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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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ラディンと弟

ラディンは森の一角で、弟をひそかに呼んだ。

木々の影に隠れるようにして、二人きりになる。


「……親父は、殺された……。知っていたか?」

弟は一瞬、言葉を失った。目を大きく開き、問い返す。

「何それ…」


ラディンは少し息を整え、低く、しかし真剣な声で続ける。

「親父の飲んでいた薬を調べてもらった。依存性のある、徐々に効いていく薬だったらしい。飲んだ直後は元気になるんだと」


「本当なのか…」弟の声は震えていた。


「俺も、薬を盛られていた。教えてくれた人が言ったんだ。このまま飲み続けたら、死ぬって」

「……誰に薬を貰ったんだ?」


「族長だ」


沈黙が二人の間に落ちる。森のざわめきだけが、重苦しい空気を和らげるかのように響いた。


ラディンは弟の肩に手を置く。

「お願いがある。やつが本当に親父を殺したのか、知りたい」


ポケットから薬と酒を取り出す。ラディンは弟に手渡し、説明を続ける。

「気を大きくする薬だ。酒にほんの少し混ぜて、飲ませろ。俺は警戒されている。……俺が腰抜けでつまらない、もっと商人を襲おうぜ、みたいに言って取り入り、上手く聞いてくれないか」


弟は薬を見つめ、唇を噛む。

「無茶言うな……」


ラディンはわずかに笑みを浮かべ、しかし目は真剣そのものだ。

「真実が知りたいんだ」


弟はしばらく考えた後、深く息をつく。

「……そうだな。やってみよう」


ラディンは小さくうなずき、森の奥へ視線を向ける。

父の死の真実を突き止めるため、二人の計画は今、静かに動き出した。



弟は夜、族長に会いに行く。愚痴を言う、頭の軽い、軟弱者の振りをして。

「兄貴は腰抜けだ。商人を襲うのは良くない、って言うんだ。親父もそうだったが、くだらない。もうたくさんだ。俺は、金が欲しい。今度の襲撃、俺も入れてくれよ」


族長は少し眉をひそめる。

「まだ、若いだろ」


弟は笑みを浮かべて首を振る。

「関係ないよ。楽して遊びたいんだ。酒も持ってきた。…珍しくて、旨い酒だ」


族長は怪訝そうに酒を手に取る。毒が混ざっているかもしれない、と思ったのだ。

「まず、お前が飲め」


弟は躊躇せず、堂々と口にする。香りを楽しむように目を閉じ、喉を通すと笑みを浮かべた。

「ははっ、すげえうまい。もう一杯飲んでいいか?」

「駄目だ」


族長は素早く酒を奪い、杯に注ぎ直す。香りが濃厚で、微かに癖のある風味が広がる。それでも、味は確かに旨い。


弟は目を輝かせ、族長を誉め讃えた。言葉の端々に散りばめる。

「すげえな、さすが族長だ」


酒がゆっくりと減っていく。族長は、段々声が大きくなり、身体を揺らすようになった。


弟は少し声を荒げる。

「親父はいい時に病気で死んだよ。今の族長に乾杯!」


酒を一口含んだ族長は、気の大きくなった表情で笑った。

「本当に病気だと思うのか?」

「そうだろ?」

「違うさ。己が薬を盛ったのさ。よく効くとか、ありがたがってさ。ははは。おかしいだろ」


弟は拳を握りしめた。その手のひらから、血が滲むほど強く、握りしめていた。

「族長、最高だな。もう一度、乾杯しようぜ」


その言葉の裏で、弟の心は怒りで燃えていた。



弟はラディンの前で、言葉を震わせながら報告した。

「親父は殺された…はっきり言ったよ、薬を盛ったって」

「親父を慕っていた人達も……」


悔しさで涙をこらえ、弟の肩が小さく震える。言葉が続かない。

ラディンも黙ったまま、視線を床に落とす。


しばらく沈黙が二人を支配する。森のざわめきや遠くの風の音だけが、重苦しい空気の中に響く。


やがて弟が静かに口を開く。

「…どうするんだ」


ラディンは視線を弟に向け、低く答える。

「親父の仇を討つ」


弟は息をのみ、目を見開く。

「どうやって…」


ラディンは深く息をつき、言葉を選ぶように口を開く。

「族長は警戒心が強い。……襲撃の時に混乱に紛れて襲うのは、どうだ。……それまで、情報収集をしてくれるか?」


弟は力強くうなずく。

「わかった」

「頼んだ」


二人の決意は静かに、しかし確かに固まった。

父を奪った者に復讐を果たすため、夜の闇の中で準備が進む……その瞬間だった。


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― 新着の感想 ―
 ラディン一家以外はヤッていいのでは?
イリヤ族はもう盗賊以下に成り下がってるから皆殺しでいいかな
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