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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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森の中で

一日目

森の入り口。

リリアーナは小鳥を見つけ、そっと矢をつがえようとした。けれど、羽音を残して逃げられる。

魔獣の影はなかった。兎と目が合ったが、こちらも一瞬で草むらに消えた。

甘青草を見つけ、丁寧に切り取って持ち帰った。庭に挿し木をし、根が出るように水をやる。


二日目


小鳥の姿を追う。矢を準備したものの、射る前に飛び去った。

森の奥で狐に遭遇。思わず刺激臭の薬を投げたが、鼻を突く匂いはリリアーナにも強烈で、涙目になりながら後ずさる。狐が逃げたのは薬の効果か判らなかった。薬草を摘んで帰る。


三日目


鳥に矢を放つが、空を切り、飛び去られる。

兎を見つけたが、やはり逃げられる。

薬は試せなかったが、珍しい薬草を根っこごと掘って持ち帰る。


四日目


鳥に矢を射る。羽にかすったが、逃げられた。

兎に毒を塗った小さなナイフを投げるが、狙いは外れる。

深呼吸しても、ため息が漏れるだけだった。

本にあった薬草を見つけ、採取して帰る。


五日目


森の斜面で足を踏み外し、小さな崖を転げ落ちる。

全身を強く打ち、息も出来ないほどの痛み。治療薬を使ったが、到底足りない。必死に自分に治癒魔法を泣きながらかけ続け、夕方になってようやく立ち上がれた。

帰り道、魔力は空。足も震えた。夜、ベッドの中で悔しさと無力感で再び涙が溢れる。


六日目


鳥に矢を射る。矢はついに羽を貫き、初めて落ちる鳥を見た。

リリアーナの目に涙が滲む。

兎に神経薬を使ってみると、うずくまって動かなくなった。効果があることを確かめられた。


七日目


森の中で、リリアーナは自分の変化に気づいた。

風の流れ、木々の揺れ、土の匂い――すべてが鮮明に感じられる。獣の存在がどこにあるのか、直感で判る。

初めて魔鳥に矢を命中させる。その日は二羽狩った。落ちた小型の魔鳥の姿を見下ろしながら、リリアーナは震えていた。


八日目


魔鳥を一羽仕留めた時、弓を引く腕が軽く感じる。

身体強化が使えるようになった。走っても息が切れず、弓を自在に操れる。

その日のうちに魔鳥を三羽狩る。


……リリアーナは、狩人、身体強化、の能力を身につけた。



リリアーナは、袋に入れた魔鳥の羽根と魔石を抱えて職人の家へ向かった。服はあちこちボロボロになっていたが、リリアーナは構わない。

エドモンドは仕事に追われていて同行できず、代わりに兵士の一人が馬に同乗させてくれた。


兵士の背にしがみつきながら、リリアーナはずっと緊張していた。馬の揺れに身体を任せ、無言だった。

仕事が多く、城の窓から見送っていたエドモンドの表情は苦かった。……なぜ、自分が隣にいられないのか。


道中、兵士は会話を探したが、少女に何を話しかければよいか分からず、沈黙が長く続いた。


やがて、職人の家に辿り着く。

作業場の前に立ったリリアーナは、両手で袋を差し出した。


「これで、矢を作って欲しいです」

職人は袋を受け取り、中を確かめると無言でうなずいた。

「ああ」


リリアーナは続けた。

「まだ、魔鳥は必要ですか?」

職人は少しの間目を伏せ、低く答える。

「……必要だ」

「わかりました。また来ます」


短いやり取りの後、リリアーナは再び兵士と共に馬に乗り、城への帰路についた。


夕暮れの道。沈黙が耐えきれなくなったのか、兵士が口を開く。

「……どうして、そこまで頑張るんだ?」


リリアーナは少し考えてから、まっすぐ前を見つめて答えた。

「私はここに居る、と決めたの。だから……誰もが幸せに暮らせるように、出来ることは何でもしたい。今、必要だと思ったから、してるだけ」


兵士はそれ以上、何も言わなかった。

言葉が続かず、馬の蹄の音だけが二人の間に響いていた。


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― 新着の感想 ―
え、次期領主夫人に対して敬語なし? ここの兵士大丈夫か?
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