第34話 聖教国の誤算、迫り来る竜影
「い、一体どうなっておるっ!誰ぞ、誰ぞ今の状況を報告せよっ!」
豪奢にしつらえられた馬車の中に怒号が響く。
前後左右を精鋭の上位聖騎士に守られた、聖カチオ教国の実質的トップ。
本来の最上位存在である枢機卿が精神崩壊を起こし、現在のカチオ教国内の全権力は、枢機卿代理であるエドワード・ギルモアに移っている。
そのギルモアを守る上位聖騎士の動揺する姿だけでなく、ギルモアの耳には遠くからも阿鼻叫喚の声がそこかしこから届いている。
「陛下にご報告申し上げますっ!」
いきなり停止していた馬車に、前方から駆けつけてきたであろう、伝令の上位聖騎士が馬上からギルモアの馬車に叫ぶ。
「この無礼者!この場所をどこだと心得る!」
急に馬車の横に馬を寄せた伝令に対し、警護につく上位聖騎士から怒号が飛ぶ。
「よいっ!その方、どうした?この状況は一体どうしたと申すのじゃ?申してみよっ!」
警護の上位聖騎士を抑え、飛び込んで来た聖騎士に事情を問うギルモア。
「はっ!・・・。」
口ごもる聖騎士。
「・・・報告があるのであろ?申してみよ。」
ギルモアは優しい言葉で重ねて聖騎士をほどこす。
「はっ!・・・先発で村に赴いた聖騎士の内、先発部隊と後ろから援護に入った後衛部隊の合わせて約1000名!加えて輜重の部隊とそれを守る聖騎士達合わせて600ほど、合計で1600もの兵が・・・目標である永井家の奴らに、無力化されたとの報告が・・・。」
少し震えた様子で、伝令の聖騎士がギルモアに現状を告げる。
「・・・今、何と言った?我の聞き間違いなのか?今一度報告を繰り返す事を許す。」
ギルモアには、伝えられた報告が信じられず、もう一度確認をする。
「はっ!・・・繰り返し申し上げます!先発隊200名と、輜重部隊より後方から詰めて行った800の聖騎士合わせて1000の兵、並びに兵糧等を担っていた、グレースの森手前で待機していた輜重部隊500と、それを守る聖騎士約100名の計600名、合わせて1600もの聖騎士たちが・・・既にその身柄を抑えられ、武装を解かれた上で、その場に縛られ、地面に転がされている状態だと何人もの聖騎士たちが目撃・確認しておりますっ!・・・只今詳細の確認を再度しておりますが、現時点で戦死者の報告は・・・何故か1人も、上がっておりません!」
「・・・我が国の精強たる聖騎士達は、あの忌まわしき永井家の居る村に、勢い良く向かっておったであろう!なにゆえにこの様な混乱を引き起こしておるのじゃっ!奴らがどの様な小細工を弄したのかは知らぬが、我らにはまだ1000の兵が控えておる!このまま前に急ぎ進みて、そのまま羽虫の村など蹂躙せよ!貴様達は何をしておるのじゃ!下知を、下知を飛ばせ!進軍せよ!」
馬車の絶叫するギルモアに、また別の伝令役の聖騎士が反対側の馬車の窓から声を掛けてくる。
「馬上から、失礼申し上げますっ!・・・続きの報告に御座いますが、永井家を始めとしたヒノモト村なる拠点の面々、やはり前もって策を練り、罠や魔法を駆使して我がカチオの聖騎士たちを翻弄した模様だと伝え聞いておりまする。しかもこちらの兵も、怪我人は出ていてもあくまで非殺傷の上での拘束を行っている様子にて、現場の指揮官たちも混乱の極みとなっており、陛下に今後の御判断を仰ぎたく馳せ参じた次第にございますっ!」
ギルモアが改めて馬車内から外を見回すと、馬上の警護の聖騎士や、徒歩の聖騎士たちにも表情に余裕が無い。
「・・・あのウジ虫如きの集まりに、我がカチオの精鋭が翻弄されたと?・・・何をしておるのだ!数は圧倒的にこちらが優位であろうがっ!我がカチオの指揮官たちは、無知蒙昧の集団だとでも言うのかっ!」
ギルモアの怒りは収まらない。
「そ、それが・・・永井家を始めとした村側の魔法による攻撃が、これまで見た事も無い規模の威力だったそうでして。こちらの寄せ手も、まともに戦闘もさせてもらえなかったと聞いておりまする。」
「それで貴様達は、おめおめと我の前に泣き言を伝えに参ったと。・・・そう申すのだな?・・・永井家よ。よくも我が国を、カチオの威光を愚弄したものだな。もう我慢出来ぬっ!・・・アレを使え。奴らにはどの様な手段を用いてでも死んでもらう。例のものを急いで出せっ!急ぎ村まで向かわせよ!」
ギルモアの怒りが頂点に達し、秘匿されていた手段の行使を命じる下知が、この場で下される。
「そ、それは・・・アレはあの村だけにとどまらず、近隣の地にも被害が!せめて近隣の国に図って・・・。」
警護の任に当たっていた、ギルモアのお側付きの馬上の上位聖騎士が、ギルモアに命令の制止を試みる。
「うるさいっ!小さな村如き滅ぼせぬ無能の集まりが今更何を言うておるっ!・・・近隣の国だと?そもそも異端者や信仰の薄き者共が巻き込まれようと、我の知った事か!我がカチオの教えに背きし奴らの命などどうでも良い。あの行方不明となったエドワルドの残した研究より、何とかモノにした至高の秘術。ここで使わんでどうする?・・・信心極めし者にこそ、カチオの加護は与えられる。貴様はカチオ様の慈悲を疑うておるのか?」
お側付きの上位聖騎士を睨みつけるギルモア。
「け、決してその様な事は!カ、カチオ様の御威光は我らにとって絶対にございますっ!」
目の吊り上がったギルモアに対し、必死に信仰への心酔を訴える上位聖騎士。
「ならば急ぎ村へと送るのだ!それと逃げる素振りを少しでも見せた聖騎士や信者の義勇兵たちには厳重な処罰を行うと伝えよ。・・・さぁ!この場にいる全ての兵力を、あの村に向かわせよ!残存する兵と併合させ、皆であの村を打ち滅ぼすのだ!行け!」
「はっ!貴様たちも我に続け!」
伝令役の聖騎士を連れて、お側付きの上位聖騎士がギルモアの馬車を後にする。
「・・・永井家の奴らは何故カチオの教えにことごとく逆らう?何故ここまで我を悩ますのだ!・・・あの様な異端者はこの世界には要らぬ!・・・この世界の異物は、必ず取り除かねばならぬのだ。」
ギルモアの発した、(この世界の異物)という言葉は、確かに真実と言える。異世界から来た永井家は、このイグナシアの地において、言葉通りの異物である。
しかしその異物こそ、この世界の主神であり、ギルモア自身の信仰の根源である、カ=チオに求められて現れた者たちだという皮肉。
自らの信仰を貫く為に、その信仰対象の祝福を受けた存在と戦う矛盾。
カチオ教国とヒノモト村の決戦は近い。
「我もこの目で奴らの絶望する顔を見るとしよう。・・・馬車を、馬車を急がせよ!早く!」
ギルモアの顔に歪んだ笑顔が浮かぶ。
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「・・・いよいよ本番といった所か。この程度で永井家の村が無くなれば、それはそれ。逆にカチオ側が崩れるのも又良し。・・・何より奴らの用意したアレがどこまで使える代物か、高みの見物と洒落込むとしよう。使えぬものなら、こちらもそれなりに、有効に利用させて貰うだけの事。・・・御方様のお力を用いて、どちらにせよ血の海と化すだけの事よ。やれやれ結果が待ち遠しい・・・。」
暗い洞窟の奥で舌なめずりをする異形。
元エドワルドが絡む闇の勢力も、この戦いに参戦する様子を見せている。
この戦いはもう避けようがない。
果たして永井に勝利はあるのか?まだ答えは見えなかった。
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「・・・遅ぇ。」
皿の上に乗った肉をフォークでつつきながら、不貞腐れた顔でミサオが言う。
先のカチオとの前哨戦における快勝後、来たる本番に向けて気合を入れ直したい所では有るのだが、いかんせん残存する敵本体の姿がまだ確認出来て居ない。
ミサオの様にポチッと移動出来れば良いのだろうが、そう何人も大規模転移など使える者は居ない訳だから縦長に兵が伸び、到着にも時間が掛かるのは必然である。
その上、敵の残存勢力は約1000名と聞いている。逆に言えば、そんな大部隊が一瞬で現れたなら、流石の永井家でも、誰一人無傷というわけにいかない。
「パピ?向こうも本腰据えてやって来るんでしょ?気を抜いて良い相手じゃないわよ?逆に敵の動きがわかってるだけ、ありがたいじゃない!」
クミコがミサオの気の緩みを諌める。
「歩兵も居るし、素人混じってる様だからなぁ。・・・わかんだけどさ。ヤツらの方にはウチの軽トラみたいな便利で早い乗り物はねぇし、昔ながらの馬と馬車だもんな。本当は俺が、現代世界でライフルとか機関銃とか仕入れりゃそれまでなんだろうけど、カタギの身じゃそれらを仕入れるのも中々・・・。アチコチ回って使えそうなもんは仕入れて来たけど、これだって念の為って事で用意したわけだろ?金の無駄遣いだよまったく。どこの世界でも、普通なら数の暴力ってのは脅威に変わりないから、住民たちには防衛手段与えてあるわけだけど。結局はウチの家族だから何とかなってるだけなんだよな。はぁ~あ。」
ミサオは下らない争いに嫌気が差し、ため息をつく。
「・・・敵の残存兵力が約1000名。その中には、教国の親玉もお出ましになってる様ですね。これまでのこちらの手の内も、流石に耳に入っているでしょうから。奴ら、どう出てきますかね?」
スープを口に運びながらムサシが問う。
「・・・森ん中入って来る前に、やっぱ警戒して色々小細工して来そうだもんなぁ。あ、サンくんそっちのヨーグルト取って!」
パンをほおばりながら話すコジロー。
「・・・出入りの最中だって言うのに、緊張感無いよね?ウチの家族。でもさ、ヤツらの事だから、普通の兵だけ用意して動くとは俺は思えないんだけどな?流石に前みたいな超神兵とかってもんは用意出来ないだろうけど。」
目の前のヨーグルトをコジローに渡しながら、疑問を呈するサンシロー。
「・・・でも、何が来ても守るのに変わりはないよね?でしょ!みんな。」
その発言をした人物に、テーブルを囲んだ永井家の皆の視線が集まる。
「何?僕、変な事言った?」
皆の視線に動揺する、発言者のジョロ。
「・・・お前、随分と大人になったな?ジョロ!」
ミサオが感心した表情でうなずく。
「・・・おじちゃんは感心したぞ?流石ワシのジョロ!この戦い終わったら、ワシのコネで騎士学校行くか?それともグランド・マスター継ぐか?」
コップに入ったオレンジジュースを口にしながら、笑顔で話すセルジオ。
「・・・あんたは家族の和やかな食卓に、何故毎回しれっと参加してるかね?そこまで本部ギルドも暇じゃ無かろうに。」
セルジオの言葉に呆れるミサオ。
「ふん!ワシは今、ただの冒険者!依頼達成まで戻れるか!」
「・・・いや、ありがたいのは確かだよ?確かだけどさ、周囲への影響ってもんは考えないと・・・。」
「あ~ミサオは細かい!戦いなんぞ、勝てばなんぼでも言い訳が立つ。・・・それでも、戦いに於いては、貴様の理想とする無血とはいかんだろうがな。」
何度も戦場を経験しているセルジオの言葉が、その場の空気を重くする。
「・・・俺もそこは腹括ってる。出来る限り無益な殺生とかはしないが、この村の人々守る為なら、躊躇はしねぇよ?」
「・・・それでいい。究極の選択ってやつだ。あれもこれもと言うわけにはいかんからな。」
(ガラガラガラッ!)
「お食事中すいやせん!総長っ!」
スーツ姿の獣人が1人、皆で食事を取る永井家自宅の居間に飛び込んで来る。
「構わねぇよ!まずは座って息整えな。・・・で、どしたぃ?」
ミサオが息を切らせた若い衆に、ゆっくりと言葉をうながす。
「へぃ!・・・奴らが、いよいよ来やしたぜ!長い隊列組んでゾロゾロと。・・・どうもカチオは現最高位の野郎も来てるみてぇです。」
「代理だか何だかってヤツだよな。・・・情報の裏もこれで取れたし、ここでぶっちめて、ケジメ取っちまえば良いって寸法だ。向こうの国まで攻める手間掛からねぇから、こっちとすりゃあ助かるな。」
ミサオはこの戦いで、カチオとの因縁をスパッと断ち切ろうと心に決めている。
「兄貴っ!今時間大丈夫っスか?あ!皆さんお揃いで!おはようごぜぇやす!」
続いて飛び込んで来たのは舎弟頭のグレン。こちらはサラシを巻いて・・・簡単に言えば神輿を担ぐ人達と似たような格好である。頭には鉢巻き。袖を通した白の法被に似た上着には、後ろにはデカデカと(永井一家)と入っている。ちなみに玄関には、グレンが履いてきた雪駄がしっかりそろえて置いてある。
戦いには絶対不向きなはずだが、ミサオが以前、グレンに見せた仁侠映画の影響が、悪い形で出てしまっている。
流石にミサオも止めたのだが、若い衆達も出入りの正装だと収まらず、仕方なく、身に着ける物への防御魔法の付与を、セルジオ経由で魔術師に頼んで事なきを得た。何気にミサオの出費がかさんでいる。
「兄貴。奴らの先頭は読み通り、森の手前で一度止まって、罠やら何やら確認しながら進んで来るつもりらしいですが・・・。先発部隊がコテンパンにやられてるクセに、聖騎士たちのツラに、何故か焦りが感じられねぇんですよ。」
グレンがその目で見て感じた違和感を、ミサオに口にする。
「・・・グレンも感じたか。・・・そう言えばお前さんは、空って見たか?なんだかわからねぇ異様な圧迫感。あんなの俺ぁ感じた事ねぇぞ?」
開け放たれたふすまの向こう、廊下の方から同じく永井一家の舎弟頭の1人、トニーが顔を出す。
「トニー。お前さんまでこっちに来たって事はよっぽどだな?・・・すぐ防壁の方に移動する。マミ、ごちそう様。毎日すまねぇな。」
ミサオがクミコに礼を言う。
「いいわよ。それよりも早く!よっぽどでしょ?」
「わかった。みんな!インカム耳にかましとけ!グレン!トニー!防壁まで走るぞっ!」
「へぃ!」
ミサオ・グレン・トニーの3人が、自宅から防壁の上へと一目散に走る。防壁の上からは、長く伸びる隊列が良く見えている。
「お~お~、雁首揃えてよ?これだけの人数で畑でも耕せば、よっぽど人様の役に立つのに・・・バカチンが!」
「そんな事より兄貴!ヤツらの隊列の上!あの空!・・・理由ねぇんですけど、こう、重いと言うか、迫ってくるもんがあるっちゅうか・・・。」
トニーが指差す空にを見るが、ミサオの目には空以外何も映っていない。
トニーも説明が上手く出来ない様である。
「・・・いや兄弟。俺も何か感じるわ。・・・身体がブルってやがる。」
グレンの身体が小刻みに震えている。
「・・・2人共、稽古の成果ってやつかな?確かにこりゃ、この世界でも初めての威圧感届いてるのは間違いねぇ。・・・これだけのヤバい力持った生き物なんてこの世界に居たのか?カチオの奴らが余裕かませるくらいの代物が?」
ミサオも生まれてから、一度も経験した事の無い感覚である。
「!・・・兄貴。ありゃマズいっ!奴ら、あんなもん引っ張り出して来るなんて、頭おかしいわ!」
空の一点を指差し、叫ぶグレン。
「あんな化け物、人が扱える代物じゃねえ!たかが村相手に、奴らぶっ壊れてやがる!あんなのが暴れだしたら、近隣の村や町、下手すりゃ国までで吹っ飛ぶだろうに!大体、生きてるなんて話、俺は聞いた事ねぇぜ?絵物語の代物だろうに・・・。」
信じられないといった表情のトニー。
「・・・よくわかんねぇが、お前等がそこまで言うってこたぁこの世界でも、よっぽどの事なんだな。一応スマホで調べて・・・いや、いいや。見りゃあ俺でもわかる。てか、このイグナシアにも、やっぱ居たんだ!・・・でもここで異世界あるある回収させるかよ?カチオの上の奴もバッカじゃねぇの?・・・グレン、トニー!魔術師部隊と弓隊!急いで上に回せ!前回と配置は一緒だっ!グラマスには入り口に回って貰え!俺もここで様子見てから動く!息子達もとりあえず上に回せ!急げ!」
「ガッテン!」
「了解!」
グレンとトニーが走り去る。ミサオは耳から伸びたコードに付いているボタンを押して指示を出す。
「・・・みんな聞こえてるか?聞こえてるリーダーたちは、周りに声かけてくれ!コンディションレッド!繰り返す。コンディションレッド!
敵陣営、先頭はグレースの森手前にて停止。カチオ教国側の兵力は、約1000。・・・前回の向こうさんの捕虜、頑張って何度も転移かけて、国の手前にぶん投げてきて正解だったわ。
・・・ちなみに兵力に関して言えば、正直なんとでもなる。それよりも、今の俺のいる場所から見えてる生き物の方が問題だ。
今までこの世界に来て、一度も話題に出なかったのが不思議だが・・・俺の故郷では、ありゃあ・・・ドラゴンって呼ばれている生き物だ。イグナシアではなんて呼ばれてるかは知らんがな。その、俺の故郷のおとぎ話に出てくる生き物が今現在、真っ直ぐこっちに向かって来てる。スピードを考えると、あまり時間は無い!
全員、配置につけ!グラマスと息子達は、そっちに向かったグレンとトニーの指示に従ってくれ!俺は防壁上で警戒してるが・・・場合によっちゃ、打って出る!まずはドラゴンへの対応優先!。だが、敵の聖騎士の動きも目配り忘れるな!戦闘体勢に移行!走れ!」
ミサオがインカムのボタンから手を離す。
「異世界ファンタジー小説とかじゃ、ドラゴンとかって勇者が戦う敵じゃねえの普通?この土壇場で、俺も想定外だったわ。課長さんも厳しいお仕事回してくれて・・・涙ちょちょ切れるぜ全く。」
ミサオはスマホアプリで、急いでドラゴンの情報を検索する。
「・・・希少種だぁ?そんなのわかっとるわ!今までこっちの世界じゃ、話にものぼって無いんだからよ。・・・体長が30メートル。だろうな?みんなが騒ぐんだから、その位あるだろうよ。魔法の攻撃仕掛けてきて使うのが炎のブレス。ま、あるあるだわな?ほんで、並の武器じゃ傷一つつかねぇ。鱗が硬いってのもお決まりか。・・・面倒くせぇな!・・・大体使役なんて出来るもんじゃねえって書いてあんぞここに!現実問題、ありゃあ誰かに操られて向かって来てるんだろうから、内容更新しとけよな?明らかに誰かの悪意でこっち来てんべや!」
空とスマホを交互に見ながらミサオが悪態をつく。
「パピ!」
「・・・アレがドラゴンか。・・・食える?」
「・・・デカいねぇ~!」
「・・・アイツを片付けなければ、始まらないな。」
ジョロ・コジロー・サンシロー・ムサシ。
ミサオの息子達が、ミサオの両側に並んで立つ。
「・・・みんないいツラしてんな?パピの自慢だわ。・・・お前さん達にゃ、先ずは魔法の連携でドラゴンの足止めを頼む。魔法師たちと弓隊は、カチオの聖騎士連中への攻撃任せちまえ。俺は村の入り口まで行って、グラマスと2人でかましてくるわ。・・・ムッちょん!何とか地上に落とす算段ひねり出してくれっ!・・・頼むな。」
ミサオがムサシに指揮の全権を任せる。
「・・・わかりました。みんな、俺が指示出すから、言う通りに動いてくれ!」
ムサシもそれに応えて早速思考を巡らす。
「「「応!」」」
弟達もその場で臨戦体勢を取る。
「なぁにがドラゴンだ。こちとら聖獣と課長さんに認められたチームが控えてるっつうの!・・・負けられっかよ!それじゃ、頼む!よっと!」
息子達に右手をあげたミサオが、防壁からそのまま地上に飛び降りる。
「パ!・・・歳考えて欲しいんだがな?・・・精々俺達も気合入れるか!行くぞ!永井家ブラザーズ!」
ミサオの行動に呆れつつも、ムサシが兄弟たちに気合を入れ直す。
敵は約1000名。そして・・・ドラゴン。太陽の光を鱗で反射しながら向かって来るその巨躯。黒い色の中に、キラキラとしたものが美しく映える。ミサオとしても、見てるだけなら幻想的とも言える。
「うおっと!・・・お前もたぎってる様だな?ミサオ。派手な登場しおって。」
いきなり頭上から現れたミサオに苦笑するセルジオ。
「へっ!グラマスに言われたくねぇって。この前は見せ場無くてブースカ言ってた御仁が何言ってんだか。」
笑いながら話すミサオ。
「いやいや、お前も同類だろうが!・・・しかし、まさかお前と共闘するとはの?楽しみで仕方ないわ!」
ほくそ笑むセルジオ。
「・・・ドラゴン相手にな人間2人でな?焼かれるかも知れんけど。」
相変わらず緊張をほぐすかの様に、茶化すミサオ。
「さて。まずはお前さん自慢の息子達が、どこまでやれるか、高みの見物か?」
その視界に徐々に大きくなる黒点を捉えながらも、余裕の表情を見せるセルジオ。
「落とすぐらいはすぐさ。問題はその後だわな。あの鱗、物理だけじゃ無くて魔法にも耐性あるみてぇだしな?無効ではないらしいがどこまで通用するのやら。」
こちらも同様に、まだ少し距離のある黒点を見据え、話すミサオ。
「・・・どうせお前は対策考えて居るのだろ?」
空の先に視線を向けたままのセルジオ。
「いや。当たって砕けろってとこだわ。」
ミサオは無策・・・というより、臨機応変に動く腹積もりでいる。下手に作戦を決めて動くと、イレギュラーに対応出来ない事を危惧している。
「砕けたら終わりだろうが!・・・お前はどこまで本気何だか。・・・まあいい。ほれ、クミコが持たせてくれた水筒。あのシュワシュワしたこおら?が入っとる。」
セルジオが、いつからか手に持っていた水筒をミサオに手渡す。
「サンキュ。・・・ぷへぇ。ゲフッ。」
炭酸のせいで、すぐゲップが出るミサオ。
「汚いやっちゃ。・・・そろそろか?」
「あぁ。こっからが本番だ。・・・身体強化!物理防御!魔法防御!グラマスにもな。」
ミサオがスマホをポチポチタッチして、セルジオと自分に魔法を付与する。
「ありがたいのじゃが・・・緊張感削ぐのう、それ。」
「仕方ないだろ?そういう仕様なんだから。」
バカを言い合う2人をよそに、空の向こうから向かって来る飛行物体。その巨体が少しづつヒノモト村に近付く。
異世界イグナシアでのドラゴンとの一戦が、ここに幕を開ける。




