リリアーナ、手紙を書く
公爵家への手紙
拝啓
日頃より大変お世話になっております。
このたび、北方にて魔鳥を狩る機会に恵まれました。当地の人々に尋ねましたところ、珍しい種であるとのことでした。
その折に得られました素材のうち、特に形の良い鱗、羽根を幾つか同封いたします。光沢が美しく、装飾や研究の一助となれば幸いです。
また、当地で初めて口にいたしましたお茶と、調合した薬をお送り申し上げます。
お茶は甘く、薬効がございます。
薬の方は、相手に投げつけることで効能を発揮する神経毒です。万一の際の保身に、お役立ていただけましたらと思います。
末筆ながら、皆様のご健勝を心よりお祈り申し上げます。
敬具
リリアーナ
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実家への贈り物は羽根にした。
調合師には、薬草と甘青茶を送った。きっと喜ぶと思って。
弾き語りには、陽光にきらめく鱗を。音色に合いそう。装飾にも護符にもなりそうで。
少年には、調合した魔除け。その他、治癒薬、神経毒、森で助かりそうな薬を詰め合わせた。
実用的でありながらも、それぞれの暮らしに寄り添った贈り物だった。
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後日談
公爵家にリリアーナからの荷が届くと、家族一同は揃って開封に立ち会った。
「……ふむ、珍しいものばかりだな。取りあえず鑑定士を呼べ」
公爵の一声で、老練の鑑定士がやって来る。
ひとつずつ丁寧に鑑定していく。
「魔鳥の羽根――羽根ペンとしても一級品、装飾にも良し。希少素材ですな」
「鱗――ほう、硬度は最高値。宝飾品としても防具としても至高の逸品。大変な希少素材」
「……このお茶、少量で非常に甘い。砂糖の代わりになりますな。加えて疲労回復、血流改善、美肌効果に育毛まで。……ただし、多量摂取は毒。流通は無く、まさに幻の品」
「最後にこの薬……神経毒。即効性で効果も高い。……うん、これは本当に“投げつける用”ですな」
重苦しい沈黙のあと、全員の目が一斉にお茶に注がれる。
「……美肌?」アデライドが目を細める。
「育毛……!」思わず頭に手をやる公爵。
「砂糖の代わりになるだなんて、お菓子作りに最適!!」と公爵夫人。
次の瞬間、熾烈な争奪戦が勃発した。
「これは私の物です!」
「いや、家の当主である私がまず味見を……!」
「お母様、お父様はずるいです!」
羽根は無事に分配され、鱗は公爵夫人とアデライドがしっかりと握りしめて離さない。だが、お茶だけは――最後まで決まらなかった。
「……平等なら、いいだろう……」
と、公爵がぐったりとした声で言い渡すまで、家族の攻防は続いたのであった。
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実家では、魔鳥の羽根は、最初こそ居間の棚に飾られていた。光きらめきが美しく、皆が足を止めては眺めたものだ。
だが程なく、「高価で売れるらしい」と知ると、早々に手放した。売った金は家の修繕や食料に使われた。
調合師は、送られた薬をひとつひとつ瓶に詰め直し、棚に並べた。指でそっと瓶を撫でながら、大切に仕舞う。棚に並んだ列は、そのまま娘の無言の便りのようだった。お茶は、一度に多くは淹れない。湯呑にほんの一口ずつ。「もったいないから…」と笑いながら。
弾き語りは、鱗を細工して耳飾りとネックレスにした。舞台に立てば光を反射してきらりと輝き、観客の目を引いた。
「これは友人の贈り物なのです」と誇らしげに語る姿は、どこか照れくさそうだった。
少年は、調合してもらった護りの薬を、小袋に入れて首から下げた。
寝るときも決して手放さず、まるでリリアーナがそばにあるかのように、扱った。
――それぞれが、贈り物を自分なりに抱きしめながら、日々を過ごしていった。




