第32話 迫る聖戦――狂信と闇、そしてヒノモトの覚悟
ここは、聖カチオ教国のシンボルである大礼拝堂の 最上階。
その玉座に座るのは、この国の実質的トップ。
枢機卿代理であるエドワード・ギルモアは、テラスから見える山の方角に視線を投げながら、苦々しげに言葉を放った。
「全ては、あの家族よ!あの異端どもが余計な真似をしなければ、このカチオの未来は約束されていたのだっ!」
脇に控える聖騎士達が息を呑む音が聞こえる。
「我が国の教義こそが、この怠惰にまみれた世界を正しく導く唯一の光!それなのに奴らは我等の大望を、己の欲だけで全て塵と変えてしまった!」
ギルモアの声が次第に熱を帯び、玉座の間に響き渡る。
「この私が、必ずやあの家族に血の粛清を施し、この地に我等の大望を顕現させてみせる! あの異端どもに、カチオの慈悲を授けてやるのだっ!我がカチオ教国の聖騎士達による、剣の一閃と共に!」
部屋の隅で控えていた伝令役の聖騎士が、恐る恐るギルモアの前に進み出る。
「枢機卿代理陛下。ご報告が・・・。」
「何だ、申してみよ。」
ギルモアが不機嫌そうに睨みながら、座ったまま聖騎士の言葉を待つ。
「はっ!・・・先に永井家の潜伏する村に差し向けたノーチェと潜入班で御座いますが・・・異端者共に察知され、村の外に追い出されたとの報が・・・。」
一瞬、ギルモアの顔が引きつり、沈黙が流れる。
やがてその口から低い声が漏れる。
「追い出された・・・だと?」
「はっ!命までは奪われずに済んだ様ですが。・・・こちらの動きは完全に見破られ、村の外に隠れていた者達も襲撃すら叶わず、放逐された様にございます。」
ギルモアの手が、玉座を軋ませるほど肘掛けを強く握り締める。
「ふ、ふふ。・・・異端がっ!カチオの光に照らされずに生き延びようなどと愚かにも程があるっ!」
彼はゆっくりと立ち上がり、テラスの向こうに見える、山の方角を睨み据える。
「構わぬ。その様な些末な事。・・・私は自らの手で、奴らを焼き尽くしてくれる。全軍に告げよ。ヒノモトなる異端の巣を、灰に変える準備を整えよっ!カチオの慈悲の恩恵と共に!」
「カチオの慈悲の恩恵と共に!」
ギルモアの言葉に、そばに控えていた聖騎士達が声を揃えて応じ、玉座の間に緊張が走る。
ギルモアの瞳は、遠くの山を射抜きながら、狂気を宿していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
異世界イグナシアの、どこやも知れぬ山の中腹。
人を寄せ付けぬ断崖絶壁の、奥深くにまで穿たれた洞窟。
その深奥部にある黒い石で出来た窪みの前に、永井家と雌雄をまみえた人間の姿でエドワルドを名乗った、今は人では無い何かが立っている。
その何かの眼前に浮かぶのは、透明な球体。
球体の中では、ゆっくりと黒い渦が絡まりながら蠢いている。
「御方様におかれましては、本日もご機嫌麗しゅう・・・。」
エドワルドの姿をしたその男は、その場で跪き、深々と頭を垂れる。
「・・・報告にございます。」
元エドワルドの後ろから、一匹の闇憑きが這い寄るようにして現れる。
人の姿に一瞬見えるが、その腕は異様に長く、脚は獣のそれに近い。
「・・・あの村への探り役であった、カチオの密偵ノーチェなる者。やはり失敗にございます。
本人は、永井家に見逃され、村の外に叩き出されたとの事」
「フフッ・・・見逃された、とな?」
人語を解する闇憑きの報告に、エドワルドは球体を見つめながら、口の端を吊り上げた。
「面白い。・・・面白いではないかっ!やはり、あの男、あの家族は甘い。所詮は人間、いたずらに血を見る事を禁忌とするか。」
球体の中の渦が、ぐるりと一周する。
まるでそれが笑っているかの様に、闇の気配が洞窟内に充満する。
「・・・しかし、油断は出来ませぬ。教国の動きも、いよいよ活発化してきております。
・・ギルモアが軍を動かし始めたとの報も。」
喋る闇憑きが言葉を続ける。
その言葉に、エドワルドはふっと鼻で笑った。
「当然だ。あの愚かな枢機卿代理が、あの一家を憎まずしてどうする?カチオの教義を旗印に、またも独りよがりの正義を掲げ、こちらの手を煩わせずとも、勝手に突っ込むであろう。・・・永井家を潰せば英雄となって狂った教義の布教に邁進し、負ければ殉教者になれるだろうと盲信しておるのだからな!」
手を広げ、元エドワルドは洞窟の奥にこだまするように笑う。
「どちらが消えても、我等にとっては愉快な事!どちらも削れ、どちらも滅びればなお良い。
・・・それでも生き残った虫けら共は、御方様の本当の御威光で一掃してくれようぞっ!」
絶叫する元エドワルド。
その声に合わせたかの様に、浮かんだ球体の中の渦の動きが、少し速くなる。
(ビシッ!・・・ビシッ!)
球体から漏れ出た黒い霧が、洞窟の壁へと吸い込まれ、小さなひびを生む。
「御方様!今、今しばらくお待ち下さい。この地の忌まわしき血と魂が、全て御方様に捧げられるその時まで。・・・我が骨身、我等が勢力の全てを以て、この地の人間共を地上から根絶やしに致します故に。・・・手始めに、カチオ教国と永井家の住む村との小競り合いで生き残った方を血祭りにして、我が勢力のこの地への侵攻の足掛かりと致しましょうぞっ!」
絶叫する元エドワルドの言葉を受け、球体の中の黒い渦が一瞬だけ発光し、その洞窟内には小さな、低い声が響いた。
(ククククッ・・・。)
その声を合図に、元エドワルドは再び球体に対して頭を垂れ、その場から立ち上がる。
「御方様の御手に、この世界を。」
元エドワルドが振り向き、洞窟の奥から外の方へと静かに歩き始める。
背後に控えていた闇憑きも、その後へと続く。
「御方様の御手に、この世界を!」
(ククククッ・・・ククククッ・・・。)
洞窟には、不気味な笑い声がいつまでも響き渡っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ミサオを始めとした永井家の、今では本当の生きる場所となった異世界、イグナシア。
その地に作った、仲間達との拠点。
何人にも縛られない村、ヒノモト。
そのヒノモト村にある永井家の自宅に併設されている道場から、幾人もの声が聞こえている。
(せいっ!)
(どりゃあ!)
(そこまでっ!)
道場に響き渡る、活気のある声と息遣いが静まってゆく。
「ふぃ~っ!お疲れさん!」
「ありがとうございました!」
ミサオの声に、大勢の者達が礼を返す。
ここに集まっているのは、永井家の息子たちを始めとした村内の人々。老若男女、人間と獣人。永井一家の若い衆も混じっている。柔道着に似た姿でその場に正座をしているのは、約15名。
皆の前に向かって、同じく正座をして黙想をしていたミサオが、目を静かに開いて静かに語りかける。
「この村、ヒノモトも大分落ち着いて来た。・・・きたんだがな。このタイミングで予想通りに、よからぬ奴らがくだらねぇちょっかいをかけてきやがった。・・・カチオのバカ共がな。」
ミサオの言葉に、前に座る村人達の顔が引き締まる。特に、獣人保護区から来た幾人かの獣人達の目は吊り上がってゆく。
「この村に来てもらった時に話したが、敵になるのはあの国だけじゃねぇ。闇憑きの発生の根源に関わる、教国に紛れ込んでエドワルドのふりしてた奴の勢力。コイツらもこの状況使って攻めて来てもおかしかねぇ。・・・それを見越しての、自己防衛の手段の構築。・・・それの一つが、今のみんなの稽古だわな。」
ミサオはそこで足を崩してあぐらをかく。
「おぅ。みんなも足崩せ!長い話は疲れちまうからよ!・・・話戻すけど、この村にも、いよいよ出入りがありそうなキナ臭ぇ匂いがプンプンしてきやがった。軽トラ配送部隊からも噂が、俺の所にはチラホラ入ってきてる。
・・・悲しい話だが、今日これから行う村民への周知をもって、このヒノモト村も準戦時体勢へと移行する!行動開始は明日の朝!
・・・家族単位の住民は、旦那を除いた嫁さんと子供の、湖近くの例の地下シェルターへの避難を最優先。
シェルター内の食料の備蓄は、湖からの水の供給設備も構築し終わっているし、備蓄も3ヶ月は外出なくても平気だから安心しろ。
その為にみんな駆けずり回って、食料溜め込んだんだからな。・・・続いて、戦闘に参加する者は、それぞれ武器・防具の点検と配置の再確認。普通に考えたら、圧倒的人数差で玉砕必至だが、そんな状況にはさせねぇ!
こっちも絵図・・・って言ってもわかんねぇか。作戦は練ってるからな?」
ミサオが皆に向けて、ふてぶてしく笑う。
「今、一家のもんが村内の総員に声かけて回ってる。こっちはこっちで、冒険者ギルドの方からも、教国の動きや戦力なんかの情報を、裏で俺達に流して貰ってる。・・・その上ありがてぇ事に、基本は利害で動く冒険者達の中からも、手助けしてぇって志願者たちが幾人も、こちらに向かって来ているらしい。義勇兵だってよ?・・・捨てたもんじゃねぇよな!人間も、獣人もな!」
ミサオの発言に、座っている者の中には、うなずく者や涙ぐむ者も見受けられる。
「どうもギルド本部のギルマスも直々に出張って来るらしいしな!俺からしたら、後で面倒になりそうだから、後方支援だけにしてくれって言ったのによ。まったく、ジジ馬鹿と言うか、義理固ぇと言うか。・・・周りを巻き込んだ出入りにしたくねぇからこその、あえてのヒノモト村って独立した共同体って形でもあるんだが・・・剣聖さんはどう誤魔化すのやら。この件に関しては俺もお手上げだ。」
ミサオがため息をつく。
「最前線には、永井家と永井一家のもんが出る。せっかく村をグルっと一周囲った防壁作った訳だから有効活用して、基本、他の戦闘部隊は籠城戦になる。
森である程度敵の数減らして、村の入り口まででどれだけ俺達が持ちこたえられるか・・・。
その後は総力戦になるだろう。村の中にも敵は突入してくる事を覚悟して動かなきゃならん。
・・・正直、怪我人がゼロとは言えねぇ。もちろん、その時の為の救護体勢も俺達で考えてる。
・・・欲を言えば、身内も相手も傷付けたくねぇけど、ケンカ売ってんの向こうだし、そういう訳にもいくまいよ。ここでケジメはつけなきゃな。」
言葉を切って、ミサオが皆を見回す。
「・・・今回の出入りは、この世界の異変の根っこが絡む戦いになると俺は考えている。だから、休戦だとか撤退なんてもんは一切無ぇ。勝利!・・・これが絶対条件だ。」
ミサオを前にした周りの皆が、生唾を飲む。
「今のみんなに必要なのは、適度な緊張感。もちろんいつも通りの下らねぇ話もしてくれや。心配すんな!・・・俺達はやれる。なんてったって課長さんのお墨付きだ。この世界の神様に祝福された村だぜ?すげぇよな?」
ミサオの前の皆が小さく笑い合う。この村の住民たちで、この世界の主神と崇められている課長(カ=チオ)の行う奇跡の恩恵を、直接であれ間接的にであれ、受けていない者など1人も居ない。
「いい笑顔だ!緊張し過ぎたってロクな事ねぇからよ。さぁ、気が乗らねぇが、出入りの前だ。この後、広場で宴を開く!全員強制参加!明日の朝からの事は、忘れない様に念押しとくぞっ!・・・それが終わったら、住民避難の完了に続けて、明日の昼過ぎを目安に戦時体勢の構築!・・・改めて、皆の命。預からせてもらう。そして精一杯の努力を約束する!・・・よろしくお願いします。」
正座のまま皆に対して畳に手を付き一礼するミサオ。
それに合わせて向かい合った皆も礼を返す。
「全員黙想!・・・黙想やめ!解散!」
ミサオの声で皆立ち上がる。皆の顔には赤みが指している。1人ずつミサオに一礼し、廊下に出て又道場に一礼の上、その場を後にしてゆく。
「・・・見た感じとしちゃあ、恐怖に囚われてるヤツぁ1人もいねぇな。向こうの世界だったらションベンチビりそうな展開だけんども。・・・やっぱ命のやり取り経験してる人間は、腹の据わり方が違ぇか。あ!坊主達!置いてくなって!パピも昼飯誘えって!」
道場から出て行く村人達の中に紛れる息子達に、慌てて声をかけて立ち上がるミサオ。
いよいよ、この日常を守る為の戦いが始まろうとしている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ムッちょん!避難の誘導は?」
「・・・元々そこまで多くは無いですからね。老人が17名に幼児が8名。戦闘に参加させない病人3名。女性の中で子供達の面倒を見なければならない方たちも居ますから、全部で40名くらいがシェルターへの移動を完了していますね。それと、薬師2名に治癒魔法の得意な者1名、一家の若い衆から警護役を2名回してます。」
「・・・あと4名、ガードに回せねぇか?シェルターの中と外に、交代要員必要だろ?無いと思うがまさかの時に、手助けしながら逃げる時にも、2名じゃちと辛いと思うぞ?」
「言われて見ればそうですね。・・・では、若い衆の中からあと4人。力のある者を回します。村の外・・・防壁周りの罠の進捗は?パピ。」
「おぅ。そっちはサンくんがやってるはずだ。」
ミサオとムサシが、ヒノモト村の入り口で話を進めている。
入り口を正面に見て右手、村の外側の防壁に沿って、幾人かの男達と共にサンシローが、タイミング良くミサオ達の方へと歩いてくる。
「あ!ムッちょんにーにー!パピ!とりあえず外側の堀に、水を張り終わったよ!」
サンシローの元気のいい声が響く。
「サンくんご苦労様。防壁は垂直じゃ無くて、上部を張り出させて容易にハシゴをかけられない仕様にしたし・・・。ホント、ジョロいてくれて助かったな。・・・後は森か。パピ、コジョは?」
ムサシが冷静に、ミサオにコジローの動静を確認する。
「ん?村人と義勇軍の冒険者、何人か連れて罠の設置だろ?」
話している永井家の3人が居る所に、丁度森からの声が近づいてくる。
「・・・こっちで俺がバカスカ打つ訳にもいかんからなぁ。炎使うにしても、森だと延焼の恐れあるから、ピンポイントで敵削る感じかなぁ?」
のんびりとした声の主はコジローである。
「コジロー兄ちゃん!俺も大分上手くなったよ!見てて!パン!」
(パスッ!・・・ガサガサガサッ。)
「・・・又食料ゲットかっ!リオ、お前も炎使えたなんて、俺もびっくりだよなぁ。」
コジローの隣には、辺境都市コルテオの孤児院育ちである少年、リオが付き従っている。その他にはコジローに鍛えられた狩人が10名程、その手にそれぞれ獲物と弓や槍を持って村の方へと歩いて来ている。
「へっへ~!でかにい・・・コジロー兄ちゃん見てたからな!毎日真面目に道場通って、適性見てもらったら水晶赤だったおかげで俺も指鉄砲使える様になったよ!・・・まだ兄ちゃんみたいに遠い距離は無理だけど。大体、1キロ先まで当てるのは異常だよ?」
「そうか?狩りにはあんま使わないけどな。それより、獲物はちゃんと取りに行ってこい。せっかくの食料なんだから。・・・お!みんな~!こっちも終わったぞぉ!」
村の入り口にいるメンバーに気付き、コジローが大きく手を振る。
「あ!コジョにーにーお疲れ!皆さんもお疲れ様でした!」
サンシローが森から戻って来たメンバーを大声でねぎらう。
「コジョ、お疲れ!みんなもな!・・・リオもご苦労さん。・・・お前さんも戦闘に参加するって聞いたが、俺はあんまり認めたくないんだよな・・・。危ないのは理解してんのか?」
困惑した表情で、ミサオがそばに来たリオにたずねる。
「親分!そりゃないよ!自分の村守るのに大人も子供も無いよ!それ言ったらジョロだって子供なんだから、ダメだって事になるよね?でも戦うんでしょ?だったら俺も戦える!・・・コルテオの時、俺は闇憑きの目を見て怖くなって震えてて・・・。でか兄ちゃんと暁の牙のみんなに助けられて、そん時思ったんだよ。もう守られるだけはイヤだって。」
真っ直ぐな目でミサオに訴えかけるリオ。
「誰だよっ!親分なんて言葉教えた大馬鹿野郎はっ!・・・それはそれとして、ホント、やんなるな。・・・お前さん、その歳でそんな顔するか?俺はお前の歳くらいの時、鼻垂れだったぞ?」
ミサオがリオの、男としての姿に半ば呆れる。
「・・・孤児院出身の子供達は、やはり精神的に辛い事を乗り越えてますからね。それもあっての、リオの魔力の高さなんでしょう。僕個人も、出来れば参加させたくありません。・・・が、戦力は1人でも多い方が良いのも事実。それに、グラマスの話だとカチオの先発隊、既にこちらに向かって進軍開始したそうですよ?時間は刻一刻と迫って来ています。」
苦渋の決断といった表情を、ムサシが見せる。
「カチオ教国からは、2000人くらいだっけ?またゾロゾロと雁首揃えて。あん時の戦闘見てるだろうになぁ。超神兵だがなんだかって奴を家族で倒したの。学習するって事が出来ねぇのかな?懲りねぇなぁ。」
ムサシの言葉にため息をつくコジロー。
「・・・お前さんのツラ見て、ダメとは言えねぇわ。・・・男の顔だもんな?リオ。」
ミサオは改めてリオに参加する許可を渋々与える。
「親分!・・・俺、やるよ!村のみんなを守る!」
喜びの表情となるリオ。
「コジョ?わかってるよな?」
ミサオがコジローの方を向く。
「分かってるってパピ。リオは必ず俺のそばに置く。俺が離れる時には、他の大人と一緒に動く事が絶対条件な。・・・で、良いんだよね?」
コジローがミサオに確認する。
「そういうこった。・・・俺1人で撃退出来るのが理想なんだが、俺は身体強化で格闘専門だからな?広い範囲を相手にする時は、みんなに苦労かけちまう。何かスマン。」
その場の皆に頭を下げるミサオ。
「何言ってんだよパピ。村の頭で一家の総長。なんてったって永井家の大黒柱。それが指示役しなくてどうすんの?」
サンシローがミサオに自覚をほどこす。
「いや、他の人間も出来ると思うぞ?俺、鉄砲玉レベルじゃね?こう、先頭で暴れる役?」
皆の前でシャドーボクシングを始めるミサオ。
「・・・あまりそういうのは、出入りの時に見せないで下さいね?現場の士気に関わるので。」
ムサシがミサオを諌める。
「・・・ウチの子供達がいじめる。父、悲しい。」
いじけるミサオを見て、その場に居た村人達や義勇軍の者達が苦笑する。
「ま、それは置いといて、配置は平気?」
気持ちを切り替えて、再度ムサシに確認するミサオ。
「基本は籠城戦。前線は森でのゲリラ戦法からの、防壁まで下がりながら相手の数を減らしつつ、最後にまとめて撃退。まぁ数減らしなので全滅とまではいかないでしょうが、後はその場で臨機応変に動く。作戦と言える程でもない内容ですがね。」
ムサシが肩をすくめる。
「撹乱かけて、罠でどれだけ減らせるか。遠距離からは防壁上から弓と魔法も適宜に追撃。永井家は場面見て遊撃ってのがセオリーだわな。・・・あ!グラマスも来るんだわ!あの人、指揮官に据えたら良くね?ほら、王子じゃん?一応。」
ミサオはなるべく頭を使う役から逃げようと画策する。
「パピ。一応グラマスは、個人の冒険者の名目で来るから無理だよなぁ。」
コジローがミサオの妄言を即座に否定する。
「チッ!・・・あのおっさん、使えるんだか使えないんだか・・・。結局は言っても飛び出して行きそうだしなぁ・・・。」
ミサオも自分でセルジオの行動が想像出来て、諦めの顔になる。
「剣聖捕まえて、舌打ちするのパピぐらいだから!俺達から見たら似たもん同士だよ?二人共!」
ミサオの振る舞いに叫ぶサンシロー。
「とりあえず、リオの取ったさっきの鳥?みたいなの回収して、中に皆で戻ろう。もうちょっと話を詰めるか。。」
ミサオの声がけで皆が村内に戻ってゆく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「・・・で、先発の者達は?」
「は!聖騎士1000名!信徒からの志願者各国から集まって約1000名の、合わせて2000。皆が士気旺盛・・・!永井家達の村があるグレースの森までここからは約10日ほど。兵糧を運ぶ者達も別で500名も連れておりますので、2日程の前後はあろうかと思われますが、遅くとも2週間もあれば勝利の吉報が陛下のお耳に届くかと。」
微笑みながら馬車の中のギルモアに、馬上から報告する上位聖騎士。
「人数の多寡には惑わされるな!貴様は忘れたのか?あの超神兵の末路を。・・・私は忘れた事など一時も無いっ!・・・枢機卿様の遠大なる計画を潰した永井家の姿をな!先発隊だけで事が成るとゆめゆめ思うな!・・・それはそうと、例のモノ。・・・用意は済んでおるのか?」
ギルモアが馬上の上位聖騎士に問う。
「はっ!準備は万端に。しかしアレを・・・本当にお使いに?一つ間違えれば国一つが吹き飛ぶ程の・・・。」
答えながらも、顔を曇らせ震える上位聖騎士。
「何をためらう?異端者をのさばらせれば、我らの教義に悪影響を呼ぶ。この世界の民を守り導く我々が、躊躇する理由がどこにあろうか。・・・あの者達は存在自体が悪。血を流させるだけでは済まさぬ。永井家に関わり、手を貸す者は全てチリと変えよ。その為の奥の手よ!・・・先発の者たちの様子は我に逐一報告せよ。下がれ。」
「はっ!失礼致します。」
ギルモアの言葉で、馬車から自分の馬を遠ざける上位聖騎士。
「・・・神兵の力を戦力とする事も中々叶わぬ折、あのような力を使役出来るとは、これぞカチオの奇跡!・・・我が国の教義と威光を世界の果てまで知らしめる新たなる一歩。その礎となれ永井家。汚く、惨めに這いつくばってその生涯を終えよ。クックック、フッフッフ、ア~ッハッハッハッハ!」
豪奢にしつらえられた馬車の中で、高らかに笑うギルモアだった。




