第21話 民族大移動──ポチッと作戦、開幕
「いやもう約束の日かよ!」
永井家皆が着々と準備を進める間、1人ミサオだけがフワフワしたまま迎えた移住の予定日。
朝の稽古もそこそこに、身体を井戸で拭き改め、ミサオは仮の住居の前に立つ。
「ホントに、1人で大丈夫?」
「一応俺大人だよ?これから大人数受け入れるって時に、現地受け入れ態勢整ってなきゃ不味いべ?」
クミコの不安そうな表情に、軽口で答えるミサオ。
「時間もボチボチ良かんべ。後は行って見てからだ。
イレギュラーないといいけどな。・・・こっからはピストンで行くぞ!
ムッちょん、まずは白犬の衆、連れてくっからな!受け入れ頼むぜ!ポチッとな!」
ミサオがスマホの異世界用チートアプリ(イセ・ゲート)をタップし、廃村から転移する。
ここから、この世界では未曾有の広範囲移住作戦が幕を開ける。
最初はヘリオス山から約半日。ムサシを慕う者達の集落へと向かうミサオ。
「うし!場所バッチリ!お、柵開けてあるじゃねえか。
お~い、来たぞ~い!」
白犬の衆の集落から少し離れた場所に、白い光を放ってこつぜんと姿を現したミサオ。歩いて向かいながら声をかけると、既に入口では数人の獣人が、今か今かとミサオの迎えを待っていた模様。
「親父殿!皆の準備は済んで・・・?親父殿、荷馬車も連れておられない様子・・・。これは?」
「いいからいいから!ほれ、荷物!みんなも整列!一気に行くぞ!走れ走れ!」
急かすミサオ。程なく荷物を囲んで移住予定の皆が集まる。
「別に刺激も痛みもねぇけんど、不安なヤツは目ぇつぶっとけ!んじゃ、行くぞっ!白犬〜ポチッとな!」
お約束の言葉と共に、その一角の集団は光に包まれ消える。大量の荷物と共に。
「は~い第一陣、とうちゃ~く!」
廃村の中央近く。開けた場所に大きな白い光が生まれ、瞬く間に消える。そこにはミサオと白犬の衆、大量の荷物。
「やっと会えたな。・・・野郎ども、元気だったか?」
最近の礼儀正しい口調と違い、以前の感じを少しだけ見せ、白犬の衆達に声をかけるムサシ。
「リーダー!・・・以前よりも立派になられて!約束通り我ら白犬の衆、リーダーの元に馳せ参じました!」
「いや、もうリーダーはよせよ。
俺はムサシ・ナガイ。この永井家の長男で、専任C級冒険者って肩書付きだ。
お前さん達も、白犬の衆はもう終わり。
今からはこの場所で共に暮らす仲間だから、そのつもりでな!」
「はい!リーダ・・・いや、ムサシの兄貴!」
「いや、そうじゃねぇよそこは!」
長男と仲間達の久しぶりの再会を横目で見ながら、ミサオが感慨にふける。
「・・・いいねぇ、絆。信頼。息子ながら惚れるねぇ!」
「パピ!まだ終わりじゃないわよ!」
そばにいつの間にか立っていたクミコに喝を入れられるミサオ。
「わ〜ってるって!今行くから。コジョ!ジョロ!サンくん!行ってくらぁ!」
次男から下3人が手を振る中、ミサオはまた光に包まれる。
「もういいよな?見られなきゃ直接中で。いちいち外から入る段取りめんどくせぇし。」
辺境の都市コルテオの下層地区。
孤児院のあるカチオ教会の裏手に出現するミサオ。教会を介さずミサオは直接孤児院の方へと外から向かう。
「ちいっす。シスター!・・・あれ?マリアさん、居るかい?」
室内の子供の1人が、ミサオの声を聞いて小走りに駆けてゆく。程なく現れるシスター・マリア。
「ミサオさん!お待ちしておりました。・・・が、今日はどの様に・・・言われた通り、何も準備などしておりませんよ?」
ミサオの考えを今も図りかねているマリア。
「子供達も全員孤児院内に居ますかね?外に居られると、ちと困るんで。」
「今日は皆、ここに全て集まって居ます。」
「そいじゃま、マリアさんには2度目のヤツ、行きますよ?」
「え?」
キョトンとするシスター・マリア。リオ・ミナを始めとした子供達は、興味津々の瞳でミサオを見つめる。
「んじゃ・・・孤児院のみんなとシスター・・・だけじゃないわ!語呂もわりぃ。んと・・・建物そっくり、ポチッとな!」
その日、この辺境都市コルテオに、後に(カチオの新たなる奇跡)と呼ばれる伝説が生まれた。
建物があった場所には、ただ風だけが吹き抜けてゆく。
「は~い第2陣、とうちゃ~く!」
いきなり廃村に出現した、聖カチオ教の教会と付随した孤児院の建物。
その教会の入口からミサオがひょっこり顔を出す。
外で片付けや段取りをしていた元白犬の衆達も一様に固まっている。
「みんな、出ておいで!お、居たかジョロ!そっちの元でか兄さんよぃ!2人共こっちゃあ来いて!」
ミサオは孤児院内の子供達に声をかけ、外で待っていたジョロとコジローを呼び寄せる。
「・・・あ!でか兄、じゃなかった、コジロー兄ちゃん!」
「ジョロくん!・・・元気、だった?」
リオとミナが笑顔で外に出てくる。
「でか・・・コジローさん、お元気でしたか?」
孤児院のドアから顔をのぞかせたシスター・マリアも、何故か頬を染めながらコジローの傍に歩き出す。
「ん~まぁ、ボチボチかなぁ。あ、孤児院のチビさん達、みんな飯食ってるかちゃんと?シスター、今日からまたみんなで肉食おうねぇ!」
マリアの言葉に、いつもと変わらぬ返事を返すコジロー。
「リオくん、ミナちゃん、みんな・・・うん、僕は元気!これから・・・一杯遊ぼうね!」
ジョロも改めて孤児院の子供達の顔を見て、笑顔になる。
「よかねぇ。よかよかこの再会。・・・でも、普通ポチッとしたらもっと驚かねぇ?順応早すぎというか・・・。」
子供達の再会の場面を眺めて、感慨にふけるミサオ。
「パピ!まだ終わらない!次は?」
すかさずクミコのツッコミが炸裂する。
「・・・あそこ。教国。」
クミコに煽られながらも、早く迎えに行きたい気持ちとあの国自体の厄介さに、モヤモヤするミサオ。
「まぁ、めんどくさいの承知で話持ちかけてんだよな。しゃんめーべ!」
気持ちを切り替え、聖カチオ教国へと向かうミサオ・・・のはずだが、そこでミサオは思い出す。
「マミ!酒!ランカさんに渡す土産!流石に今回忘れりゃ不義理にならぁね!」
クミコがジト目で土産の酒を、仮住居からミサオに持ってきてくれる。
「これ忘れたら、流石にマミ、ブチ切れんじゃん?今回は忘れられねぇよ!んじゃ、ピストン再開!ポチッとな!」
ミサオは改めて持ち物も確認し、聖カチオ教国の外へと転移する。
「おぅおぅ、こっからでも見えらぁね!ランカさんも冒険者のみんなも、引きつけてくれてらぁ。」
カチオ教国の魔法防壁は、国の中の様子が見える様に透明である。
今のミサオには、ギルド関係者の陽動作戦が目に映っている。
外と獣人保護区を隔てる箇所。それに、獣人保護区と信徒地区を隔てる、計2つの検問所。
2カ所に別れ、聖騎士の動きを牽制している姿が、外で見ているミサオの位置でも確認出来る。
「ありがてぇよ毎回毎回。冒険者も飯食ってかなきゃならんのに、こうしてわざわざ・・・。グラマス経由で早めに色付けて依頼料回さなきゃな。」
今の内とばかりに魔道具で、何度目かの魔法防壁破りを行うミサオ。無事獣人保護区へと侵入し、目指すはヘンリーの住居。
「みんな、揃ってやがんな!あのテントみてぇなやつもいくつか無くなってらぁね。ヘンリーさんの調整の賜物だな。」
集まっている獣人達を横目に、長であるヘンリーの、そのまま残された住居へ入るミサオ。
「いきなりすんません!ヘンリーさん!こっちの手筈は万端です。私の後に付いて、皆を外と隔ててる防壁のそばまで誘導して下さい!あ、ここに酒置いとけば、ランカさんの手に渡りますよね?さ、早く!」
ヘンリーの言葉も待たず、検問から目に付きにくい位置の、外と保護区を隔てる魔法防壁へ小走りで進むミサオ。
聖騎士の目の届かない位置を狙って、黒い筒形の魔導具を用い、なるべく大きな空間を作る努力をする。
「こっち!こっから抜けて、抜けたらそのまま動かず待機して!
ヘンリーさん!この魔道具持って空間開けといて!俺荷物ここまで転移掛けて、外に出すから!この国だきゃあこのひと手間かかんのよ!」
後に付き従って来た獣人達と長であるヘンリーに声をかけ、息付く間もなく荷物に走るミサオ。
この国の魔法防壁を、ミサオのポチッとでは抜けられない。このひと手間が面倒くさい。
この国に対するモヤモヤ。その一因でもある。
「ポチッとやって!・・・ドーン!」
スマホアプリで短距離転移。荷物と共にヘンリーのそばに現れたミサオ。
皆の驚きの表情に構う余裕も無く、とにかく防壁を通過する人間に荷物を手渡す。
「はい次!そしたらこれ!あ、これ重いから2人で!急げ!」
訳も解らず言われたままに動く保護区住民。残りはミサオが往復である。
「どっせ~い!これで・・・終わりでぃ!
ヘンリーさん!抜けたら魔道具外して!
んじゃ、みんな丸ごと!ポチッとな!」
せわしなく消えるミサオと獣人保護区住民。
・・・後のカチオ教国との火種の一端を、ここでまた作ってしまったミサオである。
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「うい~っす!・・・もう無理!今日はこっから出ないぞ!」
例の教会が出現した場所とは違う広場。70数名とミサオは、白犬の時と同様に、光と共に出現した。
「パピお帰り!・・・皆無事着いたかぁ。・・・あ!長!」
サンシローが、ミサオと獣人保護区の皆に声を掛ける。
「おぉ!水神・・・ではなくサンシロー殿!お変わりありませぬか?」
気を使って言い直し、サンシローに声をかけるヘンリー。
「いやまだ別れて数日、変わり様無いけど・・・来たな、泣き虫娘!」
サンシローの目線の先には、今回の全住民の移住に一役買った少女、ラティファの顔。
「あ、あの!先日はお礼も言えなくて・・・ありがとうございました。」
頭を下げるラティファ。
「・・・好きでやった事だから気にすんなって。
それよりも・・・ジョロ!来たぞ!ラティファちゃん!」
「!・・・やっぱり、来てくれたんだね!
ようこそ、みんなが暮らす、新しい場所へ!」
サンシローの声に気付いて駆け寄ってきたジョロ。
「向こうに友達居るから、ラティファちゃんもおいで?
近くのちびっ子達も一緒に!
み~んな~!新しい友達だよ~!」
獣人保護区の子供達を率いて孤児院の子供達に向かい、ラティファ等を紹介するジョロの姿。
「これが見たかったのかもな・・・。」
「何か、良いわよね。」
周りの雑然とした光景を見ながら、永井家夫婦が想いを馳せる。
「パピ。今の内、飯の準備しちゃわない?俺も少し、お腹すいたよねぇ。」
「コジョ、流石の俺も腹ぁペコペコだぁ。んじゃ、気合い入れ直して、焼きそば行っちゃうか?」
コジローの言葉に、改めて移住者皆での大宴会を想像してルンルンのミサオ。
「ねぇパピ。何か忘れてない?」
クミコの言葉にたじろぐミサオ。
「今更忘れてる事なんて、んな馬鹿な事・・・。」
言いかけて、顔面蒼白に変わるミサオ。
「やべぇ・・・ムッちょんの未来の嫁候補、忘れてた!」
「パピ!1番忘れちゃいけない人!行け!すぐ行け!!」
クミコが憤怒の表情でミサオを煽る。
「は、はい!ポポポ、テリオスへ、ポチッとなっ!」
「あ~あ。怒られるぞパピ。サンくんどう思う?」
「だよね~!店長さん、ムッちょんにーにーに会うの、心待ちにしてんでしょ?」
コジローとサンシロー、2人で父の失態を嘆いている。
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「・・・全員の食事終わるまで、パピはずっと焼きそば焼き焼きマシーンの刑ね。」
「・・・私もクミコさんの意見に激しく同意します。ここは心を鬼にして良いと思います!」
クミコの恐ろしい言葉と、テリオスで痺れを切らして待っていた未来の嫁候補の細くなった瞳がミサオを刺す。
(ジョロの宝箱)元店長リュミア。
ミサオにとっては前門の虎・後門の狼状態、結局どちらにも叱られるミサオである。
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「次の日の朝だっつーのに、手首痛ぇよ。身体強化忘れた俺も大概だけど、そんな余裕くれなかったじゃん?腱鞘炎だよこれ。
隙見て魔法使えれば良かったのによ。もう鉄板とヘラもう見たくねぇよ・・・。」
昨日、1番大事な移住予定者であるリュミアの存在を忘れるという大失敗の為、クミコとリュミア両名からコッテリ絞られたミサオ。
クミコの言葉通り、200余りの人々の前で焼きそば焼き焼きマシーンと化したミサオは、朝からへこんでいる。
「でも、みんな笑ってやがったな。・・・しょうがねぇか。・・・ん?」
遠くから、何やら聞こえる。
「・・・これって、着いたか?お~い、待ち人来たるだ!いよいよだぞ!」
寝ている皆に声を掛けて回るミサオ。
王都トリニダスを出発したセルジオ手配の職人達が、荷馬車を連ねて現れる。
「みんなご苦労さん!まずはそのまま一息ついてくれ!飯は食ったか?」
「ミサオさん・・・ですよね?本部のグラマス直々に申し付けられて馳せ参じました。
木工・石工・土工・金属工、補佐に幾人かの魔法技師も帯同しております。
目処が付くまでの期間、お世話になります。
強行軍で参りましたので、馬にも水や飼い葉をやりたいのですが、井戸などは・・・。」
本部ギルドの制服を着た若い男性がミサオと言葉を交わす。
「あぁ、水やら飼い葉やらはこっちで手配します。桶などは・・・あ、そちらの手持ちのやつで。
ならすぐですね。地面に出して置いて下さい。お~い、サンくん!」
ミサオは、馬の水分を補給させる為、サンシローに水をその場で魔法で出してもらう。
ミサオ自らは廃村の中に用意していた、飼料等の仮置きをしている建物からポチッと飼い葉を移動させる。
「サンくんグッジョブ!これで良かんべ。
お前さん達、お疲れさんな。腹一杯食って、ゆっくり休みな。」
資材を積んで来た馬たち1頭1頭に声を掛けて労るミサオ。
そうしてる間に、移住者達もぽつりぽつりと外へと集まってくる。
「パピ!おはよ〜!」
「お!ジョロおはようさん!みんなも起きたか?」
「ウチの家族はみんな起きてる。村のみんなもそろそろ全部集まるよ!朝ご飯からだね!
マミもリュミアちゃんも張り切ってるよ!」
「リュミアちゃん、早くも花嫁修行か?すげぇよな行動力。んじゃ、マミの手伝い行こうか。・・・まだ移住者も来たばかりなんでね。みんなで外で飯食ってんですよ。皆さんも一緒に!」
ミサオがジョロとたどり着いた職人一行に声をかけて、その場の皆もミサオの先導の後へ続く。
広場らしきところまで歩くと、そこには幾つものテーブルや、地面に何ヶ所も敷き詰められたカラフルな敷物が多く点在している。
200人近くでの一斉の朝食。とにかく量が多いので、作ったそばからどんどん消える。
皆には空の皿を渡して、好きなものを好きなだけ、勝手に取ってもらうビュッフェスタイルを用意している。肉・魚・スープ・サラダ。パンと米も用意されているが、米の人気はまだ薄いようである。
そんな中、調理の手から一旦離れ、皆が集まる中央付近へと歩み出て、声を上げるミサオ。
「みんな!おはようさん!食いながらで良いから聞いてくれ!
さっき、王都から職人さん達が到着した!
今日はゆっくり休んで貰って、明日から本格的に動いて貰おうと思う。
みんなにも、これから色々やってもらおうと思ってるが、いかんせん得意不得意さえもまだ不明だ。だから今日は1人づつ、面談というか話を聞く時間を取ろうと思ってる!
俺と息子のムサシとコジロー!それとリュミアちゃん!この4人で大人達の聞き取りさせてもらうから!
食事の後、手が空いたもんからボチボチやろう。俺からは以上。さ、食ってくれ!」
ミサオと指名した3名は、近くの席で急いで飯を平らげ、空いたスペースにテーブルを並べ、即席の面談場所を作る。
簡易職業安定所の出来上がりである。
すると、移住者の中からぽつりぽつりとミサオ達の方へ人が集まり出した。
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「あなたは・・・はい。前職は畑仕事オンリーで。はい。わかりました。では、畑の立て直しのチームですね。この木札をお持ち下さい。」
ムサシはテキパキと振り分けを行っている。
「ん~?アンタは、狩人興味ない?俺、合うと思うけどなぁ。」
コジローは少し趣旨を取り違えてるのか、狩人への勧誘まがいの事をしている。
「はい。勿論、女性だから出来ない・やらせられない何て事はここには有りません。
逆にやりたい事、希望が有ればチャレンジしてみるのもよろしいかと。
料理は比較的皆さん出来るかと思いますので、最初の内、皆で取る食事の間は、なるべくお手伝い頂けると助かります。
その後はご興味が有れば職人さん達のお手伝いも含めた様々なお仕事に女性も参加してもらいます。
鉄の扱いがしてみたい?いいじゃないですか!私も出来るだけの事は致します。」
リュミアはここでも有能である。
「さて、お前さん達だけどな・・・ここでは子供は働かなくて良し!・・・何故並んだ?」
ミサオの前には何故か孤児院や獣人保護区の子供達だけが並ぶ。
「だって・・・おじちゃん所来れば、魔法とか、剣の扱いとか、教えてくれるでしょ?
俺達みんな、親のいる奴もいない奴も、お世話になった大人に、恩返しがしたいんだ!」
先頭にいたリオの言葉に、後ろに並んだ子供達が皆頷く。
「ん!気持ちはわかった。・・・でもな、ここじゃいきなり仕事は教えないぞ!」
ミサオの宣言に皆不満そうな顔をする。
「そう早まるなっての!お前さん達の考えも、この世界の子供達が働き出すのが早いのも分かる。
でもな。この場所じゃ働く前に、みんなには知識を頭に入れて欲しいんだ。」
今度は幼い子達が首をひねる。
「いいか?ここに居るみんなが大人になって、農民でも鍛冶屋でも、料理人でも狩人でも、お金は扱うだろ?
でもお金の正しい使い方とか、価値とか知らないと、世の中良い人ばかりじゃないから騙されたりすることもある。
それどころか騙された事にも気づかない。それは分かるか?」
全員ではないが、半数以上は首を縦に振る。
「だからみんなには、世の中に出て1人で生きていく為に必要な事!これを知って欲しいんだ。
・・・子供達みんなが大人になった時に困らないくらいの知恵。ここではそれを身に着けてから、お仕事をしようや!」
「でもさ、俺も働かないと、みんな飯が・・・。」
1人の人間の子が発言する。
「それはこれまでの話だ。ここでは子供も大人も飯の心配はいらない。
それはおいちゃんが請け負うから。もちろん、働ける大人はそれぞれの場所でお仕事してもらうよ?
でも、その大人だって病気やケガもするだろ?正直、ズル休みする時もあるんだぞ!俺はあったぞ?マミにはゲンコツされたけど。」
ミサオの言葉に子供達が笑いだす。
「だからな?大人も出来る精一杯。でも無理はしない。
俺の生まれた所じゃな?(衣食足りて礼節を知る)なんて言葉があってな。難しい言葉だけど、要は着るもんと食いもんが有って初めて心に余裕が出来るって事なんだ。
だから、着るもんと食いもんは大人に任せろ。その分、色んな事を覚えてくれ。急がなくて良い。
自分が1人で飯食える様になったら、世話になった大人達に返してくれればいい。」
笑顔で子供達の顔を見回すミサオ。
「それとな。昔のお前さん達みたいに、お腹が空いて泣いてるやつ、困ってるやつがいたら、持ってるもん、分けてやれる心は持って欲しい。これはおいちゃんの個人的なお願いだ。」
ミサオはその場に立ち上がり、目に入る大人達に向けて言う。
「今の話は聞こえたな!ここじゃ、幼い子!そうさなぁ・・・ウチのサンシローまでの年齢の子は、ここに立てる学校!最初は寺子屋位だろうが、ここで学んでもらう!
だから、大人達と同じ仕事は禁止!
これは俺のわがままだけど従って欲しい。それで困り事が出るなら言ってくれ!
まず第1のルール!子供に笑顔を!以上だ!」
また子供達に向き直るミサオ。
「今言ったように、お前さん達の学校ってヤツ作るからさ。
ウチのジョロも入れるから、みんな仲良くしてやって欲しい。
・・・みんな不安そうな顔すんな!勉強ばっかじゃ疲れちまう。遊ぶのもアリだ。よく学び、よく遊べ。腹一杯食って一杯寝て、大っきくなったらおじちゃん、助けてな?」
ミサオの話に、ほぼほぼ納得したような表情を見せる子供達。
「大っきな声じゃ言えないけどよ。おいちゃんあんま上手く魔法使えないんだよ。得意なの身体強化位だから、その辺は他の先生考えるから勘弁してな?ヨシ!おいちゃんのお話はこれまで!
みんな、遊んで来い!お~いジョロ!前に教えたドロ巡!他の地方じゃドロ警とか言うんだっけ?
みんなに教えてやって、お前も一緒に遊んで来い!ケガすんなよ!」
走って行く子供達の後ろ姿に1人頷くミサオ。
「たまには良い事言うじゃない?」
へたり込むミサオの姿を茶化すクミコ。
「へっ!自分も同じ様な事考えてたろ?・・・さて、その肝心の大人達も、自分達で金稼ぐまでには時間が掛かる。」
「出稼ぎでもしますか?パピ?」
ミサオの言葉に取り敢えずの提案をするクミコ。
「ん~。ま、ポチッとあちこち飛んで、闇憑き討伐再開ってとこかな?金は天下の回し者!」
「まわりもの。じゃなかった?」
「それそれ!そういう事!様子見ながら息子達交代で連れてくわ。コジョとサンくんも冒険者登録、してもらうかな?」
「そうなるといよいよ。・・・パーティーだっけ?結成ね。・・・永井家。パーティー名永井家!案外いいんじゃない、パピ?
それと、登録だけなら、ジョロもしてあげれば?あの子も土魔法使えるし、1人だけミソッカス扱いは、ねぇ?」
「わかったよ。グラマスなら一発オッケーだろ?甘々じいさんと化してるからな。マミは子供達の事、よく見てくれてるな。あんがと!んじゃ、息子達にナシつけるか。」
この日、永井家は、ムサシ以外の息子達の冒険者登録を正式に決めたのだった。




