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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第1章

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課外学習に行く

誤字修正しました

リリアーナは学院生活を必死に送っていた。

優待生として入学したからには、絶対に学業で落ちこぼれるわけにはいかない。

周囲から孤立しても、授業の課題や試験だけは全力でこなした。


ユリウスも、彼の姉である公爵令嬢たちも同じ学院にいたが、学年が違えば顔を合わせる機会は少ない。

廊下ですれ違っても、リリアーナは笑顔を浮かべて「大丈夫です」としか言わなかった。

弱音は吐けない……。


けれど、胸の内では別の想いが渦巻いていた。


――どうしてこんなに簡単に、人は人を追い詰められるのだろう。


教科書を隠す。持ち物を汚す。わざと孤立させる。

ほんの少しの行為が積み重なれば、日常は簡単に壊れてしまう。

行為者は心が無いの……?


(違う。今まで……私は恵まれていたんだ)


森の師匠はいつも穏やかに薬草の知識を教えてくれた。

弾き語りは笑って音を奏でてくれた。

剣を交えた少年は真っ直ぐに剣を振るってくれた。

父も母も彼らなりに支えてくれた。


――そこに悪意はなかった。


だからこそ、今の状況は鮮烈に彼女を打った。

人は、理由もなく誰かを排除し、陰で笑うことができるのだ、と。


夜、寮の小さな机でリリアーナはひとり、ランプの灯を頼りに勉強を続ける。

涙が滲むこともあるが、ノートの文字を消すわけにはいかない。


「……負けない。私は、悪くない」




学院の課外学習の日。

生徒十名と教師一人で、森に足を踏み入れる。冒険者や狩人がどのように森を扱うのか、実地で学ぶためだ。


「森……久しぶり」

リリアーナの胸は自然と高鳴った。

浅い入り口だけでも、薬草の香りや小鳥の鳴き声、土の匂いが懐かしい。


歩きながら、つい足元の草に目が向いてしまう。

「……あ、これ、解熱に使える。こっちは消毒……」

嬉しさのあまり、誰にも気づかれぬよう少しずつ薬草を摘んでいった。


しかし森の中ほどで、白い霧が辺りを包み込む。

教師が立ち止まって注意を呼びかけたその時――


「いやっ、もう無理!怖い!」


一人の女子生徒が、怯えた声で叫び、霧の中を走り出した。

教師は慌てて追いかける。だが生徒を残すわけにはいかず、全員でその後を追うことになった。


だがその先は、森の奥。


霧の切れ間で、教師と逃げた女子生徒の前に、二本角の狼型の魔獣が現れていた。……囲まれた。


「下がれ!」

教師が庇うように立つ。


リリアーナは迷わず薬草の束を握りしめて駆け寄った。

「先生! これを!」


手にしていた葉や根を素早く揉み、ハンカチで包み、即席の香袋を作る。

「即席ですが……魔獣避けです。道具も何もないから効き目は半分以下ですけど、無いよりはいいです!」


驚く教師の手にそれを押し込み、リリアーナは続けた。

「先生は皆を誘導して! 殿は私が務めます!」


そう言って地面に落ちていた太い枝を構える。


魔獣が低く唸り、飛びかかってきた。

枝で牙を受け止め、腕に衝撃が走る。それでもリリアーナは退かず、必死に魔獣を牽制する。


教師は半信半疑で香袋を突き出す。すると魔獣の鼻先がぴくりと揺れ、動きが僅かに鈍る。

「……効いている……!」


その隙に生徒たちを誘導し、森の出口へと急ぐ。

リリアーナは何度も枝を振るい、牙を払い、地面を蹴って後退しながら、仲間を守り続けた。


ようやく木々の間から光が差し込み、全員が無事に外へと抜け出す。

魔獣は森の奥に留まり、それ以上は追ってこなかった。



皆が肩で息をして振り返った時、そこに立つリリアーナは汗と泥でぐしゃぐしゃだったが、笑みを浮かべていた。

「……良かった。全員、無事で」


彼女の掌には、潰れた薬草の青い匂いがまだ残っていた。



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