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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第5章

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セリウスはローデンに託した

二人の男は、客間へと案内された。

重い扉が閉まる音を背に、セリウスとローデンは自室へ戻る。

扉が閉まった瞬間。ローデンは抑えていた声を低く落とした。

「どういうことだ」

感情は抑えている。だが鋭い。セリウスは外套を脱ぎながら、あっさりと言った。

「ローデンの背中を、押してあげたのさ」

「……意味が、わからないのだが?」

本気で理解できない、という声。セリウスは小さく笑う。

「ラニア。あの葉は、彼女が何かをしたのだろう?」

ローデンは黙った。

否定はしない。沈黙が、答えになる。

「もしかしたら、また必要かもしれない」

穏やかな声。それは婚約者のためでもあり、別の意味でもある。

ローデンは視線を落とす。

その“また”が何を指しているのか、分からないわけではない。

ふと、セリウスは核心に触れた。

「……ラニアを、手に入れたくないか?」

空気が止まる。ローデンの思考が、一瞬白くなる。

人外だ。魔力を操り、魔獣と対等に立つ存在。俺の手に負える相手ではない。

無理だ。

そう、理性は即座に否定する。だが、声には出ない。沈黙。セリウスは首を傾げた。

「もっと、嬉しそうな顔をすると思ったのだけど」

冗談めかして言いながら、じっとローデンを見つめる。その視線に、ローデンは気づいていない。

「ああ、心の準備が出来てないのかな?」

セリウスは一人で納得したように頷く。

なぜなら——ローデンは知らないうちに、口元がわずかに弛んでいたからだ。

ほんの僅か。だが確実に。

否定しきれない感情が、表に滲んでいた。


「僕は、あの二人と皇国に帰るから」

セリウスは穏やかに言い、ローデンをまっすぐ見た。

「出来たら、ラニアを手に入れて欲しいな」

間髪入れず、ローデンは答えた。

「……無理だ」

低く、断定的に。

――それは、火を見るより明らかだぞ。

人外だ。力も、立場も、持つものも違いすぎる。自分が踏み込める領域ではない。

「ずいぶん、弱気だね」

セリウスは肩をすくめ、からかうように笑う。

「真実を、言ったまでだ」

ローデンは苦々しく言い返した。自嘲も混じっている。

セリウスは「ふーん」と意味深に鼻を鳴らした。

「じゃあ、あの葉を定期的に手に入るようにする事。これが、ローデンの仕事。宜しく」

あっさりと告げる。命令でも、依頼でもなく。当然のように。

ローデンの眉がわずかに動いた。

「あの葉を……? ……王の、許可は?」

異国に長期滞在するのだ。正式な許可が必要になる。セリウスは何でもないことのように答えた。

「それは、大丈夫」

そして、にこりと笑う。

「ローデンが初めて本気の恋に落ちたから、滞在延長の許可が欲しい、って手紙に書いた。で、許可する、って返信がきたから」

沈黙。

……何だと?ローデンの思考が止まる。

書いた?誰が?何を?

“本気の恋”?

顔が強張る。

「……お前は、何を書いた」

低く、危険な声。だがセリウスは涼しい顔だ。

「事実だけだよ?」

悪びれもない。ローデンは言葉を失う。

否定しようとして――できない。

胸の奥が、熱い。怒りか、羞恥か、それとも。セリウスは満足そうに頷いた。

「大丈夫。国王陛下は、応援してくれてるよ」

逃げ道は、もうない。ローデンは天井を仰いだ。

……完全に、包囲されている。



セリウスは、ふと考える。

もしローデンが――ラニアを伴って皇国へ帰ってきたら。

それは、最高だ。あの力を持つ少女が味方となる。それだけで、国の未来図は大きく塗り替わる。

そして何より。この男が、堂々と愛する者を連れて帰還する姿など――実に愉快だ。

想像しただけで、口元が緩む。

だが。仮に一人で帰ってきたとしても。それはそれで、悪くない。

「どうだった?」と問えば、あの男はどんな顔をするだろう。土産話のひとつやふたつ、期待できる。失恋でも、成就でも。どちらに転んでも、面白い。

それに。あの薬草の件は、きちんと頼んである。実利も確保済みだ。

セリウスは窓の外を眺め、小さく笑った。

さて。

ローデン。頑張ってくれたまえ。

君の恋は、実に興味深いのだから。


……彼女の薬は、見つからなかった。

それは、もしかしたら、きっと。

セリウスは、自然と、拳を握っていた。


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