サイドストーリー カ=チオの伏線 第1話
これは、永井家の物語を読んでいた、ある一人の読者が体験することになる、不思議な“旅”の記録。
本編の裏側で起きていた、もうひとつの物語・・・。
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ある年、ある月、ある週の日曜日
時刻は午後3時23分。
東京都・大田区。
この話の主人公である、山崎マサヒト(35歳・独身)が居住するワンルーム。
夜勤シフト明けの疲労で、昼前に帰宅後、テレビを見ながらの食事途中、そのまま寝落ちしてしまった彼の耳に、スマホの通知音が響く。
「チッ、誰だよ・・・?」
寝不足の身体を引きずって、マサヒトはトイレへと、取り敢えず向かう。用を済ませた彼は、ワンルーム特有の小さいコンロで、お湯を沸かしてる間に、自分専用のマグカップにインスタントコーヒーを用意し、改めてベッドに座り直してスマホを手にする。
寝落ちしている間に、冷たくなってしまったコンビニ弁当には、もう手を付ける気力も見られない。
「勘弁してくれよ?また誰か、シフトに穴空けたとかで出勤しろなんて話なら、シカトぶっこいてやるからな・・・。」
ブツブツ文句を言いながら、それまでに届いていたメールを順番に確認し、要らない物を削除していく中で、奇妙なメールにマサヒトの手が止まる。
差出人 《イグナシア@カチオ.ka.jp》
件名:《おめでとうございます!》
内容:
「いつも永井家シリーズをご拝読下さり、誠に感謝しております。この度、様々な読者様の中から厳正なる抽選の結果、山崎マサヒト様がご当選となりました。
おめでとうございます!
つきましては、差出人の所にあるアドレスをクリックし、懸賞をお受け取りください。
※この懸賞受け取りは、只今のお時間から15分以内とさせていただきます。ご受領なき場合、次点の方に権利が移ります事をあらかじめご承知おきください。
懸賞内容 1泊2日旅行無料招待権(異世界)」
「・・・は?なんだこりゃ。・・・無料招待券じゃねぇのかよ!
誤植か?権って意味不明だし。・・・ほんで異世界だぁ?
帰宅して飯食う前に、脳内で散々行っとるわ!
で、アドレスをタップってなんだよ?ただいまのお時間からって、届いた時間からだともう無効じゃね?・・・やっぱりスパム臭いよな。・・・でも、差出人のとこ押せってのがよくわからん。普通は、本文にアドレス入ってるよな?それクリックさせて誘導するのが大概やん?」
ツッコミどころ満載のDMだが、あまり危険性も感じないまま、マサヒトは躊躇も見せずに、軽い気持ちでメールアドレスを押す。
瞬間!
マサヒトの身体を、白い光が包んでゆく。
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「・・・うそよね~ん・・・。」
光が静まると、マサヒトの視界には緑が出現していた。周り四方を、木々で囲われている。マサヒトはその中の、少し開けた場所の中央に立っている。
マサヒトにとって、想定外の出来事・・・かというと、実はそうでもない。
その風景には、初めてなのに何故か既視感を覚えている。
仕事の休憩中や、プライベートの自宅で散々読んだネット小説投稿サイトの作品。永井家という家族が出てくるシリーズを読んでいて、自分の脳内で映像に変換して、見えていた異世界。
それとあまりにも酷似している世界が今、マサヒトの目の前に広がっているのである。
逆に言えば、マサヒトが映像として、脳内変換していた世界との差異も、もちろんマサヒトは感じている。
そこにはリアルな、温かさを知覚出来る木漏れ日がある。頬を撫でるそよ風、木々や草花の匂い。
これらの事全て、今の自分が置かれている状況を、現実だとマサヒトに教えてくれているのである。・・・流石に自分の顔面を叩いたり、殴ったりつねったりなどのリアクションは、マサヒトには少し恥ずかしく感じられて、選択しなかった様である。
「よくわからん状況だけど・・・やっぱリアルの違う世界って、迫力が違うよな・・・。」
意外と動揺していない自分自身に、逆に驚きを見せながらも、目の前に映る光景に、マサヒトは興味を見せている。
(パキ。)
「!」
いきなりの物音。咄嗟にマサヒトは、後ろを振り返る。
「・・・なんだよ、ウサギじゃねぇかよっ!脅かすなよな、全く!いちいち角が生えてるくらいで、こちとらビビんねぇっつ〜の!これでも異世界ファンタジー小説、何作品も読み込んでるヘビーユーザーだっつうの!」
そう。
マサヒトの視界に飛び込んできた生き物は、永井家シリーズの1部で出てきた、主人公の初バトルの相手。・・・ホーンラビットと呼ばれる個体である。
その時。
マサヒトは、永井家シリーズでの認識が有効ならばと、目の前の生き物の瞳の色を確認する。
「はっ!闇憑きじゃあねぇか。・・・単なるウサギじゃ、どって事な・・・。」
マサヒトは安心して発言しかけて、途中で言葉が止まる。
昨日、仕事の休憩中に読み返した話が、マサヒトの頭をよぎる。
(・・・闇憑きにはなってない。なってないけどあれ。物語上、魔物・・・だったよな?しかも通常で・・・。)
読み返した1部の途中の話。
主人公が物語の中で、初めて訪れた異世界の町、テリオス。その町にある冒険者ギルドの女性ギルド・マスター、ハイネス。
その人物が、主人公と語っていた内容。
それが今のマサヒトに、非常に重要な事となってきている。
(思い出せ、思い出せ、思い出せっ・・・。)
マサヒトは焦りながらも、物語の内容を頭の中で掘り返す。
「・・・このホーンラビット、通常の個体でもFランク三人か、Eランク上位者一人で討伐するレベルです。
闇憑き個体となると、最低でもCランク三人、上位者なら二人必要です。・・・」
マサヒトの脳内に、あたかも目の前で話してるようなハイネスの声が響いてくる。思い出した会話の内容が、そのまま生きた女性の声として再生されたのだ。
「・・・この物語の中のFランクがどれだけのモンか知らんけど、冒険者ってレッテル付いた人間が三人がかりって、今の俺、ヤバくね?・・・主人公みたいなチートとか、メールの中の権利に書いてなかったぞ・・・?あれ?もしかして俺、状況的に詰んでる・・・?」
状況を次第に理解し、背中に冷たい汗がつたうマサヒト。
改めて目線を動かすと、ホーンラビットの身体が、静かに低く沈んでゆく。
(・・・あれって、絶対こっちに来んじゃん!やべ~よ俺っ!)
その場でマサヒトの身体が、少し震え出す。
魔物相手の対処方法など、現代世界の単なる一般市民であるマサヒトは持ち合わせていない。
我慢出来ずに、マサヒトはホーンラビットを背にして、逆の方向へと走り出す。
「冗談じゃねぇって!無理!無理無理!」
マサヒトには振り返る余裕もない。
木々の間を駆け抜ける。マサヒトの息が上がる。
途中で、足元に顔を出していた木の根に、マサヒトは足を引っ掛けて転倒する。
荒い呼吸のまま、うつぶせに倒れた体勢で、恐る恐る足元の方にマサヒトは視線を送る。
「・・・あかんて・・・」
力なく呟くマサヒト。
ホーンラビットはしっかりとマサヒトを獲物と認識している様子で、飛び跳ねながらマサヒトの方へと真っ直ぐ向かって来ている。マサヒトは、想像し得る最悪の展開に絶望し、ギュッと目をつぶる。
(ボスッ!)
「・・・?何、これ・・・?」
数秒経っても何も起きない事を不審に思い、ゆっくりと片目を開けたマサヒトの視界には、自分へと今まさに飛び掛かろうとした姿勢のまま、まるで石像のように固まったホーンラビットが、その場で地面へと落下する姿が見える。
ホーンラビットの額には、何かで焼かれてくすぶった様な煙がわずかに上がり、黒くて丸い跡も付いている。
「さっすがコジョにーにー!」
「お前も本当は、これ位すぐに出来る力、あんだけどなぁ。まぁこれで昼飯、確保かなぁ。」
(え?今コジョって?)
マサヒトの記憶の中にある、馴染みのある名前。
死んだと思われるホーンラビットから目をそらし、頭を動かして逆側に視線を向けると、小柄な獣人と大柄の獣人の姿が確認出来る。
「・・・うそよね~ん・・・。」
マサヒトが永井家シリーズを読んで、自分の脳内で再生していた映像、そのままの姿が目の前にある。
その存在が、立体で、呼吸をして目の前に居る。
「ジョロと・・・コジョ?・・・マジか!マジであの永井家ブラザーズかっ!うわ!写真!って、スマホ持ってねぇし!なんでだよっ!」
いきなり現れた物語の重要キャラに、テンションが爆アゲになるマサヒト。慌てて身体のあちこちを探りながら、その場に立ち上がる。
「ん?・・・人か?狩人にしちゃ、ちょっとヒョロいけど。・・・お前さん、こんな所で、道にでも迷ったのか?」
「・・・ねぇねぇ、今、ジョロって言った?何で僕のお名前知ってるの?」
いきなり2人の獣人に質問攻めに合うマサヒト。
マサヒトにとってはよく知る物語の登場人物だが、コジローとジョロからすれば、マサヒトはいきなり現れた謎の人物。
「お兄ちゃん、どこから来たの?この森の近くにお家なんて、無いよね?」
キョトンとした顔で、マサヒトの顔を覗き込む茶色耳の小柄な獣人・・・ジョロ。
(これどうする?この状況、どうする俺?言葉一つで分岐変わるやつ?)
どう答えれば良いのか、探りつつマサヒトが答える。
「んとね・・・。旅行?あ、えと、旅!旅してたら、あの、うさ・・・そう!ホーンラビット!アイツとバッタリでそりゃもう、てんやわんやであは、あはははは・・・。」
(う、嘘は言ってへん!)
興奮したり焦り出すと、マサヒトは心の中で変な言い回しになる傾向がある。ちなみに生まれは生粋の関東人である。
「旅かぁ・・・よくもまぁ、こんな何もまだないとこに来たね。アンタ、随分と面白れぇなぁ!・・・で、この後、行くとこ決めてんの?」
笑顔のまま、コジローも尋ねてくる。
(行くとこ?いや、ワテ、そんなもん決めてませんて!)
変に警戒を与えたくない気持ちからか、マサヒトの心の声が、どんどんおかしくなってゆく。
「いや、ほら、当てもないまま気の向くまま、西へ東へ徒然なるまま。・・・あ、東奔西走って感じかな?」
どう答えていいのかわからず、誤魔化す方向へ流れていってしまうマサヒト。
「・・・俺も呑気だって言われるけど、アンタも大概だねぇ。・・・そうだ!行くとこ決めてねぇなら、ウチ、寄ってくか?
面白れぇもんは何もないけど、飯くらいは腹一杯食わしてやるからさぁ。」
やはり飯には人一倍なコジローが、相変わらずの提案をする。
「あ!な、何か凄く気ぃ使ってもらって!・・・で、でも、折角の申し出なんで、こう、やっぱ、その土地の味って醍醐味ですよね?こっちとしたら、感謝感激、雨あれれれれですっ!」
実際の発言の方も、破綻しだしたマサヒトだが、内心では別の事も考えている。
(家?それって例の、テリオスにあるお菓子屋さんの、宝箱?ジョロの宝箱来ちゃう感じ?)
「あの〜、コジョ・・・コジローさんでお名前間違って無いですよね?ここってあの、テリオスって町の、そばだったり・・・」
恐る恐るマサヒトが確認する。
「やっぱり、お兄ちゃん迷ったみたいだね?
ここ、グレースの森だよ?大分離れてるから。
テリオスの町って、ここから馬で5日もかかるよ?途中で山も越えるし。」
心配そうにマサヒトを見つめるジョロ。
結局そのまま3人は、森の中を進んでゆく形となる。
しばらく歩いて森を抜けた先には、建物が色々建設されている場所が現れる。
「まぁ見ての通り、まだまだな感じだけど、俺たち家族と仲間たちの生きる独立した場所だよ。うちのパピ風に言うと、永井家のシマ内ってとこかな。」
コジローが少しだけ自慢げに、マサヒトに説明する。
まだ形を成してるとは言い難い、建築中の建物がいくつもある場所。
マサヒトから見ると、離れた場所にも湖があるのが確認出来る。抜けてきた森も、幾人もの人達が開墾している様子に見える。
(こんな話の展開、俺はまだ読んでないぞ?どこよこれ?)
マサヒトの読み進めていた永井家の物語は、2部の途中。聖カチオ教国での、サンシローの再会から超神兵との家族揃っての戦闘あたりで止まっていた。最新話の更新を毎日心待ちにしている中での、現在の状況である。
つまりマサヒトは、村作りをしている永井家の事を、まだこの時点で知る由も無いのである。
「お兄ちゃん!こっちに来てっ!こっちが新しいお家!マミも居るから、早く行こうっ!」
ジョロに手を引かれ、マサヒトは、記憶に無いジョロとコジローの家と思われる場所、永井家の新居へと誘われるのだった。
(いや、展開早すぎるでしかし!)
混乱しながらも、物語の世界に存在している自分の状況に、興奮を隠しきれないマサヒト。
このいきなりの旅行の行程は、マサヒトには未知のまま。
流されるままに、ジョロに手を引かれながら建築中の家々を抜けると・・・。
「これって・・・。日本家屋やん!しかも平屋建て?異世界感が、ここだけゼロ!しかもデケェしっ!」
決して見た目が豪勢なわけでも無い。そう、地方の昔の農家のような・・・木造建築がマサヒトの前に鎮座している。
その建物の左手には、蔵らしき建物がある。右手には、道場とおぼしき建物が併設されている。
(うわっ!玄関に、日本の漢字の表札って!・・・永井、はいいけどその上のこれ・・・マーク?紋章?)
違和感のある表札らしき物を気に留めつつ、マサヒトはいざなう手に連れられ、その先へと進む。手をつないだままの可愛い獣人は、勝手知ったるといった感じで、勢い良く玄関の引き戸を開く。
(ガラガラガラッ!)
「◇△▷#+☆!」
「ただいま!皆さん、いつもお疲れ様です!マミいる?」
(なにこれ?見た目ガラ悪そうな人達がジョロに頭下げて。・・・てか、なんだよこれ?
みんな、俺の居た世界のスーツ着てんじゃねぇかよっ!混ざってる獣人までスーツって・・・しかも皆さん黒!)
目の前の状況が意味不明過ぎて、マサヒトが焦る。
(しかも、ジョロとコジョの言葉しか理解出来ないって、やっぱ俺にはチート無し?梨は二十世紀?それともラ・フランス?・・・ダメだ、自分でも収拾つかなくなってきた・・・。)
頭の上に、はてなマークがどんどん増えてゆくマサヒト。
「おかえりな・・・あら、お客様?この村では見た事無い方ね?」
その瞬間、奥の部屋から暖簾を片手で避けて、顔を覗かす女性が見えた。
(あっ!言葉わかる人現れたっ!・・・って、もしかしてあの人?)
マサヒトが自分の中の、作品知識を探る。
「マミただいまぁ!何か、この人が迷ってたみたいだから、とりあえず連れて来たよ。
それとこれ!こいつの肉、今日の夜の飯に使ってよ。あ〜腹減った!今日の献立って、何?」
奥から出てきた女性・・・永井家の母であるクミコに、狩りたてのホーンラビットをそのまま手渡そうとするコジロー。
「いや、コジョッ!そのままじゃ無理!いつも言ってるでしょ?血抜きをして、皮を剥いで、ちゃんとブロック肉に切り分けてから手渡してって。マミは狩人じゃないんだから、そのまま手渡されても、対応出来ません!」
苦笑しながらコジローに言うクミコ。
(うわっ!やっぱクミコさんじゃん!何か、俺の想像よりも、ずっと若くね?てか着物?髪も長いの想像してたけど、実際はベリーショートだし!
しかも現代世界では元々の年齢50代だったよな?こりゃ確かに主人公惚れるて・・・)
そこまで考えたマサヒト自身が、何故か少し顔を赤らめている。
「ごめんなさいね、騒がしくて。まだ、見た通り何もない村ですけど、せっかくなんで、どうぞ寄っていらして下さい。そろそろお昼ご飯ですし、こちらで一緒に召し上がっていって下さい!うちの食事は、どうせ大人数ですから、気を使わずに、どうぞ上がってっ!」
笑顔でマサヒトを、クミコが招き入れる。
現代世界からの異邦人マサヒトは、異世界での初の食事を、永井家で迎える事に決まった様である。
「わっ……湯気すごっ……!」
結局、コジローが先程狩った物では無く、以前に狩って用意されていた別のホーンラビットで調理されたソテーを目の前に出され、その皿から立ち上る香ばしい匂いに、マサヒトは思わず息を呑んだ。
食卓には、大皿に盛られて各テーブルの真ん中に、ドカンと置かれた肉と野菜の炒め物と、各自の席には味噌汁とふっくら炊き上がった白いごはんが、順番に給仕されている。
マサヒトにしてみれば完全に普通の、現代世界の家庭の食卓だった。使われている肉だけが未体験なだけで。
「お兄ちゃん、こっちこっち!今日はボクがよそってあげるね!」
(・・・想像通り、ジョロくんってマジ天使かよ。)
ジョロがニコニコしながら茶碗によそってくれる白米を、マサヒトはありがたく受け取る。
クミコは手際よく味噌汁を並べ、コジローは、先程自分で狩ったホーンラビットをどこかにしまって来てから、空いてる席に着く。
「ま、お腹減ってんなら遠慮せず食べちゃいなって。今日も中々いい焼き目だなぁ。・・・兄さんもあったかい内に食わないと。ホーンラビットにも失礼だからさ。」
コジローが、箸をつける事をマサヒトに勧める。
(すげぇ……まさか異世界ごはんを食べるタイミングが、こんな自然に来るなんて!・・・ていうか、なんだろこれ。あり得ない展開が目の前で起きてるのに、なんか落ち着くわ・・・。)
周囲では、黒服姿の男たち数名が料理の配膳を進めている。
何かを話しながらおこなっている様だが、マサヒトにその言葉は一切わからない。
「◇△▽ラグス、ファリオ……ナ=カ?」
(はぁっ。・・・やっぱ俺には翻訳チート無し!オール地声で現地の言葉!俺だけ地味に、この世界で孤立無援じゃん・・・。)
食事を進めようとする前に、少し落ち込むマサヒト。
でも、その中にも理解出来る言葉が混じる。
「はい!今日のメインはホーンラビットのガーリックバターソテー。マミが焼いてくれたんだよ!」
ジョロが自慢げにマサヒトに語る。
その説明に、クミコが笑って台所からマサヒトの席へと歩いて来る。
「あらあら、私はちょっと火を通しただけよ~。そんなに大げさに言わないの、ジョロ。さ、温かい内に、どんどん食べて下さいな。嫌いな物は、無理する事ありませんからね?」
(え、マジで普通の家族じゃん!獣人とか人間とか、血が繋がってないとか全然関係無いわ。モロ普通の家族!違和感まったく無いし。リアル永井家、すげぇ!しかもクミコさん優しいし・・・ここ異世界なの、一瞬忘れるから。・・・なら、お言葉に甘えて・・・。)
クミコ、コジロー、ジョロが見守る中、マサヒトは箸を手に取り、目の前のホーンラビットの肉を一切れつまみ、口の中へと放り込む。
「・・・う、うま・・・っ!」
口の中に広がる旨味と香ばしさに、マサヒトは思わず言葉が漏れる。
(ちょ!何だよこの柔らかさ。牛肉のA5とまではいかんけども・・・異世界の魔物ウサギ、肉質が優秀過ぎるべさ。それに味付けが、クミコさんがまわりの人たちの胃袋掴む感じ、こりゃ俺も脱帽するって!)
心の中でセルフ食レポをしながら、マサヒトは無言で食べ進める。
「お兄ちゃんは、もしかしてホーンラビット、初めて?」
「う、うん!は、初めてなんだ。びっくりしたよ!美味すぎて。」
「ふふっ!それなら今度は違うやつも狩って来るねっ!」
(あかん!ジョロって普通にいい子やん!この時間、癒やしの空気充満しとるやん・・・。)
その時。
ダイニングの引き戸がガラガラッ、開け放たれる。
「マミ。無事怪我も無く、全員戻りました!」
「うわっ、めちゃいい匂い~っ!って、誰あの人? 新入り? 迷子?」
ムサシとサンシローの2人が次々と入ってきて、ダイニングの空気がより一層賑やかになる。
その後ろから、今度はタオルを肩にかけた、道着姿の少し大柄に見える男が現れる。
「みんな、腹一杯食ってるか?マミも毎日ご苦労様!さて、俺も美味い飯を・・・?」
その男の瞳が、食卓を囲む面々を1人ずつなぞり、最後に、マサヒトの所でピタリと止まる。
数秒の沈黙。
「・・・その服、見たことねぇメーカーのジャージだな?さては・・・。」
その男、永井家の当主であるミサオがふっと笑う。
「課長さん、また何か裏でやったな?」
その言葉を聞いて、マサヒトは茶碗と箸を持ったまま固まる。
(え?マジでこの人、俺の置かれた状況、理解してるのかよ?)
驚くマサヒトを凝視し、ミサオの目がさっきよりも細くなる。
「ま、面倒くさそうな話は後だな。今はうちの食事の時間だ。」
ミサオの言葉に、ジョロがにっこり笑う。
「お兄ちゃん、おかわりあるよ!」
「あ!・・・じゃあもう一杯、よそってもらえるかな?ジョロくんのお母さんの料理、本当に美味しいね。」
「でしょ!だから僕も、一杯動いて、一杯お腹空かせて、一杯食べるの!」
嬉々としてマサヒトの茶碗にご飯をよそるジョロを見ながら、マサヒトは一度箸を置いて、深く深呼吸をする。
(本当に、俺は物語の中に来ちまったんだな・・・。)
そんな実感が、この時になってようやく、マサヒトの心に湧いてきた。




