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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第1章

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公爵の思案

ある日の午後。

奥庭を巡回していた家令は、ふと足を止めた。

リリアーナが木陰に腰かけ、リュートを奏でている。

その隣には、公爵家の娘――アデライド。


いつもは虚ろな瞳で過ごしていた彼女が、静かに目を細めて音色を聴いていた。

時折、短く言葉を交わしてさえいる。

その光景に、家令は思わず胸を打たれた。


「……ということがございました」


夕刻、家令はその様子を公爵に報告した。

書斎で耳を傾けていた公爵は、眉をわずかに動かす。


「アデライドが……リリアーナと?」


「はい。驚いたことに、会話もなされておりました」


沈黙が流れる。

しばらくして、公爵は決意したように立ち上がった。


リリアーナは掃除を終えた後、呼び出されて緊張していた。

重厚な扉の奥、公爵が椅子に腰掛けている。


「リリアーナ」


「……はい」


「お前、アデライドと何をしていた?」


その声音は厳しさと興味を含んでいた。

リリアーナは一瞬戸惑いながらも、正直に答える。


「弾き語りの練習をしているところを、お嬢様が……聞いてくださっておりました。最近は……少しお話もしてくださるようになって」


その言葉を聞いた公爵は、長い間黙して思案する。

アデライドの笑顔が戻らず苦しんでいた日々が脳裏に去来した。

だが今――娘は小さくとも変化の兆しを見せている。

それは確かに、この少女の影響に違いない。


「……リリアーナ」


「はい」


「お前、礼儀の作法を学びたいと望んでいたな」


「はい、いずれ学院に入学したときに困らぬようにと……」


「ならば、こうしてはどうだ。アデライドと共に、その時間を過ごしてみよ」


リリアーナの瞳が驚きに見開かれる。


「お嬢様と……一緒に?」


「ああ。アデライドにとっても、誰かと共に学ぶことは良い刺激になるかもしれぬ。お前の存在は……あの子にとって悪いものではないようだ」


リリアーナは胸の奥が熱くなるのを感じた。

掃除の見習いとして来た自分が、まさかお嬢様と一緒に時間を過ごせるなんて――。


「……はい! 精一杯努めます!」


深々と頭を下げるリリアーナの声は、どこか弾んでいた。

そして公爵もまた、その素直さにわずかに頬を緩めるのだった。


数日後、広間に澄んだ空気が漂っていた。

婦長が前に立ち、二人の少女を見やる。


「本日は“おじぎ”を学びましょう。淑女の第一歩は、美しい礼から始まります」


リリアーナは胸を張って頷いた。

だが、隣のアデライドは椅子に腰かけたまま、無言で視線を落とす。


「……したくない」

ぽつりと落とされた声は、重たく空気を揺らす。


婦長が困った顔をする。だがリリアーナは一歩前に出た。

「では、私から始めます」


彼女は小さく吸い込むと、習ったばかりの仕草で、ぎこちなくおじぎをした。

背筋を伸ばし、両手を前に重ね、腰を折る。


――ぐらり。


均衡を失って、思わずよろめいてしまう。

「きゃっ」


その拍子に前髪がばさりと垂れ、顔が真っ赤になる。

婦長が思わず小さく笑いをもらした。


アデライドの唇が、ほんの少し動いた。

――笑った?


リリアーナは恥ずかしさを押し殺し、もう一度挑戦する。

「今度は……もう少し、きれいに」

そう言って深く息を整え、再びおじぎをした。

先ほどよりもずっと落ち着いた、丁寧な所作。


アデライドの目がじっとその姿を追った。

(どうして……そんなに一生懸命なの?)


しばしの沈黙のあと、アデライドは小さく立ち上がる。

「……やってみる」


婦長が目を見開き、ゆっくり頷く。

リリアーナは驚いた顔をし、すぐに笑顔を浮かべた。


アデライドは震える指先をぎゅっと握り、リリアーナの真似をして腰を折った。

まだ不器用で浅いおじぎだったが、その一歩は確かな変化だった。


リリアーナがそっと囁く。

「とても素敵でした、お嬢様」


アデライドの胸に、小さな温もりが広がった。

自分を見てくれる人がいる。

それだけで、少しだけ世界が明るく見えた。


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― 新着の感想 ―
お嬢様との交流がなかったら礼儀作法学べないとは、酷いとしか言いようがない セリフからすると主人公がこの家に来た目的は把握しているようだし???
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