魔獣との遭遇
数度目の森。
リリアーナは、小さな背負いかごを背に歩いていた。
中には乾いたマキと、今日も見つけた薬草がいくつか。
「今日こそは……パンと……お菓子も……!」
口に甘酸っぱい木の実をひとつ放り込み、頬をほころばせる。
「んーっ、幸せいっぱい……!」
小さな足取りも、ほんの少し弾んでいた。
がさり。
茂みが揺れ、赤い光が六つ並んだ。
巨大なネズミの魔獣が姿を現し、牙を剥いた。
「ひっ……!」
跳びかかってきた獣に、リリアーナはとっさにかごを前へ。
ガンッ!
枝束が砕け、薬草が宙に散った。
小さな体でがむしゃらにかごを振り回す。
「だ、だめです! これは……わたしの、ごはんですっ!」
涙声の叫びは幼さゆえに少し滑稽で、しかし必死だった。
「リリー! 伏せろ!」
ひゅん、と石が飛び、魔獣の首に命中。
もう一発で額を打ち抜かれ、巨体が崩れ落ちる。
駆け寄ってきたのは森仲間の少年。
手には使い込まれたスリングが握られていた。
散らばった薬草を泥だらけで拾い集めるリリアーナを見て、少年はしばらく黙っていた。
やがて森を抜ける道すがら、ぽつりと口を開く。
「……俺の妹、去年な。同じ魔獣にやられたんだ」
リリアーナの足が止まる。
少年はまっすぐ前を向いたまま続けた。
「小さくて、かごも持ってなかった。逃げるのが精一杯で……守れなかった。
だからそれからは、どんな小さい子でも必ず背負いかごを持たせてる。
最初にマキを詰めさせて……せめて、かごが“盾”になるようにってな」
リリアーナは、胸に抱えた自分のかごをぎゅっと握りしめた。
それは命を守ってくれた、自分だけの宝物。
ふと隣を見ると――
少年の横顔は硬く、それでも震えるまつ毛の下で光るものがあった。
「……泣いて、る……?」
そう問いかけるにはあまりに静かな横顔で、リリアーナは小さく唇を結んだ。
森の出口に差す光は、まだ幼い二人の肩に重く、そして確かに暖かく降り注いでいた。