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城の調合室

重い話の流れの中で、リリアーナはそっと口を開いた。


「……魔獣避けのポーションは、使用しないのですか?」


問いに、オルフェウスは眉を寄せる。

「……あれは高価だ。視察で使う余裕はない」


リリアーナは少し唇を噛んだが、すぐにまっすぐ言葉を返した。

「材料さえあれば、わたしが調合できます。被害を少しでも減らせるなら……作っても良いですか?」


室内に一瞬の沈黙が落ちた。

マルグリットが目を見開き、エドモンドは驚きつつもどこか誇らしげに彼女を見た。


やがて、オルフェウスは低く笑うように息を吐いた。

「……なるほど」

彼は視線をエドモンドへ移す。

「材料があれば、良いだろう。この城の調合室を使うといい。エドモンド、お前が案内をしてくれ」


「はい、父上」

エドモンドの答えは力強かった。


リリアーナは胸が高鳴るのを覚えながら深く頭を下げる。

「ありがとうございます」


その様子を見届けると、オルフェウスは大きく息をつき、疲れたようにベッドへ深々と身を沈めた。

「……すまんが、今日はここまでだ」


オルフェウスは、エドモンドが辺境に戻ってきた事で、張り詰めていた気が緩んだのだ…。


オルフェウスとの面会を終えたリリアーナは、一度自室に戻った。

持参した荷の中から、小さな布袋を取り出す。

中には、都から大切に持ってきた薬草が詰められていた。袋を開けると、ふわりと匂いが部屋に広がる。


「……やっぱり落ち着く」

リリアーナは胸いっぱいに吸い込み、笑みを浮かべた。


そこへエドモンドが迎えに来る。

「調合室に案内するよ。こっちだ」


城の奥まった一室。扉を開けると、棚に並ぶ瓶や乾燥させた植物の束が目に飛び込んできた。

「……!」

リリアーナの瞳が輝く。


「この色、この形……見たことがない薬草ばかり……」

彼女は棚に駆け寄り、一つ一つを手に取っては香りを確かめ、茎や葉を覗き込み、息を弾ませた。


「ここでは、都でも領地でも知られていない素材がこんなに……!」

彼女は慌てて背筋を伸ばすが、興奮は隠せない。


そんなリリアーナを見て、エドモンドはくすりと笑った。

「まるで宝物庫に放り込まれた子供みたいだ」


リリアーナは頬を染めて咳払いをし、少し落ち着いてから真剣な顔になる。

「……エドモンド、聞いてもいい? 魔獣避けのポーションは、どれくらいの量があれば十分なの?」


エドモンドは腕を組み、少し考えてから答えた。

「誰が、何処で使うかによって変わるな。リリアーナは森に薬草を採りに行くのだろう?視察は二週間に一回は行くが、偵察の兵士達も考えると、かなり必要になる」


リリアーナは小さく頷き、薬草の束を見渡した。

「十本……いえ、それ以上ね。……頑張らなくちゃ」


その瞳は、未知の薬草と責任の重さ、両方を前にしてますます強く輝いていた。


リリアーナは毎日、調合室にこもって魔獣避けのポーションを作り続けていた。

都から持参した薬草と、城にあった素材を組み合わせれば、とりあえず必要な量は確保できると分かった。

けれど――棚の薬草が日ごとに減っていくのを見るたび、不安が胸をよぎる。


「……どこかで補充しなくては」


そう思い立ったリリアーナは、エドモンドを探しに城を出た。


中庭の訓練場で、大弓を引く姿が目に入る。

大きな弓を引き絞る彼の姿は凛々しく、まるで絵のようだった。

――だが、矢は的の端に逸れたり、中心をわずかに外したりと、なかなか真ん中を射抜けない。


リリアーナは声をかけず、しばらく静かに見ていた。

やがてエドモンドが彼女に気づき、弓を下ろす。


「どうした?」


「え……弓がすごいなあ、って」

慌てて笑顔を作ると、彼は少し眉を上げて笑った。


「用事があるんじゃないのか?」


「あ、そうなの。薬草を手に入れたいと思って……森に行くべきか、薬屋で買うべきか、どうすればいいのかなと思って」


「なるほど」

エドモンドは顎に手を当て、少し考える。

「なら、明日行こう。東の森ならまだ安心なはずだ。薬屋にも立ち寄れる」


リリアーナは安心して頷いた。けれど、次の言葉はしばらく考え込んでからだった。


「……ねえ、わたしに弓を教えて?」


エドモンドは目を瞬かせた。

「すぐにできるようなものじゃないよ?」


「それでも、練習したら少しは出来るでしょ?」


彼は一度視線を逸らし、真剣な彼女の顔を見直して、ふっと笑った。

「……そうだな。なら、弓は明後日からにしよう。ただ、教えられる時間は多くない。最後は自分で練習して、コツを掴むしかない」


「わかった!」

リリアーナは嬉しそうに頷いた。


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