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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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リリアーナの水やり

リリアーナは城の庭の一角で、今日も薬草に水をやっていた。


「はい、甘甘液の木さん、お水です~。根っこが元気ね。えらいえらい~」

葉がツヤツヤと輝き、リリアーナの声に合わせて揺れる。


「次は甘青草。君もよく伸びたねえ~。もっともっと大きくなーれ」

魔力が水に、歌にのり、草はワサワサと嬉しそうに身を振った。


リリアーナはご機嫌で鼻歌を歌いながら、薬草たちに声をかけ続ける。


――その光景を、庭のベンチから見ていたのはオルフェウスだった。


(……何をしているんだ、あの子は)

リリアーナが如雨露を傾けるたび、葉っぱが一斉に揺れる気がする。

「ほら、もっと飲んで、のびのびしてね~♪」

まるで、草が返事しているように見える。


「……」

オルフェウスは額に手を当てた。


(花と会話し、草と踊る……リリアーナ、とうとう……)


その瞬間、リリアーナがこちらを振り向いた。

「オルフェウス様! 見てください! 甘甘液の木、根っこが出たんです!」

誇らしげに両手を広げるリリアーナ。


「……ああ、そうか。良かったな」

「ふふっ、でしょ! それに、見てください。この甘青草、今日もなんて――素晴らしい」

葉っぱがピンと張り、つややかに光る。



(……おかしい。あれはただの川の水のはずだ。なのに、草木が異様に元気だ)

(まるで、リリアーナの声に応じて動いているようにすら見える……)


リリアーナ「もっとのびのび育ってね~」

草「ワサワサワサァ…」

オルフェウス「……」


(……やはり、草が返事しているようにしか見えん)


オルフェウスはさらに真剣に観察を続けた。

(これは……もしや彼女が無意識に魔力を流し込んでいるのか? いや、待て。そんな高度なことを気づかずにできるはずが――)


リリアーナは小さく拍手して、にっこり。

「すごいすごい、今日も元気いっぱい」


……オルフェウスの目には「草相手に拍手している少女」の姿しか映らない。


(……いや、やはり違うな。緑の手ではなく、緑の脳かもしれん)


彼は深刻そうに額を押さえた。


リリアーナは何も知らず、今日も楽しそうに如雨露を傾ける。

彼女自身は「緑の手」の能力を少しも自覚していなかった。



ある日。

リリアーナは庭で水やりをしていた手を止めた。空を見上げ、目を瞬かせる。


「……雪?」


白いものがふわふわと舞い降りてきたのだ。

けれど、それはやけに大きい。

冬はまだまだ先だ。

(雪国だから……雪も違うのかな?大きいのが普通なの……?)


彼女は両手を伸ばして受け止めた。


「……冷たくない?」

指先に乗ったそれは、雪のようで雪ではなかった。むしろ、ふわふわ。まるで綿毛のような感触。


「なにこれ……?」


リリアーナは不思議そうに見つめながら、そのまま駆け出した。

向かう先はエドモンドの執務室。


「見て!溶けない雪!」


机に書類を広げていたエドモンドは、沈黙した。

「……リリアーナ。それは雪ではない」

「え? じゃあ何?」

「精霊なのか、魔獣なのか……正体は不明だ。この辺りでは『お雪様』と呼んでいる」

「お雪様?」

「捕まえられるようなものではないぞ。人が触れれば、すぐに消えてしまうはずだ」


「でもね、落ちてきたの。ほら」

リリアーナが手のひらを差し出すと、お雪様はふわふわとそこに留まっていた。


エドモンドは珍しそうに目を細める。

「……これは……滅多に見られるものではない」

彼がそっと指先を伸ばすと――すいっとお雪様は逃げていった。


リリアーナが笑う。


ふわりふわりと舞いながら、しかし再びリリアーナの肩に戻ってくるお雪様。


「……やはり、リリアーナ。お前の力に引かれて来たのだろう」

エドモンドは深く息を吐いた。


リリアーナは首をかしげる。

「え、私?まさか、でも……、嬉しい……」

お雪様はその言葉に応じるように、ふわふわと揺れた。そして、そのまま消えた。

「消えちゃった…」

「そういうモノだ」

「……残念」


お雪様は、リリアーナが庭で水をやっている時に、時々現れるようになった。


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― 新着の感想 ―
リリアーナさん、今は男爵位だけど領主様の婚約者でもあるし将来辺境伯の位にもなる身だから「何のスキルを持ってるか分かりません」じゃ外聞が立たないのでは?と、ふと思いました。あんま細かいことを考えずに雰囲…
木、魔物化してます?
 オルフェウス様、『とうとう...』ってなんですかね?(黒笑)
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