薬草を手に入れよう
数回森に通って慣れてきたある日、リリアーナは薬草を集めている年上の子に声をかけた。
「ねえねえ、それ……草? なんでそんなに大事そうに?」
「これは薬草。町の薬屋に売れるんだ。薪より高く買ってくれる」
「……えっ! 高く!? じゃあ、食べ物とか……お菓子も買えるんですか!?」
「まあな」
その一言で、リリアーナの瞳はきらっきらに輝いた。
「わたしも薬草、ぜったい見つけますっ!」
教えてもらった葉っぱの形を頼りに、草むらをかきわけるリリアーナ。
「これですか? これかな?」
「それはただの雑草」
「じゃ、じゃあこれは……」
「それはカブレ草だ、素手で触るな!」
「ひえええぇぇ!」
何度も失敗を繰り返し、ようやく正しい薬草を見つけた。
けれど根元を引っ張っても抜けない。
「うう……とれません……」
「そりゃ手じゃ無理だ。貸してやるよ」
年上の子が腰から小さなナイフを取り出し、差し出してくれた。
リリアーナは目をまん丸にして両手で受け取る。
「な、ナイフ!? ……これ、わたしが持ってもいいんですか?」
「今日は特別だ。こうやって根っこから刃を入れるんだ」
震える手でぎこちなく土を掘り、薬草をすぽんと抜き取った瞬間――
「と、とれたぁぁぁぁぁ!」
森に響きわたるくらいの大声で喜んだ。
町に戻り、薬屋に薬草を売ると――思った以上のお金になった。
「……これで、食べ物いっぱい買えますね!」
「リリー、薬草やるなら、ナイフを買っておくといいぞ」
「ナイフ……」
その言葉に、リリアーナの胸がどきんと跳ねた。
町の武器屋。
並んだ刃物の中から、鍛冶屋の親父さんが「これなら子供でも扱いやすい」と出してくれたのは、手のひらにすっぽり収まる小さなナイフだった。
刃は丸みを帯び、柄には革が巻かれていて握りやすい。
「……これが、わたしの?」
「金を出せばお前のもんだ」
リリアーナは、稼いだお金のほとんどを両手でそろそろ差し出した。
「足りるな」ナイフは彼女の手に渡る。
「……わ、わたしの……わたしだけの……!」
お下がりの服や靴しか持たず、食べ物もいつも姉たちの後回しだったリリアーナにとって――
これは初めての「自分だけの物」。
誰のお古でもなく、誰と分ける必要もない、たったひとつの宝物。
リリアーナは胸にぎゅっと抱きしめた。
「すごい……すごいです……! わたしのナイフ、わたしだけの!」
顔を上げると、町の景色まできらきら輝いて見える。
袋の中には、少しのお菓子と、自分だけのナイフ。
リリアーナは交互に確かめるように、ひとつお菓子を口に入れてはナイフを眺めた。
「んん~っ! 美味しい……! そして、わたしのナイフ! なんて幸せ……!」
小さな女の子は、初めて手に入れた「自分だけの宝物」を抱いて、幸せに笑っていた。