第36話 家族という名の鎧――怪獣化黒龍、迎撃
黒い霧がどんどんと、倒れた黒龍の巨体に集まり、重なり、包み込む。
空気が震え、土埃が巻き上がり、戦場全体に異様な気配が広がってゆく。
ミサオは血が滲むほど唇を噛みしめ、霧の中で変わりゆく、息の根を止めた黒龍の姿を睨む。
「・・・ドラゴンの次は・・・怪獣かよっ?ここ異世界だぜ?・・・現代世界の脚本家と裏で動いてねぇか?これ!」
闇の御方様か、それとも元エドワルドだった何かの策略なのか。
ドラゴンに集まっていた黒い霧がその場で渦を巻き始め、それと合わせるかの様に、黒龍の遺体の体表がバリバリと音を立てて裂け、裂けた箇所から赤黒い光が滲み出る。
やがて出現したのは、かつての黒龍とは似ても似つかぬ、全身がトゲと鎧に覆われた異形の怪物だった。
紅い眼の光はそのままに、体表面のあちこちにその眼が幾つも生まれて無数に輝き、まるで特撮映画に出てくる様な2本足で立つ、ドラゴンを大きく上回る化け物。その背中から飛び出ている背びれが、脊椎に沿ってまがまがしい光を放つ。
それを見上げるミサオは、槍を握りしめたまま毒づく。
「・・・この化け物野郎が・・・。」
変異した黒龍・・・否!
「ウォォォォ〜〜〜ン!」
異形の怪獣が咆哮を上げ、臀部と思われる場所についた巨大な尾を振り回して、永井家が村人たちと汗水垂らして完成させたヒノモト村の防壁を、いとも簡単に粉砕する。
土煙が上がり、飛ばされた瓦礫が村人たちに降りかかる様子がミサオにも見える。
「村人を下げろっ!少しでもこの化け物から離れるんだっ!」
ミサオがインカム越しに叫び、指示を飛ばす。
その間隙を縫って、セルジオがその場から走って怪物に切り込み、背後から飛び上がって、背中のヒレ状の場所を狙って剣を振るうが、まるで通じない。
セルジオの鋭い刃は鎧のような外殻に弾かれ、その衝撃でセルジオ自身が吹き飛ばされる。
「グラマスッ!野郎!」
ミサオも無意識に駆け出し、左の拳を目の前の化け物の足に叩きつけるが、強化した筈の拳は血がにじむだけ。
ミサオは2歩程飛び下がり、勢いをつけて走る勢いと共に槍で突く。しかし、傷一つ付かずに、唯一の武器である槍の先が折れる。
「こんなもんじゃ効かねえってか?特撮野郎。」
ミサオが再び距離を取ったその時、化け物の胸部が赤く光り、口から放たれた黒い熱線が戦場を薙ぐ。
息子達がその場で得意の魔法で障壁を張るも、強大な魔力をまとった熱線で弾け、その衝撃に息子達も空へと吹き飛ばされ、地へと転がされる。
「ムッちょん! コジョ! サンくん! ジョロ!」
スマホのアプリから息子たちに防御魔法を付与するミサオが叫ぶ中、黒い熱線が直接息子たちを襲う。
すると防壁の上から、ひときわ強い光が息子たちへと走った。
「・・・あなたたち!負けないで!」
防壁の上で叫ぶ声。
声の主である永井家の母、クミコの両手が青白く輝き、回復魔法の紋が空中に浮かぶ。
砕け散った障壁の向こうで、倒れている息子たちの身体に向かって光が注がれる。
「大丈夫・・・パピが、必ず守ってくれる!だから私だって・・・みんなを守るから!」
彼女の必死の魔力が、息子たちの命を繋ぎ止める。
しかしその瞬間、化け物の尾が唸りを上げて村の防壁に再び迫り、クミコのすぐ横をえぐった。 その衝撃で、クミコの身体が宙に舞う。
「・・・マミッ!」
戦場に声が轟き、構えていた折れた槍を打ち捨てて、ミサオは全力で走り出した。
普通なら間に合わない。それでもミサオは走る。
「・・・マミ〜〜〜〜ッ!」
ミサオの絶叫。妻を想ってを叫ぶ声には、悔しさと怒りと、決意がこもっていた。
ミサオがクミコの元へ走る。
届かぬかも知れない。
いや、届く。届かせる。
ミサオの強い想いが足を前へと向かわせる。
負傷したセルジオが地面に伏し、苦しげに顔を上げる。
「・・・皆が・・・永井家の皆が・・・。」
もうもうと立ち込める土埃。
崩れる防壁。
誰もが敗北を覚悟した瞬間。
「・・・ふざ・・・けるなよ、化け物野郎っ!俺ぁな!もう後悔したくねぇ。俺なんかの命で、済ませ、られんなら、死んでもいいからっ!マミをっ!家族守らせろ〜〜〜〜〜っ!うぉ〜〜〜〜〜っ!」
その瞬間、走るミサオの身体を光が包む。
金色の光。
その光がミサオの身体に吸い込まれたと同時に、ミサオの姿が無数の粒子へと変わり、クミコを始め、全ての息子達を包み込む。
(・・・心配すんな。パピの約束は、絶対だ・・・。)
家族の頭の中に、ミサオの声が響く。刹那に闇の竜の攻撃が放たれる。
(シャ〜〜〜〜〜ッ!)
全てを焼き払う熱線が、永井家全ての命を襲う。
その光景を目にした者たち全てに、絶望の二文字が浮かぶ。
「やめて〜〜〜〜っ!」
我慢出来ずに、村の入り口まで飛び出して来ていた、リュミアの絶叫がこだまする。
身体を震わせながら、目に涙を浮かべながら。
もうもうと立ち込める土埃を見つめるリュミア。
どれくらいの時間が経過したのか・・・数分なのか、数十秒か。
土煙が晴れてくると共に、ふとリュミアは気付く。土埃の向こうに、何かが複数光っている事を。
「・・・そうよ。・・・あの家族が居なくなる訳なんて、あるわけ無いわっ!・・・なんてったって、永井家だもん。とびっきり素敵な、とびっきり優しい、とびっきり最強。・・・ムサシさ~ん!皆さ~ん!こんな化け物、チョチョイとやっつけちゃって〜っ!」
片手で流れる涙をぬぐって、大きな声で呼びかけるリュミア。
その声が届いたかの様に、複数の光る何かのシルエットが動く気配が、見ている周囲の者達にも確認出来る。
ゆっくりと。
だが、しっかりとそのいくつかのシルエットが立ち上がる姿がわかる。
「リュミアさんは手厳しい。それに・・・まだ息子たちには、負けないって事ですかパピ?」
シルエットの中の一つの声は、父の行いに呆れている長男坊。
「・・・この父親超えるの、骨だよなぁ?ムッちょん。」
また、別のシルエットからは、その長男に確認する次男坊の声。
「・・・マミも何か格好いいよな?ジョロ?」
もう一つのシルエットからは、空中にはじけ飛ばされた筈の母の姿を見つけて、うれしそうな様子をうかがわせる三男坊の声。
「みんな。みんな守られてるよいつも。・・・パピとマミにね。」
4つのシルエットの最後の一つからは、家族の無事と、父母の愛を改めて噛みしめる四男坊の声。
「・・・あなた・・・。」
4つのシルエットから少し離れた、村の破壊された防壁の瓦礫の上では、やはりおぼろげに見えるシルエットから、ただただ夫の強い想いを全身で受け止めている、妻であり、母である1人の女性の声がする。
それは、村人の皆がいつも聞き慣れた声。
土埃が薄れてゆく中に、4つの違う色のシルエットが・・・いや、そこにまた一つ光が放たれ、5つの光が集まり、その姿を現す。
青・赤・白・黒・緑。
ムサシ・コジロー・サンシロー・ジョロ・クミコ。
横並びに立つその家族の姿は、あまりにも変わり果てていた。
家族それぞれが全身を一色何かに覆われ、顔までも犬の様な、狼の様な面で覆われている。
それは、鎧。
ミサオの想いが、ミサオの想像力が生み出した、家族を守ろうとする、魔力と愛の結晶だった。
獣人と人という歪な家族。
でも、魂で結ばれた強固な家族。
そこにもう絶望などは微塵も無い。
何故なら、皆がそこに居るから。
「パピ・・・この魔法って一体?」
ムサシが独り言のように言う。顔さえも覆われた鎧であるにも関わらず、皆の視界は寸分も塞がれて居ない。素顔の時と変わらない感覚。だが、実際は身体全体を不思議な鎧で覆われている。
(・・・俺もわからん。)
ムサシの耳に、ミサオの声が突然飛び込んで来る。
「うわっ、聞こえてるんですね!・・・脅かさないで下さい。大体この鎧ってなんなんですか?私達みたいに機動性活かす戦闘をする者たちに重装備って・・・あれ?でも重さが・・・逆に軽い?」
凛々しい狼の様なフェイスをまとった姿で、首をかたむけるムサシ。残りの家族も、その場で飛んだり腕を回したりして置かれた状況を確認している。
(・・・よくわからんが、間に合った。何でか知らんが、今の俺は、家族みんなにひっついてる状態らしい。なんだろうなぁ、これ?ま、悩んでる場合じゃねぇし、何とか俺の能力、活かしてあの化け物倒すべさ!・・・ん?何かそれぞれ武器とか出せるみてぇだぞ?ムッちょん、目ぇつぶって念じてみな?)
ミサオの呼び掛けに、ムサシが素直に従う。
「は、はい。・・・あ!・・・やはり、私は日本刀ですか。ずいぶんと長めですが。蒼鞘ですか・・・お~いみんな!パピの能力で武器も出せるらしい。何が出るかはわからんが、目をつぶって念じてみろっ!」
正直、ムサシから見ても皆が勇ましい狼の様なフェイスを着けているから、目をつぶったかどうかの確認は出来ない。が、取り敢えず家族の皆の手元が光っているのだけは、ムサシも視認出来た。
「・・・コジョは弓。あれは、ボーガンですよね?現代世界で言う。サンくんは・・・両刃の薙刀。ハルバードだか何だかって言われてた気が・・・。ジョロは・・・手首のあたりから伸びた両手爪。で、マミがムチ。ウィップって言うんでしたっけ?どこの猛獣使いなんでしょうかね?」
(・・・マミ、マジか?そんなもんマミに持たせて、平気かな?プライベートでも使えるなんて言わんだろうな?)
ミサオも、何が出るのか知らなかったらしい素振りで答える。
「マジです。ある意味1番怖いです。・・・あの化け物より。」
永井家は皆、クミコには頭が上がらない。そしてクミコのやる事に異論は許されない。
(激しく同意する。・・・さて、お前も知っての通り、俺の魔力量だけは、課長さん仕込みの底なしだ。・・・やっちまえ、ムッちょん。家族総出の出入りだ。どっちが強えか、教えてやろうぜ!みんなの守りは俺が受け持つからよっ!)
「了解です。・・・その言葉があれば、ウチの家族は・・・異世界最強ですっ!」
ムサシの刀の鞘が、左腰に吸い付く。
腰を使ってムサシが長刀を引き抜き、天に掲げる。
「ここに揃うは我が家族!後ろに控えしは我が一家、一族郎党!たかが化け物なんぞに、この地、ヒノモトの希望を曇らせはせん!・・・明けない夜などは無い。貴様というこの世界の闇夜、我等が打ち砕いてくれよう。この名をしかと胸に刻め!我等は・・・永井家!慎ましい、この世界に生きる、単なる家族だ。みんな、行くぞっ!」
ムサシを先頭に、家族の皆が化け物へと走り出した。
(・・・普通なら、死んでるよな?絶対。)
ミサオは思考にふけりながらも、自分自身、一度も経験した事の無い現在の感覚に戸惑っている。
自らのメインの思考は、今現在、ムサシと繋がっている。
だが、同時に他の家族とも繋がっている。それぞれ独自に会話し、アドバイスも送れる。ミサオも上手く説明つかないが、例えて言えば、皆でテーブルを囲んで同じテレビを観ている中での会話に似ているような。そこに、各自の視点や身体操作の己との共有が加わってくる不思議。
正直、ミサオも脳味噌がパンクしそうで追いついていかない所もある。
(サンくん、足元固めちゃれ!冷気ぶっ込め!)
(ジョロ!生き物なら、急所狙うと嫌がる。お前ならどうする?)
(コジョ!シッポは厄介だが、お前さん飛べるなら、あの野郎の短めの手が届かない所。そこにチョッカイかけるのも良いかもな?)
(マミ・・・すまねぇな。お前さんまで戦いに駆り出しちまって・・・。心配すんな。ある意味公認で抱きついてる様なもんだ。好きに動きな。右手を後ろに引いて・・・そう!上手い上手い!センスあるよ!)
これらの会話が戦闘中に同時進行している。本来なら1人の人間で処理出来そうに無い、脳細胞がオーバーヒートしそうな状態だとミサオは感じている。
だが、実際はこの状態で戦闘が成立している。皆にそれぞれ声をかけながらも、別でまたミサオは思考出来ている。
(・・・今の俺って、皆に対してのAIサポートみたいな感じなのかな?俺自身が意識を強めに向けた人間に対して、俺本体の精神体みたいなもんと知覚共有。他の、比較的危険度が高くない家族には分体みたいな感じで優先順位がつけられて・・・。トリアージみたいな分けられ方してんのか?しかも勝手に。でなきゃ神様でも無い俺には、こんな状態長く維持出来んわな。これが異世界ファンタジーとかでもたまに出てきた、並列思考だかってやつか。・・・なんか気持ち悪ぃ!)
自らの置かれた異常な状況を、戦いの最中に冷静に分析しているミサオ。
(む!みんな!村の入り口!またアイツのブレスが!村人や冒険者たちがつ!間に合わん!)
家族を守る鎧となったミサオだが、家族以外の、共に戦う者の全てをカバーし切れてはいなかった。戦う永井家の皆も、攻撃からの救助への行動には一歩遅れをとる。
(ふざけん・・・おっ!奴らも駆けつけてくれたかっ!またいいとこ見せやがって!千両役者!)
いずれ義理の娘になろうかというリュミアたちに向けての化け物の攻撃が迫っていた。せめて、怪我だけで済んでくれと祈る気持ちだったとミサオだが、そこに現れた人物達が、リュミアの救助と、動けていなかったセルジオの避難までしてくれていた。
「・・・お~い、トンデモ家族・・・だよな?遅くなって悪いっ!美味い飯に釣られて、来てやったぜ!」
その声は、この異世界イグナシアに来てからの、ミサオのズッ友。
リュミアをお姫様抱っこして笑うイケメンが放った声。暁の牙、リーダーのジェイである。
「こっちも平気。・・・やっぱりミサオの塩唐揚げ。山盛りで頼む。」
口数こそ少ないが、セルジオに手を貸し、村内へと避難させようとする信頼出来る大きなガタイの男の姿が見える。暁の牙、頼れるタンク役、ドリトス。
「・・・アタシ達だけなら、間違い無く逃げの一手だわ。ミサオ!姿見えないけどそっちにいるんでしょ?チョコだけじゃ足りないからね!よろしく!」
セルジオが逃げられる様に、自らにヘイトを集めようとして必死に怪物に弓矢を撃つ、本当はナイフ術も得意な甘味好きの女性。暁の牙、遠距離攻撃の華、サブリナ。
(・・・食いもんに釣られたってか?・・・まったくこのメンバーは・・・。ありがとよ、暁の。やっぱりおちおち死んでもいらんねぇな?)
思考の中で、ミサオが苦笑する。
(・・・ムッちょん。お前さんの大事な人は、無事みたいだな?ウチの親戚連中が、手ぇ貸してくれた様だぞっ!)
「な!・・・何を言ってるんですかパピは!だ、大事なのはみんな、一緒ですっ!せ、戦闘中に、気が散りますですよっ!」
礼儀正しいムサシの言葉遣いが、何故かおかしくなる。
(・・・わっかりやすいな?お前さん達は。まあ、これで向こうも一安心だ。・・・こっからはお前が永井家の惣領だ。皆も、ムサシの指示に合わせてくれっ!俺はここらで黙って観戦させてもらう・・・なんてな?俺の実体がどこに消えたのかわからんから、みんなの守護に専念せざるを得ないだけなんだがな!・・・苦労かけるけど、いけるな?ムサシ。)
「はい、パピ・・・いえ、父さん!みんなっ!そろそろカタをつける。全員、俺のそばに集まれ!ここからはフルスロットルだ!魔力全力で練っとけ!俺が最後に決める!フォローは頼むぞ、弟達!マミは・・・皆の安心の為にも、命大事に!よろしく!」
青の鎧から、魂が叫ぶ。
「あいよ!ムッちょんかましてやれっ!早く宴会したいからなぁ!」
赤の鎧からは相変わらずの声がする。
「あんの野郎、ぐっちゃんぐっちゃんの、ギッタンギッタン確定だ!ムッちょんにーにー、決めてくれよっ!」
勇ましい白の鎧からは、憤怒の声。
「・・・あいつ、リュミア姉ちゃん狙ったよ!。僕は許せない!ムッちょんにーにー、何でも言って!倒そう。みんなで!」
黒の鎧は皆に声をかけ、自らも奮い立つ。
「みんな。・・・無理をするなとはもう言わない。見せてやりましよ?ウチの家族の本気の力。・・・永井家を、舐めんじゃないわよっ!このデクの棒!」
普段見せない姿がここで露見する、緑の鎧からの激。
「・・・何だろうな?この安心感。この場面って、生きるか死ぬかの瀬戸際なのに。・・・コジョ!サンくん!ジョロ!マミ!・・・そして・・・パピ。これが決戦だっ!決めるぞ!」
「「「「応!」」」」
ムサシを囲む様に、残りの家族達が集まる。ムサシに対して皆が手をかざし、ムサシの身体に集まる皆の色の付いた魔力が、ムサシの身体の中で渦を巻く。
「ムッちょんが決められる様に・・・踏ん張れ、チビっ子たちっ!」
コジローの、珍しく力強い声が響く。
「よし、ここらで行くぞ!ジョロ!」
「うん!岩礫!岩槍!」
「氷結!氷の槍の雨あられ、化け物野郎め、喰らいやがれっ!」
永井家の、年少2人の息子達が、化け物の足元に向かって魔法攻撃をかけながら走る。その後を、足元から出した炎で空中に身体を浮遊させて、いつの間にか追っているコジロー。
「ほれ、こっちだ!お前さん、手が短いな?それ!」
(ド〜ン!)
コジローの拳から何度も発射される、巨大な炎弾。
普段の指鉄砲から比べたら、バズーカ並の威力である。
「ここは任せろムッちょん!魔力の方を、練って練って、練りまくれ!」
「練りまくれか・・・。そうだな。むん!」
ムサシが両手で握る長刀に、青い光と合わせて、様々な色の魔力が溜められてゆく。それに伴って少しづつその刀が、その刀の部分が、長く、大きくなってゆく。
「まだ。・・・まだいける。上限は己が決めるもの。魔力底なしの息子が、リミットなんぞあるわけが無い。まだ。・・・まだだ。」
ムサシは一撃必殺を狙う。
その為に、魔力を余す事無く刀に注ぎ続ける。
後を長兄に託し、少しでも時間を稼ぐ弟達。
鎧から生まれたボーガンで、空中から化け物の体表面の無数の目を狙い撃つコジロー。
氷の足場をあちこちに作って、両刃の薙刀を何度も、怪物の関節部分目掛けて振り下ろすサンシロー。
怪物の背後から、地面を隆起させる魔法を使って、その鎧の手首から伸ばした硬い爪で傷をつけてゆくジョロ。
3人が長兄の為に、必死の足止めを行なっている。時には怪物の尻尾にはたき落とされ、時には熱線をその鎧に守られながら、何度も何度も向かってゆく。
「今よ!・・・決めなさい!ムサシ!」
母であるクミコの力強い叫びが、戦場に響き渡る。
「うお〜〜〜〜っ!永井無形流!魔力合一!陽光、闇滅!」
自らの体長の何十倍の大きさとなった刀を振り上げたまま、ムサシが化け物に向かって走る!
重力の反転。
ムサシの重力魔法によって宙に打ち上げられる形になった化け物。
その化け物の頭上までムサはタイミングを合わせて飛び上がり、強大な複合された魔力をまとった巨大な刃が、下からの重力の加速と上からの刀の振り下ろしという2つの加速によって化け物の身体に吸い込まれる。
化け物の脳天から腹くらいまで切り下ろされる太刀筋。
「・・・闇霧・・・爆砕!」
その言葉と共に、その巨大な刀身に、ムサシに残された全魔力が注ぎ込まれる。化け物の腹から、全身に7色の亀裂が走る。
「「「「吠!」」」」
残りの家族皆が、自らの残りの魔力をムサシへと送る。
「ギ・・・ガ・・・ガブッ・・・。」
(ドッガ〜〜〜〜ン!)
物凄い爆発音と共に、怪物の全身が四散する。
(・・・キ〜〜〜〜〜ン・・・・。)
爆発に伴って、耳鳴りがその場にいる者を総じて襲う。
「・・・やったの、か?」
息も荒く、ドリトスに支えられたセルジオが、視界の悪い戦場を目を細めて確認する。
「グラマスよ、その言葉、ミサオのふるさとじゃ、縁起悪いらしいぞ?ふらぐ?が立つだか何だかで。」
以前にミサオとの酒の席で教わった、暁の牙リーダー、ジェイがセルジオのそばに歩み寄って不安そうに声をかける。
「・・・あのデカブツは始末出来た。間違い無い。」
ドリトスが確信を持ってつぶやく。
「・・・でも、アイツが残ってんのか?」
首を上の方へ向けて言うサブリナ。
視界に入る1人の男・・・いや、男の姿をまとった異形が宙に浮かんでいる。
その同じ時。永井家の皆が光に包まれ、気付くと鎧が綺麗さっぱり消えている。
「はあっ、はあっ、はあっ・・・パピ、どこなんですか?」
荒い息で座り込みながらも、ムサシが周囲を確認する。すると離れた背後に、それぞれの色の魔力が集まり、金色を成して人型を作ってゆく。
「あ〜あっ。何とか元に戻れたぜ!みんな、よくやったな!パピ涙がちょちょ切れる位嬉しいわ!さて。・・・あの野郎だけは絶対許せねぇ。みんな。疲れてるだろうけどもさ?村の連中を守ってやってくれ。・・・ヤツとは・・・タイマン勝負だ。・・・ステゴロでな。」
憤怒の形相で空をにらんで立つ、1人の男。
ミサオの、この世界最後の喧嘩が始まろうとしていた。




