第29話 岩哭の大地――ジョロ、砂嵐と二つの属性
今日も今日とて旅立ちの朝。
永井家の末っ子、コジマル・ナガイ。愛称ジョロの試練の日に、永井家一同は元廃村の広場で、多くの人々に囲まれていた。
「・・・はいちゅうも~く!皆様朝からお集まり下さり、親としてとても嬉しく思っとります。・・・てか、なんでジョロの試練じゃこんなに集まってんのよ!」
ミサオが絶叫する。
様々な地域から集まった移住者達の新しい居場所。元廃村だったこの地も住居などはほぼ整えられ、学校を始めとしたインフラなども出来、畑でも作物がぼちぼち採れる様になってきている。
居住者も現時点で500に届くかという所。先日は、この地初めての移住者の出産を迎え、住人総出でお祝いもした。
そんな中での永井家ブラザーズの、この地を守る為の試練。
ムサシ・コジロー・サンシローの3人が無事試練を終えて迎えたジョロの旅立ち。
ミサオが目覚めて外に出た時には家の前に既に30人程集まっていた。
その後もちらほら人が集まりだすのを察知し、永井家の皆は急遽広場へと移動し、冒頭の場面へと戻る。
「あのね?ジョロの試練への出立に、集まってくれるのはうれしい。うれしいけどもさ・・・みんなやる事あんじゃないの?」
ミサオも困り顔になる。
「・・・あらあら、本当にジョロは人気者ねぇ。」
あまりこの状況に動じていないクミコ。
「・・・まぁ、ジョロだもんな?」
「ジョロならあり得るなぁ。」
「・・・予想通りだね、ムッちょんにーにー、コジョにーにー。」
ムサシ・コジロー・サンシローが三者三様に評する。
「・・・あれ?俺だけ?俺だけ把握してなかったの?・・・解せぬ。・・・まぁいい。ジョロ!お前もこっち来て挨拶しろよ!」
ミサオにうながされ、ジョロがミサオと場所を入れ替わる。
「・・・えと、皆様おはようございます!えと、ナガイ・・・コジマルです!・・・僕も今日、にーにー達に負けない様に、試練へ向かいます。・・・えと・・・パピ?」
言葉が思いつかないのか、泣きそうな顔でミサオの方を向くジョロ。
「・・・思った事言えば良いから。な?」
優しい笑顔で小声で諭すミサオ。
「ん・・・えと、僕もみんなの笑顔をずっと、ずっと見ていたいから、頑張って聖獣さんと会って来ます!!」
「頑張ってね~!」
「ジョロ、負けんな!」
「ジョロ坊っちゃん!良く言いやした!」
「大きくなったら結婚して~!」
集まった人々から激励の声が飛ぶ。
「ん?・・・何か最後の方、不穏な言葉が聞こえた気が・・・。さて、お前で最後だな、ジョロ。にーにー達が無事に乗り越えた事で、お前がプレッシャー感じる事はねぇ。お前はお前の思う様に向きあえばいい。」
ジョロの頭を撫でるミサオ。
「・・・うん。僕に出来る精一杯で、聖獣さんと話してみるよ。それじゃ、マミ、にーにー達、集まってくれたみんな!行って来ます!」
(うお~~~っ!)
歓声があがる。
「・・・ちょっとしたアイドルだなおい。行くぞ、ジョロ。・・・転移!」
ミサオがスマホをタップし、2人が光に包まれ消失する。
「お~い!ジョロ~!おじさんだぞ~!セルジオのおじちゃん来たぞ~!」
声がする方へ集まった皆が視線を向けると、遠くから砂煙をあげて何者かが向かってくる。
(パ〜〜〜〜ン・・・キイ〜〜〜〜ッ!ブォン!タッタッタッ・・・。)
この世界では珍しく、この村では見慣れた乗り物、ミサオが現代世界から調達してきた(バイク)が皆の視界に映っている。野山を駆け巡るには重宝するモトクロス用の形をした400ccのオートバイの左のミラーに、こちらも現代世界から調達したバイザー付きのヘルメットを引っ掛け、1人の男が住人の集まる場所へと駆け寄って来る。
「・・・お!クミコ!息災か?息子達も、この場に揃っていると言う事は無事試練を乗り越えた様だな。重畳重畳。・・・で、ジョロは?」
いきなりクミコへと話しかけ、周りをキョロキョロとしてジョロの姿を探す男。
トリニダス王国の末の王子であり、冒険者ギルドのトップ。グランド・マスターのセルジオ・トリニダスその人である。
「・・・来るなら来ると一言言っておいて下さいね、グラマス!いくらモトクロッサー贈呈してあるからって。・・・1人で気楽に来るのは構いませんけど、ちゃんとまわりの皆さんに引き継ぎしてきましたか?」
クミコが不安げな顔でセルジオに確認する。
「ん?平気平気!ウチのヤツら、優秀だから!それよりジョロは?」
クミコの話を聞きながらも、ジョロの姿を探すセルジオ。
「一足遅かったですね。見送り終わって皆解散する所ですよ?」
「何!・・・やはりあの時、報告なんぞ聞かないで飛び出すべきだったか・・・。すまぬ!すまぬジョロ!」
ムサシの言葉に地面に倒れ込み、うめくセルジオ。
「いやそこまで?どこまで甘いのグラマス?」
「このおじさん、ジョロに関して人変わるもんなぁ。」
呆れるサンシローとコジロー。
「・・・まあ、せっかく来たんですから、お茶でも飲みながら話しましょ?ね?そんな、泣かないで!」
クミコがセルジオを慰める。
「・・・決めた。ジョロの顔見るまで帰らん。出迎える。」
「・・・ムッちょん、本部に連絡入る様にした方がいいみたい。頼める?」
「・・・グラマス、威厳台無しですよ?・・・分かりましたマミ。段取りしてきます。」
ミサオとジョロの出立後も、この地は騒がしさは収まらない。
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出立後の一悶着もつゆ知らず。
ミサオとジョロは、目的地に立っている。
ここは異世界イグナシアの北の果て、岩哭の大地と呼ばれる場所。
寒冷な岩原が2人の目の前に、延々と広がっている。
「こっちもこっちで、北っていうくらいだからやっぱ肌寒いでやんの。昨日の西は、聖獣さんの力なんだろうけどこっちは気候って感じだわな。俺、さみぃのが2日連続。・・・てか、イグナシアって向こうの世界と近いとこ多いよな。・・・たまたまか?」
ミサオが首をひねる。
「うわぁ・・・岩場だね?この先に歩いて行けば良いんだよね、パピ?」
「その様だな。やっぱり俺は、この先入れんらしい。触るとシビれるな、少し。」
ミサオより一歩分先に立つジョロの身体。触れようとするミサオの手を、空間自体が拒絶する。
「こっからは1人だ。上手くやろうとはするなよ?真摯に神獣に立ち向かえ。」
「初めてだね、ちゃんと1人で動くのって。・・・不安だけど、僕も永井家だから。頑張って来るね!行って来ま~す!」
ミサオの言葉を受けて、足元の悪い岩場を駆けていくジョロ。
「足元気を付けてな〜っ!・・・末っ子もこんなに立派になっちまったか。・・・こりゃ早めに隠居して・・・。いやいや、俺はまだ現役で居るぞ!孫も曾孫も、あちこち連れて行かなきゃいけないんだから老いてる場合じゃねえわまったく・・・。さて。たまたまだけど、ふところに用意しておいて良かった。こいつで身体あっためながら、前祝いしときますかね。」
ジョロの小さくなってゆく背中を見つめながら、事前に準備していたスキットルを右手で取り出してそのフタを回すミサオ。
中に詰めていたブランデーを一口、喉に流し込む。
「今日ぐらいは構わんよな?・・・課長さんもどっかで苦笑いしてそうだけど。」
ミサオは近くの岩場に座り、見えなくなったジョロの姿を、いつまでも見つめて続けていた。
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「・・・どこまで行けば会えるのかな?どんな人?なのかな?」
期待と不安の中、黙々と前へ進むジョロ。最初にこの世界で獣人に変化を遂げた時と比べれば、その足取りにも力強さが見える。すると突然、ジョロの頭の中に謎の声が響く。
(・・・遅かったの?お主。)
「!」
(兄弟達の中でおぬしは異質。外の世界から来て、何故か我の末の血族に繋がるという。面白い。・・・ようこそ、我が子孫。)
謎の声の言うように、永井家の息子達の中で、ジョロだけは唯一、現代世界からの転移で獣人に(変化)したという経緯がある。兄達は特殊な形での(転生)という流れになっているのに。
「・・・これがにーにー達の言ってた声。頭に直接なんだね。えと、おはようございます!コジマル・ナガイです!でもみんなはジョロって呼んでいますっ!よろしくお願いします!」
その場で立ち止まり、90度のお辞儀をするジョロ。
(ほうほう、礼儀正しい子じゃな?わざわざ偉いの。ではこちらも名乗らなければの?我が名はバロル。この北方の守護をつかさどる聖獣じゃ。さてジョロ。お主はこの地に何を求めて来たんじゃ?)
声だけしかわからない聖獣、バロルがジョロに問う。
「・・・僕達はこの世界に、みんなが笑顔で暮らせる場所を作っています。でもその場所を狙って、色んな人達がこれから攻めてきそうなんです。・・・このままじゃ、みんなが悲しい顔になっちゃう。ラティファちゃんもリオもミナちゃんも、リュミアお姉ちゃんも、シスターも校長先生も、あの場所に住んでるみんなが・・・。」
その想いの丈を、聖獣バロルに伝えるジョロ。
(分かった分かった。皆まで言うな。で、ジョロ。・・・再度聞く。お前は何を求める?)
「・・・えと、みんなを守れる力。それと・・・。」
バロルの言葉に悩むジョロ。
(それと?)
「作る力?・・・うまく言えないけど、戦えば必ず何か壊れたり無くなったりするでしょ?その後で、みんなが生活していくのは大変。コルテオやカチオ。色々見て思った。だから少しでも早く、何とか出来る力を身に着けたいです!」
(その歳で戦後の復興まで思いを巡らす・・・お主本当に末っ子か?これでは私が導く程の事も無いのではないか?・・・しかし何もしないと言う訳にもいくまい。・・・のうジョロよ、今お主が出来る魔法、我に見せてくれぬか?)
「魔法?・・・はい。」
バロルの言葉に素直に従うジョロ。
地面に両手をついて、土壁や地面からの土槍を出し、自ら立つ場所の周囲から石礫を発射。
ジョロは今出来る魔法を黙々と続ける。
(・・・師匠も無く、ここまで出来るか。もう良いジョロ。土の魔法とは、土くれだけでは無いからの?属性だけで言えば岩や鉱石などもお主の力で生成出来る。地味に見えるが、中々有用じゃぞ?)
「岩・・・あ!じゃあ、これ!」
ジョロの言葉と同時に出現したのは、周囲の岩場と同質の大きな岩石。
(・・・大した説明も無くこれか?まったく、この子は1を聞いて10を知ると言うか・・・。ん?お主、土魔法だけではないのか?)
「え?何が?」
バロルの言葉にキョトンとするコジマル。
(お主・・・砂を周囲で荒れ狂う様に扱えぬか?何と言えば良いのか・・・そう!砂嵐!やってみてはくれぬか?)
「砂嵐?・・・地面の砂が風で飛ばされるやつの大きい感じかな?・・・砂。砂・・・風・・・大きく、大きく、凄く大きく!」
コジマルの言葉に合わせ、砂が風に舞い、周囲に集まり、渦を形成してゆく。
(・・・グオ・・・グオオオオン、ブォオオオ!)
「出来た・・・。でもこれ、どうしよう?」
(・・・やはりか。ジョロよ、それを思った方向に動かしてみよ。)
バロルの指示に、砂嵐を右に左に動かすコジマル。
(もう良いもう良い!・・・お主は教え甲斐が無いと言うか、飲み込みが早いと言うか。・・・それよりも2属性とはのう。)
バロルの言葉を測りかね、困り顔になるジョロ。
(お主、風の属性も持っておるの?気付かなんだか?)
不意に問われ驚くジョロ。
「いや、知りません。ギルドの水晶でも分からなかったし。」
(・・・この地でいきなり発現したか?これでは試練も何もあったもんじゃないぞ!・・・まあ良い。よく聞けジョロ。お主、土属性だけではなく、風の属性も持っておる様だ。でなければ砂嵐なぞ使えぬぞ?砂は土。嵐は風。2つの属性合わせての砂嵐。やはり特殊な個体と言う事か、お主は。)
「・・・よく分からないけど、これは僕の願いに役に立ちますか?」
首を右に傾けながら聞くコジマル。
「・・・役立つだろうな。私の血を引く者の中でも滅多に無い力じゃぞ?」
その姿を現しながら、ジョロの問いに答えるバロル。
「あ!えと、初めましてバロルさん!・・・闘犬?ブルドッグ?」
「どこまでも礼儀正しいのう。その、ぶる何とかとはなんぞや?」
「いや、何でもありません!」
バロルの言葉に慌てて首を左右に振るジョロ。
「さて、お主に教える事は今は無いか、これ以上は。試練なんてもの、そもそも何も要らぬとはな。まぁ我は楽で良かったが。・・・では早々に休むかのう。何かあれば、心の中で問うが良い。可愛い子孫よ!取り敢えずは眠らせて貰うがの?」
バロルはその姿を早々に黒い玉へと変化させ、ジョロの胸へと吸い込まれてゆく。
「いや、あのバロルさん?もっと分かるように教えて!」
(・・・言ったじゃろう?お主には2つの属性が有ると。これからは土だけでなく、風も磨いてゆけ。守るだけでなく、作る力にも必ず役立つ。一つにこだわるなよ?想像力とは、無限じゃからな?ふっふっふ・・・。)
「想像力・・・にーにー達も言われたって。・・・あ!そう言えば試練っ!これで終わりなんですか?バロルさん?バロルさ~ん!・・・はぁ。帰るか。」
呼び掛けにもバロルからの返事は無く、諦めたジョロは、ミサオの元へと帰ってゆく。
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「お~い!ジョロお疲れさん!・・・さっきのデケぇ砂嵐、お前さんか?」
ミサオの居た場所からも、ジョロの魔法が見えた様である。
「うん。・・・聖獣さんにも会ったんだけど、試練と言うよりお勉強だった。・・・あ!それと、僕別の属性持ってたみたい。風だって。」
「ふ~ん、風ね。そっか。・・・て、そうなの?お前だけじゃねそれって?」
ジョロの言葉に驚くミサオ。ミサオも複数の属性を秘めているが発動させるには至らず、霊体ナノマシンの恩恵による身体強化以外は、未だにスマホのアプリ頼りなので少し息子を羨ましく思う。
「とりあえず、僕の求めた力はあるみたい。今の内に力を磨けって。特に風。」
「そっか・・・。良く頑張ったな、ジョロ。・・・じゃ、帰るか。」
「うん!帰ろ!」
「俺等世代の半ドンの授業じゃあるめぇし、まったくウチの息子達は、俺のセンチな気分返せっての。・・・んじゃ、ジョロ。行くぞ!転移!」
瞬時に自宅の前に現れるコジマルとミサオ。
「・・・けぇったよ~。試練、早くも終わったよ~。」
どことなくアンニュイな感じで自宅の玄関前で声をかけるミサオ。
(ドタドタドタドタ!ガラッ!)
足音が響き、玄関の引き戸が豪快に開けられる。
「・・・ジョロ!早かったな!そうかそうか、試練は成ったか!流石はジョロ!ワシの自慢だけあるわ!さ、入れ入れ!何か食べたい物は無いか?」
玄関の引き戸が豪快に開けられ、中からセルジオに姿が飛び出してくる。
「・・・おいおいおっさん?突っ込みたいとこ満載なんだが。何故俺達の自宅で、あんたが招く構図なんだ?」
「ん?固い事言うなミサオ!ワシのジョロの出立に間に合わなくて面目無くての?こうして待たせてもらったと言う訳だ。さ、入れ入れ!疲れたろ?」
「・・・あんた、ただの激甘ジジィだよそれ?しっかりしてよ剣聖!」
セルジオの勇姿を知るミサオには、今の様子が信じられず頭を抱える。
「セルジオのおじちゃん、ただいま!わざわざ来てくれたの?ありがとう!」
素直にセルジオと会えた事を喜ぶジョロ。
「あら、早かったのね?ほら、そんな所居ないで、早く中入って!ジュース入れるわね!」
クミコもセルジオの後ろから顔を出す。
「だ~か~ら!これ、試練!重みとかありがたみ!・・・台無しだよ雰囲気が・・・。」
1人玄関の前で落ち込むミサオであった。




