第33話 ヒノモト初陣――血を流さぬ戦い、信を試す時
「えっと。・・・あっ・・・あっ・・・マイクテス、マイクテス!」
(キ~ン!)
「うっさ!」
ヒノモト村の広場中央付近に立つミサオが、大勢の住民の前で、1人で騒いでいる。時はヒノモト村一世一代の戦闘・・・ミサオ的には出入りの直前。
現代世界で事前に購入していた、手持ちの拡声器で、共に戦う者達への言葉を伝えようとしている場面である。
「あ~テステス。ん。・・・ここに集まるみんな!・・・やんなっちまうよな。俺達ゃ普通に働いて、楽しく毎日過ごせりゃいいのによ。なんだかんだと理由つけて、相手はお前等目障りだから消えろってよ。・・・ふざけんな!」
ミサオの前には、ヒノモト村の男手に加え、冒険者の中から志願して集まった義勇軍有志たち。そこにミサオの息子達やグラマスである個人で参戦してきた剣聖、セルジオ・トリニダス。クミコやリュミア、シスター・マリアにラティファの顔も並んでいる。
そこにいる皆が、ミサオの言葉にうなずいている。
「本当にくだらねぇよな?・・・考え方とか生き方なんて人それぞれだろ?気に入らなきゃほっとけってな。それをてめぇらの都合や思想で隔離とか排除とかした所で、敵増やすだけなのどうしてわからんのかな?まぁ所詮人間なんて、欲に弱い生き物ってこったよな。・・・実は俺もだけどよ!」
ミサオの軽口に、周囲で軽い笑いが起こる。
「ハッキリ言って無駄なんだよ。揉めるのなんてな!・・・傷つく者、悲しみにくれる者、悲劇しか生み出さない。・・・それなのに向こうさんは、やって来るらしい。・・・見えてる敵は知っての通り、あの聖カチオ教国だ。それに加えて、ウチらの家族が散々苦労させられた、あの闇憑きの元凶らしき勢力の影も気にしなきゃならねぇ。コイツらが今回一緒に動くか別々かは未だ不明。今わかってるのはカチオの奴らの先発隊が約2000名、こっちに向かっていると言う事だけ。こっちの数が・・・正直全軍で300そこそこ。数で考えりゃ、皆殺しだわな。」
ミサオの言葉に、その場に並んでいた幾人かの男達の顔が固まる。
「よく言うよ!コルテオでスタンピード止めて、一躍名を馳せたS級が、どの口で言っとるんだか。」
皆の一瞬の緊張をほぐすかの様に、1人の男がミサオの発言を気にも留めずに、不敵に笑う。
「・・・グラマス、真剣な話してんのに茶々入れんといてな?
あんたも現役時代は現場で散々暴れた口だろ?
指揮する立場から見ればそういうのが一番厄介なんだよ。今のあんたの立場なら、身に沁みてわかってるべよ?
大体立場考えろよな?あんた、末席とは言え一国の王子で王位継承権持ってる身分だろ?冒険者ギルドのトップが来てどうすんの?」
冒険者ギルド本部総責任者。グランド・マスター、セルジオ・トリニダス。
本来ならこの場所に居るべき男ではない。立場を考えれば、傍観に徹するのが当たり前である。
「・・・ワシ、一介の冒険者じゃから。志願したヤツ集めて来ただけじゃし?その内の1人じゃし。」
「あ!誤魔化しやがった!あのなあ。下手すりゃてめぇの国とカチオ教国と戦争・・・。」
「パピ!」
セルジオの言い訳に食って掛かろうとするミサオを制して、流れを止めるクミコ。
「まぁその話は後だ。・・・それはさておき!はっきり言う。相手の戦力が、2000から20000になろうが、実際はここに居る人間だけ充分で対処出来る。逆に過剰戦力かもな?・・・ただ、だからと言って相手をナメてっと痛い目見るからな?戦闘で怪我したら、軽傷だろうと村内の救護所にすぐ下がれ。手当てに関しては、俺の愛するマミを始めとした回復役が居るから安心しろ。人員に穴が空いたとこには、俺がすぐにフォロー入れる。他の場所でも、俺に気を使わずに気付いたら率先してフォロー入ってくれ。そこは臨機応変にな!・・・それと1番肝心な話。テメェがヤバいと思ったら・・・戦場なんか放っといて、逃げろっ!一目散に。無理して死ぬのは御法度だ!てめぇとてめぇの1番大事なもん、守る為なら悩まず走れ!俺は絶対責めないから。それだけはくれぐれも頼む。命大事にってやつな?」
ミサオが皆に頭を下げる。
「話すとどうも熱くなる。・・・長話もここまでにするか。・・・俺からの最後の言葉だ。仲間を信じろ!ほんで、俺達を・・・永井家を信じろ!村も大事。でも、命こそ一番大事。精一杯、命を守る戦いをしよう。・・・ヒノモトでの初の出入りだ!パッといこうぜ!」
言葉と共に、ミサオが右拳を天に突き出す。
「うお~っ!」
「やってやんぞ~!」
「地獄見せてやりますわ!」
「子供だと思ってたら・・・泣くのはカチオだからな!」
ミサオの目の前の皆が、拳を突き上げて奮い立つ。
「それぞれ決められた持ち場に付いて待機!現場のリーダーの指示に従え!指揮系統乱すのはまずいが、テメェの脳みそ、フルに使って常に動け。仲間のカバー忘れるな!解散!」
ミサオの下知に、戦う者たちが一斉に走り出す。
「・・・なんかやべぇ事口走ってたヤツ、ちらほら居なかったか?」
「1番やべぇヤツが何言っとるんだか。ほれ、お前は防壁の上!俯瞰で見とかんと。」
ミサオのぼやきに、セルジオが素早く突っ込みを入れる。
「グラマス?あんたは村の入り口の前に立つからいいよ?俺、下手すりゃ見てるだけで戦闘終わっちまうかもよ?」
「お前な?自分の立場をもう一度振り返って考えろよ?指揮官が先頭に立つ気満々でどうする!」
セルジオにしっかり怒られるミサオ。
「それと、ワシは今グランド・マスターの立場じゃなくて、一介の冒険者だと何度も言っておろうに!臨時のS級。そこは勘違いするな。」
「え?Sなの?この世界でS級って俺1人ってギルドで説明受けたはずだぜ?そこはやっぱ見栄張るの?」
「バカか!ワシは級など気にしとらんわ!本部の奴らが、 こんな時まで対面考えただけだわ!剣聖の二つ名だけでも重いのにいい迷惑じゃっつ〜の!」
その場でミサオとセルジオの舌戦が、繰り広げられる。
「・・・ねぇムッちょんにーにー、あの2人仲良いんだよね?」
「・・・なんだかんだ言ってもな。これだけ見ると、剣聖と異世界人が並んでるとは、誰も思わないだろ?ジョロは、あの2人を反面教師にして、真面目な大人になろうな?」
大人2人の会話にため息をつきながら、ムサシがジョロを諭す。
「・・・わかった。」
ムサシの言葉に、ジョロがセルジオとミサオを憐れむ様に見つめている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「止ま~れ~っ!」
「全体!停止!」
「停止っ!」
「止まれ~っ!」
長く伸びた隊列が、先頭の号令に次々と足を止めてゆく。
「これから我々は、目の前に見えるグレースの森に向かって進軍する!槍隊が先頭で、ゆっくりと索敵しながら進め!後ろに続く魔術師部隊は準備しておけよ!その後ろの弓隊も、いつでも撃てる様に矢をつがえておけ!所詮小さな村を一つ殲滅するだけの事。何も案ずる事は無い。数刻も掛からずに大勢は決するはず!そうなれば村内のあちこちから酒でも皆でかき集めて、酒盛りといこうか!足りるかは分からんがな!ア~ッハッハッハ!」
馬に乗った指揮官らしき男が高らかに笑い声をあげる。
「食料等の部隊はここでそのまま設営に入れ!気は抜くなよ!我らカチオの聖騎士!勝利をカチオに捧げよ!進軍開始!」
「応!」
指揮官らしき男の号令と共に、槍隊を先頭に、前線部隊が森に進んでゆく。その数は約200。
森への道は、村人やミサオ達の手によって綺麗に整備されている。馬車が2台横並びで通れるくらいに切り開かれた石畳の道。カチオの前線部隊は、その道を警戒しながら進む。
「・・・このまま走って村まで行ったらダメなのか?」
「・・・所詮村だろ?我ら聖騎士の相手では無いだろうに。上位の方々の慎重さにも困ったものよ。」
槍隊の中からぼやく声がそこかしこから挙がる。
数的優位と、獣人と人間の暮らす村に対する優越感。差別意識。
選民思想を植え付けられた聖騎士達には、負けるかもという想像力が働かない。
「わざわざ我らを導くかの様な石畳。これもカチオのご加護・・・。」
気の抜けた会話を続ける槍兵に対して、1本の矢が放たれる。
(シュン・・・バスッ!)
「ギャッ!」
「おいっ!敵襲だ!敵襲~っ!」
槍隊の1人の肩に刺さった1本の矢。
それを合図に、森の石畳の左右から矢の雨がカチオの前線部隊を襲う。
「盾で左右の防御!慌てるな!盾で守りながら歩みは止めるな!数は圧倒的にこちらの有利!進めっ!魔術師は左右に向けて火を放て!」
的確に指示を出す、指揮官役の上位聖騎士。大盾を持った者達が左右を固め、その影から魔術師達が詠唱を始める。そのまま進軍の先頭を進む槍隊の前に、数人の獣人と人間の姿が立ち塞がる。
「整列して、槍持ったのが横並びで10人ね。コジロー兄ちゃんどうする?」
「ん?やってみるか?リオ。」
「うん!・・・えっと、この身に宿る火の力。我らの仇となりし者達に、怒りの鉄槌を!炎弾連舞!」
いつの間に覚えていたのか、詠唱を終えたリオの頭の上に、数十の炎の礫が現れ、槍隊へと飛んでゆく。
「グッ!」
「ギャッ!」
「前!前にも盾を回せ!」
リオの強烈な先制攻撃に、早くも混乱するカチオの先頭部隊。
「・・・その、詠唱ってやつ。何気にカッコいいな?」
「いや、コジロー兄ちゃんみたいな無詠唱で暴れる方がカッコいいって絶対!」
「そうかなぁ?・・・ま、とりあえず、潜んでる仲間たちも、守らないとなぁ。」
そう言って、両手を左右の茂みに向けるコジロー。
「んじゃ、炎の盾!・・・じゃ無くて、炎の防壁!」
石畳と茂みの境に、コジローの立つ場所から森の外に向かって、青白い炎のカーテンがす〜っと伸びてゆく。高さにして約2メートル。魔法で出来た物だからだろうか、不思議な事に茂みの草や木々にその炎は燃え移らない。
その炎のカーテンに対して、カチオ教国側の魔術師から、魔法攻撃が幾つも当たる。しかしこの場合の炎での攻撃は意味が無く、水魔法も威力の差があって蒸発してしまう。
「な、な、なんだあの炎の壁は!矢が届く前に燃え尽きるのはまだしも、水魔法が蒸発?誰かっ!誰ぞあるっ!こ、後衛の部隊にすぐに増援を要請せよっ!こ、このままでは全滅じゃ!急げっ!伝令を走らせるのじゃっ!」
指揮官の任に着く上位聖騎士が必死に大声をあげている声が、コジロー達の前方から聞こえてくる。
「手始めはこんなもんか。リオ。みんなを下がらせるぞ?」
「応!」
コジローを始めとしたゲリラ部隊が、森に潜ませた面々に合図を送り、皆で村に方へと引き返してゆく。
「へん!何が聖騎士だ!課長さんとも話した事ないクセに、カチオ教国が聞いて呆れらあ!」
リオが後ろのカチオの兵たちに悪態をつく。
「ほら。リオもそのくらいにして、怪我する前に戻れ。気を抜くと、自分たちで仕掛けたワナに引っかかるぞぉ?」
リオを諫めて、そのまま村の方へと姿を消すコジローの部隊。
まだヒノモト村の戦闘は始まったばかりである。
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「・・・もしもし、聞こえるかぁ?こっちはとりあえず、カチオの先発、からかっといたぞ!」
ゲリラ部隊と共に走るコジローの耳から、腰へつながる1本の線。
その腰の部分には、黒い小さな箱状の物が付けられている。
ミサオがこの時の為に、現代世界から仕入れてきたあれこれの内の一つ。
永井家のメンバーやセルジオ、わかれて配置された場所のリーダー格に分配された連絡手段。
よくパチンコ屋のスタッフが付けている、インカムと呼ばれている通信機械である。
コジローは線の途中に付けられているボタンを押しながら、話を続ける。
「こちらのメンバーに怪我人は無し。向こうはリオの魔法食らって焦ってたぞ?」
「了解。敵さん、これで少しは警戒して、進行遅くなるな。次は俺が前みたいにやるから、早くみんなで入り口まで戻ってくれ。それを確認したら、魔法で一気に削るから。間違っても、戻るついでに狩りとかするなよ?」
コジローの言葉に対して、ムサシから返答が届く。
「ムッちょんさ?いくら俺でもそれはないよ。村には肉、これでもかって備蓄したろ?パピが用意してくれた冷蔵庫や冷凍庫様々だよ。」
ムサシの疑念にものんびりと答えるコジロー。
「・・・初手は撹乱。疑心暗鬼になれば行動も慎重になる。んで、そこを狙って戦力減らして・・・まあ、今んとこは計画通りか。コジョ、みんなが戻るまで、気を抜くなよ。ムッちょんは例のヤツ、頼むな!」
今度は防壁上に居るミサオからの声が届く。
「こっちは平気。」
緊張感が無い返答だが、そのくせ周りへの目配りは欠かさないコジロー。
「こちらも了解しました。サンくん、ジョロ。手筈通り頼む。グラマスは入り口前をお願いします。」
ミサオの言葉に、冷静なムサシの指示が飛ぶ。
「あいよ!1回防壁前から離脱する。」
サンシローの言葉が皆のインカムに入ってくる。
「僕もサンくんにーにーと行くね!」
それに続くジョロの返事も頼もしい。
「ワシの出番、残してくれよ!」
セルジオは相変わらず、頼もしい言葉をインカムに流してくる。
「よし!サンシローとジョロの動きに合わせて俺も行動開始する。それでも他の皆は、カチオの遠距離からの攻撃や、撃ち漏らしには備えておいてくれ!」
インカムからムサシの檄が飛ぶ。
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「サンくんにーにー。先ずは、にーにーからだよね?」
「おぅともさ!森を迂回するのは面倒だけど、聖騎士と輜重部隊とは分断しないとな。・・・お前の出番はその後だ。まあ狩りで言う勢子ってやつだな。ほら、あそこ!んじゃ早速行くぞ!」
隣に並んでニコッと笑ったサンシローが、ここでジョロより前に出る。
「了解!・・・ムッちょんにーにー!こちらジョロ!サンくんにーにーとこれから作戦開始しますっ!」
ジョロがインカムのボタンを押して、皆の耳に伝達する。
「わかった。・・・無理はするなよ?」
心配と信頼が入り混じった様な優しい言葉がムサシから発せられる。
「うん!それじゃ!サンくんにーにー、連絡終わり!」
足を止めないまま、大役を果たした雰囲気でうれしそうなジョロが、サンシローに報告する。
「いや、あえて言わんでも、俺にも聞こえてるぞジョロ?まぁ、ありがとな!んじゃ、いくか!まずは急激に周りの気温下げてから・・・吹雪でほいっと!」
森の外で荷を解いていた輜重の部隊と、それを守る部隊。そこから少し離れた所に残りの後衛部隊が長く続いているが、輜重を守る部隊に前線から伝令が届いたのか、慌てて森の中に兵が動き出してゆく姿がサンシローとジョロには見えている。そして輜重部隊と後衛部隊の間に、いきなり吹雪が巻き起こる。
「な!何だこれは!馬!馬を抑えろ!早く!」
「何で我らの部隊の後ろの一点だけに?後衛部隊の姿が、これでは確認出来んではないかっ!どうなっとる!」
いきなり現れた吹雪のカーテンに遭遇し、輜重部隊にパニックが起きる。
「・・・じゃあ僕もやっちゃうよ?壁!壁!そっちも壁!戻らせないよ?」
サンシローを置いて走り続けていたジョロが、最後衛の部隊の更に後ろから、続々と地面から土の壁を出現させる。
ちょうどコの字を作る様に、高さにして5メーターくらいに見える、そびえ立つ何十枚ものツルッとした表面の土壁が、敵の部隊を囲いながら退路を塞ぐ様に生成される。
「敵の魔法ですっ!兵の退路が塞がれました!」
「焦るなっ!後ろが駄目なら前に詰めるしかなかろうが!声をかけてどんどん前に詰めろ!そのまま止まらず押し込む様に、先頭に伝えよ!急ぎ敵の村を攻めよと!」
輜重部隊と後衛部隊、共に混乱の極みとなっている。
「・・・ムッちょんにーにー。俺はもう少し吹雪で抑えるよ。ジョロは戻して良いよね?」
サンシローがムサシに確認を入れる。
「・・・了解。ジョロの壁のおかげで聖騎士の後ろが詰めて来た様だな。無理に前に詰めた兵たちが、横に広がり始めてる。これも想定通り。ジョロ!サンくんの言ったように、こっちに戻れ。」
参謀役のムサシが、戦場を俯瞰しながら作戦を淡々と遂行してゆく。
「言われる前に、もう走ってるよ!ハハハッ!・・・コジョにーにー達の仕掛けたワナで、聖騎士達が、木の所でブラブラしてる~!」
足首をロープに取られて、逆さ吊りになった幾人もの聖騎士達を横目に見ながら、ジョロがヒノモト村の入り口へと戻ってゆく。
「あと5分もあればいいか。防壁上の弓隊と魔法師隊は、俺の動きがあってから行動!下は・・・まあ何とかなるか。・・・じゃあお前さん達は、俺が魔力を練ってる間、無防備になる俺のガードを頼む。」
ムサシがインカムを通して指示を出し、村の外に居るメンバーにも直接声をかける。
「任せて下さいリーダー!元白犬のヤツらの心意気、ここでしっかり見せてやりまさあ!・・・ムサシ参謀の代わりに俺が指示を出す!防壁上の弓隊構え!魔法部隊、まずはムサシ参謀の前に結界展開!カチオの奴らは魔法がお得意だからな?物理攻撃だけだと思うなよ!」
「応!」
ムサシから一次的に指揮権を引き継いだ元白犬の衆のリーダー格が、残りの元白犬の衆の面々と共に、ムサシを囲んで守る体勢を取る。
「森の木々達には少し迷惑かけるが・・・いずれまた植樹もしよう。だから今は許せ。・・・これだけ兵が前に固まってればいけるか?・・・沈め!裂けろ!天地離反!」
ムサシの高らかな声と共に、森の中でもたついていた多くの兵たちの足元が鳴動する。
(パキパキパキメキッ・・ブチッ。ブチブチブチズゴゴゴゴゴゴ・・・。)
「・・・な、な、うわぁ~~~!」
「待て!これは・・・落ち!落ちる~~~っ!」
(ブロゥ!ヒヒ~ン!)
「カ、カチオ様~!」
ミサオ達が構えて待つ防壁上から見える光景は、圧巻の一言に尽きる。森の地面がズブッと、広範囲に沈み込む。1メートル。2メートル。3メートルとどんどん下へ。聖騎士達が前に詰めるだけ詰めて、広がった範囲だけ。無駄無く、深く。
地面が裂けた部分の土砂や木々は、沈み込んだ側に降り注ぎ、そのそばにいた聖騎士たちが巻き込まれている様に見えるが、土煙がもうもうと立ちのぼり、細かな状況は掴めない。
「・・・リーダー、また前より凄くなりました?」
指揮権を引き継いだ元白犬の衆のリーダー格が、ムサシの顔をのぞき込む。
「そのリーダーって呼ぶクセ、相変わらず抜けないな?俺はムサシだぞ?」
苦笑しているムサシだが、リーダー格の指摘の様に、以前と比べても魔力の量・操作の精密さが段違いで上がっている事が、誰の目にも明らかに見える。
聖獣との出会いの後なのだから、変わっていなければムサシとしても意味が無い。
「手間を取らせたな。指揮権を戻してもらうぞっ!こちらムサシ!弓隊!適当に沈んだ地面の方に矢をばら撒け!気にする事は無い。向こうも死にたくなければ矢を避ける!魔法師隊も魔力の枯渇に注意しながら交代でぶっ放せっ!」
防壁上の部隊に声をかけてから、村の入り口にスックと立つセルジオに呼びかける。
「グラマス!敵の動きはいかがですか?この状況をどう見ます?」
大きな魔力を消費しながらも、息も切らせずセルジオの横に立つムサシ。
「・・・ムサシよ?お前どんだけよ?こっちにまわせと言ったろうが!」
村の入り口正面に立ち、八つ当たり気味にムサシに言うセルジオ。
村の防壁の周囲で身構えていた部隊の皆が、ムサシの魔法の結果に呆れている。
「それじゃ、こちらに居る者たちを連れて、クレーターの下の者達への牽制に向かいましょう、グラマス!・・・ウズウズしてるのがまるわかりですよ?」
「いやいや!・・・そ、そんな事は無いぞ?それに、お前の魔法の補完をしようと、可愛いチビ助が懸命に頑張っている姿が見えているからのぅ。今すぐにどうこうなるものでもなかろ?」
ムサシはセルジオに言われるまで気付いていなかった。
セルジオが指差すクレーターを改めてムサシが目を細くして確認する。
「空気は吸えるようにして・・・。でも人は通れないように。別に上とかだけじゃ無いもんね!想像力。」
クレーターと化して沈んだ地面。その切れ目から中央部分に向けてジワジワ生成される横向きの壁。ジョロはクレーターとなった部分に魔法で蓋をしようと動いていた。
「・・・あの末っ子が、ここまでやれる様になったか。さすがワシのジョロ!良きかな良きかな!」
何故かこの状況にご満悦の剣聖セルジオ。
「・・・確かにこれなら急ぐ必要は無いようですね。・・・パピ!聞こえますか?大勢は決しました!こちらの負傷者・・・0名。敵も、今の想定では怪我人は若干名に見えます。サンシローとジョロのバックアップで・・・終わった模様。これからゆっくりと敵の武装解除に向かいます。その後は?」
ムサシがインカムで報告を入れる。
「・・・はいはい、ウチのメンバーは優秀過ぎて、出番無かったのには怒りませんよ?これって前哨戦だもんな。・・・相手のカチオ教国は魔法が得意だから、それを封じる魔道具。手枷は必ず持ってけ。数足りるか分からんから、その辺はグラマスと相談してから現場判断でよろしくな。。
上から見てたけど、クレーターんとこのあれ、ジョロだろ?ならジョロに言って、人1人通れる隙間開けて、ムッちょんが重力魔法で一人ずつ引っ張り出せよ。なるべく偉そうな、指揮権あるのを少しずつ。そんでナシつけて、みんな武装解除してから、縛り上げちゃえ。んで、その後手間だけどムッちょんが地面戻してくれりゃ、ポチッと国までまとめて送り返してやるわ。これやったら恥ずいぜ?奴ら。」
「・・・この後、後ろに残った隊も前に来ますからね。向こうが手をこまねいている間に情報と物資は得たいですね。武器も取り上げてから放逐しなきゃいけないでしょうね。村ではこれだけの人数、捕虜にしても食わせていけませんし、命を無駄に取っても・・・。パピの指示通りに動きます。サンシローの方にも幾人か向かわせてこちらに戻しましょう。後衛、残存してる本隊にもかましてやりましょう!」
勇ましいムサシの声が、インカムをつけている皆に伝わる。
「あいよ!・・・ご苦労さん、参謀役。いや、指揮官だな。ムサシ将軍?」
「やめて下さいよ!パピは本当、こういう時でも茶化しますよね?」
ミサオは本気で褒めているのだが、何故か不貞腐れた顔をしてムサシは答える。
「・・・謙虚は美徳っつっても限度あるけどな?能ある鷹は爪を隠す。いや、ワンコだな?ムッちょん。」
「もうパピは放置します!・・・グラマス、私達はジョロの方へ向かいましょう。コジョはサンくんの迎えを頼む!村内の人間の、各部隊から2人を選抜の上、その人員は倉庫に隠してある、魔道具の手枷をあるだけとロープを持ってこちらに来てくれ!」
ムサシがインカムのボタンから手を離し、グラマス以下数名を連れてジョロの動いている方へと歩き出す。
「今回出番無しか・・・。人数多い時って本当役立たずだよな俺。」
やる事が無く、肩を落とすミサオ。
「あなたが前を向いて立って居るだけで、みんなの希望になるの。そんなクヨクヨしない!この後見せ場作るんでしょ?どうせ。みんなの父親がしょぼくれてどうするの!」
クミコがミサオの背中を叩いて励ます。
「痛い!・・・ホントは痛く無いけどさ?マミの勢いに思わず言っちまったよ!・・・ウチの家族は主役級ばかりだから、俺脇役なんだよな・・・。マミ怖いし。」
「パピ?何かお口が悪さしてません?」
「いえ!そんな事ございません!・・・俺も今は暇みたいだから、少しの間だけムッちょんのフォロー行くわ。精々みんなを、代わりにねぎらってやってくれ。マミ頼むね?」
「はいはい。パピも無理、しないでね。」
「無血の勝利。今は噛み締めとくよ。んじゃ又後でな!」
クミコに見送られ、防壁上からいきなり飛び降り、森へと駆けてゆくミサオであった。




