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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第5章

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婚約者からの手紙②

翌朝、呼び出されてセリウスのもとを訪ねると、彼はどこか戸惑ったような顔をしていた。

言葉を選ぶように、しばし沈黙したあと、ひとつの小さな袋を差し出してくる。

「身体の調子が良くなる、まじないのようなものだ。彼女の肌に触れるように、身につけてほしい」

不思議な言い方だった。使者は袋を受け取りながら、思わず問い返す。

「……これは?」

セリウスはわずかに視線を伏せた。

「……詳しくは、言えない。ただ、とても貴重な物らしい」

らしい、という言葉が、ひどく曖昧に響いた。普段の彼なら、もっと要領よく、理路整然と説明するはずなのに、まるで別人のように歯切れが悪い。

「……わかりました。常に、でしょうか?」

「ああ。常にだ」

短く、強い言葉だった。

袋には、首から下げられるよう、長めの紐が通してある。まるで最初から、そうするために用意されていたかのようだった。

使者はそれを大切に懐へ収める。

セリウスから預かった手紙と、小さな袋。

その二つを携え、使者は帰路についた。


ようやく屋敷へ戻り、使者はまっすぐお嬢様のもとへ向かった。

久しぶりに目にしたその姿は、出立前よりも明らかに弱々しい。咳は多くなり、細い肩がそのたびに小さく揺れる。それでも、お嬢様はセリウスからの手紙を受け取ると、ほっとしたように微笑み、まず使者の旅路を労ってくださった。

「これを、身につけるの?」

小さな袋を手に取り、少しだけ眉をひそめる。だがすぐに、ふっと表情を和らげた。

「ふふ。セリウス様からのだもの」

そう言って、素直に首から下げる。その笑顔は、ひどく優しくて、使者の胸に静かに沁みた。

それからだった。お嬢様の咳は、不思議なほど軽くなっていった。

「……これのおかげなのかしら?」

お嬢様は袋をそっと持ち上げ、目の前にかざす。

「何だか、暖かいのよね」

その言葉に、使者はセリウスの声を思い出していた。

――これは、永遠に効果があるわけではないらしい。

言うべきか、迷う。だが、やはり伝えなければならない。これは、急を要することだ。

お嬢様には、まだ話していない。

けれど、この件はすぐにでも報告すべきだと、使者は強く思った。


使者の話を、 お嬢様は静かに聞いていた。

「そう。期限があるのね。不思議な物ね」

その声音には、怒りも、悲しみもなかった。ただ事実を受け止めるような、ひどく穏やかな響きだけがあった。

「お礼を書きたいけれど……手紙が着く頃には、あの方はもう戻って来ているかもしれないわね」

ふ、と小さく笑う。その横顔を見て、使者は思わず口を開いていた。

「父様に頼んで、もう少し分けて貰えるようにしたら、どうでしょう?」

言ってから、はっとする。出過ぎたことだったかもしれない。

けれどお嬢様は、咎めることもなく、ゆっくりと頷いた。

「……そうね」

その視線は、窓の外の、遠いどこかを見つめていた。


使者が部屋から去った後。婚約者は、もう一度セリウスからの手紙を読んだ。


あなたの手紙を受け取り、まず無事でいると知り、どれほど安堵したか分かりません。遠い地にあっても、あなたのことを案じない日は一日もありませんでした。

薬は、まだ見つかっていません。

しかし、諦めるには、まだ早すぎます。

先に渡したものが、少しでもあなたの助けになっていることを願っています。

どうか、身体を大切にしてください。無理をせず、静かに過ごしてください。あなたが笑っていてくれることが、私にとって何よりの力になります。

そして――早く、あなたに会いたいです。



婚約者は、ふと思い出していた。

父が、あの小さな袋を鑑定に出した日のことを。

由来も分からず、念のためと持ち込んだ結果、返ってきた言葉はあまりに簡潔だった。

「鑑定、できません」

単なる植物の葉に見えた。未知の薬でもない。しかし、鑑定そのものが不可能だと、専門家は首を横に振ったのだという。

あのとき父は、困惑と、わずかな不安を滲ませていた。

セリウス様、早く戻ってきて。

そして、どうかこの話を聞かせてほしい。

婚約者は、掌に収まるその小さな袋を、じっと見つめていた。

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