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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第2章

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リリアーナ、北国へ行く

リリアーナとエドモンドは、都を発ってから二週間、果てしなく続く草原や森を越え、馬車に揺られ続けていた。

窓の外には次第に見慣れぬ景色が広がり、空気は澄んで冷ややかになっていく。


「この地の気候は、一年を短い夏と、雪に閉ざされる長い冬とで形づくられる」

揺れる馬車の中で、エドモンドは穏やかに言葉を紡ぐ。


「夏は短いから、農作物は限られている。肥沃な土地ではないゆえ、羊や牛、山羊を放牧しているんだ。

 ミルクや羊毛、そして肉――生活を支えるのはそれらだ」


リリアーナは頷きながら耳を傾けた。

彼の声は淡々としているけれど、そこには生まれ育った土地を誇る響きがある。


「年中、魔獣が現れる。特に冬は数が増える。……それでも人はここで暮らしている。

 だから、リリアーナにはまず、この土地に慣れてほしいと思っている。まだ婚約の期間なのだから」


大切に守ろうとするような口調に、リリアーナの胸は温かくなる。

都育ちの自分には、雪に閉ざされる冬も、魔獣の出没も、まだ遠い世界の話。

けれど――未知のものに触れることへの怖さよりも、新しい生活を始められる期待の方がずっと大きかった。


どんな景色が広がっているのだろう。

どんな人々が暮らしているのだろう。

そして、自分はこの土地でどんな風にエドモンドと歩んでいけるのだろう。


そんな思いを胸に、リリアーナは窓の外へ視線を向ける。

ふいに馬車が丘を登り切ったとき――目の前に、灰色の石造りの巨大な城が姿を現した。


白い雲を背に聳え立つその城は、都の華やかな宮殿とは違い、堅牢で威厳に満ちている。

遠目にも分かる厚い城壁と塔は、長い冬と魔獣から人々を守るためのものだろう。


「厳しい土地だけど――」

隣でエドモンドが静かに言った。

「ここが、私の家だ。そして……君の新しい居場所でもある」


リリアーナの胸はどきどきと高鳴った。

旅の終わり、そして新しい生活の始まりが、いま目の前に迫っている――。



リリアーナとエドモンドは、長い馬車の旅を終えてようやく城門をくぐった。

目に入ったのは、玄関前に並んで待っていた二人の人物。


ひとりは立派な体格だが、今は分厚い毛布にくるまれた車椅子に座っている。

エドモンドの父――オルフェウス辺境伯。金色の髪に青い瞳。

その隣に寄り添うように立っているのは、穏やかな雰囲気をまとった母、マルグリット夫人。エドモンドと同じ灰色の瞳と白みがかかった金髪。エドモンドに似ている。


「ただいま帰りました。父上、母上」

エドモンドが馬車を降りて駆け寄る。「こちらが、手紙でお伝えしたリリアーナです」


「リリアーナです。初めまして。よろしくお願いいたします」

リリアーナは深々と頭を下げた。


オルフェウスは大きく頷き、「こちらこそ、遠いところ来てくれて嬉しい」と笑う。

……笑った、が、その声は少し大きすぎてリリアーナは思わず背筋を伸ばした。


「父上、傷は大丈夫なのですか」

エドモンドが心配そうに覗き込む。


「大丈夫だとも!……起き上がるくらいはできる。死にかけはしたがな!」

父は自慢げに胸を張るが、直後に「うっ」と咳き込んだ。


「父上!」

「いや、ほら。王が“まだ死なれては困る”と、王宮から治癒師を派遣してくださったのだ。第三位の治癒師だぞ! あれがいなければ、今頃わしは棺桶の中で――」


「はいはい!」

マルグリット夫人がぱん、と手を叩いた。

「外で棺桶の話などしないの! リリアーナ嬢が怖がるでしょうに。ほら、中へ入りなさい」


「母上……」

「いいから。風邪をひくわよ!」


あれよあれよという間に、公爵夫人はリリアーナの手を取って屋敷の中へ引っ張っていく。

横で「死にかけたのは本当だぞ!」とまだ言っている父。

「はいはい、父上」と宥めるエドモンド。


リリアーナには、そのやり取りが妙に息の合った夫婦漫才のように見えて、思わず口元が緩んだ。


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― 新着の感想 ―
うん ? 都育ちだったっけ? 田舎育ちかと思ってました
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