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家族で異世界冒険譚(ターン)!第2部 ~永井家異世界東奔西走~ 改定版  作者: 武者小路参丸


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第27話 次男坊、焔哭の渓谷へ──笑顔の裏に燃える炎

狩りや農作業に出ていた完成間近の村の移住者達が、それぞれの家路に着こうとしていた夕暮れ時。


「お~い!帰ったぞ〜い!・・・無事にな。」


「・・・只今戻りました。」


ミサオとムサシが、日をまたぐ事無く、何事も無かったかのように帰宅する。まるでサラリーマンかの如く。


流石にその日に戻るとは想定してなかった永井家留守番隊は、別の意味でてんやわんや。戻った時の為にと、色々もてなしの準備はしていたものの、あわてて祝賀の晩餐となる。


リュミア1人で作った、初めてのハンバーグと共に。


「ぶ、無事にもど、戻ってってって・・・お帰りなさい。」


「・・・ただいま。・・・うん。美味い。」


皆での晩餐の中、リュミアとムサシは2人だけで別の世界に転移しているらしい。


「・・・あの〜、ムッちょん?リュミアちゃん?・・・パピ達、勝手に始めさせて貰うんで、よろしゅう御座いやすかね?」


「パ〜ピ〜ッ?そっちの2人は放っといてあげなさいよっ!こっちはコジョの壮行会って事で盛り上がりましょう!」


永井家夫婦と弟3人は、チラチラと生温かい目で2人を横目で見ながら豪華な夕食へと箸を伸ばす。


「うん!流石マミ!俺達の好きな濃いめの味付けで美味いなぁ!狩りに出る甲斐があるよ!」


「コジョにーにーさ、明日は自分の番なのに全然緊張感無いのな?」


「コジョにーにー!サンくんにーにーと僕も後に続くから、頑張ってね!あ!マリアさん!来てくれたの?」


ミサオの若い衆に案内されたシスター・マリアが、家族団らんの場に通される。


「あの!でか兄さ・・・コジローさんが試練に立ち向かわれるとお聞きしまして!私もその、ご、ご挨拶をと・・・。」


「お!シスターもせっかくだから、一緒に食べて行きなよ!そうだ!帰りに俺が狩った獲物もお土産で・・・マミ、後で冷凍庫にしまってあるやつ見繕って貰ってもいいかなぁ?」


「はいはい。・・・コジョはとにかく、マリアさんとお話してなさい!サンくん、隣空けたげて!今お茶碗持ってきますから。」


クミコがマリアの為の準備をしに、台所へと足早に消えてゆく。


「・・・ジョロ、どう思う?こっちの2人もめんどくさい感じするんだけど。」


「2人?・・・マリアさん、そう言えばコジョにーにーといる時、いっつも顔赤いけど、具合悪いの?」


「なっ!ジョロくん?そ、そんな事ないのよ〜っ!さ、最近ほら、運動してるから、し、新陳代謝がね?」


「お〜いマミ〜!マリアさん新陳代謝良すぎて熱いみたいだから何か冷たいもん・・・って、いいや。俺も台所行くわ!・・・マリアさん。カチオ教って、シスターも神父も所帯持つのオッケーでしたよね?」


ミサオが腰を上げながら、シスター・マリアをからかう。


「はい〜っ?・・・けけ、結婚は、ゆ、ゆるるされて、おりますけれどもそれが何か?」


動揺してる様子がありありとわかるマリア。


「何でウチの家族の周りの女子、わかりやすいかね?とっとと話済ませれば良いのに。ねぇコジョにーにー!にーにーはマリアさんの事どう思ってんのさ?」


リュミアとマリアの行動に焦れったさを抑えきれないサンシローが、ど直球で確認する。


「!」


硬直してしまいながらも、油の切れた歯車の様な動きでコジローの方を見るマリア。


「ん?どうって・・・。家族。」


「!」


コジローの言葉に、マリアのわずかに見える肌という肌が赤くなる。


「・・・ん〜?求めてる答えとズレてる気がするけど、いっか!ま、マリアさん頑張れって事で。ジョロ、そっちの皿の唐揚げ取って!」


「うん!マリアさんも家族!ここの人達はみんな親戚!」


サンシローはため息をつき、ジョロは笑顔で答える。


永井家の食卓は、相変わらず騒がしい。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


夜が明け、昨日よりも少しだけ風が強い新居の玄関前に集まるコジロー・ミサオ・クミコの3人に、リュミアとシスター・マリア。


「・・・その、何だ。・・・コジョ、お前も・・・行くんだよな?」


「あのさぁ。いくらムッちょんが半日で試練終わらしてありがたみ薄かったからって、おざなりじゃないパピ?」


「そうよ!別にお使い行くのと訳が違うんだから!・・・コジョ、無理は絶対ダメよ?忘れ物は無い?お小遣い持った?」


コジローの試練に対して少しだけやる気がないミサオに対して、非難を浴びせるコジローとクミコ。ただ、クミコも言っている事自体に少しズレが見受けられる。


「マミもさぁ、遠足じゃないんだからさ?緊張感持とうよ?・・・で、マリアさんは、今日もわざわざ見送りに来てくれたの?」


ミサオとクミコのコジローに対する間抜けな会話と共に、そばに立つ女性へ問う次男坊。


「はいっ!おはよう御座いますでかに・・・コジローさん。・・・未だに抜けませんね、前の呼び方が。」


恥ずかしそうにうつむくマリア。


「別に気にしなくていいよ?逆に俺の方も、ちゃんと名前で呼ばなきゃね?マリアさん!」


「ングッ!・・・」


(いけない!いけないわマリア。私は聖職者の身!周りの目も・・・?あ、別に禁忌でもないわ!)


コジローの言葉に1人で悶えるシスター・マリア。


「・・・ウチの次男坊も、まぁおモテになるこって。」


「・・・薄々感じてたけど、この人も分かりやすいわね?パピ。」


ミサオとクミコが顔を見合わせて苦笑する。


コジロー1人キョトンとした顔である。


「コジローさん、永井家の皆さんにはカチオ様の祝福が元々有るかと思われますが、その、あの、試練に向かわれると聞いて、直接祈らせて頂こうと思いまして・・・。」


「そう!ありがとうマリアさん。・・・でも、ムッちょんの時は・・・?」


「あ~、そ、その、ほら、学校のあれやこれやで!も、勿論祈ってましたよ?ムサシさんの事も!えぇ、祈りましたとも!」


額に何故か汗を滲ませながらもドヤ顔で言うシスター・マリア。


「・・・どうかご無事で。元孤児院の、いや、村の子供達も同じ想いです。リオとミナなど、付いてくると聞かなくて・・・なだめるのに苦労しました。」


「あの孤児院も、今は寄宿舎だもんなぁ。帰りに又、美味そうな魔物でも狩ってきてあげるか。みんな食べ盛りだしなぁ。」


「そのイントネーションじゃわからない買ってと狩っての言葉の違い!・・・コジョらしいわな。んじゃ、行くか?お前さんは南だ次男坊。」


「ん?南・・・果物とかありゃうれしいなぁ。じゃ、マミもリュミアさんもマリアさんも、ちょっとそこまで行ってくるからさ。」


今日の見送りは3人だけ。残りの永井家ブラザーズは、昨日の夕餉ではしゃぎ過ぎてまだ皆夢の中・・・のはずだったが。


「・・・コジョ。中々厄介だから気をつけろよ。」


「ムッちょん!・・・起きてたの?」


玄関の引き戸がカラカラと開き、ムサシに続いてサンシローとジョロも顔を出す。


「弟の旅路を見送らない兄貴が何処に居る?まあ、お前さんなら大丈夫だろうけどな。涼しい顔して帰って来るんだろ?」


「腹減りそうだもんな?マミの味が恋しくならない内には戻るよ。」


ムサシの激励に、いつもの調子で返すコジロー。


「・・・コジョにーにー、俺もその後に続くからさ?頑張ってくれよ!」


「コジョにーにー!帰ったら聖獣さんの話、聞かせてね!」


「サンくん!ジョロも!・・・へへ、あんがとさん!結局みんな揃っちゃって。・・・んじゃ。行ってくるからさ。」


なんだかんだと結局全員揃っての見送りになってしまった様である。


「んじゃコジョ、行くぞ!南へ・・・転移。」


ミサオとコジローが光に包まれ消える。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ってアチぃなぁおい!」


転移直後。


ミサオとコジローの目の前に移る景色。


そこはイグナシアの南の果て、焔哭の渓谷えんこくのけいこくと呼ばれる場所。


火山と熱風の渓谷。


ミサオは課長(カ=チオ)さんから、怒りの幻影と向き合い、自制を試される場所だと前もって言われていた。


「こりゃ、熱すぎて普通ならこの先行けねぇや!何でこう、試練とかってもったいつけた感じなんだろうな?・・・コジョ。お前さんも俺の大事な息子だ。いかに聖獣と言えど、理不尽かましてきやがったら後で言えよ?ぶっ飛ばしてやっから!」


ミサオの口からは、次男坊に対する励ましと過保護がにじみ出ていた。


「一応聖獣さん達って、この世界じゃ神様扱いだよ?ぶっ飛ばすとか言うのパピぐらいじゃない?・・・まぁ取り敢えず、向かうよ。途中、魔物居ないかなぁ・・・。」


ミサオの言葉に苦笑しながらも、いつも通りのスタイルでのほほんと歩いてゆくコジロー。


「でっけぇ図体して、のっしのっしと相変わらずか。・・・んじゃ俺は、アイツの代わりに、土産の肉探しでもしといてやるかね?・・・それにしてもアチぃな!」


ブツブツ言いながら、ミサオはスマホのマップに目をやった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「火山の影響だよな?やっぱ緑が薄いと殺風景でさみしいなぁ。まあ、水が流れてるから干からびる事はないだろうけど。・・・と、来たかな?」


足場の悪い渓谷を、一歩一歩足元を確かめながら進んできたコジローの少し先に、蜃気楼の様なものが見えてくる。


(この地に異変ありとは感じたが、こうも素早くワシの元へも現れるとはな。・・・我が血を受け継ぎし者よ。お主は何を求める?)


頭に直接聞こえる声。言葉遣いは古めかしいが、その音色は若い女性の様にも聞こえる。


「おじゃまさん!求める物聞かれたら、肉!・・・って言いたいとこだけど、今日は、力の解放って奴かな?・・・守りたい者を守れるだけの力。」


笑顔は絶やさぬまま、単刀直入に答えるコジロー。


(ほぅ?・・・回りくどいのはワシも好かぬ故、お主の様な返答は好ましいのぅ。・・・ワシの名はカグラ。お主の名は?)


「コジロー。コジロー・ナガイ。永井家の次男をやらせてもらってるかなぁ。」


(やらせてもらっておるのか?・・・ふふ、まあいい。その笑顔、いつまで続くかワシに見せてもらうかの?では試練を始めるぞ。)


声が終わると共に、蜃気楼が広がり、コジローの視界を歪ませる。


その蜃気楼が霧散するとそこには・・・。


「!」


子供達を虐げる兵士達の姿。


平手打ちをし、足蹴にし、嘲笑する数人の兵士。


「おい!・・・大の大人が何やってんの!」


咄嗟に子供達の前に炎の壁を出そうとするコジロー。


「・・・あれ、出ない?」


お得意の炎の防壁が不発で、首をひねるコジロー。


(やはりな・・・笑顔の裏に有る激情。炎をつかさどるワシの子孫か。だがコジローよ。その激情は、時に己をも燃やし尽くす危険なもの。抑えて尚笑顔を保てるかの?)


嘲笑していた兵士の姿が変化する。


闇憑き。


4体の赤の悪魔モドキがコジローを襲う。


「くっ!・・・随分と連携上手いなおい!」


4体は上下左右に位置を変えながら、コジローに対して炎を見舞う。




(こやつらはお主と同系統の魔法を使う。さて、どうする?得意の攻撃を見せてみよ。魔法の制限は解除したゆえに。ふふふ・・・。)


余裕を感じる声を放つカグラ。



「・・・やっぱムッちょんの、言った、通り、面倒、くさいな!ばん!ばん!ばばん!」


コジローが闇憑きに対して放つ、正確無比な指鉄砲。


指先からの炎弾は、悪魔モドキ達に当たりはするものの、数歩ノックバックさせるだけで致命傷とはならない。


4体の悪魔モドキの連携攻撃は途切れない。


「・・・珍しく、あせ、るかなこれ!ウザい!」


何とかしのぎはするものの、笑顔も崩れつつあるコジロー。


(怒りを見せぬ様に繕う笑顔は、所詮まがいもの。・・・お主も囚われておるのぅ。何故力の上限を決める?誰がお主にそう説いた?激情こそが至上の力を増す手段なのか?)


この地の聖獣、未だ姿を見せないカグラがコジローに問いかける。


「ん?そんな、事、言われたって、邪魔!ほっ!難しい話、苦手なんだけどなぁ。・・・怒りは、上限。・・・制限?怒りから、解き放つ。心を。つまり・・・心の余裕?」


悪魔モドキ達から距離を空け、カグラの言葉の意味を考えるコジロー。


「・・・俺、炎の壁とばんばんとかだけでこれまで何とかなってたから、勘違いしてたかな?考え方。ま、それだけじゃマズいからここ来てんだし。なんだろうな、今までと違う事。やり方。・・・待てよ?んじゃ、こんな事も。・・・出来た!」


コジローの両足の下から炎が轟々と噴き出るし、少しずつその身体が浮いてゆく。


「ムッちょんの重力魔法だけかと思ってたよ、浮くのなんて。いや、飛ぶって事かな?って言う事は、普通の炎よりも熱く、強く、集めて・・・。吹き出せ!」


足元からの炎が広がった状態から収束され、その炎の色を、赤・オレンジ・青・・・そして白へと変わってゆく。それと共に、両の拳に白い炎を纏わせるコジロー。


「燃やす・・・がダメなら。行くぞっ!」


足元の炎の噴射の推進力で、慣れないながらも悪魔モドキ達の懐へ瞬時に潜り込むコジロー。


「びっくりした顔してんなぁ?じゃ、コイツも驚きついでに、ド〜ン!」


(ド〜ン!)


炎を超える拳。


燃やすを超える。


その熱量によって溶かす拳。


火山の奥底に蠢くマグマ。


そのエネルギーを纏いしコジローの拳が、その足元のスピードを乗せて悪魔モドキ達に拳を打ち込む!打ち込む!打ち込む!


1体・2体・3体と、コジローの瞬時の動きとその拳に纏う高熱によって身体に多数の穴をあけて、消える赤い闇憑き達。


残るは1体。


「なるほど、ね!心、の、余裕、無いと、見えなく、なるよな?はぁ、はぁ、は~あ!疲れた!んで、お前さんには、空から・・・ズド〜ンッ!」


(ズド〜ンッ!)


空へと飛び上がったコジローが、身体の位置を変え、その頭を地面へと向けて、思い切り引いた状態からその右手を真下の闇憑きの脳天に突き入れた。


地は穿たれ、最後の闇憑きの姿は無く、コジローが浮かぶ足元には、未だ溶けてゆく赤々としたマグマが見えている。


(・・・東もそうだったが、この家の者達は、どうしてこうも早く試練を終えるかのぅ?)


驚きと言うより、呆れに近いニュアンスが込められた声色のカグラ。


「はぁ、はぁ、そりゃ、時間が、無いからでしょ?」


足元からの炎で少し場所を移動したコジローが、魔法を解除してその場にあぐらをかく。


(・・・お主は、裏表が無くて良いのう。)


言葉と共にその姿を現す聖獣。


「こっちの聖獣さんは赤い。・・・のはわかるけど、その姿。・・・向こうの世界で言う所の、ボーダーコリー?」


ミサオに以前見せられた犬種の図鑑を思い出して、考えるコジロー。


「ぼだ?こりぃ?・・・まぁ良い。お主達兄弟皆に言える事じゃが、魔力は有限。じゃが、魔法は無限の可能性がある。想像力を磨け。さすれば、その魔力の壁もいずれ越えよう。さて、東の主も眠った事じゃし、コジローよ、お主もワシを宿らせよ。ワシもそろそろ眠りたいのじゃ。良いか?」


微笑んだ様に見える聖獣カグラ。


「ん?俺はいいよ?ただそのデカい身体入るかい?」


「これでも神獣の一柱なのじゃが、お主は敬う事とかひれ伏すとか・・・ま、それがお主の強さの源なのじゃろうて。・・・困った時は我にも問え。多少の力にはなろうぞ。」


言うと共に、カグラの身体は赤い光となり、コジローの身体に吸い込まれて消える。


「・・・何か少し、あったかいかな?ま、悪い感じも無いし、これから宜しく頼むわカグラさん。・・・うん。やっぱ腹減ったな?気付いたら昼回ってるし!せっかくだから又足元から・・・。」


(自由とは言ったが、少しは考えて力は使えよ?いざという時に困る事もあろうぞ?)


ご先祖様に魔力の無駄遣いを諌められる、コジロー。


「・・・まだ起きてたのね?ご先祖様。この暑さじゃ、歩いてても魔物とか見つけられそうに無いんだけどなぁ。」


仕方なく足場の悪い渓谷を歩いて戻る羽目になるコジロー。


「参ったなぁ。・・・パピ!腹減ったよ~!」


渓谷にコジローの叫びが、むなしく響くのであった。



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