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家族で異世界冒険譚(ターン)!第2部 ~永井家異世界東奔西走~ 改定版  作者: 武者小路参丸


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サイドストーリー カ=チオの伏線 最終話

「マ〜兄ちゃん!この後みんなで、村の中を見に行かない?」


(マ〜兄ちゃんって!・・・俺にも弟が居たら、こんな感じなのかな。・・・正直、モフりたいけどアカンわなぁ。)


ジョロに話しかけられるだけで、マサヒトは嬉しくなってしまう。自分の知っている小説の中のキャラが目の前に居て、自分だけにリアルで会話をしてくれている。しかも声まで可愛いとなったらたまらないものがある。


ムサシの笑顔のスパルタ鍛錬にもそろそろ疲れてきた所なので、渡りに船と言った感じで、ジョロの提案を受け入れ、永井家ブラザーズの皆と、マサヒトは建設途中の村内へと繰り出す。


「でもさ、コジョにーにー。村っつったって、まだ全てが完成した訳では無いからな。・・・物珍しいとこなんか無いだろう?」


「いいんじゃないのかなぁ?マサヒトさんと、移住者たちとの顔合わせがてら、俺たちも進捗状況見て回れば良いだけだし。たまには俺たちも羽根伸ばそう。・・・最近狩りや、パピと討伐ばっかり行ってたからな?サンくん。」


「あ!ラティファちゃ~ん!お水重くない?僕持つよ!」


サンシローとコジローが話す横をすり抜け、ジョロが獣人の少女の元へと駆けていく。


(ラティファ?ラティファって・・・あ!カチオ教国の話で、サンくんに助けられた子やん!


なんでここにおるん?)


永井家異世界シリーズの2部、それも公開されていた最新話がカチオ教国内での戦いの途中だった為、マサヒトには今の状況がどうにもわからない。


「▼◇◎=△!でか兄ちゃ~ん!●××?」


歩くマサヒトたちの後ろから、謎の言語で声をかけてきたのは、コルテオの孤児院にいた少年、リオ。


「お、リオ!ん~。ヨシ!後で一緒に行くかぁ。お前さんも、バンバン出来る様になったか?」


「◆◆▽=フラ!◎◎≒アグル=弓!・・・△△、だけど。」


(リオって・・・あ!コルテオで最初にジョロくんと揉めた子やん!この子までこの村におるんかいっ!この世界・・・俺の知ってる話より、話が進んでないか?)


マサヒトが知っている物語に出てきたキャラ達が、次々とリアルで現れる驚異の展開だった。


「◎◇◇っ!◆△!◆△!」


「やぁ、リュミアちゃん。こっちのお店はどうだい?形になりそうかい?」


「▽ッ、ム、ムサシさん!ア、◎◎◎=≒◇▽ででで◎◎!」


(リュミアって・・・この女の子も知ってる!ジョロの宝箱の店長!ムッちょんに惚れ・・・。て、この子までこの村に来とるんかい!・・・ここってなんなん?

俺って、元の世界じゃカチオ教国での戦いの最後の方までしか読んでへんねん、2部本編・・・。てか、それでも最新話まで追っかけてた筈なんだけどな?


・・・相変わらず、永井家以外の言葉、謎言語だから理解出来んけど、小説の中では出てきていない、知らん面子メンツも居る感じするなぁ?)


村の中で建設中の建物。


大工や石工、物売りの屋台などの人達に紛れて、最初に永井家の自宅で見かけた集団・・・現代世界のスーツの様な服を着た者たちが、チラホラと見受けられる。


改めて見ると左の襟には、何か小さく光る金属製のバッジのようなものが付いている。


(何なんだ?あの人たち、ミサオさん家にも居たよな?でも、既視感あるこの感じ・・・何か、現代世界にもおったわ!

あの一般市民に威圧感かけてくる・・・。)


マサヒトはその黒服の1人とすれ違いざまに目が合いそうになり、思わず視線を逸らす。


(あかん!今の人、絶対なんかヤバい雰囲気する!・・・でも、なんで永井家の人たちやこの村の人たち、何にも言わないんだ?)


マサヒトの頭の中に浮かぶのは、現代世界でよく見かけた、関わっちゃいけないタイプの人達。間違い無く、こちら側から声を掛けようとは思えない人種。


ただ、ここではその人たちが、妙に違和感無く溶け込んでいる。村の人たちとも笑顔で会話も交わしている。


(・・・ていうか、マジでここって、どこまでが物語なんやろな?)


建設途中の村の中を当てもなく歩きながら、マサヒトは少しずつこの世界と自分との混ざり合いを感じていく。


「おう!こっちにいたのか!」


日本語で呼び掛けられたであろうその声に、歩いていた皆で振り返ると、そこには着替えたミサオが立っている。


「どうだ?ウチのシマは。」


(シマ?あの、ヤの付く人達の、面倒見てる場所ってやつ?やっぱそっち系の・・・。そう言えば主人公のミサオの、物語の設定上は、現代世界での過去に、父親がヤの付く集団のお偉いさんとかになってたよな?・・・いや、これ絶対、俺の知らない展開だから!)


改めてマサヒトは、自分が知っている小説の最新話よりも明らかに進んでいる展開に焦りを感じる。


「は、はぁ。・・・な、何かこの場所って、建築ラッシュっすね?」


「まぁな。ここは俺たち家族の新しい居場所。仲間たちと笑って暮らせる拠点。ま、完成までには、道半ばってとこかな。」


マサヒトの疑問に、ミサオが笑いながら答える。


「・・・なぁマサヒトよ。お前さんには、まだ時間の余裕ってあるのか?」


「え!・・・えぇ、平気ッスよ!」


(メールには一泊二日って書いてあったし、明日までは時間ある筈だけど・・・今度は何?)


「なら、ちょっと2人だけで話そうや。悪いけど坊主たち。客人少し借りてくぜ。さ、少し歩こう。」


ミサオに誘われ無言のまま、村から少し歩いて見えてきた、少し開けた開墾途中の森の木の切り株に、マサヒトはほどこされて並んで座る形となる。


「なぁ、マサヒトよ。・・・お前さん、どうして、こっちに来た?」


「え!」


(いきなり核心聞いてきた!てか、ホントの事言った方がいいの?わからんっ!)


動揺するマサヒトに、ミサオは言葉を続ける。


「・・・ま、課長さんの何らかの思惑だってのは、想像はついてるよ。慌てんでもいい。それに、課長さんがウチのやつらに、悪い様にはしないのもわかってる。・・・という事はだ。・・・お前さんがここにいきなり来た理由も、課長さんなりの魂胆があるんだろう。ただ、今回はその意図が読めねぇ。あの人、変な所で茶目っ気出すから、こっちも大変なんだよ振り回されて。・・・だから腹割って、お前さんが本当は何者で、何の目的あんのか、俺に話しちゃもらえねぇかい?」


(うわっ!・・・リアルのミサオさん、マジモードやん!・・・これ、下手につくろって話しても、逆に信用無くすよな。・・・でもそのまんま話して、信用してくれるかな・・・。)


マサヒトは不安にさいなまれながらも、意を決して素直に自分に起きたことを伝え始める。


「あの、俺っ!・・・元々、永井家シリーズのファンなんスよ!」


「は?」


ミサオに対してマサヒトは、ありのままを伝えようと考えた挙句、自分が何故異世界に来たのかなどの前置きをはしょり、いきなり自分が現代世界で読んでいた、ミサオたちの物語の事を口走ってしまう。


「永井家・・・シリーズって何だよ?」


ミサオは、呆気に取られている。


「はいっ!俺、向こうの世界で、あ、現代世界で、ミサオさん達の家族の物語、読んでたんスよ!ウェブの小説投稿サイトで!だから、ミサオさんが元々タクシー運転手だったとか、若い頃やんちゃだったとか、クミコさんとの出会いとか、全部知ってますっ!・・・と言っても、小説の中でですけど・・・。」


マサヒトの、少し早口の宣言にミサオは固まったまま。


「そしたら今日。ま、向こうの世界の時間なんで、それが正しいのかもよくわからんのですけど、向こうの世界の朝方にメールがいきなり来てて、永井家シリーズ読んでてくれてありがとうって。そんで俺に何かプレゼントあげるって文面書いてあって!んで、その文面通りに、そのメールのアドレス押したら急に目の前ピッカ〜ンって・・・。気付いたらこっちの世界に。」


矢継ぎ早に話し、少し疲れた様子で、肩で息をするマサヒト。


「待て待て待て・・・するってぇとあれか?お前さんは、俺たちが居た現代世界とは、少し違った所から来てることにならねぇか?少なくとも俺たちが居た現代世界じゃ、クソ面白くも無いウチの家族の物語なんざぁ、小説なんかになってる訳がねぇ。てか、お前さんの言う現代世界だと、ウチの家族や俺のプライベートダダ漏れって事になるよな?・・・これってどうなんだ?個人情報とか、コンプライアンスとかは?・・・課長さん、勘弁してよ!」


マサヒトの説明を聞いて、ミサオは頭を抱える。


「それで無くても色々こっちで問題抱えてんのに、またでかい隠し玉匂わせやがって・・・。またそれが、後で意味ある事なのがわかる様に、課長さん仕込んでやがるんだろうなぁ・・・。まぁ、悩んでても仕方ねぇ。取り敢えずお前さんの話だと、俺達の過去や出来事を、物語で読んだ。・・・つまり、お前さんの知ってるこの世界は、リアルな世界じゃないってこったわな?・・・て事はだ。マサヒトは、自分が知ってる物語の世界に飛び込んだって事になるよな?」


ミサオの考察を聞き、激しく顔を縦に振るマサヒト。


「でも俺たち自身は、現代世界とイグナシアを行き来しながら、毎日リアルに生きている・・・。て事はだ。やっぱり同じ現代世界でも、お前さんのリアルと俺達のリアル、微妙にズレてるわな?」


(やっぱりミサオさんも同じ事考えたんだ!・・・俺にとっての永井家は、元々平面の、文章だけの世界であって。でも、今は現実としてミサオさんたちは目の前にいるわけで・・・。やっぱり頭、パンクしてまうわ!)


ミサオが共感してくれた事に感謝しつつも、マサヒトには根本的な答えは出せない。


「こりゃあ、下手に深掘りしたら時間がいくらあっても足りなくなりそうだな?話を元に戻そう。それじゃあ、改めて聞くぞ。・・・マサヒト、お前さん、この世界に来た目的はなんだ?」


ミサオが再度、マサヒトに疑問を提示する。


「目的って・・・あ!旅行です!読者プレゼントの!一泊二日の、異世界旅行の権利貰って!」


「そのメールの差出人は?」


「えっと・・・名前は無くて、アドレスが、イグナシア、アットカチオ、なんたらかんたら・・・だったと思います。」


マサヒトの話を聞きながら、いきなり下を向いたミサオ。その肩が小刻みに震えだす。


(嘘!俺何も隠し事して無いのに、ミサオさん怒らせた?そんな、悪気は・・・。)


ミサオの態度に震え上がったマサヒトが慌てて釈明する。


「ミサオさん!お、俺、天地神明に誓って、嘘とか・・・。」


「ブッ!ブワッハハハハハッ!・・・マジか

あの人?やってる事、センスあるわ!イグナシアアット?カチオて!そのまんまじゃねぇか!なぁマサヒト?ヒ〜ッ!苦し~つ!」


ミサオが突然、腹を押さえて笑い転げだす。


「ちと、ちと待って!ヒ〜ッ、息出来ね~っ!・・・ハァ、ハァ、ハァ・・・スマン、少し待ってくれ。・・・グフッ!」


笑いのツボに入ったらしいミサオ。少し経ってやっと自分を立て直し、ミサオが再度話し出す。


「いや、悪かったな。・・・課長さんもかましてきやがったな、まったく。・・・マサヒト、お前さんのこっちに居られる時間、一泊二日なんだよな。」


「えっと、メールにはそう書いてありました。」


「そうか・・・そんなら今日は・・・宴会だな!」


「えっ?宴会・・・ッスか?」


「ああ。・・・お前さんがここに来た意味。課長さんがただの旅行だって、物見遊山だけでマサヒトを送り込んだとは、俺は思えねぇんだよな。何か意図があると、俺は思う。」


「・・・はぁ。」


「つまりはだ。ウチの家族や仲間達とお前さんの出会いは、偶然とかじゃねえと思うんだわ。良く言えば必然。悪く言えば・・・意図的ってやつか。」


「意図?・・・つまり、課長さん?になんか魂胆あったって事・・・ですよね?」


「ん〜そういう事になるかな。まぁ悪意はねぇだろうよ?多分。・・・ただな、マサヒト。俺の推測だが、お前さんはこれまでの生き方と、これからの人生で、方向性が大分変わるかもよ?」


「生き方が・・・変わる?」


ミサオの発言に、キョトンとするマサヒト。


「遅かれ早かれだとは思うが、な?ま、俺もそうだったけど、随分とドラマチックな展開がありそうな予感するけどな?・・・ま、それは後の話として、せっかくここで俺と縁を持ったんだ。一泊二日しかねぇんなら、今日の宴会、目一杯楽しんでけよ!・・・ムッちょん、居るんだろ。」


話の終わりに、急にムサシの名前を呼ぶミサオ。

すると、マサヒトとミサオが座る、切り株の後ろの木の影から!ムサシが姿を見せる。


「・・・パピにはまだまだ敵いませんね。」


(え?いつから居た?俺、まったく気付かなかった・・・怖っ!)


ミサオとムサシに対して、改めて驚嘆するマサヒト。


「・・・てめぇの息子の気配ぐらいわからんで、父親業なんかやっとれんわな。・・・話は聞いてたんだろ?」


「えぇ。先に戻ってマミには伝えておきます。村のみんなにも声かけますか?」


「おぅ!身内みんなで盛り上がろうや!せっかくの珍しい、現代世界からの客人だ!明日は全員で二日酔いだな!」


「いやいやパピ、未成年も居ますから!自重して下さいよ?マミのカミナリ怖いですから。それじゃあ、僕は声を掛けて来ます。マサヒトさんは、そのままパピと一緒に居て下さい。・・・では。」


マサヒトたちに一礼し、ムサシは村の中へと戻っていく。


「んじゃ、マサヒトよ。」


「はい?」


「その・・・例の、ほら、あれ。」


「へ?」


「その、お前さんの現代世界の、ほれ、ナニの・・・。」


「ナニって、何スか?」


「だからっ!・・・ウチの物語!内容おせ〜てっ!・・・気になるだろ?」


マサヒトとミサオは、ここからしばらく現代世界での物語の話で盛り上がり、切り株から立ち上がる事は無かった。


日も大分傾いて、ミサオとマサヒトが、雑然とした建設途中の村の中に戻ると、村内の広く開けたスペースに、あちこちからイスやテーブルがどんどんと準備されていく事に気付く。


マサヒトの見知った顔。初めて見る顔たちが入り交じって、忙しく動きながらも、皆笑顔である。


相変わらず、永井家以外の住民の言葉はわからないマサヒトだが、ウキウキした雰囲気だけは伝わってくるのを感じている。


「・・・みんな、いい顔してんだろ?」


「・・・そうですね。物語のミサオさんも、笑顔、凄く大切にしてましたもんね。」


「・・・それ、ウェブの小説サイトなんだろ?書籍化とかされねぇのかな?絶対買うけどな俺。こっちじゃWi-Fiとかねぇから、電子書籍とかって訳にもいかん・・・いや?向こうに戻ってダウンロードすれば、オフラインで読める?その前に、俺が戻ってもその物語自体があるのか?謎だわ〜っ!」


みんなの動く姿を見つめながら、ミサオがつぶやく。


そうしている内に、クミコを先頭に村の女性有志が腕によりをかけた料理と酒が、テーブルの上や、敷き詰められたゴザ状の敷物などの上にどんどんと並べられていく。


「マ~兄~ちゃ~んっ!こっち!こっち来て~っ!」


マサヒトが振り返ると、一つの大きなテーブルで、ジョロが手を振って呼んでいる。ミサオ以外の永井家の面々と幾人かの黒スーツの人たちが、同じテーブルに既に座って待っていてくれた様である。


「ほれ、マサヒト行くぞ!お前さんの歓迎の宴だ!みんなが待ってる。走れ走れ!」


「は、はいっ!」


テーブルに向かって走るマサヒトとミサオ。マサヒトは、ジョロとムサシの間の席に。ミサオはクミコと黒スーツの1人に挟まれた場所に座る。


「みんなも忙しい中、ご苦労さん!ま、急遽の席だが、今日は客人であるマサヒトの歓迎祝いだ。それとみんなへの普段からの働きに感謝も兼ねて。寂しいけど、マサヒトも明日にゃあ旅立つらしいから、どうせなら思いっきり楽しむこった。」


テーブルの皆に声を掛けるミサオ。


言い終わると今度はその場に立ち上がって、大声を張り上げる。


「お~いみんなっ!今日は永井家の故郷、ニッポンから来た客人、マサヒトの歓迎の宴だ!お前さん達と一緒で、コイツもうちの身内だっ!だから気を使うこたぁねぇ!今日は飲め!歌え!騒げ!明日の事は、明日考えろ!テーブルの上食い尽くせっ!」


ミサオの演説に、村の者たちが盛り上がる。


「うぉ~~~~!」


「食うぞ~~~~!」


「誰か俺と、飲みっ比べだ!」


騒ぎ始める村人たちを眺めながら、マサヒトは考える。


(・・・身内ってか。・・・何かこっちの世界の方が、あったかい気がするよな・・・。)


現代世界で暮らすワンルームの部屋を思い返し、マサヒトの心は、少しほっこりとする。


「おぅマサヒト。紹介してなかったな。この黒の格好のヤツらは、俺の若い衆だ。その中の兄ぃクラス・・・ま、俺の弟分が座ってる。俺の隣がグレン。元は騎士様やっててな?んで、お前の前に居るのがトニー。こいつは馬車で配達業営んでた。」


ここでやっとミサオから、謎の黒スーツの男たちの説明を受けたマサヒト。


「やっぱり!異世界でヤの付く集団・・・。」


「いやいやマサヒト、違うから!現代世界のいわゆる反社と一緒にすんなよ?こいつらは皆、汗水垂らして働く正業を持ってるし、理想を持って集まって来た連中だ。

俺みたいな木偶の坊、勘違いして、それでも慕ってな。


だから俺は、そんなヤツらの拠り所として、居られる場所を立ち上げたんだ。

義侠、任侠、本当の意味でのな。


村はみんなの生活基盤。


んで、こいつらとは生き方を共にする為の集団を作った訳だ。

だから俺はここに、立ち上げたんだよ。・・・永井一家をな。」


「永井・・・一家。まだ物語には出て来てない・・・これから先の、話?」


「何かお前さんとっては、その物語って預言書みたいじゃね?まぁお前さんが向こうに戻ってからどんな事になるのかは、俺も少し楽しみだけどよ。そんなごたくはいいから、マサヒトも飲め飲めっ!向こうの世界の酒もノンアルも用意してるけど、異世界産の酒なんて、あっちの人間飲みたくても飲めねぇぞ!せっかくだから試してみなっ!」


「はいっ!頂きます!」


ミサオにうながされ、それからのマサヒトは、生まれてこのかた経験した事の無いくらいに弾けた。


食った。飲んだ。言葉が解らない黒スーツや、村のみんなと、肩を組んで、言葉もわからないこの世界の歌を、見様見真似で歌った。


ついでに念願の、ジョロの頭とシッポを酔いに任せてモフり倒した。


流石にその時には、誰かに軽く頭を小突かれた様だった。


マサヒトにしてみれば、向こうの世界でも、こんなに楽しい事はそうそう無かった。


マサヒトにはこの瞬間が、確かに幸せだった。


・・・そして気付けばこの場所に、新しい太陽が昇って来る。


「・・・俺・・・そのまま寝ちまった、のか?」


頭を振りながら、テーブルに横たえていた身体を起こすマサヒト。


回りを見渡すと、地面やあちこちのテーブルの上に、人間も獣人も、大人も子供も、男も女も関係無く、屍の様に眠っていた。


・・・幸せそうな顔をして。


「これで・・・お別れか。ほんとの所、こっちの生活もアリかなって思いだしてたんだけどな・・・。」


「・・・多分マサヒトには、向こうでやる事あんだろ?きっと。」


マサヒトが声に振り向くと、ミサオが笑顔で立っている。


「やる事・・・ですか?」


「多分って言ったろ?俺はマサヒトみたいに、物語が見れるわけじゃねぇ。人生なんて、行き当たりばったりだからな、元々。」


「そう・・・ですよね。」


少し寂しそうな顔でうなずくマサヒト。


「んな辛気臭い顔すんな!二度と会えないって決まった訳じゃあるめぇし、背筋伸ばせ!青年!」


「はいっ!」


ミサオに背中をポンとはたかれ、マサヒトは思わず姿勢を正す。


「今は確認してる時間がねぇけれど、俺のポチッとでお前の事を迎えにいける事だって、出来るかも知れねぇから、その辺は後のお楽しみって事にしとけ。・・・それじゃあマサヒト。右手出せ。」


「は?」


「いいから、右手こっち向けて出せっ!んで、手の平見せろ!」


「こ、こうですか?」


マサヒトが慌てて広げた手の平の上に、ミサオは小さく光る、金属製のバッジの様な物を乗せる。 


「これって・・・ミサオさんの家の表札にあった・・・。」


マサヒトは表札を思い返す。漢字で書かれた名字と一緒に刻み込まれていたマークが、渡された金属にも彫り込まれていた。


「おぅ。これは、ウチの代紋だいもんってヤツだ。こっちじゃ紋章って言い方の方がわかりやすいのか?ま、ウチの一家の人間だって目印みたいなもんだ。一応お前さんには、舎弟頭と同等の金バッジ。・・・いやか?」 


「て、そんな大事なもん、俺なんかに、いいんすか?」


「構わんだろ?身内だお前も。もしかしたら、お前の身を守るもんになりゃあ良いかと思ってな。・・・マサヒト、いやマサ!お前も永井一家の一員になるからには、泣いてるやつ居たら、腹減らしたやつ居たら、横に座って話ぐらい聞いてやってくれ。


おにぎり1個しか手元に無くても、隣に居るやつには、半分分けてやれ。


自分に出来る事だけでいい。決して無理はしなくてもいい。でもな。・・・優しい、本当の意味での、強い男を目指せ!」


「う・・・うすっ!・・・俺、自分の出来る精一杯で、頑張ります・・・向こうでも!」


「おぅ!・・・てか、マサ。・・・身体、光ってんぞ?」


「あっ!もうそんな時間なの?みんなにお別れ言う時間くら・・・。」


光に包まれ、マサヒトの身体はイグナシアの地から静かに消えていった。


「・・・慌ただしかったなぁまったく。


・・・マサ。課長さんのやる事だもの、意味無ぇ事なんか、多分しねぇよあの人は。


どうせまた会える。別れはお互い、ほんの・・・ほんの一瞬だ。なぁ、マサ!」


人気の無くなったその空間を、ミサオはそのまま見つめて言った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「・・・て、もう部屋!余韻もクソもないやんか!タイミング悪過ぎっ!」


ブツブツ文句を言いながらも、マサヒトはまるっきり代わり映えの無い、見慣れた部屋のベッドに腰掛けようとして、スマホの画面の点滅に気付く。


(メール?・・・またやな予感するんだけど、平気かな?)


恐る恐る、ベッドに腰掛けたマサヒトは、メールを開く。


「えっと・・・ほら出た!イグナシアのやつ!」


マサヒトは震える身体を抑え込みながら、文面をゆっくりと確認してゆく。


本文

ご旅行、ご堪能頂けましたでしょうか?

これからも異世界永井家シリーズへの応援・感想・お気に入り・しおり等々、心よりお待ちしております!


追伸

これからのあなたの

♡新たな人生に♡

幸あらん事を!


「いや、ハートマークって!そんな、新たな人生強調せんでも、そこまで大袈裟に変わらんて!むしろ変わらない方向性で生きていきたいよね?異世界じゃ無いんだからさ!」


頭を振りながら、台所でマグカップに水を汲むマサヒト。


「そう言えばあっちの世界で俺、魔法・・・使えたんだよな?・・・こんな話しても誰も信用してくれないだろうけど。」


マサヒトはその場で目をつぶり、ミサオやムサシに教わった様に、丹田から右手にあったかい感覚を動かすイメージをする。


(もう少し、もう少し・・・。)


「んでもって、ド〜ン!と・・・。」


(ドン!バキ!ドンガラガッシャーン!プシュ〜〜ッ。・・・カシャン!)


マサヒトの目の前にあった、テレビモニターやカラーボックス内の雑貨や雑誌などが、見るも無残に破壊されている。


「・・・何で?・・・どして?・・・ここ現代世界よ?・・・てか今、早朝よ?・・・これ、マズいと思う。うん。・・・アカンて!絶対アカンやつやてっ!」


現代世界の一般市民だった山崎マサヒトは、異世界の任侠集団、永井一家の一員のマサとなり、再び現代世界へと舞い戻った。終わった筈の不思議な旅行。しかし、マサヒトの新たなる人生は、ここから新たに幕を開ける事となった。


マサヒトはただ、ウェブ小説を読んでいただけだったのに。





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