていたいけど、そうはいかねぇか。ムッちょんの方は・・・張り切ってやがんなぁ。シッポが揺れてるわ・・・って、うぜぇな!人が分析してる時に!」
それぞれの戦況を見回していたミサオに、立ち上がった黒色が突進してくる。
振り下ろしてきた右手の斧。背中越しからの攻撃に対し、ミサオは正座のまま振り向きもせず、身体を左に反らす。
振り下ろされた斧に、そっと右手を添える。
ミサオはそのまま逆時計回りに右手を回転させる。
(ドウッ!)
再び仰向けに転ばされた黒色。
それは、冒険者ギルド本部でのムサシとの訓練で試していた技。
(合気)である。
「対人戦用だったんだけど、一応有効か。・・・でも、決め手に欠けるな」
ミサオは小さくつぶやく。
「さて、課長さんにいじってもらったこの身体。有意義に活用させていただきますか!」
反動をつけ、正座の姿勢から反動無しでぴょんと立ち上がるミサオ。
そのままいきなり、シャドーボクシングを始める。
「来いよ、ボンクラ。」
(グラマスの元には、誰も行かせねぇ!)
ミサオは改めて決意を固め、黒色に向かってステップを刻みながらを進める。
一方、ジワジワと迫る灰色に対し、すり足で間合いを詰めるムサシ。
その瞬間、灰色の左手から何かが発射された。
氷弾。
ムサシはスッと右へ体をずらし、そのまま灰色の身体の左側へ入る。
自らの間合いを構築し、刀を大上段に構えて。
「虚仮おどしにもならん」
刀を振り下ろす。
(ガィン!)
はね返される刀。
一歩退き、再び前に一歩。飛び上がりながらムサシは叫ぶ。
「悪行、断罪!」
振り下ろされた刀身が、敵に当たる直前で、加速する。
ムサシは刀身に重力を収束して・・・切る!
先ほどとは違い、刃ははね返されず吸い込まれる様に。
灰色を、真っ二つに切り裂いた。
・・・静かな、だが確かな決着である。
変わってこちらは、拳と拳をゴツン、ゴツンと合わせながら緑色に向かうコジロー。
「身体を使っての狩り、久しぶりだなぁ……最近バンバンやってばっかりだったし、たまにはいいかぁ。」
躊躇なく、大きく振りかぶった右手を叩きつける。
ガィン!
硬い。灰色と同じように、装甲のような皮膚。
その灰色がコジローを抑え込もうと両腕を左右から狭めてくる。
それでも笑顔を絶やさず、今度は左手で振りかぶり、拳を叩きつける。
ガィン!
また、同じ手応え。
そして再び、右、左、右、左・・・。
拳を叩きつける速度が、少しずつ速くなる。
(ガィン・・・ガィン・・・ガィン・・・ガィン・・・ガィン・ガィン・ガィンガィン・ガンガンガンガンガンガガガガガガ!)
拳の動きが加速し、見えない程になっていく!
そして。
(メキッ!)
「入った。」
腕の動きを止めずに、コジローが淡々と呟く。
(メキ・・・メキメキ・・・ベキッ!)
緑の身体の外皮が破れ、拳が・・・。
(ドゴッ!)
土手っ腹に大きな穴を穿った。
コジローの力押しの勝利である。
そこへムサシが駆けつける。
「相変わらずというか何というか。・・・力技で押し勝つって!・・・しかしなぁ、その拳の炎、意味あったのか?」
ムサシが首を傾げて尋ねる。
「あぁほら、怪我とかしたら、傷口にバイ菌入ったりして危ないから。アイツ、一杯持ってそうだからさぁ。焼いて消毒!」
コジローが笑顔で答える。
その答えに、
(魔力の無駄遣いじゃないのか?)
と思いつつ、ムサシは苦笑して肩をすくめた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
・・・ラウロは、暗闇の中で振り返っていた。
懐かしき友との思い出を。
戦場を駆け抜け、守るべき国を勝利へ導いた日々を。
そして、幼い頃から互いに誓い合い、いつも安らぎを与えてくれた最愛の妻、シャルロットとの日々を。
あの日。
シャルロットが流行り病にかかり、手を尽くしたが叶わず、永遠の眠りについたその日。
ラウロの視界からは、色が消えていた。
絶望の日々。
そんな時、耳元で聞こえた・・・あの声。
「・・・ナキツマニ・・・マタアイタイカ?」
深夜、独りの部屋のベッドで、頭を抱えて座り込むラウロ。
そこに響いた謎の声。
ラウロが慌てて部屋を見回しても、誰も居ない。
だが、気づくと目の前には、モヤのようなものがユラユラとうごめいていた。
「オマエガノゾムナラ、アワセテヤル・・・。」
あまりにも怪しい。
だが、絶望の淵にあるラウロは、その言葉に素直にすがりつく。
「会いたいっ!会えるのなら!我の持てる全てを引き換えにしても!」
「・・・クックック。ナラバ、ワレニソノミヲカシアタエヨ。サスレバ、キサマノノゾミ、カナエテヤロウゾ・・・クックック・・・。」
夢遊病者のようにふらふらと立ち上がり、モヤに近寄るラウロ。
「ああ、この願いが叶うなら・・・好きにすると良い・・・。」
その言葉を合図にして、黒いモヤがラウロの身体を包み込み、ラウロの身体に吸い込まれるかの様に消えた。
脱力し、意識を失って倒れるラウロ。
少しして立ち上がったラウロ。その時彼の目は、赤く染まっていた。
「人間なんぞ、何と騙されやすい事よ!これでこの町を絶望に覆うことができる。この世の身体を得た今、御方様の願いを我が手で叶えん! ハ~ッハッハッハ!」
それから先のラウロの記憶はあいまいだった。
長い間、暗闇の中に居る様だった。
だが、ときおり視界に、外の世界が映る。
「やめろ! やめてくれ!」
目の前の男が泣き叫ぶ。
そこに自らの両手が忍び寄る。
首を持ち上げ、もがき、苦しみ・・・やがて、動かなくなる。
(・・・なんだ、これは?)
「・・・ワレノ、我の計画に邪魔立てしようとは。この虫けらが!」
ラウロは混乱する。
(俺は今何を見せられている?)
「騒ぐな!・・・キサマハ、タダシズカニシテオレ。サスレバ、ツマハキサマノモトニカエル。」
再び暗闇へと引きずり込まれるラウロ。
次に目の前に映ったのは、住民たちの悲しげな目。
「この度の課税は、度重なる魔物や闇憑きの脅威に備えるためのものである! 我も、憎くてやっているわけではない! 此度のことが落ち着けば、元に戻すと約束しよう! さあ、散れ、素直に従え!」
広場に集まっていた住民たちが、私兵たちに追い立てられていく。
(何が起きているのだ?)
ラウロの記憶は細切れになっている。
またある時は、悪魔のような生き物が目の前に映っていた。
「グギ・・・マモナク、ムコウノクニカラ、ケンゾクタチガクル・・・ハヤク・・・ヒトノチニクヲ・・・。」
それに対して、ラウロではない誰かが答える。
「今は目立たぬ様に動け!人目に付かぬ様に喰らう事だ。貴様の報告が本当なら、間もなく好きなだけ喰らえる日が来る。・・・これで、やっと我の計画が動き出す。この町を手始めにこの国を、いや、この世界を混沌の渦に巻き込み、御方様の望む世界を生み出すのだ! ハ~ッハッハッハ!」
(俺は・・・何を見せられている? 俺は、一体・・・何をしてしまったのだ?)
ラウロは、けだるさに包まれた身体に力を入れる。そして、叫ぶ。
(やめろ!)
「やめろッ!・・・ナニ?コイツ、イシキガ? ダマレ!」
再び、暗闇。
(俺は・・・取り返しのつかない事をしてしまったのではないのか? 妻には会えず、ただ外の世界がおかしくなっていく・・・。)
闇の中で思考を奪われ続けるラウロ。
「辺境伯殿・・・いや、ラウロ!貴様も落ちぶれたものだな!」
暗闇に、声が響く。
(この声は・・・セル?)
若き日の記憶。
騎士学校で学び、剣を交え、友と誓い合った日々。
王族でありながら平民のように振る舞い、しまいには冒険者となった無鉄砲な男。
ラウロはセルジオを心から尊敬し、そして信頼していた。
一番の友。
「セルジオ・・・いや、セル! こいつを・・・いや、私を滅してくれ!」
気力を振り絞り、どうにか声にする。
「妻を亡くした絶望の中、蘇生術などという甘言にすがった・・・私の弱さが・・・。こんな災厄を!」
ラウロの脳裏に、亡き妻の言葉が蘇る。
「私の為に泣かないで、ラウロ。この世から私の姿が無くなってしまっても、私はいつも傍に居るから・・・決して後ろを振り向かず、領主として皆を支え、導き、笑顔を守って下さいね・・・。私だけの英雄、幼い頃からの私の想い人なんだから・・・。」
(・・・私は何故、シャルの言葉を守れなかったのだろう・・・。いつも庭で綺麗な花を育てていたシャル。王都に行かねばならぬ時に、留守番となってふくれっ面になってたシャル。シャル・・・シャルッ!)
(キサマノツマヲ・・・ヨミガエラセテヤロウ・・・。)
自らの呪縛となった、かつて聞こえたその声だけが、ラウロの希望だった。
だがそれはまやかしだったと、今はわかる。
(セル!どうかこの町を、人々を、救ってくれ・・・! 俺に代わって、全てを終わらせ・・・。)
ラウロは、願いと後悔と胸に、暗闇の更に深くへと沈んでいった。




