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家族で異世界冒険譚(ターン)!第2部 ~永井家異世界東奔西走~ 改定版  作者: 武者小路参丸


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第17話 新しい朝、新しい場所

「いや~、まいったなこりゃ!グラマスのあんなデレた姿、延々と見せられるとは思わなかったわ!」


宿屋に着いたそばから、部屋のベッドに倒れ込むミサオ。


「まあ、しょうがないわよね、ジョロだもんね!」


クミコの言葉に3人の兄達も激しく同意なのか、同時に縦に首を振る。


「まあ、わからんでもないが、こう、威厳っちゅうかさ、重みっちゅうか、必要じゃね?」


「いいじゃない、あなたもあんまり変わらないと思うわよ?」


ミサオの疑問は、クミコに即座に否定される。


「ま、何はともあれ明日も早い。下の食堂行って、腹ごしらえして、最低限必要物資の調達。向こうからポチッとばっかじゃ、自給自足に程遠くなっちまうから、転移使うのも時と場合って事にするからな!」


例の如く、ご飯楽しみジョロの意見で前回取った所と同じ宿。


皆は腹一杯堪能し、落ち着いてから買い物に家族総出で走り、この日は早めの就寝となった。


翌朝。


(コンコン。)


部屋のドアがノックされる。


「どちら様でしょう?」


ドアは開けずに、警戒しながら答えるムサシ。


「・・・朝早くに申し訳ありません。本部グラマスから至急の報告でして、ミサオ殿に一刻も早くということで・・・。」


既に目を覚ましていたミサオが、スマホに目をやる。


(おい、まだ朝4時過ぎだぞ!・・・グラマス、帰ってねぇなこりゃ。・・・悪い事しちまったかな?)


ミサオはムサシに頷き、来客を招き入れる。


「皆様、お休みの所すみません。・・・グラマスからは、ご希望に添えそうな場所が見つかったとだけ、言付かっておりますが・・・。」


「朝早くからご苦労様です。グラマスに無茶させられたりしてません?たまには抗議しても良いと思いますよ?・・・内容は承りました。すぐに支度して本部に向かいます。」


恐縮する職員に一礼し、ドアの前まで見送るミサオ。


「いよいよ俺達のシマ、出来そうだな。急いで出発だ!ちゃんとトイレ位済ましとけよ!朝飯は・・・まあ、話してからだ。」


急いで準備を終えた永井家一行は、一路本部ギルドへ向かう。そのまま会議室へ直行し、ドアをノックする。


「失礼します。専任S級冒険者ミサオ・ナガイ、並びに専任C級冒険者ムサシ・ナガイ!家族共々罷り越しました。」


「お~っ!入ってくれ!」


返事を確認してミサオがドアを開けると、数名の者と共に地図を広げて会話をしているグランド・マスター、セルジオの姿が。


「・・・悪かったな、朝早くに。」


「いえ。皆さんこそ、寝ないで動いて下さって、逆に申し訳ありません。」


「何、こんな事位、お前さん達のこれからに比べりゃ、なんて事ねぇさ。」


人の情けが身に染みるミサオ。


「で、早速なんだが、人が住めて誰の領地でもない場所。僻地といやぁ僻地だが、未開まではいかない。となるとだ。」


セルジオが、地図の一点を指差す。


「ここは?」


「ここが王都トリニダス。馬車で東に向かって5日でテリオス。そしてそこからさらに東に馬車で5日。このモルレ山を越えて、ここにあるグレースの森。・・・ここに、いわゆる廃村がある。」


「廃村・・・ですか?」


ムサシが尋ねる。


「ああ。この森ってのが、動物や魔物が多くてな。特に国レベルでは希少価値がない場所で、どこも領土の主張するだけ手間だと放置されてた場所に、狩人達が家族単位で幾人かが住み着いてってとこだな。


が、ここ最近は森に闇憑きが増えやがったもんだから、結局ここの村人は他の土地に移り住んで放棄された場所。それがここだ。」


そこまで言って、水を一口含むセルジオ。


「んまぁ、近くにビアン湖ってのがあって、水源にも困らねぇし森で肉の確保も出来る。


実際は見てみなきゃ分からねぇが建物も多少使えるもんがありゃ儲けもん。


何より、ここら辺りは勾配のない一角だ。多少の畑もあったらしい。ま、草ぼうぼうだろうがな。どうだ、ミサオ?


取り敢えず数十人。多少は、木でも切らなきゃいけねえだろうが、小さな村から始めるなら、俺はここを推すよ。」


「・・・元より、グラマスのおすすめをウチが断る訳ないですよ。是非もない。決まりです!お手間かけました。」


ミサオと共に家族の皆も一斉に頭を下げる。


「あ~、そういうのナシナシ!言ったろ?お前さん達は特別だって!こう、親戚っていうか、身内っていうか、なぁ?そうだよな?」


何故かセルジオはミサオでは無くジョロに同意を求める。


「いや、俺に聞かずにジョロですか?」


少し不満顔になるミサオ。


「セルジオのおじちゃん、身内!」


ジョロのこの一言に、吹き出すその場の一同。


これで永井家の住む場所は決まった。


「いくらかの人数は、こちらから廻すようにする。商業、建築、その他のギルドにも声掛けて、そちらに向かわせよう。あまりに大人数だと目立つから、分散して移動って感じだな。」


「何から何まで・・・。」


グラマスの厚意に頭を下げかけるミサオ。


「その先は言うなよ!そういう時は素直に・・・。」


セルジオの意図を理解するミサオ。


「お言葉に甘えます!」


「応!わかった!・・・で、例の・・・ポチッとですぐ行くんだろ?」


セルジオは例のコルテオの件の落ち着き始めた後、

わざわざ様子を1人で見に来ていたミサオと共に、コルテオから王都へ送ってもらっている。


その時に実は移動を経験済みである。この事は他の家族は知らなかったので、皆驚いている。


ミサオにしてみればタップするだけのお手軽転移だから、家族に話すのをすっかり忘れていた様である。


「ええ。だから本部へもポチッと来ますから、安心して下さい!」


ここでミサオとセルジオは互いに固い握手を交わし、永井家は本部を後にする。


歩いて王都の外壁を出て、人目につかない所へ移動した一行は、すぐに皆で転移の為に一カ所に集まる。


転移の場所は、テリオスの東・グレースの森。


「んじゃ、とっとと行くべか。ファミリー・ポチッとな!」


永井家の姿が、一瞬で消える。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「・・・森、だな。何の変哲も無い森だな。」


ミサオの第一声。


家族を包む光が消え、周囲を見回す永井家一行。


「・・・森、よね。」


「何の変哲も無い、森・・・ですね。」


クミコとムサシが言う。


期待に胸を膨らませて来た割には、どこにでもありそうな風景。


少し肩透かしを勝手に感じている家族に対して、ジョロが皆の立つ場所の先を指差す。


「ねぇ!あっち、何かあるよ!お家・・・かな?」


「お、柵・・・って、結構ボロだな!放置されてりゃそうなるか。」


サンシローも目を凝らして言う。


「まぁ、取り敢えず、向こう見に行こうや。朝飯まだだし・・・荷物も置いて、俺は森の中で、久しぶりに狩りでもするかなぁ。」


コジローの一言を合図に、廃村らしき方へ歩き出す永井家一行。


程なく、コジローが皆を無言で制止する。


進行方向右手の草むらに1人分け入って行くコジロー。


制止して、皆が待つ事4〜5分と言った所。


「バン!」


声が聞こえて程無く。


右手に鳥の様な生き物を持って戻ったコジロー。


「・・・さすが狩人、仕事が早ぇな!朝飯ゲット!丁度良いわな!村ん中入って屋根あるとこ見つけたら、俺とムサシは薪代わりの木っ端の調達!コジョとサンくんは、火起こしと食器の準備!マミとジョロは朝飯作る!これでいいかな?」


ミサオが皆に確認する。


「そうね!それじゃ、あそこに見える大っきめの家。あそこに荷物置いて、永井家行動開始!」


クミコの号令で、皆が役割毎に別れる。


ミサオとムサシは、崩れた家の壁や柵から木の板を剥がして集めてゆく。


コジローとサンシローは、建物に残されていたテーブルの上を軽く払い、二手に分かれる。


サンシローは台所と、近くにあった桶などに魔法で水を用意し、持ってきていた雑巾を絞って拭き掃除。


コジローはかまどの様子を確認し、家の周りの適当な木切れを火種にして、魔法で火を起こし始める。


その間に、クミコとジョロは、持参の包丁や鍋釜を出して料理の支度を始める。ちなみに白米やちょっとした香辛料、味噌などもしっかりクミコは持参している。


「マミ?テーブルの上、ここ食器置くけど、ご飯と・・・スープ位でしょ?作るの。」


「そうね。凝った物今作れないから、ご飯とお腹に溜まる味噌汁・・・みたいにしちゃう。あの鳥みたいなののお肉も使ってね!」


サンシローの言葉に答えるクミコ。


「あ、じゃあ俺さばくかなぁ。マミ、あの鳥みたいなヤツの肉切り出すから、少し待って。」


コジローがかまどの方からクミコに声をかける。


「わかったわ。コジョありがと!じゃあジョロは、お米といで、こっちのお鍋に移しておいて!水加減はマミが見てあげる。」


テキパキと皆で動く。


「戻ったぞ~!お、コジョ、木っ端、かまどの横、重ねとくぞ!ムッちょん!そっちのは外に重ねようか。一応夜は防御魔法かけるけど、万一に備えて見張りもしなきゃいけないだろ?ん〜この木っ端の量じゃ、もう一回行かなきゃダメか?ムッちょん!もっかいいこ!」


置いて早々また2人は姿を消す。


そうしてる間に、鍋の米もグツグツ言い出し、もう一つの具沢山味噌汁もいい香りを放ち出す。


(ぐ~っ。)


「誰~!お腹なったの。」


「・・・僕。」


クミコに答えるジョロの返答に、コジロー・サンシロー・クミコが笑い出す。


久方振りの、外での平和な時間。


「お~らよっと!これで今日明日はもつべ!」


ミサオが外に、取ってきた木板や枝を置く。


「ええ、いけるでしょう。・・・マミのご飯、相変わらずいい匂いするなぁ・・・。」


ムサシも父と同じ動作で木っ端を積み重ねる。


「あったり前だろ!俺のハニーの飯は世界・・・いや、二つの世界で一番上手いからな!」


「・・・いや、僕の母でもあるし、父親のノロケここで聞かされても・・・。


まぁ、仲良いことはいい事だし、マミのご飯は二つの世界一番と言う事で。マミ~ッ!戻りました!」


2人の話す内に食事が盛り付けられ、皆が席に座る。


あちこちの廃屋から集めて来たイスだから、足にガタがきているのも御愛嬌。


「朝からみんな、お疲れさん!さぁ、食うぞ!いただきます!」


「いただきます!」


ミサオの号令に皆も合わせ、料理を口に運び出す。


会話をしながらの、楽しい朝食。こんな日がずっと続けばいいと思うミサオ。


それは多分家族の皆が考えている事。


だが、永井家の皆は知っている。


この一時が、決して永遠ではない事を。


いずれ。


いずれ来る害悪の嵐。


前も見えない位の暴風雨、いや天変地異。


その嵐の前の静けさだと言う事を。


だからこそこの食事の時間を、会話を、そして皆の笑顔を互いが大切に胸に刻む。


ミサオだけでなく、ここに居る家族の皆が心の内で思っていた。


「さて、腹もこなれてきたし、周囲の確認だな。どうすべか?」


ミサオの問いに、ムサシが答える。


「そうですね・・・まずは、僕がこの廃村内のチェックをします。建物、畑、水場、柵などの傷み具合や、どれだけの人数が受け入れ可能かを確認しようと思います。グレースの森は、コジョに頼む。狩人の目で、生き物の有無、危険度、人の通れる道の確認。」


「あいよ~!ついでに何か狩ってくるよ。まだ、冷蔵庫無いし、すぐ食べ切れるやつなぁ。」


コジローが答える。


「次はサンくん。確かグラマスの話で近くに湖あったはずだ。飲水に適しているか、水量は豊富か、畑などに水を引く事への可能性。それと、食用に適した魚がいるか?そこら辺の確認を頼む。」


「ハイよ!てか、ムッちょんにーにー、すげぇな!」


ムサシの指示に、サンシローも感心する事しきりだ。


「で、マミには、最初の拠点としてのこの建物。ここを少し片付けて寝泊まり可能な状態にして下さい。壁の穴や地面のへこみは、ジョロ!お前の魔法の出番だぞ!」


「ムッちょんにーにー!僕、やるよ!」


「・・・ムッちょん・・・大人に、なったわね!」


やる気のジョロと、涙ぐむクミコ。


「な~んか、俺出番無さそうだな?外の掃除でもするか?」


気が抜けるミサオ。


「何言ってるんですかパピ!


周囲の確認終わったら、忙しくなりますよ?


不足品のチェックが済んだら買い出しが有りますし、それが終わったら移住者の最終人員の確認とそれに合わせた移動。


セルジオさんの回してくれた人員が着くまでにある程度の受け入れ態勢も確保しなきゃいけないし・・・。」


「わかった、わかったから!どんだけ優秀何だよ長男坊は!・・・つまり無限ポチッとなって事で、おけ?」


ムサシにやり込められてシュンとなるミサオを見て、皆が笑う。


三々五々、指示に沿って動き出すクミコと子供達。


手持ち無沙汰のミサオのポケットで、絶妙なタイミングで振動が伝わる。


(スマホ・・・課長さん?)


カ=チオ。


この異世界、イグナシアの神様。本人?は、観察者と自称しているが、ミサオにとっては上司の課長さんである。


スマホの通話ボタンを押すミサオ。


「・・・もしもし、お疲れ様です、ご無沙汰です。」


「あ、お疲れ様です〜!いつもお世話になってます〜!」


相変わらずの課長さん。


「で!・・・どこまでわかってたんスか?」


詰問口調のミサオ。


「全てではないですよ!言いましたよね?

闇憑き、あれの元の黒い霧。あれこそこの世界におけるイレギュラー・・・私の管轄外のモノ。


その思考や行動原理までは・・・。」


淡々と話す課長。


「それはそうとミサオさん、ご家族・・・やっと、勢揃いしましたね。」


「その件は、素直に感謝しています。本当にありがとうございます。」


電話の向こうの課長にその場で一礼するミサオ。


「で、この後は、やつらとの決戦ですか?・・・その為の拠点作り。」


「副業・・・だったはずなんスけどねぇ。闇憑き討伐して、生活費稼いで・・・そんな暮らしのはずが、今じゃ村作りなんて、信じられないっスよ。」


苦笑するミサオ。


「守りたいものが・・・増えたんですね。私自身は、そこまで直接介入するのははばかられますが、ミサオさん。あなたは、あなたの思うままに動いて下さい。少なくとも、あなたは人を恣意的に扱う人じゃない。」


優しい口調で話す課長。


「・・・買い被りもいいとこっスよ!俺の過去知ってますよね?世間様にも迷惑かけて、生きてた過去が・・・。」


「清濁併せ呑んで、尚清波を漂わす。汝、海の如き男たれ・・・あっちの世界で、ミサオさんが好きな言葉ですよね?」


「・・・ずっちいっスよね、課長さん。プライベート丸裸なのはいただけないっスよ?・・・出来る事の精一杯。守る為の闘い、するだけですよ。」


「教国でのわがまま含め、苦労かけますね。でもあなたなら、永井家なら、光を勝ち取れます!きっと!・・・さて、教国のお礼も兼ねての様子伺いでしたが、長話もお仕事の邪魔ですよね?またタイミング見てかけますね!それじゃ!」


「いや、電話切るの早っや!」


あまりの変わり身に、スマホを耳にあてたまま、呆然とするミサオであった。










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