魔獣を売る
リリアーナと少年は、縄で縛った六つ目ネズミを引きずりながら町の門をくぐった。
血の匂いに犬が吠え、見回りの兵士がちらりと視線を向ける。
「……ちびどもが倒したのか?」
驚いたように目を細めるが、それ以上は何も言わず、通してくれた。
換金所にて。木の机にネズミの死骸が置かれると、職人の男は無表情で検分した。
「六つ目ネズミか。肉は食える。だが臭みが強いから安宿の鍋くらいにしか使えん。
皮も売れるがな、せいぜい靴底や手袋の裏地にする程度だ」
ごそごそと魔石を取り出し、皮をざっと剥いで秤にかける。
やがて、硬貨の音がカンカンと机に響いた。
並んだのは銀貨一枚と銅貨いくつか。
リリアーナの目がきらりと輝く。
「わあ……すごい! お金がこんなに!」
しかし、職人は肩をすくめる。
「獣の中じゃ安い方だ。これで腹いっぱい食える日があるかどうか、ってとこだな」
その現実に、リリアーナの胸は少ししぼんだ。
換金所を出ると、少年が小さな袋を握りしめながら、ぽつりと漏らした。
「妹が死んでから……俺、スリングばっかり練習したんだ。」
横顔は泣いているようにも見えた。
リリアーナは思わず袋の中の銀貨を見つめた。
――あれだけ怖かった魔獣を倒したのに、銀貨一枚。
生き延びた実感と、報酬の小ささの差が、幼い心にもずしりと重くのしかかる。
「でも……リリアが助かって良かった。ほんとに」
少年は無理に笑い、リリアーナも小さくうなずいた。お金を少年に渡す。
「助けてくれて、ありがとう…。これはあなたのお金だよ」
しばらく歩いたあと、少年はまた呟く。
「……魔獣避けさえあれば、みんな安全に森に行けるのに。でもあれは高い。銀貨一枚どころじゃ買えないんだ」
リリアーナは初めて聞いた“魔獣避け”に目を丸くし、そして小さな手を強く握りしめた。
……魔獣避けを手に入れたい。