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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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大王栗探し

翌朝、北の門前には、軽やかに駆けてくる紫髪の影があった。

リリアーナだ。手には籠、顔は期待に満ちて明るい。


「おはよう!」

嬉しそうな声が響く。


ラディンは門にもたれ、腕を組んだまま微妙な顔をした。

「……本当に行くのか」


「やっぱり、教えるのが嫌になったのでしょう」

リリアーナの瞳が一瞬にして潤む。


「いや……、時期がまだ早いから、落ちているかどうかはわからない。……いいのか?」


「もちろん」

リリアーナは即答した。


ラディンは小さくため息をつく。

だが、その頬に浮かぶ笑顔に押されるように、彼は歩き出した。


二人は並んで森へ。

風に揺れる枝葉が、二人の前に道を示すように広がっていった。


――森の奥。


しばらく歩いた後、ラディンが立ち止まり、顎を上げた。

「あの木だ」


「ええーっ、ここ知ってる。でも、あの木は高すぎて葉も見えないから、分かんない」

リリアーナは見上げて、ぽかんと口を開ける。


「よく見ろ。落ちている葉を。栗と少し違うだろ」


「あっ……そうなのよね。初めは栗かなって思ったけど、微妙に違うから、他の種類と思ってた……。この葉が大王栗なのね!すごい、詳しいのね!」

リリアーナの瞳がぱっと輝いた。


二人で周囲を探すと、地面に丸々とした実が二つだけ落ちていた。


「……やっぱり、早かったな」ラディンが肩をすくめる。


「二個もあったし、 場所も木もわかった。十分だよ、有難う!」

リリアーナは満面の笑顔で、手のひらに載せた大きな栗を掲げた。


――少しだけ可愛いかも。

ラディンは思わず、そう感じてしまった。


「今日は本当に有難う。……これ、お礼に」

リリアーナは籠から大切そうに取り出した。


それは、鎧鷲の風切り羽根。陽の光を受けて、輝きが淡く揺れる。


「……鎧鷲の羽根?」

ラディンは目を細めた。族でも滅多に手に入らない貴重品。高値で取引される品だ。


「綺麗な羽根でしょう? 何かに使ってくれたら嬉しいな」

リリアーナはにこにこと笑いながら、両手で差し出す。


「……有難う」


ラディンは鎧鷲の羽根を丁寧に布で包もうとしていた。

折れたり傷ついたりしないように、慎重に鞄を漁ったその時――。


小袋がころりと出てきた。

薬の独特な匂いがふわりと漂う。


「……?」

すぐにリリアーナが眉をひそめた。

「ねぇ、薬の匂いがする。飲んでるの?」


「ああ、ふらつく時があってね」


「……その薬、見てもいい?」


「いいよ」


ラディンが差し出すと、リリアーナは袋を開け、鼻を近づける。

薬草とは違う、鋭い香り。少しだけ削り、舌に乗せた。


しばらく無言……そして低い声。

「……ねぇ、この薬、毎日飲んでないよね?」


「なんでだ」


「こんなにも沢山……、死ぬかもしれないよ?」


「……そうなのか?」


リリアーナは真剣な目でラディンを見つめる。

「これ、南の薬だよ。すごく貴重で、値段も高くて。飲んだ後は意識が高揚して、強くなったように感じるの。その時だけ使うなら問題ないけど。……僅かに毒があって、毎日飲めば身体に毒が溜まるの」


ラディンは眉を寄せた。

「……毒?」


「そう。始めは手の震え、次に力が入らなくなって、やがて起き上がれなくなる……」

リリアーナは声を落とす。


「……ねぇ、水筒持ってる? 見てもいい?」


「ああ」


彼女は蓋を外し、匂いを確かめ、少し口に含んだ。

「……、やっぱり」


「何だ?」


「この水、捨ててもいい?」


「……ああ」


リリアーナは地面に水を流し、水筒の奥を小枝でゴリゴリと削った。

枝の先には、透明なゼリー状のものがぬるりとついている。


「これは巻き貝が出す粘液みたいなもの。水に少しずつ溶けるの、そこに薬を混ぜてある……」


ラディンは息をのんだ。

「……飲むとどうなる」


「お酒を飲んだみたいにふらついたり、意識が回らなくなったりする。味は……、ほんの少し甘くて、水を飲んでも『少し甘いかな?』くらいしか感じない」


「……毒なのか」


「うーん……媚薬に近いのかな。でも、沢山飲むと危険。下手すると意識を失うし」

リリアーナは真面目な顔で言った。


「昔ね、この二つを組み合わせて使う方法があるって、聞いた。……大丈夫なの?」


……ラディンは無言だった。


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