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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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ラディン、薬をリリアーナに見せる

ラディンはリリアーナとの再会の約束で、光明が見えた。

シルビアは戻るのを渋っていたが、早々居住地に戻り族長に報告する。


「警備は以前と変わりません。エドモンドの弓は脅威かと。町中がエドモンドの大弓を讃えてました。オルフェウスは、怪我により弓は使えないそうです」

シルビアも何かと情報を伝えていた。


ラディンは報告後、急ぎ母親の家を訪ねた。

族の掟では、十八歳を過ぎたら一人立ちをする。それは早く妻を娶り、子を作ることを示唆していた。ラディンは家を出てから、すでに二年が過ぎていたが、未だに独りだった。


「…久しぶり、母さん」

突然の来訪に母は目を丸くした。

「どうしたの、突然」

「いや、欲しい物があって」


ラディンは考えておいた言い訳を口にした。

「町で薬草に詳しい女の子に会ったんだ。俺たちが使う魔獣避けに、とても興味を持って…。今度、渡すために会うのだけど……ほら、父さんが高価な薬を飲んでたって聞いたから。もし残ってたら、見ると喜ぶかと思ってさ」


「あらあら、まあまあ。薬は保管してたはずよ」

「そっか、良かった」


母の表情は少し和らぎ、目尻に笑みを浮かべる。

「あなたも、そんな時期になったのね……。可愛い子なのかしら?」


「いや、そんな関係ではないけれど……」

「そうよね。これからよね」


母は嬉しそうに首を振り、戸棚を探り始めた。

「薬草が好きなの? 他にも何か持ってく?」


その時、奥から弟が顔を出した。

「兄貴、変な女にひっかかるなよ」

「いや、そんな子ではないよ」


ラディンは苦笑しながら答えた。弟の疑いも、母の期待も、どちらも否定できない気持ちだった。


やがて、母が薬を布に包んで差し出す。

「ほら、これ。大事に保管してあったものよ」

「ありがとう、母さん」


ラディンは薬をしっかりと受け取り、胸の内で安堵する。

これでリリアーナに渡せる。彼女が確かめてくれれば、少なくとも真偽は分かるはずだ。


彼はその足で家を後にした。背後で母の声が響く。

「また帰ってきなさいよ。次は、もっとゆっくりね」


ラディンは振り返らずに手を上げ、足を速めた。



約束の日、ラディンは大王栗の木の下で、ひっそりと身を潜めていた。

木漏れ日が斑に地面を照らす中、葉のざわめきが風に混ざり、森全体が静かな息をしているようだった。


この日を待ちわびた時間は長く、心臓の鼓動が耳に響くほどだった。

「まだ、来ない……」

木の幹に手をつきながら、ラディンは視線を森に向ける。


やがて、遠くにリリアーナのシルエットが現れた。柔らかい紫の髪が風に揺れ、木漏れ日に光る。

「ごめんなさい、待ってた?」

「いいや。ほら、これ」


ラディンは用意していた魔獣避けの薬を差し出す。


リリアーナの目の色が変わった。薬をそっと手に取り、香りをかぎながら目を細める。

「これが…本当ね。匂いが違う………そう、五つ葉茨、が入ってる……?」

小さな声でぶつぶつとつぶやき、彼女の指先が薬に触れる。周りは、何も見えていない。


「ほら、薬草もあるよ」

ラディンは乾燥させた薬草を取り出す。色とりどりの葉が、森の緑の中で一層鮮やかに見えた。リリアーナは、薬草を見つめる。


「でも、あげる前に一つお願いを聞いてほしい」

「何を?」

リリアーナの視線は、ラディンの手にある薬草に釘付けだ。


ラディンは父が使っていた薬を慎重に取り出す。

「この薬を知ってるか?」

「……見ても、いい?」


リリアーナは怪訝そうな顔をしたが、しばらく匂いをかぎ、目を細めながら少し舐めた。

「…薬、だよ。南で使われる。でもこれ、麻薬に近い、依存性を高める薬草が入ってる」

「害は無いのか?」

「本当に、稀に、使うくらいなら。毎日使うのは、良くない」

「どうして?」

「……前にあなたが飲んでた薬草も入ってる。毎日なんて、死ぬよ?」

「…そうか」


ラディンは薬草を渡すと、リリアーナは目を輝かせ、慎重に葉を選びながら匂いをかいでいた。


しばらくして、リリアーナは魔獣避けの薬と薬草を丁寧に鞄にしまい、大王栗を探し始めた。枯れ草の間をかき分け、地面に手を伸ばし、五個の栗を拾った。口元が綻ぶリリアーナ。ふとラディンを見ると、空を睨んでいる。


「帰ろうと思うのだけど……?」

「ああ…あのさ、お酒を飲んだみたいに気が緩む薬ってあるのかな?」

「お酒では駄目なの?」

「お酒に強いからさ」

「……近いのなら、あるよ?」


リリアーナは鞄から小瓶を一つ取り出す。

「これ、ナイフとかの刃に塗って使う薬。神経毒。でも、ほんの少しだけなら、口に入れると気が大きくなる」

「……大丈夫なのか?」

「……実験済みだから。効果は期待できる」

「どうして、分かるんだ?」

「……舐めてみたから」

「そんなに、効果があったのか」

「……そうね、……とっても」

「鞄に入っている、理由は?」

「機会があったら、神経毒の効果も試したいな……て」


小瓶をラディンに差し出すリリアーナ。

「苦みがあるから、癖のあるお酒に混ぜるといいかも」

「あのさ、……自分で試すなよ」

「…………。はい、あげる。魔獣避けのお礼」

「いいのか?」

「また作れるから、いいよ」

「……有難う」

「遅くなるから、帰るね。今日はありがとう」

リリアーナ、眩しいほどの笑顔。

……リリアーナは、薬も手に入ったし、大王栗迄手に入れて大変満足し、軽やかに足取りを進め、元来た森へと消えていった。


ラディンは少しの間、そこに立ち尽くしてから、薬を手にゆっくりと歩き出した。


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