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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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リリアーナは見た

翌日、リリアーナは朝から人々を捕まえていた。

「大王栗ってどうやって食べるのが一番ですか!?」

「そりゃあ、蒸すのが一番だな」

「ありがとう!」


聞いた傍から早速蒸してもらい、湯気ほかほかの大王栗を大切そうに籠に入れる。

……よし。エドモンド様に食べてもらわなきゃ。


軽やかにエドモンドを探しに走り出す。しかし、エドモンドは城には居なかった。


エドモンドは町にいた。

……あの金髪の青年……いったい何者だ。リリアーナと仲良さそうだったとか。放っておけん。必ず、見つけ出す。

名目は「視察」だが、内心は完全に「調査」である。


そんな中、ふいに聞き覚えのある声がした。

「久しぶりね、エドモンド」


足を止める。振り向けば、金髪の女が微笑んでいた。

「……シルビア、か?」

「嬉しい! 覚えていてくれたの!」

「……ああ」


ぱっと花のように笑うシルビア。

「六年ぶりね。元気そう」


そしてそのまま、迷いなくエドモンドにぴったりと抱きついた。


通りの人々が「おお?」という視線を向ける中、エドモンドは硬直。

……ちょ、ちょっと待て……。この状況は非常にまずい……!


――そして角を曲がった先から、ちょうど大王栗を持ったリリアーナが駆けてきていた。


角を曲がった瞬間。


エドモンド様の姿だ、

リリアーナは笑顔で大王栗の入った籠を掲げた……が、その笑顔は一瞬で固まった。


目の前には、エドモンドと抱き合う美女。(本当はエドモンドが抱きつかれているだけ)

金髪が太陽を反射し、胸元のボリュームはリリアーナの想像のはるか上。

リリアーナは思った。

(……肉体的だ……。私と全然ちがう……!)


籠を抱えた腕がカタカタ震える。

「……っ!」


次の瞬間、リリアーナは踵を返し、全速力で逃げ出した。

栗が籠の中でゴロンゴロン揺れる。


路地の陰に身を隠し、しゃがみ込む。

「なんで……どうして……あんな美女と……。 私なんかより……」

胸の奥に、初めて味わう重たい感情が渦巻いた。


そのとき。

「……大丈夫か?」


顔を上げれば、そこに立っていたのは大王栗を教えてくれた男だった。

「こんなところで何をしてる。顔色が悪いぞ」


リリアーナは慌てて籠を抱きしめ、言葉に詰まる。

「わ、わたし……」


男は彼女の困惑した表情をじっと見つめ、眉をひそめた。

「……何があった?」


……エドモンドの胸元に埋もれる美女の姿が脳裏にフラッシュバック。

リリアーナの目にまた涙が浮かんだ。


リリアーナは泣きじゃくりながら、男に打ち明けた。

「す、好きな人が……とても美人で、胸の大きい人と……抱き合っていたの……!」


男は一瞬ぽかんとしてから眉を寄せる。


「……間違いかもしれないだろ」

「確かに、見た」

「事情があるかもしれないだろ。そんなに信用できないのか」

「信用は、してる……」


「じゃあ、ちゃんと話をするんだ」

「でも……」

また、ぽろぽろと涙がこぼれる。


男は困惑して頭をかきむしった。

リリアーナ、涙が止まらない。


男、何か無いかと鞄を見るが、良い物は無かった…。


「……そうだ。魔獣避け、使ってただろ。俺達が使うのと匂いが違うんだ。興味あるか?」


リリアーナは涙を止め、ぱちりと目を瞬かせる。

「……ある」

「今度、持ってきてやるよ」

「ほんとに?」

「欲しければ、元の薬草もいいぞ」

「ほんとに?」

「本当だとも」


「種類の違う魔獣避け……!」と聞いた瞬間、リリアーナの顔にそわそわとした好奇心が戻ってくる。


「約束よ」

「ああ、約束だ。取りに行くのに時間がかかるから……二週間後、大王栗の下でどうだ。栗を拾った頃の時間な」

「わかった! 薬草も必ず持ってきてね!」


さっきまでの涙はすっかり引っ込み、リリアーナの目はキラキラ輝く。

「もし、その日が雨だったら?」

「次の日だ」

「次の日も雨だったら?」

「その次の日」

「その次も雨だったら?」

「その次の日」


にんまり笑うリリアーナ。

「絶対、約束よ!」

「……ああ」

「薬草も、絶対にだからね」

「……ああ」


「あ、名前聞いて無かった。私、リリアーナって言うの」

「……ラディン、だ」

「宜しくね。絶対に持って来てね」


ラディンは小さくため息をつきながらも、口元には苦笑が浮かんでいた。


リリアーナの涙は引っ込んでいた。



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