森の中で
森の入り口で、リリアーナは子供たちの後を一生懸命追いかけていた。
けれど靴がぶかぶかで、すぐにつまずく。
「おい、大丈夫かよ?」
年上の男の子が振り返り、リリアーナの足元を見て目を丸くした。
「なにその靴、でっけえじゃん!」
「だ、だって……これしかなくて……」
すると男の子は腰袋から古びた布切れを取り出した。
「ほら、これ詰めとけ。つま先に押し込めば歩きやすくなる」
「えっ……そんなことできるの?」
言われた通りにすると、靴がぴたりと安定。リリアーナはぱあっと顔を輝かせた。
「歩きやすい! ありがとう!」
「へへ、俺らもボロ靴ばっかだからな。工夫は慣れてんだ」
リリアーナは靴の中の布を、お守りみたいに大事に感じながら森を進んだ。
「わあ! あそこに赤いのが!」
リリアーナが小枝の先に実った木の実を指さす。
「それは食えるやつだぞ」
「ほ、本当に?!」
ぱくり。――ふわっと甘酸っぱい味が口いっぱいに広がった。
「……んん~~っ! おいしい~~っ!」
小さな体をくねくねさせて、幸せがあふれる。
「リスみたいだな」
「へへ、森っておいしいね!」
両手いっぱいに木の実を集めては、一粒かじってはにっこにこ。
ほんの一瞬、男爵家の薄いスープやお下がりの靴のことなど忘れていた。
しかし、夢中で拾った中には、どんぐりのような木の実も混じっていた。
リリアーナは無邪気に口へ放り込む。
「……んぐっ!? か、かたっ! ぜんぜん噛めない!」
「そりゃそれは生じゃ食えねーよ」
「えええぇ……! こんなにいっぱい拾ったのに……」
しょんぼり肩を落とし、靴の中の布をぎゅっと踏みしめる。
その時、さっきの男の子がにやっと笑って、布袋から小さな焼き菓子を取り出した。
「じゃあ交換だ。お前の木の実、俺んちの親父が好きなんだ。代わりにこれやる」
「えっ……ほんとに?」
「おう、お前がんばって拾ったからな」
恐る恐るかじると、ほのかに甘くて香ばしい。リリアーナの顔がぱあっと花開く。
「おいしい! ありがとう!森ってすごい!」
町の子供たちは「変な子だな」と笑ったが、リリアーナはその日いちばん幸せそうに頬を染めていた。