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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第5章

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ラディンとラニア、裏庭にて

裏庭は、屋敷の喧騒から切り離された静寂に包まれていた。石壁に囲まれ、冬枯れの蔓が絡むその場所は、秘密を語るにはちょうどいい。

ラディンとラニアは、肩が触れそうなほど近い距離で向き合っていた。声は自然と、ひそめられる。

「それで、何がしたいんだ」

低く、短い問い。

ラニアは一度、ロキの耳を撫でてから口を開いた。

「あのさ、その部族が使役している魔獣、解放したいな、と思って」

ラディンの眉が、わずかに寄る。

「無理だ」

即答だった。

「あれは、過去に幾度も倒そうとした者たちがいたらしい。しかし、全部失敗したと聞いてる」

冷静な現実。狩人としての判断。だがラニアは、怯まない。

「あのさ……もし、魔獣に埋め込まれてる魔石が、傷ついていたら?」

「どういうことだ?」

ラディンの声が、さらに低くなる。ラニアはロキをそっと抱き上げた。腕の中で、ロキは静かに目を細めている。

「これ、がね。確かに魔石に傷をつけた、って。……熊は、解放を望んでた、って」

言葉は途切れがちだった。視線は地面に落ちる。ラディンはラニアを見つめる。

「信じてるのか?」

問いは静かだが、試す響きを含んでいた。

ラニアは顔を上げる。

「ロキは、嘘は、ない」

ラニアは声を落とした。

「縛られ続ける。それは、魔獣でも、人でも……可哀想じゃない?」

そう言って、ロキを高く持ち上げる。陽光の中で、その金色の瞳で、じっと見つめる。

「一瞬だったって。その時は。でも、少しずつ魔石の傷は、広がるかも?」

希望とも、願いともつかない言葉。ラディンは小さく息を吐いた。

「放っておけよ」

冷たい、と言われても仕方のない声音。

「その時は、自業自得だろ」

ラニアは、何も言わなかった。ロキを抱いたまま、ただ黙る。沈黙が二人の間に落ちる。遠くで風が枝を鳴らした。

やがて、ラディンが口を開く。

「……でも、部族に戻ったら、何か情報があるかもしれない」

ラニアが、はっと顔を上げる。

「本当に?」

期待に満ちた瞳。

ラディンは視線を逸らした。

「……期待するなよ」

ぶっきらぼうな言い方。だが、拒絶ではない。ラニアはふわりと笑った。

「待ってる」

その無邪気な笑みに、ラディンは思わず苦笑する。

……どうして自分は、こうして巻き込まれていくのか。ラディンは、思った。



裏庭へと消えていった二人の背を、ローデンは柱の陰から見ていた。

自分でも、何をしているのかわかっている。

女の後をつけるなど、男として最低な行為だ。

——そんなこと、いつだったか自分は、誰かに言った。

それなのに。今まさに、その「最低」をやっているのは自分だった。石壁の陰に身を潜め、呼吸を殺す。胸の鼓動だけがやけに大きい。

……近すぎる。

ラディンとラニアの距離が、やけに近い。肩が触れそうで、声を交わすたびに顔が寄る。ひそひそと囁き合う姿は、まるで秘密を共有する恋人のようにも見えた。

しかも、物陰だと。どうしてわざわざ、人目を避ける。

ローデンは唇を噛みしめ、最大限に聞き耳を立てた。だが、届くのは風に紛れた断片だけ。

低い男の声。言葉の意味までは拾えない。やがて、はっきりと耳に届いたのは、たった一言だった。

「待ってる」

ラニアの声。

柔らかく、弾むような響き。それ以外は、ほとんど聞こえなかった。十分だった。

ローデンの視界が、ぐらりと揺れる。

膝から崩れ落ちそうになるのを、必死で堪えた。石壁に手をつき、指先に力を込める。

待ってる、だと。

誰を。何を。

胸の奥が焼けつくように痛む。自分は何を期待していたのか。

笑い合う二人の姿が、脳裏に焼きつく。

ローデンは歯を食いしばった。崩れ落ちるのは、簡単だ。だが、それを許すほど、まだ弱くはない。

そう言い聞かせながら、彼は物陰で、ただ静かに耐えていた。

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