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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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リリアーナ、木を探しに

これは、甘甘液の木が手に入る、少し前の話。


リリアーナはある日、薬の本を読んでいた。

古びた紙の端に、前は見逃していた小さな文字を見つける。


――甘甘液の木。北にある。樹液が甘い。集めて煮詰めると保存がきく。木は稀少。


「……何てこと」

ぱっと目を見開いたリリアーナは、すぐに立ち上がった。

早速探しに行かなくては。


翌日から「薬草採取」と称して、朝から北の森へ向かった。

西には決して行かず、魔獣避けを必ず持って。


しかし、一日目は見つからず。二日目も、三日目も成果はなかった。

四日目、森の奥で人が倒れているのを見つけた。


「し、死んでる……?」

恐る恐る近寄ると、かすかに胸が上下していた。まだ息がある。

血は出ていない。だが近くの崖から落ちたような痕跡があった。髪は金色。珍しい。


「……知らない人、怖い……」

迷ったが、このままでは魔獣に食べられてしまうかもしれない。

リリアーナは予備の魔除けをその場に置き、逃げ出した。

「…この辺りには、来ない……」


その後さらに三日間、北の森を探した。けれども、木は見つからない。


そんなある日。


「君、何してるの」


突然声をかけられ、リリアーナはひっと肩を震わせた。

振り向けば若い男が立っている。


「最近、森を歩いてるでしょ?」

「……薬草をとってるの」

「他に、何か探してない?」


よく見ている。怪しい人だ……とリリアーナは思った。


「俺、この辺に詳しいんだ。力になれるかも?」


詳しい……その言葉はリリアーナの心を揺らした。

「……木を探してるの。幹を傷つけると、樹液が甘い……」

「知ってるよ」

「どこにあるの」

「少し、遠いよ」

「お願い、教えて」


男に案内され、もっと北へ進む。

そこに高々とそびえる一本の木があった。


「これだよ。この辺りにはこれしかないかな。もっと北にはあるけど」


リリアーナは見上げ、唇を噛む。

背が高く、下には枝がない。

種でもあれば持ち帰れるのに。枝があれば挿し木ができるのに。

どちらも難しい。城から通うのも厳しい距離だ。


「……どうしたの」

「枝か、種を、欲しかったの」

「取ってきてあげようか?」

「高いよ、無理」

「登れるよ」

「……ナイフで切ってきて。いっぱいあると嬉しい」

「注文が多いね」


若い男は苦笑し、木をするすると登っていった。

ほどなくして、身体に布を巻きつけながら枝を十本以上抱えて降りてきた。


「有難う!」

リリアーナは心から喜び、鞄をごそごそ探る。


「たいした物じゃないけど……お礼。もらって」


布袋の中には魔鳥の鱗が十枚ほど入っていた。


「……いいの?」と男は無言で袋を見つめる。

「うん」


短い会話のあと、リリアーナは出会った場所まで送ってもらい、そこで男と別れた。


枝を抱えたリリアーナの足取りは、非常に軽かった。


リリアーナは持ち帰った枝を一つずつ丁寧に地面へ挿した。

「これで……挿し木完了!」


やがて根が出れば移植できるはずだ。

水を注ぎながら、リリアーナは小さく鼻歌を歌う。


枝の一つ一つが、未来の希望に見えた。


その後、リリアーナが北の森へ向かうことはなかった。


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