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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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ラディンとシルビアの偵察

灰色の焚き火の煙が、夜の森に薄く漂っていた。


「おい、おまえ……ラディン、偵察に行ってこい」

族長が声を張った。冷えた視線が若い男に向けられる。


「オルフェウス、あいつがどのくらい回復してんのか確かめろ。それとエドモンドの腕前もだ。そうそう、雪豹紋の連中が来たときに、襲うぜ。いい場所を見つけてこい」


「……はい」

ラディンは背筋を伸ばした。若いが、獣のような敏捷さを持つ男だ。


族長は隣に座る女に目をやった。

「シルビア、おまえは妹ってことで一緒に行け。あらかじめ、目ぼしいもんを見つけておくんだ」


シルビアは静かに頷いた。血のつながりはない。だが彼女は演技に長け、必要とあれば誰の妹にでもなれる。


焚き火を囲む男たちはざわついていた。

……一年前、前の族長が死んだ。


病とされたが、今も族の一部は疑っている。

「殺されたんだ」

「今の族長が手を下した」


そう噂される。


ラディンは炎の揺らめきの奥に、族長の目を見た。冷たい光。

真実を知るのは、危険かもしれない。


そうして、偵察の旅は始まる。


森の木々の隙間から、淡い光が差し込んでいた。


ラディンとシルビア、金の髪と緑の瞳。族では珍しくないが、外から見れば目を引く美形の姉弟。


「はぁ~面倒。でもエドモンドに会えるのなら良いかも~」

シルビアが口元をニヤニヤさせる。


「……ホドホドにしとけよ」

ラディンはため息をつきながら、肩に巻物を背負った。西から来た布の巻物を、できる限り運んでいる。


二人が歩みを進めると、前方に人影が揺れた。ときどきしゃがみ込み、地面に手を伸ばしている。腰には草の束。


「うわ、ひどい格好」シルビアが小声で笑った。

紫の髪――見慣れない色。ラディンは一瞬で思い出した。森で出会ったあの娘だ。


「……シルビア、先に行っててくれないか。町の中央広場で夕方落ち合おう」

「ふーん、わかった。じゃあ、お互い自由ね」

シルビアはまた意味ありげに笑い、ひらひらと手を振って去っていった。


ラディンは静かに近づき、声をかけた。

「おい、何をしてるんだ」


「えっ」

振り向いたのはリリアーナだった。北の森で出会った若い男を見て目を丸くする。


「……薬草をとってるのだけど」

確かに、手にも籠にも薬草がぎっしり詰まっていた。


「久しぶりだな。あの枝は、ちゃんと根が出たのか?」


「そうなの! 凄いの! みんな根が出たの! みんなよ! 春になったら、移植をするの!!」

リリアーナは興奮気味に、身振りまで交えて話した。


だがすぐに、熱が引いたようで、深々と頭を下げた。

「……あの時は、本当に有難うございます」


ラディンは少し目を細め、短く答えた。

「それは良かった」


森の風がそよぎ、紫の髪が揺れた。木漏れ日が、髪に影を落とす。


ラディンは腕を組み、少し首を傾げる。

「どうして森に来なくなったんだ?」


リリアーナはきょとんとした顔をしてから、言った。

「殆ど採れる薬草を採ったから。根っこからとか全部採ると、生えてこなくなるでしょ?だから少しずつ取って、移動してるの。それにね、植物地図も随分できてきたし」


「……植物地図?」

ラディンの眉が動いた。


「あ、薬草、木の実、山菜、キノコ、とか生えてる所を記憶してるの。毎年、大体同じ場所に生えてくるから」


「毎年取りに行くと?」


「そう。時期になったらね」

リリアーナは当然のように言った。


ラディンは内心、妙に感心した。町の子か? それとも農民か?


リリアーナは急に声を弾ませる。

「今はね、大王栗の木を探してるの。すっごく大きい栗なんだって。いいよね~」


「知ってるよ」


「本当に!? ……あ、でも秘密でしょ?」

彼女は目を丸くして、すぐに唇を押さえた。


「いや」ラディンは少し肩をすくめる。「知りたいのか?」


「勿論!」

即答。期待に満ちた緑の瞳がこちらをまっすぐ射抜く。


……この子、警戒心が無いのか?

ラディンの胸に不安が過ぎったが、その輝きを前にすると言葉が揺らいだ。


「……明日なら、教えてあげるよ」


「明日ね! 待ち合わせね!」

リリアーナの顔はぱっと明るくなった。


そうして二人は約束を交わした。

明日の朝、門が開く時間に北の門で。



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 リリアーナ、警戒心警戒心ッ!?
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